NEED FOR SPEED:Legend Of The Lan 作:天羽々矢
「あっつ・・・」
インターステイト20、シルバーロックの丁度すぐ手前にあるチャージスタンドでリュウはGT-Rの燃料補給を行っていた。
次元世界において自動車の燃料は特殊な加工を施し流体化した魔力か、合成品とは言えど我々が住む地球と同じような
確かに順位を149位まで上げ、もう間もなく第1関門であるシルバーロックに突入するが、太陽が沈み始めている事もあり強くなった日差しとフォーチュンバレーの気候により今まで体感した事のない程の酷暑を経験していた。
そこにふと聞こえてきたエンジン音、リュウはその方に顔を向ける。
リュウのすぐ右隣の精算機付き補給機、そこに停車したのは2台の車。どの車も今の地球では滅多にお目にかかれないレア物だ。
1台目は
2台目はBORDER Racing製、ボディと同色のカーボン製エアースクープボンネット、フロントエアロフェンダー、フロントバンパーT-1、サイドステップType1、リアサイドディフューザー、GT WING Ⅲ LOWタイプとBORDER Racing製のボディパーツで統一され、車体両サイドに黒のピンストライプと青い翼、フロントバンパーとボンネットに両脇にペールブルーの細ラインを入れた赤のストライプバイナルをあしらったホワイトパールの1988年式“日産・フェアレディZ 300ZX ツインターボ(Z32)”だ。
そしてZ32からドライバーらしき人影が降りる。黒いインナーとタイツの上からへそ上まで短くした青いライダージャケットと白いショートパンツ、青いスニーカーに左耳には羽根のようなアンテナが立った耳覆い型の通信デバイスを装着している、栗色の髪を首の後ろで一本の尻尾のように一纏めにした太もも裏までありそうな程の長さのダウンテールをした、リュウよりも年若そうな女性が降りてきた。
Z32の前に停車したFCからも1人のドライバーらしき男性が降りる。
こちらも黒インナーに青いライダージャケットまでは同じだがジャケットは通常の丈であり、下は白いカーゴパンツ、腰裏まで綺麗に伸ばした茶髪、右耳にアンテナを立てた耳覆い型通信デバイスと、まるで女性をある程度まで男にしたような程似ている。
リュウはその2人に僅かだが見覚えがあった。
あの2人は確か深夜のストリートレースで時折顔を出す2人。だが見かける事はあっても話しかけた事はなかったのだ。
その男女も燃料補給を始める中、女性の方はZ32のボンネットを開け状態チェックを始める。
すると女性が気付いたのか、リュウの方を向くと右目を閉じてウィンクしてきた。
「っ・・・!」
決して女性に免疫がない訳ではないが、恐らく美女の類に入るであろう彼女からのウィンクを受けリュウは思わず顔を赤らめた。
「・・・ウ・・・」
リュウは何とかそれをごまかしたくなり、着ているパーカーの襟を左手で引っ張って右手で扇ぐ。
「・・・ュウ・・・!」
今のリュウは凄まじい暑さを感じている。それが女性によるものなのか、それともこの気候のせいか。
「リュウ・・・!!」
駄目だ、リュウの意識はゆっくりと遠のいていく・・・
〈リュウッ!!レースに戻れ!!〉
「っ!!」
ガチャリ、と補給機のトリガーノズルが勝手に上がった音とタブレットからのユーノの怒号でリュウは現実に引き戻された。
「ったくエール、また他人をからかって・・・ほらさっさと行くぞ?」
「もうヴァンってば、相変わらずせっかちね」
どうやら向こうの2人も同じタイミングで補給が終わったらしい。
ヴァンと呼ばれた長髪の男がエールと呼んだ女性を軽く叱り、エールは肩をすくめながらもZ32に乗車。ヴァンが乗り込んだメタリックブルーのFC3Sに続くように発車した。
「マズい・・・!!」
リュウは慌ててトリガーノズルを戻し、R34GT-RのエンジンをスタートさせヴァンのFCとエールのZ32を追う。
今のロスで順位は151位にまで後退してしまった。もしあの2人がリュウより先にシルバーロックのチェックポイントを通過してしまえばそこで
だが先程からリュウは妙な悪寒を感じていた。
(・・・イヤな予感がする・・・)
ヴァンのFCとエールのZ32を追いながらもリュウは内心不安で仕方なかった。
そしてそれは遂に現実の物となる。
3台が誇座式モノレールのレールの真下を走っている時、1台の車、ブリリアントホワイトパールのボディに桜色の羽根のバイナルを施した日産・GT-R。NISMOのロゴが見えた為GT-R NISMOだという事はすぐ分かったがそれが一般車に紛れ走行している。
それが普通の一般車ならどれだけ楽だったろうか。
[見つけた!スターズ1より各員へ、目標を発見!追跡を始めてください!]
