この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

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7話

「ふんふふーん♪」

「………」

 

 俺の隣を歩くねりまきはニコニコと笑いながら鼻歌まで歌っていて、一目で上機嫌だと分かる状態だ。先程プレゼントした首飾りが余程気に入ったのか、常に手に持っていじくったり眺めたりを繰り返している。

 

「…あっ!」

 

 当然注意力は散漫になっていて、地面につまづきそうになるのもこれで四回目だ。…支えて助けてあげるのも四回目だ。

 

「…気に入ってくれたのは嬉しいが、そろそろ気を付けて歩いてくれないか?」

「えへへぇ~…テイラーが助けてくれるからいいかなーって」

 

 最初は慌てて助け、二回目はもしかしたらと警戒をし始め、三回目からは諦めて隣を歩く事にした。ねりまきもねりまきで、言った通り最初よりも無警戒に歩いている始末だ。

 

「ごめんごめん、流石にもう止めとくから」

 

 そう言うと、ねりまきは肩を支えていた俺の手をほどくとそのまま握って歩き始めた。

 自然と手を繋ぐ流れになったが…ねりまきと手を繋ぐのも今更だしまあいいか。

 

「まったく…」

 

 そうため息交じりに呟くものの、俺には首飾りに気を取られてしまっているねりまきにとやかく言う権利は無かったりする。

 

「………」

 

 実はねりまきに引かれる手と逆の手で、腰辺りにつけた龍と剣のアクセサリーをいじくっていたりするからだ。

 なんかこれ、ついつい触っていたくなるような妙な魅力があるんだよな…。一応筋力もしっかり上がってるし、ねりまきの分も含めて良い買い物だったと言えるだろう。

 

「ねぇテイラー。紅魔の里は楽しんで貰えた?」

 

 不意にねりまきが、振り返らずそんな質問を投げかけてきた。

 

「ああ勿論だ、本当に来てよかったよ」

 

 俺はその質問に間髪を入れずに答えていた。言った後で自分でも驚くほど自然に出た言葉で、だからこそ本心からの感想なのだと自覚する。

 

「そっか!」

 

 心底嬉しそうな声を上げ振り向いたねりまきの顔は、満面の笑顔だった。

 

「また来てくれるよね?」

「そうだな…」

 

 その答えにも即座に勿論だと答えたいところだったのだが、それには少し問題があった。

 まずは移動手段。アクセルからここまで普通に来る場合はそれなりの時間かお金を掛けないと来られない。今回は当事者であるゆんゆんに連れてきて貰ったが、冒険者として活動している以上転送屋をないがしろにしすぎるのは少し抵抗があるのだ。しかも観光や美味しい食事目当てとなればなおさらである。

 そしてまともな手段で移動するとなるとスケジュールの問題もある。パーティー活動の合間に訪れるなら高額な転送屋、日数を掛けて移動するならば俺だけ長期間休むなんて自分勝手は出来ないだろう。

 

「…テイラー?」

 

 そんなことを考えていたら、ねりまきが不安そうな顔をして俺の顔を覗き込んでいた。

 

「ああ、すまない。また来たいと思っているよ。まだ見足りない所もあるし、観光し終わったとしても旨くてお得な食事は魅力的だからな」

「だよね!次回も私に案内させてよ!まだまだ面白い所がいっぱいあるんだから!」

 

 またも見惚れるような笑みを見せるねりまきに少々罪悪感を抱く。

 また来たいとは思っていても実際はいつ来れるかもわからない…これはいわゆる社交辞令のようなものだからだ。はぁ…いっそ変な意地とかプライドを捨てれればいいのだが、だからといって頻繁にゆんゆんに頼み込むというのもなぁ…。

 

「とうちゃくー」

 

 そうこうしているうちにねりまきの家であり宿屋兼酒場…「サキュバスランジェリー」に帰ってきてしまった。辺りはもう暗くなってきていたので外の街頭や装飾が灯されていたのだが…このやたら派手な紫の装飾は完全にいかがわしい店のそれであり、初見だったら色んな意味で入るのに悩む店構えである。

 

「さぁさぁ、入って入って。テイラーはお酒飲める?うちも安くて美味しいお酒と料理を取り揃えてあるから、きっと満足できるはずだよ」

「へぇ…そりゃあ楽しみだ。もしかして料理はねりまきが作るのか?その腕前見せて貰うとしよう」

「まかせて!お父さん並みとまではまだ行かないけど…学校卒業してから手伝いに専念して、最近は任される事も多くなってきたんだから!」

 

