この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

6 / 14
6話

 考えが甘かった。喫茶店とは違い、完全に”外の人”相手の商売ではあんな格安の値段は在り得なかったのだ。

 

「折角来てもらったってのに悪いねぇ、流石にこれ以上はまけられねぇよ」

「いえ…相場っていうものは俺も理解してます。この値段でも十分すぎる程安くしてくれてますよ」

 

 無理をすれば買えなくもない!…けど、無理して買ったところで生活が回らなくなっては意味が無い。大事に使えば一生モノの買い物だ、勢いで買っていい買い物じゃないだろう。

 

「でも諦めたって訳じゃ無いですよ、折角ですしどんな武具があるか教えて貰っても良いですか?」

「おお!勿論だとも!紅魔族だとカッコイイ造形ばっか気にして肝心の性能は気にしてくれねぇからなぁ…まぁ俺もそうだから文句は言わねぇけどよ。性能もしっかり見てくれる外の人はありがたい限りだよ」

 

 店の親父はそう言って何本かの剣を選んで大きめのテーブルへと並べ始めた。

 

「兄ちゃんも知ってるだろうが俺達、紅魔族の作る武器は色々な効果がついている。まずコイツだが、習得してなくても炎の中級魔法が撃てる炎の魔剣だ。その名も『レーヴァンテイン』!真っ赤な刀身が綺麗だろう!」

「中級魔法!?しかも習得していなくてもって…スクロールとは別物なんですか!?」

 

 いきなりとんでもない物が出てきた。ちなみにスクロールとは魔法を封じてある巻物で、ある程度の魔力がある人物が使う事でその魔法を使う事が出来る”使い捨て”の魔道具だ。

 

「あんなオモチャと一緒にしてもらっちゃ困るぜ!ここんとこに赤い宝石がついてるだろう?これは紅魔族特製の魔石でな、特殊な加工で炎の魔法を封じてあるのさ。持ち主の魔力がある限り何回でも使えるぜ、ただ…兄ちゃんみたいなクルセイダーなら1~2発撃てれば良い方かね?そこは職業差だから勘弁してくれよ」

「そんなところで文句なんて言いませんよ!確かにクルセイダーにも魔力を使うスキルはありますけど基本的には余りがちなんです、それを攻撃魔法として自身が使えるなんて…」

 

 そう、魔力というとウィザードやプリースト等の魔法職しか重要視しない事が多いのだが。俺を始めとした近接職でも多少は魔力を使って使用するスキルというものを持っている。クルセイダーで言うなら『デコイ』なんかが良い例で、自身の魔力で発動して敵の注意を引き付けている。

 魔法職と比べれば魔力の総量は少ないが、その分各スキルの消費自体が少なかったり乱発するような物でもない。魔力切れを起こすどころか、まったく使わないという場合もあったりするくらいだ。

 

「ふふふ、普段俺達がやってるみたいに魔法で敵を吹っ飛ばすと快感だぞ。似たような魔剣を持ってるやつらもその辺を気に入ってくれてるな、戦い方の幅が広がったってよ。当然武器としても優秀だぜ、中には魔法と放つと同時に切りつけるっていう…『必殺技』を使っているのも居る」

「おおお!そんな使い方も出来るんですか!?」

「おうよ!そんで攻撃するときに技名を叫んでみろよ!めちゃくちゃカッコイイだろう!『ファイアースラッシュ!』とかなっ!」

「はい!」

 

 親父に釣られて俺もテンションが上がってしまった。けどこれは仕方ない、流石に叫ぶのは恥ずかしいが職業的に敵を一気に倒せるようなスキルが少ないのだ。そういうのに憧れを持っても良いじゃないか。

 

「こっちの剣は風、こっちは氷の属性だな。これは光属性だが攻撃魔法とはちょっと勝手が違う。魔力を込めるとその間武器の射程が伸びる魔法が込められてるんだ」

「属性によっても色々使い道がありそうですね…射程が伸びるというのも面白いし、本当にどの武器も魅力的過ぎますよ」

「そうだ、兄ちゃんはクルセイダーなんだろ?武器だけじゃなくて防具も良い物が揃ってるぜ」

 

 親父はそう言うと、今度は防具関係が置いてある棚に俺を案内する。

 

「これは特殊な効果は無いが魔法攻撃にも強い鎧だ、並みの中級魔法ぐらいなら防げると思うぜ。あとは身につけると身体能力が向上する奴が何種類か…例えばこの小手は筋力が上がる魔法が込められてるな」

「確かに派手さは無いけれどこれでも十分すぎるくらいの効果ですね。しかもこの値段なら一つの部位くらい…」

 

 この小手は案外買いかもしれない。単純に攻撃力も上がるが、盾で防御する時にも有用だ。防具としても普通に丈夫だろうし…無理し過ぎなくても買える値段でもある。うう…悩むなぁ、どちらにしても強化は図れるが攻撃にするか防御にするか…。

 

「こんなのもあるぞ!ついている魔石は武器と変わらないんだがな、こっちは盾につけてある!」

 

 そんな葛藤をしている俺に、親父は嬉々として商品を紹介し続けてくる。あああ…ただでさえ迷っているのにさらに魅力的な物を紹介しないでくれ!

