NEED FOR SPEED:Legend Of The Lan   作:天羽々矢

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※今回はあとがきに報告有り

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


Section04 出走

マフィアから逃げ切ったリュウはあの後、RS4を乗り捨てて繁華街の一角にある哉藍(セイラン)飯店に足を運んでいた。

 

忙しい時間帯を終えているのか店内は閑散としているが営業自体はしているようである。

その店内の席の一角に目的の人物であるユーノ・スクライアの姿があった。リュウはユーノに促されるように席に着き、その席に用意されていた烏龍茶を一口飲み小さく息をつく。

 

「・・・道を踏み外したそうだね、リュウ?」

 

開口一番、ユーノはリュウに問うがリュウは小さく首を横に振り否定する。

 

「違う・・・レーザーとバトルしていた事以外は何もしてない。ハメられたんだ・・・」

 

そう言葉を放つリュウは酷く疲れていた。当然であろう。

アダムにクラッシュさせられたと思ったら、今度はマフィアに命を狙われる事になったのだから。

だがそんな様子とは裏腹にユーノは安心するかのように一息ついた。

 

「大丈夫、君がそういったような事をしないのは僕がよく知ってるよ。・・・でも君に良いニュースと悪いニュースがある」

 

そう前置きしながら目の前の烏龍茶で口を潤すと、少し間を置いて言葉を続ける。

 

「まず悪いニュースの方から。・・・君に車両窃盗と強盗傷害の容疑で指名手配が掛けられたよ。裏社会でもアダム・カラハンがリュウを始末すれば500万ドル、生け捕りにすれば1000万ドルと車1台、ランボルギーニのチェンテナリオを進呈すると宣言してる」

 

「なっ・・・!!」

 

ユーノの言葉にリュウは言葉を失った。

その2つの罪状には全く覚えが無い。アダムとバトルしていた時に乗っていたアゲーラRSだってアダムの承認で乗っていた物だ。ましてや殺されかけたのは自分の方のはずなのに何故管理局がアダムの肩を持ったのか。

 

「君が聞きたい事は分かるよ。あの時君は車2台でレースしてたって、そう言いたいんだよね?」

 

ユーノの質問に静かに頷くリュウ。そして現状を聞く。

 

「リュウと走ってたもう1台の方が行方不明になってるんだよ。既に本局の部署も調べられるところは全部調べたけど何処にも無い・・・。つまりは君の言葉を証明する証拠が無いんだ」

 

「っ・・・クソッ!!」

 

憎々し気に吐き捨てながらリュウが右手拳をテーブルに叩きつける。

その時の衝撃でまだ癒え切っていない身体が再び痛み出し思わずうずくまる。

だがリュウは痛む腹部を抱えつつもユーノから顔は外さず続きを問う。

 

「・・・もう1つ、良いニュースってのは・・・?」

 

「良いニュースというのは、この状況を打開できる手があるという事だよ。でも物凄く危険、ハイリスクハイリターンって奴だよ。・・・返答はYesかNoか」

 

真面目な面持ちでリュウに問うユーノ。店の照明のせいかユーノの表情に影が掛かり冷たい威圧感のようなオーラを放っている。

だが、話を聞いたリュウの答えは決まっていた。

 

「・・・やるよ。何もしないよりずっとマシだ」

 

リュウの返答を聞き、ユーノは安心したような笑みを浮かべる。

 

「その返事を聞けてよかったよ。君には“ザ・ラン”に出てもらうよ」

 

「ザ・ラン?」

 

聞きなれない単語に首をかしげるリュウ。

するとユーノは足元に置いてあるブリーフケースを持つと、リュウに立つよう促す。

リュウは知らぬまま立ち上がり、ユーノはそのまま店の更に奥まで歩を進めリュウもそれに続く。

 

「ザ・ランは次元世界で最も過酷と言われてる、ミッドチルダを横断する超長距離ストリートレースだよ。スタートはトライシティからゴールはクラナガンまで約4800キロ。参加費用は1人35万ドル」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれユーノ、35万ドルなんてそんな金ないぞ?」

 

突拍子もない発言にリュウは呆れながらも返答するが、ユーノは不敵な笑みを返しリュウに対し口を開く。

 

「心配ないよ。僕が立て替えるから。優勝してくれれば君の問題を全部解決するし取り分は15%」

 

