この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

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4話

 いつの間に許可を取り付けたのか、店の主人(ねりまきの父親でもあった)に見送られて最初に来たのは村の入り口にあるグリフォンの石像だった。

 

「これ凄いでしょ?グリフォンの石像だよ」

「確かに凄いな、これほどまで精巧に作られた石像なんて見たことが無い。つい先日本物のグリフォンを見かける機会があったのだが、細かい所までしっかり作られているぞ」

 

 ねりまきは俺の感想を聞いて得意げな顔をすると。両手を像に向けてポーズを取り。

 

「ふっふんー!それもそのはず…実は石化魔法で動きを止めた本物のグリフォンなんだよね!」

「なっ!?と、解けたりしないのか!?状態異常の魔法というのは術者の魔力や対象の魔法防御に関係すると聞いた事があるが…グリフォンほどのモンスター相手を長時間も止める事ができるなんて…」

「あー、授業でも同じような事言ってたかも?でもこれ私が生まれる前からずっとあるって聞いてるよ?里に迷い込んできたグリフォンが格好良かったから、石化して飾ろうってなったんだってさ」

 

 何でもない事のようにグリフォン像を見つめるねりまきだが、そもそもグリフォンを石化して飾るという事自体普通は考え付きもしないだろう。ただの観光で終わるとは思って無かったが、出ばなからただ事ではない物を見せつけられてしまったな。

 

「まぁ今は単なる待ち合わせ場所だね。他に何か気になる事があったらなんでも聞いていいよ、テイラー」

 

 ねりまきは振り向きながら笑顔で話しかけてくる。

 

「ああ、本当に気になる所が多すぎてたくさん質問をさせて貰いそうだよ…ねりまき」

 

 名前を呼ばれて彼女はまた嬉しそうに笑っている。

 この呼び捨てについては店を出てからここに来るまでに決まった事だ。俺がねりまきを一応”さん”付けで呼んだら『なんか背中がゾワッってくるから呼び捨てでいいよ』と言われ、それに対して俺は『じゃあ俺も呼び捨てで構わない』と返したところ『そう?じゃあよろしくねテイラー』と、歳の差なんて感じさせないほどフレンドリーに、お互いを呼び捨てで呼び合うようになったのだ。

 

「ん?ここは…」

 

 ねりまきの先導に付いていくと、先ほど魔法陣を使って大掛かりな儀式をしていた家の前を通りがかった。

 

「ここ?これは占い屋だね。今の時間ならやってると思うけど見ていく?」

「占いか、先ほどなんかの儀式のような事をしていたのもそれに関係あるのか?巨大で光を放つ魔法陣があったハズなんだが」

 

 先ほどそれらがあった場所には何も残っていない。地面に書くことなく魔力だけで行っていたのだとすると、それはそれで凄い事である。

 

「光る魔法陣?…あー!それはね」

 

 ねりまきが何かを言いかけた時…突然占い屋のドアが勢い良く開け放たれたかと思うと、中から前髪を揃えた長い髪の美人の女性が現れた。

 

「あらいらっしゃい外の人。我が名はそけっと、紅魔族一の占い師!この世の全てを見通す者!ねりまき…ソレを口に出すのは止めておいた方がいいわよ、きっと良くない事が起こるから」

 

 何故か背筋が凍るような気がする笑顔を浮かべるそけっとという占い師。ねりまきはと言うと、さっき何かを言いかけた状態のまま口を開けて固まっており、そのまま息を吸い込んで一回深呼吸をすると。

 

「そうだったそうだった、アレはそういう儀式だったよねー」

 

 明らかな棒読み口調のねりまきである。あんまりにもあからさま過ぎて色々とツッコミたい所ではあるが、ここで余計な事を言うほど俺は馬鹿じゃない。

 

「分かっていてくれて嬉しいわ」

 

 そけっとはそけっとで、わざとらしい程に優しくねりまきに笑いかけていた。あの魔法陣については全力でスルーするのが正解のようだな…それはそれとして、ちょっと確認しておきたい事が出来てしまった。