 ねりまきの料理に期待を膨らませつつドアを開ける。

 カランカランという音を立てて開いたその先には…。

 

「ダ~ス~ト~!お前は俺の仲間だよなぁ?人生に女なんか必要ねぇんだよ!わがままだし!意味分かんない事で急に不機嫌になるし!」

「わかった!わかったからとりあえず離れろ!くそっ!酔ったキースがこんなにウザいと思ったのは初めてだ!テイラーの奴早く帰って…あっ!」

 

 バタン!

 

 とりあえずドアを閉じた。

 

「…テイラー、いまの人達って」

「分かっている、ただ…ひと呼吸置かせてくれ」

 

 ドアの向こうからはダストのものだろう怒号が聞こえてくる。あぁ…楽しい時間もここまでか、このまま押し付けてねりまきの料理を楽しむとかは出来ないんだろうなぁ。

 覚悟を決め、向こうから無理矢理開けられる前にもう一度ドアを開ける。

 

「おっ!?キース!ほらテイラーだぞ!お前のダチのテイラーが帰って来たぞ!とっとと離れて慰めてもらえ!」

 

 キースを引きずりながらこっちに向かおうとしていたダストの言葉である。悪いがこの状態のキースを友達と思いたくはない、本当に面倒なのだ。

 

「テイラー…いや!こいつはテイラーじゃない!」

 

 顔を上げたキースが叫ぶ。

 なんだ?これは初めて見る反応だぞ。

 

「テイラーは俺と同じで女っ気が無い寂しい奴だ!女の子と手ぇ繋いで居るテイラーなんてテイラーじゃねぇ!」

 

 キースは立ち上がり、俺を指さしながら非難の声を浴びせてくる。

 ようやくキースから解放されたダストはキースから距離を取りながら。

 

「うお!?マジだ!てめぇ!俺が死にかけるような目に会ってるときにちゃっかり女ひっかけてデートしてやがったのか!この裏切りもんが!」

 

 二人に指摘されてようやくねりまきと手を繋ぎっぱなしだった事に気が付く。

 

「す、すまん!」

「う、ううん!」

 

 慌てて手を離すと、ねりまきも今気づいたのか顔を赤くしていた。離したとたん、手のひらに涼しさを感じる。

 

「ちくしょう!やっぱり俺にはダストしかいねぇ!テイラーは良い奴だから仕方ないけど、ダストはクズだから最終的には愛想尽かされて一人になってくれるはずだ!」

「んだと!?クズさ加減じゃお前も似たり寄ったりだろうが!だからモテねぇんだよ!」

 

 矛先がズレてくれたが迷惑なのには変わりなかった。こんなときバカを止める役目であるリーンはどうしたのかと店内を見渡すと、離れた席でうんざりした顔をしながら首を横に振っていた。

 流石にこの酔い方をしたキースの相手は御免だったか。あと、恐らくダストは酔っている間に酒でも奢って貰おうとしたら絡まれたってところだろう。

 リーンを探すついでに店内の客の様子を見てみたところ、珍しい外の人のケンカを肴に酒を飲んでる人が大半だった。本気で迷惑に思っている人は居なさそうだが、それでもやかましい事には変わりない。

 仕方ない、さっさとキースを片付けてしまおう。

 

「重ねてすまないなねりまき、俺の仲間が店で騒いで。すぐになんとかする」

 

 そうねりまきに告げて、俺は騒いでる二人の内キースを捕まえてカウンターに並んで腰を掛けた。

 

「なんだよテイラー!あの子とよろしくやってんだろ!?俺の事なんて放っておいてくれよ!」

「まぁとりあえず落ち着け。彼女はこの店の店主の娘さんでな、リーンの提案で暇になった俺の観光の案内をしてくれていただけなんだ」

 

 俺はキースの肩をポンポンと叩いてなだめながら、カウンターの向こうに居る店主に目配せをする。店主が俺の視線に気づいたのを見計らい、もう片方の手で棚にある度数の高い酒を指さした。

 

「俺はお前が言う通り女ってものが分かってない寂しい奴だよ、こうしてよく二人で飲んでたんだから分かるだろ?」

「…ほんとか?俺達は女にもてない仲間で間違いないか?」

 