「おいおいおいおいもう一度待ってくれ、助けてもらう側だからデカい口利けないのは分かるけど、たったの15%?」

 

ユーノの右腕を掴んで引き留め問い詰めるリュウ。だがそれでもユーノは笑みを崩さなかった。

 

「・・・賞金総額は3500万、その15%だよ」

 

ユーノの返答に納得したのかリュウはなるほどと返しそれ以降は口を開かなかった。

 

2人が着いたのは店の倉庫。ユーノが倉庫の右上を向くと、正面にあるダストシュートの扉が開きユーノはケースをシュート内の台に置く。すると何やら駆動音が聞こえだす。どうやらこのダストシュートは何かの為の偽装品のようだ。1度音が止み少し経つと再び駆動音が鳴り、音が止んでシュートの扉が開くとユーノが置いたケースは無くなっており代わりタブレット端末とクリスタル型のストレージデバイスが置かれていた。

 

「このタブレットは連絡用と大会情報閲覧用だよ。そっちのデバイスは管理局の通信を傍受できるようになってる。さて、残る問題は車だけどリュウの車はもう管理局が・・・」

 

どうやらリュウのランエボⅨは先に管理局に押さえられたらしい。

こんな所で詰みか、と思われたが・・・

 

「・・・大丈夫だユーノ、車なら心配ない」

 

タブレットとデバイスを受け取ったリュウは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

4時間後・・・

 

Tri-City(トライシティ)/6:30 AM

 

朝日が昇り始め通勤で混雑し始める時間帯。

その街の一角、潰れた修理工場にリュウの姿はあった。彼はザ・ランに参加する為の車を取りに来ていた。

そんなリュウの目の前に停まっている1台の車。

 

プラチナムシルバーメタリックのボディカラーにフロントバンパーとボンネットにサファイアブルーのダブルストライプ、左右側面には前輪から車体後部にかけて徐々に広がっていく同じサファイアブルーのチェックのバイナル。

C-WEST(シーウェスト)のPFRP製のN1フロントバンパーⅡ、サイドステップⅡ、リアバンパー、GT-Wing Ⅲ

Sun Line Racing(サンラインレーシング)のPCC製、ボディカラーと同色のGTクーリングポンネット、同材質・同色のライトウェイトトランクとドア。

HKS(エッチ・ケー・エス)製のスーパーターボマフラーTi LIMITED EDITION(チタンリミテッドエディション)

 

その全てが特別なパーツで組み上げられたその車の名は・・・

 

 

日産 スカイラインGT-R Vスペック(BNR34)

 

 

管理局時代の頃から貯めた給料で買いここまで組み上げてきた、文字通りリュウが心血を注いできた特別な1台である。

 

「ふぅ・・・」

 

その車を眼前に控えリュウは一息つくと、ザ・ランに備えるべくシルバーメタリックのYOKOHAMA製SUPER ADVAN Racingホイールを履いた新品のタイヤに交換したりエンジン・足回りの点検・調整等の整備を始める。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「さぁ、行くか・・・!」

 

1時間後、整備を終えR34に乗り込んだリュウは武者震いのような不思議な高揚感を感じていた。

キーを差して奥まで回すと、RB26DETT直列6気筒ツインターボエンジンが獣の唸り声のような低い重低音を上げて目覚める。

するとインパネに取り付けたタブレットから澄んだ電子音が響き、画面にユーノからのテレビ電話が表示された。

 

〈リュウ、準備はいい?〉

 

「あぁ、いつでもいける」

 

ユーノの言葉にリュウは笑みを見せながらそう返す。

 

〈参加ドライバーは総勢200人以上、話した通りトライシティからクラナガンまでは約4800キロだよ〉

 

「フッ、楽しいゲームになりそうだな」

 

〈さぁ急いで、ベイエリアでのレースに遅れるよ〉

 

「了解」

 

ユーノの言葉を受けリュウはアクセルを踏み込みR34を発進させる。

交差点を左折し急勾配の住宅街へ突入していく。

 

その前方には高速で交差点から侵入してきたアウディRB V10、2010年式フォード・フォーカスRS、パガーニ・ゾンダ、シェルビー・コブラ・デイトナ等のエキゾチックカーがGT-Rの進路上に割り込んできた。

間違いなく彼らもザ・ランの出場者だろう。

 

《マスター、ナビゲーションはお任せください。この先4ブロック直進、そこを右折です》

 

「了解、サンキューウルス!」

 

タブレットからコースデータをダウンロードしたウルスがルートを指示し、リュウはそれに従いGT-Rを走らせ住宅地の急勾配を駆け上がっていく。

 

[エコー21だ、ベイエリア地域に多数のエキゾチックカー。10-22の予定は?]