 

「済まない二人共、答えたくなかったら答えなくてもいいのだが、その…紅魔族一がどうのこうのというのは一体何なんだ?」

「何って言われても…単なる名乗り口上だけど?」

「ええ、紅魔族以外の初対面の相手に対する礼儀みたいなものよ」

 

 気にしていたこっちがおかしく思える程にさらっとした答えが返ってきた。妙に仰々しく言っていたもんだから何かあるかと思っていたのだが…。

 

「…それだけ?」

 

 俺の呟きに二人は揃って頷くと。

 

「格好良かったでしょ?」

「格好良かったわよね?」

「………まぁ、割と」

 

 とりあえず、当たり障りの無いコメントしか返せなかった。

 さっきのグリフォンといい、なんか紅魔族へのイメージがどんどん崩れてきている気がするな…いや、そんなのはアクセルの街に住んでいる二人の紅魔族のおかげですでに崩れ始めては居たのだけど。

 

「さて、店先で立ち話もなんだし中へどうぞ」

 

 そけっとはそう言うとさっさと店の中に入っていってしまった。

 別に占ってもらう気は無かったのだが…まぁ、話を聞くだけでもいいか。実際に占ってもらうかは別として一応あれだけの魔力で儀式をしていたのだ、実力は相当な物なのだろう。

 

「ほらほら、早く入ろっ」

「あ、ああ…」

 

 ねりまきに手を引かれて店の中に入る。店の中はまさに占いの店といった感じで、照明は薄暗く所々に薄い布が掛けられていた。

 そけっとは中央にある円形のテーブルに椅子を二つ並べ、その対面に回りこんで自分の席に着くと。

 

「ようこそ占いの館へ…さぁ席にどうぞ」

「…どうも」

 

 とりあえず促されるまま席に着く。当然、並べられた椅子の隣にはねりまきが座った。

 

「とりあえず自己紹介をお願いしようかしら?」

 

 そけっと薄く微笑み、少しだけ首をかしげるような仕草で聞いてきた。

 その仕草に思わずドキっとする。改めて、彼女がかなりの美人なのだと認識させられた。皆が振り返る程の美人とはまさに彼女の事を言うのかもしれない。

 

「テイラー。見とれてる所悪いけど、そけっとには彼氏が居るからね」

 

 ついそけっとのことをぼーっと見つめていたら、ねりまきから声を掛けられてハッとする。

 

「えっ?い、いやそういう訳じゃ無いんだが…すまない、少々失礼だったかな?」

「気にしなくて良いわよ。私自身は分からない事だけど、紅魔の里で一番の美人だって言われてるくらいだし。男性からのそういう視線には慣れているから」

 

 俺の謝罪に余裕の態度で答えるそけっと。里一番の美人だというのは伊達じゃない様だ。

 

「そうか…では改めて、俺はテイラー。今は鎧を着ていないがクルセイダーの職に就いていて、普段はアクセルの街で冒険者稼業をしている」

「アクセル?…もしかしてゆんゆんの結婚話の関係者だったりする?」

 

 ふむ、里中に広まっていると言っていたし。当然知っていておかしくは無いか。

 

「ああ、そのゆんゆんの結婚相手…と間違えられている奴と同じパーティーを組んでいる。今回はその誤解を解くためにここに来たんだ」

「あらあら、やっぱりそうだったのね。そうよねー、あのゆんゆんがいきなり結婚だなんてするわけないもの」

 

 そけっとは納得するように、目を閉じてうんうんと頷いている。妙に子供っぽい仕草だが、彼女がすると絵になるなぁ。

 

「一番の問題になりそうなゆんゆんの父親…族長の所には今ゆんゆんと一緒に仲間が二人向かっている。そけっとさんも良かったら誤解を解いて回ってくれるとありがたい」

「わかったわ。じきに族長から知らされるだろうけど、一応私からも伝えておくわね」

 