突然通信傍受デバイスから聞こえたその声に、リュウは驚きと戸惑いを隠せなかった。そしてその声が響いた瞬間、追い越したGT-R NISMOがサイレンを鳴らしながら加速。リュウ達を追い始めた。
「今の声って、なのは一尉!?」
《声紋一致率96.5%、間違いありません!》
相棒のウルスの聞きたくなかった答えを聞いてしまい、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも後ろから迫るなのはのGT-Rから逃げかつ、前のFCとZ32を追いかけるべく更にアクセルを踏み込んでR34を加速させる。
――――――――――――――――――――
なのはがリュウの一団を発見する少し前・・・
なのはが巡回している地点から2.5km離れた場所の区画にギルバートのチャージャーとスバルのエスコートRSコスワース、そして現地管理局警邏隊の2001年式ホンダ・EM2型シビッククーペが3台展開していた。
「・・・」
愛車のダッジ・チャージャーの中で、ギルバートは神妙な面持ちのままセンターコンソール上に取り付けられた端末とスキャナーを見ながらハンドルを握っていた。
[見つけた!スターズ1より各員へ、目標を発見!追跡を始めてください!]
その時、コンソール上に設置された端末からなのはからの通信が響き、ギルバートはサイレンを鳴らしチャージャーを加速。それに少し遅れてスバルのエスコートと警邏隊のシビック3台もサイレンを鳴らしながら発進する。
ギルバート達の後方にはヴァンのFC3S、エールのZ32、そしてリュウのR34GT-RがなのはのR35GT-R NISMOに追われる形で走行している。
[スターズ1より各員、蛇行作戦の準備を!]
「スターズ5、コピー!」
[スターズ3了解!]
[エコー3-4から3-6、蛇行作戦了解です!]
なのはからの指示を合図に、ギルバートのチャージャーとスバルのエスコート、そして警邏隊のシビック3台が速度と車間を一定に保ちつつ両車線をブロック、リュウの妨害を目論む。
前を走るFCとZ32は進路妨害をする管理局の一団に閊えスローダウンを余儀なくされるが、リュウのR34GT-Rは道を左に外れ住宅地の路地裏に入っていった。
[目標が路地裏に入っていったぞ!]
次に路地裏からR34が飛び出してきた時にはFCとZ32はおろか、管理局の一団をも抜き去っていた。
[こちらスターズ3、リュウは停止勧告を無視し現在も逃走中!あたしが行きます!]
[気を付けてねスバル!]
スバルが管理局全ユニットに向けた通信を放ち、同時にスバルのエスコートが急加速。リュウのR34の左後方につける。
[止まれぇ!]
スバルのエスコートが一瞬左にずれ、すぐに右にハンドルを切って車体を右へ。リュウをスピンさせようとするが、ここでリュウがR34のギアを1段上の5速に入れ更に加速。エスコートを置き去りにした。
[や、ヤバッ!?]
スバルは慌ててハンドルを左に戻すが、完全にバランスを失ったエスコートはそのままスピン。そして後続のシビックの1台がそれを回避しようとハンドルを大きく切り住宅一棟に突っ込んでしまう。
[クソ、1台やられた!司令部、至急レッカーと救護隊を頼む!]
[こちら司令部、レッカー車と救護隊到着まで約15分かかります]
スピンアウトしたスバルのエスコートと住宅に突っ込んで大破したパトカーを見てギルバートが叫ぶ。
「ナカジマ、大丈夫か!?」
[大丈夫、すぐに追いかけます!]
だが端末からはスバルの元気な声が聞こえ、無事だという事を教えてくれた。
前方では完全にフォーメーションが崩れた管理局一団を後続のヴァンのFCとエールのZ32までもが追い抜き3台はほぼ連なった状態で逃走を続けている。
「こんな事を今言うのは不謹慎かもしれないが・・・」
[???]
