「ぷっちんのやつぅ~…」
まだ怒りが収まらないのか、ねりまきは先ほどから「ぷっちん」に対しての恨み言を俺の耳元で発し続けていた。
「あの万年ヒラ教師!適当におだてられたからって粗悪品を無駄に褒めちぎって!ダメなものはダメって言わないのは教師失格だ!」
「………」
愚痴を聞いているとねりまきの方にも多少非はある気がするのだが…昼間にそけっとも苦言を呈していた気もするし、それなりの問題人物のようである…教師なのに。そんな教師の授業でねりまきが作成したマナタイトだが、どうやら魔力が漏れて効果が無くなってたという事が先ほど判明し。俺は今、荷物の他にねりまきも背負って帰路についていた。
「テイラー…ごめんね。モンスターの処理も、テレポートで帰るのも出来なくなっちゃって…。それに折角用意したマナタイトだったのに…」
一通り不満を吐き出した後、ねりまきは本当に申し訳なさそうに声を絞り出した。
「…ダメだったものは仕方ない。最悪のタイミングで発覚しなかっただけ運が良かったと思おう」
あの時マナタイト頼りで強硬策に出なくて本当に良かった。やはり切り札というのは切らずに済めばそれに越したことは無い、例え持ち腐れと言われようとも、余裕を持つというのは必要な事なのだ。ちなみに、本来ならば倒したモンスターは後で素材を取るために氷魔法で保存する予定だった。狩ってる時の雑談で、その素材を使った料理の話も出ていたのだが…しばらく放置する以上それは望めないのは残念な事だ。
「けどこれも良い教訓になっただろう?アイテムの管理は念入りにだ。俺も昔な、それで失敗した事があるんだ。用意してたポーションが全部割れちまってな…あの時は本当に死ぬかと思った」
「…テイラーもそういう時があったんだ」
そう、誰にだってそんな失敗はあるもんだ。違いがあるとすれば失敗をしっかりと活かせる事が出来るかどうか。それとそんな失敗を恐れずに挑戦をする…。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだが…ねりまきは何でそんなに行動力?いや決断力があるんだ?」
「…ん?どういうこと?」
俺の言い方が悪かったのだろう、首を傾げているであろうねりまきに。
「ほら、昨日里の案内を申し出てくれただろう?初対面の俺に対して、すぐさまそんな事を提案するなんて中々出来ないぞ。クエストで小さな村に行ったりするとたまにあるんだが…俺は割と子供とかには怖がられるタチなんだ。他所から来た武器をもったデカイ男だからな、顔も割と仏頂面だと自覚している」
「私はそんな子供じゃ無いし。それに案内を申し出たのも、実は外の事とか聞けたりしないかなー…って下心もあったんだよね」
やはりそういう思惑もあったのか。よくもまぁ…そんなにグイグイを行けるもんだ。
「この儀式に連れてきた時だって、俺が酔ってて誘い出し易かったのに加えて、邪魔になりそうな人がもう寝てて居なかったからだろう?」
「えー…ああ、うん。確かにチャンスだ!っては思った」
ねりまきは若干バツが悪そうに答えた。つまり本当は止められるような事だと分かった上で、それでも自分の我を通したという事だ。
「俺には…そんな決断力っていうもんが欠けてる気がするんだ。一日一緒に居ただけでねりまきも気づいたかも知れないけど、結局のところ優柔不断なんだよ。だからこそ、俺はねりまきの行動力を羨ましく思ってしまう。仲間にもそんな奴が居てな、変わらないとダメなんじゃないかって…焦る時もある」
そんな俺の悩みを聞いて、ねりまきは背中でうんうんとうなり始めた。しかしそれも束の間、ねりまきは両手を俺の首に巻いてギリギリまで顔を近づけながら
「テイラーはそれでいいと思う」
と、簡潔に答えを出した。俺がその答えを理解するよりも早く、ねりまきは続ける。
「優柔不断って言うけど、それはテイラーの個性なんだから無理に変える必要なんて無いでしょ。確かに昨日一日で、テイラーがどんな人なのかって大体は分かった気はするけど。私はそれを嫌だなーとか変だなーなんてこれっぽっちも思ってないよ。むしろ慎重に行動が出来る大人なんだなーって好意的に考えてた。むしろ紅魔族っていうのが種族として我慢が効かないタチなんだよね、ノリで生きてるていうか…チャンスがあったら強引にでも掴み取りに行きがちというか」
「私も実際そうだしねー」と、ねりまきは苦笑する。
「だからかな、私みたいな考えなしにとっては、テイラーみたいな人が近くに居るのは凄くありがたいんだ。だって本当にダメな時は止めてくれるでしょ?さっき一気にモンスターが来た時だって、一掃と蝋燭を灯す指示をしたのはテイラーで、私は『テイラーが指示を出してくれたから』すぐに安全策をとったんだもん。もし私だけだったら、もっと無茶してた」
実際俺は…儀式の成功にこだわって話を聞いてくれるか?という懸念を少しだが抱いていた。けどすぐに行動を起こしたのを見てちゃんと判断が出来ていると感心したのだが、本当は「俺の判断にすぐに従う」と決めていたから早かったという事だったのか。
「けどなんでもテイラー任せにするってわけじゃないよ、自分のやったことにはちゃんと責任は持つし。多分…というか絶対、帰ったらお父さんに怒られるし…」
「そりゃあ…なぁ。でも…それでも夢を実現したかったんだろう?」
「勿論!」
自信満々に言い切るねりまき。こんなねりまきだからこそ、俺は手伝って上げたくなったんだろう。
「テイラーは自分の決めた事にもっと自信を持って良いと思うよ?例えそれが突拍子の無い事でも、テイラーが出した答えなら、ちゃんと考えた結果なんだろうし」
ねりまきは俺のプレゼントした首飾りを俺にも見える様に振りながら。
「それでもテイラーが自分を変えたいって言うんだったら…私は応援する。さっきのはあくまで私の考えだし、参考にしてくれれば嬉しいけど結局決めるのはテイラーなんだから。大丈夫。私も、テイラーの事をよく知ってる仲間の人も、頑張ってるテイラーを応援してるよ」
「…そうか、それは、本当にありがたいな」
胸のつかえが取れた気分だ。少なくとも、今後「決めた事を本当に決めて良かったのか」なんて無駄に悩む事は無くなったのかもしれない。あいつらも…きっとねりまきの言う通りの反応をしてくれるのだろう。根拠は無いけどそう思える、なんだかんだで長い付き合いだからな。