 占い師として生計を立てているのだからそれなりに顔も広い事だろう、後は族長の説得が上手くいけばこの件については安心だな。

 

「それはそれとして…テイラーさんはどんな事を占いたいのかしら?ゆんゆんの知人というのならばそれなりにサービスはするつもりよ?」

「うーむ、占って貰いたい事か…」

 

 正直言うと何も思い浮かばない。占いして貰うなんて初めてだし、料金の相場もさっぱりだ。

 

「ちなみにそけっとの占いの的中率はほぼ100%って言って良いくらいなんだよ。折角のサービスなんだし、そこんとこ踏まえて占って貰うといいかもね」

「100%!?」

 

 何を占って貰うかで悩んでいる様に見えたのか、ねりまきが補足の情報を教えてくれたのだが…予想外過ぎてビックリした。ほぼ100%って…それは占いというか予言と言っても過言では無いだろう。こうなるとますます悩ましくなってしまう、下手な事を聞けないじゃないか。

 驚きのあまり、半ば固まっている俺の耳元にねりまきは顔を寄せると。

 

「ちなみにサービス抜きだと割とえげつない料金なんだよ?占って貰う内容にもよるけど、貴族相手だと容赦無く取ってるみたい」

 

 こそっと更なる追加情報。けど、そけっとの顔を見る限り何を聞かされたのかバレバレかもしれない。…多分俺の表情にも出てしまっているだろうしな。

 

「ふふっ…」

 

 そけっとはねりまきの言葉を否定する事も無く、少しだけ満足げというか得意そうな笑みを浮かべてこっちを見つめ続けている。こうなると腹をくくるしかないか…一応持ち合わせを伝えた上で、あたりさわりの無さそうな事を…。

 

 ズガーン!

 

「「「!?」」」

 

 突然の爆音、そしてわずかに揺れる地面に驚いて思わず席を立つ。

 ああ、いつものか…って違う!ここはアクセルじゃ無いんだからカズマのとこのめぐみんの爆裂魔法が影響があるはずが無い!

 

「今の音…雷だよな?でも、外は晴れだったはずだし…」

「んー…魔王軍でも攻めてきたのかしら?」

「魔王軍が!?」

 

 そういえば紅魔の里は常日頃から魔王軍による攻撃を受け続けていると聞いた事がある。強力な魔法を操る紅魔族は魔王軍にとっても脅威を感じる存在なのだろう。

 くそっ、あんまりにものどかな風景に失念していた。こういう時こそ魔法使いの盾になるのがクルセイダーである俺の役目だというのに。

 

「そうかなー?どうせぷっちんとかがカッコつけに雷落としただけじゃないの?」

「ぷっち…?え!?」

「そのほうが可能性高そうねー。そんなことばっかしてるから、いつまで経っても校長の座につけないんじゃないかしら?」

「はぁぁ!?」

 

 理解が追い付かない。さっきのが…カッコつけ?しかも魔王軍が来るよりも可能性が?…え?

 

「とりあえず出てみましょうか」

「そうだね」

 

 呆ける俺を置いて、二人は外に出て行ってしまった。

 

「あ…ちょ!ちょっと!」

 

 慌てて外に飛び出すと、二人は空を見上げながら辺りを見渡していた。一応魔王軍を警戒してか、そけっとは何かの模様が刻まれた木製の杖を持っている。

 

「少なくとも魔王軍じゃなさそうね?」

「うん、来てたら自警団の連中が合図を出してるだろうし」

 

 二人に倣って俺も周りを見渡してみたが、二人の言う通り襲撃があったという訳では無さそうだ。そして空は相変わらずの快晴、雷が落ちる要素なんて一つも無い。

 

「あ、さっき雷落ちたのってあそこじゃない?」

 

 ねりまきが何かに気付いたのか、声を上げて指をさしている。その方を見てみると、確かに黒煙が上がっていた。

 

「あれは…族長の家よねぇ?」

「そうだね、もしかしてゆんゆん達の説得失敗しちゃったのかな?族長ってゆんゆんの事になると手が早いからねー」

「なっ!?」

 

 二人は緊張感無くのんびりと語っているがそれはヤバイんじゃないのか!?そりゃあ結婚相手としてダストなんか連れて来られたらキレても仕方ないが、ぶん殴るのとあんな規模の魔法とじゃ訳が違うぞ!