 

[無いぞ、何台だ?]

 

[50台以上だが数は増えてってる]

 

[了解、各車両を編成するぞ]

 

するとタブレットと同じくインパネに取り付けたクリスタル型ストレージデバイスが発光し、点滅しながら管理局の無線を傍受した。

 

「マズい・・・ペースを上げるぞ!」

 

傍受した無線を聞いたリュウは呟きながらも更にアクセルを踏み込んでGT-Rの4WD故の立ち上がり加速で前のフォーカスを追い抜きその先の丁字路を左折。急勾配の下りに差し掛かる。

 

[ストリートレースに間違いない、出来るだけ早く応援を回してくれ]

 

[了解、車両複数が向かった]

 

再びストレージデバイスが無線を傍受すると同時に2台のパトカーがGT-Rの前を通過し別の通りに入っていった。

 

《次の交差点を右折、3ブロック直進後に左折してください》

 

ウルスのナビゲートで下り終わりにある交差点を右折、その先の右コーナーも曲がって再び勾配のきつい上りへ。そんなリュウの前を走っているのはR8、コブラ、ゾンダの3台だ。

 

[厄介な状況だ、応援は何処だ?]

 

[了解、これより応援に向かう!]

 

[10-3、そちらに応援車両が向かった!]

 

デバイスが傍受し続ける管理局の無線を後目にリュウは坂を上り切った先の左コーナーをドリフトしながら抜ける。

 

[アルファ2-2現着!ダメだ、もっと数がいる、50対1だ!]

 

[手の空いてる者を全員送る!]

 

管理局無線に耳を傾けながらもリュウは左コーナーを抜けた先の交差点を左折し大通りに出る。ギアを上げGT-Rを更に加速させる。

すると前方の交差点の左右から今度は1971年式ダッジ・チャレンジャーR/Tと2013年式シボレー・カマロZL1を筆頭にトヨタ・スープラ(JZA80)、ダッジ・チャレンジャーSRT8、メルセデスベンツ・CLK55 AMG等、新たなエキゾチックカーが乱入してきた。

そして交差点を直進するとタブレットの情報が更新され、それとほぼ同時にユーノからの着信も入る。

 

〈リュウ、シルバーロックに150位以内で入るんだ!〉

 

「OK、分かった!」

 

リュウがユーノの言葉に返答し、GT-Rは猛スピードのまま交差点の先の下り坂へ。有り余るスピードでGT-Rが大きくジャンプし激しく着地、強い衝撃でまた襲ってきた身体の痛みに顔を僅かにしかめるがもう2回目のジャンプに差し掛かろうとしていた。大きくジャンプしては着地とそれを3回ほど繰り返した後にその先の丁字路を、ジャンプの立て直しや一般車につっかえてもたついたR8、スープラ、CLK55をパスしつつドリフトしながら右折する。

その先は海岸沿いの道だ。

 

[クソ、一体何処から出てきたんだ!?]

 

[全面封鎖の指示だ、街への主要道路をすぐに封鎖だ!]

 

《マスター、既に管理局が道路封鎖を開始しています!》

 

「分かってるよ!」

 

ウルスの言葉に返事しながらも高速でGT-Rを走らせていくリュウ。

 

[複数のコード6が道路を占拠!すぐに交通規制を!]

 

[了解、区画を封鎖するぞ!]

 

尚も聞こえる無線を他所にGT-Rを走らせるリュウの前方には、先程まで前を走っていたSRT8やデイトナが警邏隊のパトカー、フォード・クラウンビクトリア・ポリスインターセプターに押さえられているのが見えた。

それを後目にリュウは前を走る、カマロ、チャレンジャーを猛然と追いリュウに抜かれたR8、スープラ、CLK55も抜き返そうと必死だ。

 

[複数の目標を発見!アルファ2-1援護できるか?]

 

[無理だ!オレンジのゾンダをコード3で追跡中!]

 

[了解!警邏隊は10-96を解除!最寄りの主要交差点に集結、道路を封鎖してください!]

