この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

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9話

 付け合わせの黄色い野菜の漬物のせいでもう一回お代わりをしてしまった。紅魔の里に一週間でも滞在したら確実に肥えてしまう、昼の食堂といい美味い物の誘惑とは本当に恐ろしい。

 

 あの後リーンは風呂に向かい、ねりまきは案の定親父さんに叱られていた。どうやら風呂の用意も本来はねりまきの仕事だったようで、「ゴンッ!」という拳骨の音が聞こえてきた辺り大分ご立腹だったのだろう。けどこうして叱ってくれるのもねりまきを思っての事、聞きはしないが母親を見かけない事にも関係しているのかもしれない。誰よりもねりまきの成長を望んでいるのは親父さんなんだろう。

 

「はぁー、これも良い酒だ」

 

 そして俺はと言うと、もう客の居なくなった酒場で一人で晩酌と洒落込んでいる。親父さんに何個かオススメを選んでもらい、普段は飲めないような酒を贅沢に飲み比べ…堪らないなぁ。

 

「テイラー、まだ居るー?」

 

 そんな俺の所にねりまきがやってきた。水の入ったコップを片手に、もう片方の手は先ほど叩かれたであろう頭をさすっている。

 

「ああ、まだ楽しませて貰ってるよ」

「さっきはごめんね。うぅ~…リーンさんに会えた嬉しさでテンション上がり過ぎちゃった…」

 

 そう言って俺の隣に座ると「はいお水」と目の間に置いてくれる。そういえばチェイサーの水がもう無かった、何気に飲みすぎていたのだろうか?最後に親父さんが見に来てくれたのはいつだったっけ?

 

「ありがとう。んぐっ………ぷはぁ。親父さんは奥でまだ仕事かな?」

「んーん、寝ちゃった。罰として片付け全部やっとけって。あとリーンさんももう部屋に戻って寝てると思うよ」

「そうか」

 

 どうやらもう結構な時間になってしまっているようだ。俺が飲み続けて居る限りねりまきも片付けが終わらないだろうし、もう頃合いだろう。

 

「ごめんなーねりまき、俺もちょっと飲みすぎて居たらしい。片付けを手伝うから、早く終わらせて寝ちまおう」

 

 そう言いつつ、俺はなんとなしにねりまきの頭を撫で始める。うんうん、頑張って偉いなぁ。

 

「わ!?わ!…もう、テイラー酔ってるね」

「うん?うん、酔ってるのは間違い無いな」

「ダメな大人だー」

 

 そう言いながらもねりまきは楽しそうに笑っている。そうだな、やっぱりねりまきからすれば俺は大人で、俺からすればねりまきはまだまだ子供なんだ。リーンが言うようなもしかしては在り得ない、可能性があるとすれば一人目の女将になるくらい成長した後だろう。

 

「ん?…こんなことするぐらいテイラーが酔っぱらってて、お父さんももう寝てるし…リーンさん達も…」

「ねりまき?」

 

 ねりまきは急に考えるような仕草をして小声でブツブツと呟き始めた。俺の声も届いて無いのか、少しの間考え込んでいるねりまきを撫でながら待っていると。

 

「…ねぇねぇテイラー。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

 ねりまきは俺に撫でられたまま、ずいっと身を寄せながら聞いてきた。胸の前辺りから上目遣いで俺の顔を覗き込んでくるねりまきは、どこか小悪魔的な笑みを浮かべている様に見える。

 

「お願い?」

「そう、テイラーにしか頼めない大事なお願いなの」

「んー…俺に頼めない事か。ねりまきの頼みなら断る理由は無いが、今からか?」

「だって明日になったら帰っちゃうんでしょ?それに今からじゃないとダメな事なの!だからお願い!」

 

 ねりまきは手と手を合わせて拝むように頼み込んできた。ねりまきがここまでするという事は本当に大事な事なんだろう。なら、俺の答えはただ一つだ。

 

「わかった。こんな俺で良ければねりまきのお願い、叶えてやろう」

「さっすがテイラー!ありがとうー!」

 

 満面の笑みを浮かべてねりまきは俺に抱きついてきた。そんなに嬉しかったのか…こうなったからには全力で頑張ってあげないとな。

 

「あー…でも俺結構酔っぱらってるぞ?大丈夫なのか?」

「大丈夫!準備は全部やっておくから!テイラーは来た時につけてた装備とかを着て戦う準備を整えておいて、他の人は寝てるんだからこっそりとね。その後は店の外に出てくれればすぐに私も行くから」

 

 そう言ってねりまきは準備のためか店の奥…多分自分の部屋に小走りで駆けて行った。ねりまきが大丈夫というなら大丈夫なんだろう、俺も言われた通り準備をするとするか。

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