 

「盾だから勿論相手の攻撃を受けるのが基本だがな、その攻撃を受けた時に魔法を発動すれば…」

「…相手への絶好のカウンターってなるわけですね。動き回る相手に魔法を撃つよりも確実に当てられる訳か」

「そのとおり!しかも炎攻撃にも強くなってるからこれがあればドラゴンのブレスだって怖くねぇぞ!…まぁ相手の属性にも寄るんだがな、そん時はあれだ、全属性揃えちまえば良くないか?」

 

 それが出来ればこんなに悩んでない。まぁ明らかに冗談なんだろう、自慢するように盾を両手に持って笑ってるし。

 

「他には面白い効果のもんあったかなぁ?」

 

 親父はまだまだ紹介し足りないようで、店内を見渡しながら悩んでいる。

 有り難いがこれ以上は頭がパンクしそうだ。ちょっと外に出て深呼吸の一つでも…。

 

「…あ」

「おお!こいつがあったか!兄ちゃんこいつはな!…あ」

 

 まずは俺がソレを見て固まり。続けて親父もソレを見てしまったのだろう、テンションが一気に下がって同じように固まった。

 

「………」

 

 俺達の視線の先。そこには思いっきり暇そうに、窓から外を眺めているねりまきの姿があったからだ。

 来た時に親父が座っていたカウンターの椅子に座って足をブラブラとしているその様は、さっきまで熱狂していた俺達の心を罪悪感でいっぱいにするのに十分だった。

 

「………!?」

 

 俺達がじっと見ている事に気づいたのだろう。ねりまきは”ハッ”としたように驚いた後。

 

「………」

 

 無言のまま笑顔を作り、軽く手を振ってくれた。

 

「「…っ!」」

 

 その明らかに気を遣ってくれた仕草に俺達は思わず一歩後ずさる。連れの女の子を完全に忘れてはしゃいでる男…最低な構図だな。

 これは俺もキースの事をとやかく言えない…俺達二人がモテない訳だ。ダストの奴は意外とそういうところは気が回る(意図して逆に動いている時もあるが)、なんだかんだあいつの周りに人が集まるのもかくあるべきなのだろう。

 

「…すみません、今日はこの辺で」

「…おう、また来てくれな」

 

 ぎこちなく笑っているねりまきから目を逸らさず、隣に居る親父と最低限の言葉を交わす。そのままねりまきに向けて歩を進めると、ねりまきはバツの悪そうな顔をしながら椅子から立ち上がった。

 ああ…そうじゃないんだねりまき、頼むから『自分が楽しい時間に水を差してしまった』みたいな申し訳なさそうな顔をしないでくれ。

 

「えっと…」

「すまなかった。ねりまきを放って置いて夢中になってしまった」

 

 ねりまきの言葉を遮ってまずは頭を下げて謝った。ねりまきが何が言いたいのかは大体想像がついているが、真っ先に言わなければならない事だ。

 

「ち、違うってば!テイラーが謝る事なんて無いから頭上げてよ」

 

 顔上げると、やはり申し訳なさそうな顔をしているねりまきの顔。

 

「私はテイラーが楽しめる様に案内する役目なんだから、さっきみたく熱中できるものがあれば私なんて気にしなくていいんだよ」

「ねりまきの言いたい事はわかっている、けど俺が今回の観光を楽しめていたのはねりまきが居たからこそだ。ならば案内してくれている立場とは言えねりまきも一緒に楽しめなくちゃダメだと俺は思う。例え興味が無い事だったとしても、ほったらかしにしていい理由にはならないだろう」

「そりゃあ、暇そうにしてたといえばそうだけど…」

 

 今度は少し拗ねたような顔をしているねりまきの手を取ると、俺はそのまま店の外に出た。

 このままここで問答してたら親父に迷惑がかかる…ということもあるが、実際は失態を犯したこの場からさっさと逃げ出したいだけだ。まぁ場所を変えたところで一番の問題は解決しないのだけど。