 

またも聞こえる管理局の無線。その内容はもうほとんど耳に入ってこない。

何故なら今リュウは後方から抜きにかかろうとしているR8とスープラの動きに集中しているのだから。

 

[コード6の車両に管理局スキャン用デバイスがある、バリケードの位置を更新しないこと!]

 

道なりに進みまた交差点。そこを右折するとまたしても警邏隊に押さえられたレーサーがいた、先程あったオレンジのゾンダだ。

傍受した無線の内容も恐らくゾンダのドライバーが捕まった事で判明したのだろう。

直進し2つ目の交差点をまた右折した先の丁字路の右はトライシティの郊外へ通じるシルバリオ・ゲートブリッジにアクセスできる最短ルートだ。

 

[リュウ!何としても橋を超えるんだ!でなきゃ全て終わりだ!]

 

「あぁ分かってるよ!」

 

R8とスープラを抑えつつ2つ目の交差点を右折し、その先の丁字路も右折。その先の高架を通過すればゲートブリッジに入れる。だがその先では恐らくずっと前にいたのであろうシボレー・コルベットZO6(C6)が捕まっており、その応援に駆け付けたパトカー3台がリュウのGT-Rの追跡を開始した。

 

[被疑者をベイブリッジの下で押さえた。チャーリー2-1、援護を!]

 

[無理だ、暴走中のスカイラインGT-Rを発見!明らかにストリートレーサーだ、コード3!]

 

高架を上り切り橋に出ると目に見えて分かるほど一般車の量が増えた。その後方では未だ追い上げの狙うR8、スープラ、CLK55とそれらを追う管理局のクラウンビクトリアが高速で迫りつつある。

 

「時空管理局だ!車を止めろーッ!!」

 

「止まれーッ!、繰り返す、止まれぇーッ!!」

 

スピーカーで叫びながら管理局のパトカーが猛スピードでリュウ達を捕らえようと追撃する。

 

そのパトカー達をバックミラーで確認しながらも未だ冷静であるリュウは通勤の一般車の間を縫うように走り抜け、それに驚いた一般車がクラクションを鳴らしつつハンドルを切りながら急ブレーキをかけ減速。その一般車にパトカーが突っ込んだ。

 

[クソ、やっちまった!10-57の援護は!?]

 

[現在、他の地域から援護車両が向かっています!]

 

尚もリュウが先頭のままレーサーの4台はトンネルに侵入。多量に蔓延る一般車を避けながら疾走していくが、

 

《マスター!前方にバリケードです!》

 

トンネルを抜けた先は幸か不幸か左側が工事中であり、通行可能な右側には既にバリケードが設置されていた。それを見たリュウ以外の後続のレーサーがブレーキをかけ停車、それに追いついたパトカーに押さえられ逮捕。リタイアとなる。

 

・・・だがリュウは違った。ハンドルを左に切り工事区画がある左車線を走行。ギアをトップの6速に入れアクセルを最奥まで踏み込む。設置されているコーンやフェンスをなぎ倒しながら駆け抜けるがその200m程先にはジャンプ台らしき物があるだけで、道路が無かった。

 

それでもリュウは加速するのを止めない。

そしてジャンプ台に差し掛かったと思ったら・・・GT-Rが()()()

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

雄叫びを上げるリュウ。

そしてそのまま海に落ちるかと思われたが、 対岸側で完成済みの乗り入れ車線に盛大に着地した。

 

[抜かれた!?追跡を・・・追跡を続けてください!!]

 

悲鳴に近い局員の通信が聞こえるのを後目にリュウは再びGT-Rを加速させる。

 

「おーっし!どうだっ!?はっはっはっ!!」

 

《今のは私でも驚嘆しましたよマスター・・・》

 

勝気な高笑いを上げるリュウにウルスが呆れるような声で言うが、まるで気に留めずハンドルを握りしめGT-Rを走らせる。

 

だが既にトライシティを発ったレーサーは数多くいる。これはまだ序の口に過ぎない。

自由と存亡を賭けたリュウの旅は、まだ始まったばかりだ。




劇中曲:THE MEANING OF TRUTH(Instrumental)/HIRO-X

ED:Blast My Desire/m.o.v.e

今回、この作品においても皆さまからキャラクターを募集したいと思います

詳細はこちら→[https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=233938&uid=79933

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