この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

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8話

 酒場へ行くと客の数が減っていた。多分良い見世物が終わったので帰ったのだろう、残ってるのはテーブル席に二組ほどだ。

 俺が先ほどのカウンター席に腰を掛けると、リーンがトコトコと寄ってきて隣に座った。

 

「おつかれー、流石に慣れたものだったね」

 

 からかい半分、関心半分といった笑顔だな。安全圏に居たからのんきなものだが、あんなのキースだから通用するだけだぞ。

 

「ダストにも話したがコツを教えてやろうか?今度は俺が来る前に抑えといてくれ」

 

 そうすれば折角の楽しい時間をぶち壊されずに済んだのに。

 

「イヤよ。ほんとに周囲の邪魔になってたら問答無用だけど、今回はダストが勝手に捕まりに行ってたし。というか、周りの人達にはちゃんと謝ってはおいたのよ。けど『見てて面白い』って逆に気を遣われちゃって…ほんと恥ずかしいったらなかったわ」

「紅魔族の人達は割とおおらかな人が多そうだからなぁ。とりあえずリーンもお疲れさん」

 

 単純に強者ゆえというか、気質というか。今日一日回っただけでも紅魔族の人達というのは穏やかな人が多かった。突如奇抜な自己紹介を始めるのを穏やかと言って良いのかは分からないが…少なくとも自分に余裕が無くて周りに迷惑を掛けそうな人は居なかったように思える。

 

「おおらか…おおらかねぇ…。族長さん、まだゆんゆんに説教されてるのかなぁ」

「あぁー…」

 

 どこか遠い目をしたリーンの言葉で思い出した。娘の事で頭がいっぱいになったのか、即死級の魔法をぶっぱなすような物騒な人も居たんだった。というか、めぐみんも喧嘩早いし結局は個人に寄るか。俺がそんなのに出会わなかったのは、そけっとの言う通りねりまきに任せて観光したおかげかもしれないな。

 

「そんなことよりもさ!あの子!ねりまきちゃんだっけ?テイラーが初対面の女の子とあんなに仲良くなるなんて珍しいじゃない。どんなとこ観光してきたの?手を繋ぐまでなんてなんかきっかけあったの?もしかしてもしかするの?」

「………」

 

 一転。リーンは下世話かつ好奇心にあふれた顔でそんな事を聞いてきた。ダストもだったが、絶対に聞いてくると分かっていた事だ。しかしダストがあんな感じに聞いてきた分、相対的にリーンの株が下がっていく。さっきのダストを教えてやりたいなぁ、多分見た事も無いようなリアクションをしてくれるだろう…言わないけど。

 

「あのな…今リーンも言ったが今日が初対面の女の子だぞ、もしかしても何も無いだろう。ただ彼女が良い子だっただけだ、手を繋いで居たのも暗くなって危なかっただけだしな。観光のほうは彼女に先導してもらって色んな所を紹介してもらえたぞ、明日帰る前に食堂と武器屋、それと土産物屋は寄っておくと良い」

「ふーん…」

 

 努めて冷静に答えてやると、リーンはつまらなそうに口を尖らせた。逆にだが、俺がねりまきのことを気に入って将来を見据えて付き合うとか言い出したらどうするんだ?まず正気を疑ってくるだろうお前らは。

 

「テイラー、ご飯出来たよー」

 

 そんなバカな事を考えていると、とんでもないセリフを言いながらねりまきがやってきた。いや、他意は無いんだろうけどタイミングが良すぎる。

 

「今日の夕食はカモネギの唐揚げ定食!ご飯とスープはお代わり出来るからいっぱい食べてね!…ってどしたの?」

「いや、なんでも。ありがとうねりまき」

 

 なんだろうなぁ、さっきリーンに言われたような事は無いはずなんだが…なんなんだろうなぁこの気持ちは。

 

「あ!?申し訳ございません!ご夕食についてお聞きするのを忘れていました!宜しければ今すぐご用意しましょうか?」

 

 と、ねりまきは俺の隣にリーンが座っている事に気付くと慌てて謝罪をした。普段は砕けた態度をとっているがそこは客商売、その場に対応したしっかりとした姿勢も出来るという訳か。

 

「大丈夫大丈夫、あたしはさっき店主さんに頼んで済ませてあるから。というか戻ってきてすぐあの状況だったし…あの二人もお店に迷惑かけちゃったって事で、ね?」

 

 リーンは深々と頭を下げているねりまきの頭を撫でながら、優しく語り掛けた。うん、あの二人にも非があるのは間違い無いな。

 

「あ、ありがとうございます!え…っと、リーンさん、ですよね?」

「うん、テイラーから聞いてたかな?」

「はい!パーティー戦でのウィザードとしての理想的な活躍!聞かせて貰ってます!」

 

 ねりまきは興奮した様子で撫でていたリーンの手を両手で握り、ぶんぶんと上下に振り始めた。目も赤く輝いているあたり、ねりまきの中でのリーンの評価の高さがうかがえる。リーンはというと、そのテンションの高さにやや引いていた。実力的には明らかに上位である紅魔族からそんな事言われるとは思っても無かったのだろう。というかこの唐揚げ旨いな、ご飯が進む。

 

「理想的…なのかは分からないけど、まぁ普通にこなしてはいるかな?」

「そんな謙遜を!前衛の人との連携や自身の魔力管理、それに比べたら紅魔族のおおざっぱな戦い方なんて原始人ですよ!」

「そこまで言わなくても…力押しでなんとかなるなら、それに越したことは無いんじゃない?」

 

 スープも旨い。これだけでもご飯と合うようないい塩加減だ。

 

「そんな戦い方しか出来ないと、それが通じなかったときに何も出来なくなっちゃいます。実際魔法が通じなかった魔王軍の幹部には手も足も出ませんでしたし…」

「あ!もしかして最初にカズマ達が来た時の事?へぇー…そんな強敵を倒しちゃうなんて流石ね」

「そうなんですよ!やっぱりその場の状況に応じて臨機応変に戦えるパーティーっていうのが最強なんです。魔法撃ってテレポートで逃げるだけとか工夫の欠片もありません」

「そう言われれば確かにね、戦うモンスターも同じようなのばっかとは限らないから。切れる手札は多いほうが便利よね」

 

 そんな感じで(主にねりまきが)白熱したウィザードの戦い方議論を横目に俺は親父さんにお代わりを頼んだ。親父さんは大盛に盛られたご飯を渡しながら「すまんね」と謝罪の言葉を口にする。俺は「いえ」と短く答えてご飯を受け取った。こりゃあ間違いなく後で親父さんの雷が落ちるだろう。仕事を忘れて話に夢中になってるのは自業自得、未来の紅魔族一の女将もまだまだ見習いの様だ。

 

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