 どうする…今から駆けつけて間に合うものか?そもそも俺が向かって大丈夫なのか?装備も何も無い状態であんな魔法食らったら確実にやられてしまうのは目に見えているぞ…いや、例えあったとしても耐えられないだろう。くそっ!一体どうしたら…。

 

「そうだ!そけっとさん!今あそこで何が起こっているのか、そして俺はこれからどうするのが最適なのかを占ってくれないか!」

「別に良いけど…サービスで見てあげれるのは一回よ?それでもいいの?」

 

 妙な所で律儀ではあるが、それは彼女が自身の占いにプライドを持っているからだろう。確かに破格の料金で彼女に将来の事を占って貰うのは千載一遇のチャンスだと言える、しかし…。

 

「ここで仲間の安否を気遣わないなら、俺のクルセイダーとしての将来なんてたかが知れている。これが今の俺の手持ち全部だ」

 

 俺から財布を押し付けられたそけっとは、呆けた様に俺の顔を見つめた後。

 

「分かったわ」

 

 目を閉じて笑みを浮かべると、片手を前に出して手のひらを上に向ける。すると、いかなる魔法を使ったのか。家の中から水晶玉が飛んできてその手に収まった。

 

「………」

 

 そけっとが水晶玉を覗き込むと、水晶玉の中心がほのかな光を放ち始める。

 

「…うん、貴方の仲間って金髪の男とポニーテールの女の子よね?大丈夫、ゆんゆんが守ってくれたおかげで無事みたい」

「そうか!…とりあえずは安心だな」

 

 どういう経緯で父親が暴走したかはさておき、ゆんゆんは二人を守るという約束はしっかり守ってくれたみたいだ。

 

「あー…これは…」

 

 そけっとが水晶玉を覗きながら残念そうな?声を上げた。

 

「な、なにかあったのか?」

「…うん、こんなに怒ってるゆんゆん見るの初めてかも。族長が正座で説教されてるわね」

「…そうか」

 

 まぁ…そうなるか。流石に魔法で攻撃するのはやりすぎだ。下手をすれば死んでもおかしくない威力だったしな。

 

「仲間の無事が確認できたところでサービスの分はおしまいね、料金は…こんなところかしら」

 

 そけっとは渡した財布から1000エリス紙幣を抜き取ると、財布を返してきた。

 

「それだけでいいのか?」

「占う内容に寄って料金は違うのよ。後は私の気分ね、だから…」

 

 再度そけっとは水晶玉を覗き込むと。

 

「…うん。これから貴方がどうするのが最適か、だったわよね?ふふっ…このままねりまきと一緒に観光すると良い事があるかもしれないわ」

「え?それは…」

 

 あくまで助けに向かった方が良いかどうかを聞いたつもりだったんだが…。

 

「これもサービスよ。貴方の、仲間を想う心意気を見せられて凄く気分が良いの」

「………」

 

 別にカッコつけた訳では無かったのだが…改めてそう言われると恥ずかしさが込み上げてくる。隠すような事では無いけれど…あいつらには絶対知られたくないな、絶対からかわれるに決まっている。

 

「ねりまきも、テイラーさんの案内宜しくね」

「えっ…う、うん。えーっと…私は何か気を付けたりすることある?」

「ねりまきはねりまきらしくしてれば良いの、変に気張ったりする事無いわ」

 

 本当に気分が良いのか、そけっとはそう言われて逆に悩んでいるねりまきを笑顔で眺めている。

 確かに変に気を遣って貰うよりは普通に案内して貰う方がこっちとしても気が楽だ。ダスト達の方はなんとか話が付いたようだし、俺の方は観光に専念させて貰うとしよう。

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