「普段俺たちを追いかける
通信機越しにぼやいたギルバート・・・確かにその発言は、今の状況では不謹慎である。
――――――――――――――――――――
「く・・・!!」
未だに背後霊のように追ってくるなのは達をバックミラー越しに見ながらもR34を走らせ続けるリュウ。
第1関門まではもうすぐ。その時再び通信傍受デバイスが点滅した。
[スターズ4、ティアナです!ライノ隊と共同でバリケードを構築、スパイクベルトも設置しました!座標はマイル標識27!ここで絶対にリュウを止めます!]
[ライノ隊より各員へ、道路中央に
それはティアナと、それに随伴するバリケード部隊の通信。しかも内容が正しければもうすぐ目の前にご丁寧にスパイクまで用意されているらしい。
だがリュウは全く減速せずバリケードに真っ向勝負を仕掛けようとしている。
《マスター無茶です!
「大丈夫だウルス、俺を信じてくれ!」
心配する相棒を他所にリュウはギアを6速へ入れアクセルを更に強く踏み込み、それに応えるかのようにR34も更に加速していく。
そして遂に目の前に管理局のバリケード部隊が見えた。
前列には道路中央に設置されたスパイクベルトと、その両脇と後方を塞ぐようにハイウェイパトロール隊の装甲車が6台展開。その更に後方にはオレンジの80スープラ6台が道路を挟んで路肩を塞ぎ、唯一空いている道路中央にはまたしてもスパイクが設置されている。
だがリュウのR34、ヴァンのFC3S、エールのZ32は減速する事なく突っ込んでいく。
「くぅぅぅぅぅッ!!」
後続のなのは達がスローダウンしていく中、R34、FC3Sは前列を大きく左に、Z32は右に回避するがその先はスープラで構成され、中央にスパイクが待ち構えるバリケードが待っていた
「勝負だティアナァァァァァァッ!!!」
叫びながらスープラと真っ向勝負を挑む。
するとどうだろうか、R34はスープラに激突するどころか、スープラが煙のように消えていった。
《ランスター執務官の
「あぁ、俺たちこう見えても後方要員だったとは言え機動六課フォワード隊のメンバーだったろ?」
ウルスからの言葉にリュウはニッと笑みを浮かべる。
後方ではヴァンのFCは突破に成功したようだがエールのZ32は幻術のスープラを本物だと思いハンドルを大きく左に切って道路中央を通ってしまい、設置されていたスパイクの餌食となりそのままスピンアウトした。
他の管理局ユニットもバリケード手前でなのは達が停車した為に、追い上げてきた後続のレーサー達も足止めを余儀なくされ、また管理局も彼らへの対応でしばらく身動きが取れなくなった。
今や障害は無し。そのままR34は恐らくZ32のドライバーであるエールの救出に引き返して行ったであろうヴァンのFCを後目に走り抜け、遂に見えてきた。
ネオンが煌めく一流ホテルや大型カジノを始めとした高層建築物。そして目の前には右手にトランプカード、左手にチップを持って笑みを浮かべたディーラーの看板が見えた。
―――――|Welcome to Ganbler's Paradise Silver Rock.《ようこそ。ギャンブラーの楽園、シルバーロックへ》―――――
その看板の横を通り抜けた瞬間、タブレットから観客の歓声じみた音が流れると同時に画面に「Congratulation!!」の文字が表示された。
「よぉーっしッ!!」
《やりましたね!》
リュウが歓喜の声を上げながらハンドルに手を叩きつけ、ウルスからも称賛の声がかかるが気のせいか少し興奮気味に感じられる。
まだ管理局パトカーのサイレンが背後から聞こえる状況ではあるが、一先ずリュウは149位という順位で第1関門を突破できたのだ。
その時、タブレット画面に再びユーノからのテレビ電話が映し出される。
〈まだだよリュウ、気を抜かないで。今度は50位以内でロックポートに入るんだ。相手がなのは達とはいえ捕まっちゃダメだからね?〉
「分かってるさユーノ。もう切るよ?また追っかけてきたみたいだから」
リュウはユーノにそれだけ言うと通話を切り、バックミラー越しにサイレンを鳴らしながら再び追ってきたなのは達のマシンを見ながらもシルバーロック市内に突入する。
そう、ここまではまだ序の口。本当のスタートはここからである。
劇中曲:Determined Eyes/ロックマンゼクス アドベント
ED:Blast My Desire/m.o.v.e
今回は自分の方でオリキャラを出してみました。名前からして誰を参考にしたのかはお分かりですよね?