この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

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14話

「テイラー!五時方向!」

「分かった!デコイ!」

 

 キースの指示した方向に身構えると、間もなく目標のイノシシ型モンスター「ボア」が突進してきた。ボアの突進は同レベル帯においても破格の威力を誇っていて、通常ならば避ける、逸らす、何らかの手段で速度を下げるなどで対策をする。間違っても、真正面から受けてはいけない攻撃だ。

 

「ふんっ!」

 

 だが、俺はあえてその突進を真正面から受け止めた。これは俺がダクネスと同じ趣味に目覚めたという訳では無く。新しく手に入れた装備がどれほどの効果があるかの実験である。

 

「おおおぉ!」

「マジかよ!?」

 

 キースが驚きの声を上げた。それもそのはず、俺はボアの突進を受けきっただけでなく、さらに押し返して態勢を崩したのだから。

 

「フリーズ・バインド!」

 

 間髪入れずにリーンの氷系魔法がボアの動きを止める。ボアはその素材が中々高く売れるモンスターなので、なるべく傷をつけないで倒すのが望ましい。なので、この魔法はあくまで動きを鈍らせる程度に調整して放たれていて。

 

「ここまで強化されるとはな、マジで良い買い物だったんじゃねぇか?」

 

 軽口を叩きながら。ダストが剣の一突きでボアにとどめを刺した。

 

「まったくだ…小手で筋力が上がるから腕力だけかと思っていたら、まさか全身の筋力を向上させる効果があるとはな」

 

 俺は両手に装備した真新しい小手を確かめる様に眺める。軽く腕を動かしたり、手の握る開くなどの動作しても不自由を感じる事は無い。

 

「あーあ、あたしも買っておけば良かったかなぁ」

 

 実はリーンも俺の小手の購入に触発されたのか、杖のマナタイト強化をしようかと悩んではいた。しかしそれなりの値段と日数がかかってしまうため、最終的には止める事にしたのだ。

 

「ま、俺らには関係の無い話だわな」

「俺もエモノは変える気はねぇが…どっちしても金がねぇわ」

 

 ちなみに万年金欠の二人はそんな選択肢も無く、鍛冶屋では「すげーすげー」と騒いでいただけだった。前日の自分を思い出して勝手にダメージを受けていたのは内緒である。

 

「よし、次を探しに行こう。この調子なら目標討伐数はすぐだろう」

「からめ手無しでボア退治が出来るなんてテイラー様様ね、あたしも魔法の節約が出来て楽ちんよ」

「お、次は1時の方向に反応あり。さっきの要領で頼むぜテイラー先生」

「もうとどめもお前がやってくれよ、攻撃力も上がってんだろ?」

 

 からかい半分なのはさておき、頼りにしてくれている事は受け取っておこう。ただ…。

 

「ならダストの取り分は無しだな。分かっていると思うが、小手の購入で俺の貯金はほぼ無くなった。しばらくの間俺からの借金は不可能だと思っておけよ」

「俺とどめ刺すの大好き!」

「とどめを刺されるのも大好きなんじゃないの?」

「あぁん!」

 

 いつもの仲間。いつものクエスト。変わらない俺の冒険者としての生活。だからだろうか、あの紅魔の里での一日が事あるごとに思い出される。次に行くのは…何時になるのだろう?――――

 

「――――お疲れさまでした!こちらが報奨金になります!」

「…ありがとう」

 

 ギルドの受付嬢の元気な声に、ねりまきの事を思い出してしまった。だめだな…紅魔の里から帰ってきてからずっとこれだ。もう一週間も前の事だというのに…数日がかりのクエストにでも行けばと思ったが、

逆に悪化しているような気さえする。本当に…重症だ。

 

「待たせた、ボアの状態が良かったからだろう。素材の買取金額に色がついていたぞ」

「いいねぇ!紅魔の里の飯も絶品だったけど、やっぱり食いなれたアクセルの飯も最高だよな。カエル食おうぜカエル!あと酒だ!」

「ほんとに美味しかったよね、宿のも食堂のも。でも、あんなの毎日食べてたら感覚が狂っちゃいそう」

「カエルも良いけどボアだろボア、俺達が持ち込んだ新鮮な奴だぜ。これを食わねぇ手はねぇよな」

 

 三人はあの紅魔の里での事を既に思い出としている。当然だ、そうそう行けるような場所じゃ無いんだから俺みたいに囚われ続けている方がおかしいのは理解している。それでも…あの里でねりまきと過ごした一日は、俺にとって素晴らしいものだったんだ。

 

「あ!すみません!注文…」

「はい!少々お待ちください!」

 

 その声に、考えるよりも先に体が反応した。

 

「…ねりまき?」

「お久しぶりです皆さん!そしてクエストお疲れさまでした!数日前から短時間の臨時バイトで入った新人のねりまきです!」

「…なんでこんなとこに居るんだよ?」

「ゆんゆんに頼んで連れてきて貰って、私もテレポート先に登録しました!」

 

 ねりまきは得意げにVサインを作っている。その変わらない元気さに、心臓がドクンと跳ねた。

 

「ねりまちゃん、お店は大丈夫なの?」

「お父さんにも許可は取ってますし、お店の方も疎かにはしてないですよ」

「バイトってことは観光で来てる訳じゃ無いのか?あっちじゃ案内してもらったし、お返しにアクセルの事色々教えるぜ」

「ありがとうございます。私がアクセルに来た理由は…」

 

 ねりまきは赤く輝いた瞳で俺を見つめながら。

 

「テイラー!会えないのが寂しくて会いに来ちゃった。ここで働いていれば会える確率上がるかなって思ったけど大正解だったね!あの一日でテイラーの事が好きになっちゃたから、捕まえに来たよ!」

「…はい?」

 

 突然起こった告白にギルド内は大歓声に包まれた。だが、俺の五感は今…ねりまきにしか向いていなかった。色々な声を掛けられている気がするがまったく耳に入らない。

 

「…本気か?」

「勿論!」

 

 そうだ…本気に決まっている。流石の行動力に口元のニヤケが止まらない。俺もだ…あれからずっとねりまきに会えなくて寂しかったんだ。

 

「すぐに答えを出さなくてもいいからさ、いっぱい考えて…」

「いや。俺はもう「決めた事を本当に決めて良かったのか」なんて悩む事はやめたんだ。もう答えは出てたんだよ」

 

 俺はねりまきを抱き寄せ、両手で体を包み込んだ。

 

「俺もねりまきが好きだ。会えないのは寂しいから毎日顔を見せに来てくれ」

 

 ギルド内はさらに大きな歓声が上がって耳が痛い程になった。そんな中でも、俺の耳はねりまきの声をしっかりと捉え続ける。

 

「…テイラー大好き。実は昨日ね、カズマに会って、貰った首飾りの文字の意味を教えて貰ったんだ。カズマはこれを『恋愛成就のお守り』って言ってた。好きな人と結ばれますようにっていう気持ちが込められたアクセサリーなんだって、やっぱりテイラーが選んだものに間違いは無かったね」

 

 無意識だったとはいえ、そんなもの引き当てるなんて俺の見る目も中々じゃないか。さて…この騒ぎをどう納めるか頭が痛い所だが、俺は何も後悔していない。ねりまきと出会った事で、俺は「良い方」に変われたと思う。俺の選択がこれからも正解であり続ける事は難しいかもしれないが。少なくとも、俺を選んでくれたねりまきの選択を間違いにする事だけはしないだろう。

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