 この期に及んでそんな仲間に引き込もうとするあたり、本当に仲間にはなりたくないがそれは置いておこう。

 俺は店主からボトルを受け取ると、多分さっきまでキースとダストが使っていただろうグラスに酒を注ぐ。

 

「何があったのかは知らないが、俺はお前の良い所も悪い所も知っている。今日はたまたま悪い所が出てしまっただけで、良い所を見てお前を気に入ってくれる女性がきっと居るはずだ。ほら、良く分からない事を言って離れていった女の事なんて飲んで忘れよう」

「テイラー…。そうだよな…いつかは俺の事を分かってくれる女が表れるハズだよな」

 

 傷心して酩酊状態のキースは本当にチョロイな。言葉に嘘は無いが、お前が女性関係で良い所を見せてくれてる割合はダストよりも低いぞ。というよりダストは…いや、まさかな。

 『チン』という小気味良い音を立ててグラスが鳴る。キースは勢い良くグラスの中身を飲み干し、俺は口元でグラスを傾け飲んだふりをした。

 

「ぷっはぁー!」

「その意気だ、ほらもう一杯」

 

 そう言ってキースのグラスと自分のグラスを取り換える。仲間意識を高めるために自分にも注いだが、これからねりまきの料理を頂くのに酔っぱらうのは勿体ない。残すのも悪いし再利用だ。

 

「うぉぉぉ!」

 

 キースはさっきの勢いそのままにグラスをあおり。

 

「………」

 

 そのままぐったりとカウンターに突っ伏して動かなくなった。

 

「よし、運ぶか」

「なーんか…見ててキースが哀れに思えて来たな」

 

 哀れなのは否定しないがお前が言うのか?ダストよ。

 

「ダスト足の方を持ってくれ、二階の部屋で寝かしておこう」

「あいよ」

 

 椅子から引きずり下ろしたキースを二人で持って二階へ向かう。店内の方からは一連を肴にしていた地元住民からの「お疲れー」や「鮮やかだったぞ」などの称賛の声が聞こえてきた――――。

 

――――部屋に入り、3つ並んだベッドの真ん中にキースを寝かせる。ダストがやや乱暴に放り投げたのは…まぁ仕方ない事だろう。

 

「よし、本当にお疲れだったなダスト」

「ほんとにな…お前いつもこんなんの相手してるのかよ?」

 

 ダストがベットで苦悶の表情を浮かべて眠るキースを指さす。

 

「コツは酔いつぶす前に一応話は聞いてやる事だ。その時ある程度覚えておいてやると次回、『前回はこうだったよな』なんて話せて仲間意識が高まる。無警戒に酔いつぶさせやすくなるって訳だ」

「…いや、教えられても実践したくねぇんだけど」

 

 そう言って少しため息を漏らすと、ダストは空いているベットに入り込んだ。

 

「俺ももう寝るわ、ゆんゆんの親父もだったけどキースのせいで疲れた」

「わかった」

 

 確かに、殺されかけたり絡まれたりで今日一番疲れたのはダストだったかもしれない。思えば早朝からゆんゆんにも絡まれていたのか?普段のダストは逆に絡んできてウザがられている訳だし、いい薬になってくれるかもな。

 

「あー…テイラー」

 

 部屋を出て、ドアを閉めかけた所でダストから声を掛けられた。

 

「なんだ?」

「さっきの子…ねりまきだったっけ?一日で随分打ち解けたみたいだけど、どうなんだ?」

「………」

 

 なんというか、ああいう場面を見られたからには聞かれるだろうなと思っていた質問ではあるが。不思議とダストの口調は真剣さを感じるもので、下世話な感じが全く感じられなかった。

 

「いい子だよ。裏表の無い人懐っこい性格だ。今日楽しく観光できたのは彼女のおかげだな」

 

 そのせいだろうか。俺は、自然と心からの感想を口にしていた。

 

「そうか」

 

 ダストはそう呟き片手をひらひらと振った後、布団をかぶって寝に入ってしまった。これ以上話すことは無いようだ。

 

「………」

 

 ドアを静かに閉め、階下へ降りる。

 まったく…たまにでは無く、普段からこういう気遣いをしてくれれば俺の苦労も少ないんだがな。

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