 

「………」

 

 ねりまきはとりあえず抵抗する事もなくついてきてくれた。さて…こんな時、女の子には何をしてあげるのが正解なんだろう?俺のいままでの人生において、こんな場面になった事なんて全く無い。

 

「ねぇテイラー、本当に気にしなくていいんだよ?」

 

 手を引っ張って歩き続けていた俺に、ねりまきは優しく声をかけてくれた。あまりの情けなさにねりまきの顔を見れない気持ちではあるが無視なんて出来る訳が無い。

 俺は立ち止まって振り返り、しっかりと顔を見ながら。

 

「ねりまき…なんというか、その…何かお詫びになりそうなことは出来ないだろうか?」

「お詫びとかもいいってば、私は別に怒ってるって訳じゃないし。逆にこっちが申し訳無いよ、あんなに楽しそうにしてたのに…」

 

 そう、実際我を忘れる程楽しかった。だが…だからこそ、こんな事で連れの女の子を忘れてしまっていた自分を許す事が出来ない。

 

「ねりまきが言いたい事は分かっている、けど男としてケジメをつけたいんだ」

「うーん…」

 

 困っているねりまきを見て、自分の事ながら分かって無いなコイツという考えが頭に浮かぶ。結局のところ、何かをしてあげる事で自己満足を得たいだけじゃないか…。

 そんな俺をよそに、ねりまきは少し悩んだ後「うん」と強く頷くと。

 

「わかった。じゃあついてきて」

 

 そう言って繋いだままの手を引いて歩き出した。

 急に手を引かれてややつんのめったが、すぐに歩調を合わせて後に続く。さて、どこに連れていかれるのか分からないが覚悟は出来ている。ねりまきのためならば、今はどんなことでもやってやる―――。

 

 ―――そうして連れて来られたのは一軒の店。所狭しと物が陳列されていて、小物が多いように見えて服もあったり箱詰めされたお菓子があったりと統一性が全く無い。

 

「ここは紅魔の里のお土産屋さんなんだ。記念品ってことで手軽に買えるアクセサリーが多くって、他にも雑多な特産品と…饅頭とかチョコとかクッキーとかのお菓子のお土産を取り扱ってるよ」

「なるほどお土産屋か」

 

 そう言われてみれば他の街のそういった店と似通った部分もあるのだが、置いてある物の種類というか…見たことが無いような物が多すぎてすぐに分からなかった。多分紅魔の里でしか無いような特産品が多いからなのだろう。

 

「お土産屋って言っても元々はアクセサリー屋だったみたいでね、普通に良い物置いてあるから里の人も買いに来てるんだ…ということで」

 

 ねりまきはくるりと振り返って俺を見上げると。

 

「テイラーには私に似合うと思ったアクセサリーを選んでプレゼントしてもらいます。さっきほったらかしにされた分はチャラにしてあげるから、いっぱい悩んで選んでね」

 

 意地の悪そうな…いやこれは小悪魔的というべきか、ねりまきはそんな笑みを浮かべている。

 きっと、女性相手にした事に対する代償としてはかなり甘い裁定だと思う。いやまあ…重い軽いとかのさじ加減なんてサッパリだけど、少なくともねりまきは非常に優しい課題を出してくれたというのは分かった。

 

「ああ、しっかり吟味して選ばせてもらう。けど…俺はあんまり女性に対する贈り物に詳しくないんだ。どんな物かの説明とか、ねりまき自身の好みとかは聞きながらでも構わないか?」

 

 流石にノーヒントで、自分のセンスだけで選ぶのはキツすぎる。これくらいの救済措置は頂きたいところなのだが…。

 

「いいよー。テイラーってほんと真面目だよね、別に勢いで決めてくれても大丈夫なのに」

 

 ねりまきは若干呆れているようで、けど楽しそうに笑って了承してくれた。

 真面目…真面目か、俺は本当にそうなのだろうか?ついさっき馬鹿みたいにはしゃいでいたけれど、それでも勢い余って衝動買いまではしなかったのも真面目といえば真面目なんだろうか?たまには後先考えないで行動するのも…大事なんだろうか?

 

「じゃあ早速紹介していくね、まずはコレ『古代文字プレート』!」

 

 ねりまきが一つ手に取って見せてくれたのは、恐らく二文字の古代文字が彫られた金属のプレートだった。

 

「なんて書いてあるんだ?」

「分からないけど見た目がカッコいい文字を選んで適当に作ってるのが大半みたい。一応解読されてるのが何個説明されてるけど…例えばこれは『熱い海』でこっち『日の光』って意味だってさ」

「へー…確かに造形は面白いな。これでそういう意味になるのか」

 

 日の光か…太陽のように眩しい笑顔のねりまきには中々似合いそうな…何考えてるんだ俺は。

 

「あっ!これは紅魔族にも人気のアクセサリーだよ!」

 

 次にねりまきが見せてくれたのは剣の形をしたアクセサリーだ。その剣にはドラゴンが巻き付いていて、その装飾に使われているのは…。

 

「気付いた?この宝石は魔法石を使っててね、ほんのわずかだけどステータスが上がる効果があるんだ。色で種類が分けられてて、紅魔族の皆が持ってるのは大体魔力アップのやつだね。中には色で選んでるのも居るけど」

 

 軽く言っているけど、わずかとはいえステータスが上がる装備が何でこんな所に無造作に売られているんだろうか?この里に居ると色んな物の基準というものが狂って…あ、さっきの文字のアクセサリーよりは高いな。流石にその辺の価値は分かってるか。

 

「あぁ…なんとなくだけど紅魔族に人気だっていうのは分かる気がするな。ちなみにねりまきは持ってたりするのか?」

 

 ここで軽く探りを入れてみる。すでに持っている物を貰っても仕方ないだろう。

 

「実は持ってないんだよねぇ。子供の頃お父さんにねだった覚えがあるんだけど…『これは男のロマンだから、女の子のお前にはダメだ』なんて変な理屈で却下されたんだ。なんでかどこの家でもそんな風に言われてて、男子は大体持ってるのに女子で持ってたのは…ふにふらだけだっけ?確か弟にプレゼントされたとかだったかな?」

「………」

 

 ねりまきは理不尽だと眉をひそめているが…なんでだろう、妙に納得している自分が居る。まずいなぁ…紅魔族に毒されてきてないか、俺。

 ともあれ、一応候補の一つとして考えておこう。親父さんには悪いが欲しがっていた物に違いは無いのだから。

 

「あれ?これって確か…」

 

 入り口付近に置いてある壺に数本、無造作に刺さっているソレには見覚えがあった。

 

「その木刀?うん、そけっとが杖代わりにしてたよね」

 

 そうだ、彼女が持っていた杖だ。改めて見てみると謎の模様は龍のような絵を彫ってあるようだった。

 

「杖ってウィザードには大切な物なんだろう?こんな適当に売っていていい物なのか?」

 

 俺が知ってるのはリーンの例だけだが、基本的にウィザードが持つ杖も武器扱いのため購入や強化するならば武器屋が扱う物のハズだ。さっきの店では…目に入って無かったが多分あったと思う。

 

「んーん。ソレただのお土産の木刀だから杖としては使えないよ」

「え?」

「そけっとは単に模様とかが気に入ったから使ってるだけだね。あと残り数本だから…そろそろ新作が出来る頃かなー、好きなデザインのだったら私も買う予定だよ」

 

 いや、まてまて。ってことはそけっとは杖無しで魔王軍との戦いに備えていたって事なのか?いくら紅魔族とはいえそれは危険なんじゃないのか?

 

「あー…大丈夫大丈夫。そけっとって占いだけじゃなくて魔法も凄いから」

 

 顔に出てしまっていたのか、ねりまきは俺の疑問に気付いてフォローをしてくれた。

 

「一応普通の杖も持ってるハズなんだけどね、気に入った杖代わりがあるとそっちを優先して使ってるんだ。それでも普通の紅魔族並みには強いから、テイラーが心配することなんて無いよ」

「ああ…うん。それならいいんだ」

 

 こりゃあ…リーンには聞かせられないな。ウィザードの魔法は杖の有無で威力や制御のしやすさ等が大きく変わる、自分に合った杖を選ぶのはウィザードとしての基本。杖の無いウィザードは剣の無い剣士と同じ…なんて言ってたからなぁ。

 

「といっても、木刀に使われてる木は紅魔の里特産の木材…っていうか杖の材料のあまりなんだけどね。まともに作った杖には劣るけど、それなりに効果はあるのかな?」

 

 そう言ってねりまきは一本の木刀を手に「えい!やあ!」なんて叫びながら素振りをしている。

 ますますリーンに聞かせられないな、この木刀がリーンの杖よりも扱いやすい杖だったら本気で落ち込みそうだ。

 

「さてと…」

 

 まだ見てないのもあるが大体は見させて貰った。ここからは本腰を入れてねりまきへのプレゼントを選ぶとするか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。