NEED FOR SPEED:Legend Of The Lan 作:天羽々矢
クラナガンまでの距離・・・4,265km
リュウの現在の走行順位・・・182位
後方から一気に追い上げてきたアダムのマクラーレンP1 LMを追いつつも猛然と先の車列をパスしにかかるリュウ。
アダムのP1が前を走るブラックの日産フェアレディS40Zを追い抜くと、それに続くようにリュウも240ZをパスしアダムのP1を追う。
でも未だに前を走る車はおりアダムのP1を除いて手前から、
アクアブルーの初代シボレー・カマロSS、
赤の三菱・ランサーエボリューションⅧ、
白にカーボンボンネットのマツダ・RX-8、
緑のボディに白のダブルストライプの1969年式2代目フォード・マスタング BOSS 302、
黄色の日産・フェアレディ350Z、
黒のポルシェ・987前期型ケイマン S、
シルバーのBMW・E90型M3、
メタリックグレーの日産・スカイライン2000GT-R(KPGC10)
そして何時ぞやのGTレースボディキットとレース用ウィング、カーボンボンネットを装備したペールブルーメタリックのBMW・M3 GTRだ。
この先はコーナーが多いテクニカルなステージとなっており、リュウのR34とアダムのP1は比較的大柄な部類に分けられるだろう。
ましてリュウのR34は元々は1500キロ級の車重を持っていた車だ、いくらカーボンパーツで軽量化しようとも元々の車の特性が完全に消える訳ではない。
当然それはR34を組み上げてきたリュウ本人が1番理解している。だからこそ無理に仕掛けて車やタイヤに負担をかけてしまわないよう理性で車をコントロールしつつ前を走るアダムのP1をパッシングするチャンスを伺う。
リュウのR34とアダムのP1はカマロSS、ランエボⅧ、RX-8を連続でパスしていきながらも尚もペースを全く落とさない。次は2人の前を走るマスタング BOSS302を始めとした集団だが、ここでアダムのP1が舗装路を外れ右側の未舗装の遊歩道の方に入っていった。
《マスター、道路右側に脇道があります!》
「了解!」
相棒のウルスからの言葉に従いリュウもアダムを追って遊歩道に入る。
舗装されていない道故に揺れが酷く加速も鈍りハンドルも重くなるが、おそらくそれはアダムの方が辛いであろう。
綺麗に舗装されたサーキットでのタイムを出す為に改良されたP1 GTRの公道仕様とも言えるP1 LMだと車高が低すぎて跳ねた砂利や石で車に余計なダメージを与えかねない。
一方リュウのR34は未舗装でも少しは安心できるほどの地面とのクリアランスを確保しており、その上P1 LMがミッドシップ後輪駆動なのに対しR34は4輪駆動。スペックでは大きく劣るがステージ次第ではまだ勝機はある。
リュウはシフトレバーを操作して1段上の3速に入れステアリング操作をしながらフルアクセル。綺麗な4輪ドリフトを披露しコーナーでアダムのP1にアウトから並びかける。
そして遊歩道を抜けると同時に舗装路に戻り舗装路を走り続けていたマスタング BOSS302、350Z、ケイマンS、M3は既に2人の後方にいた。
残るはリュウのすぐ右隣りにいるアダムと前を走るM3 GTRだけだ。
サイド・バイ・サイドで緩やかな左コーナーを抜けストレートへ。加速はやはり馬力で勝るP1が有利だがストレートの先はきつい左コーナーが待っている。
スピードが乗った状態でのコーナー侵入は当然ハードなブレーキング勝負となる。
2台はほぼ同タイミングでブレーキをかけ旋回態勢に入る。
だがフロントエンジンで4駆のGT-RよりミッドエンジンであるP1の方が車の運動性能は高くコーナリングスピードはアウト側のP1の方が上だ。
だがアダムは勝負を焦ったか、前に出ようと旋回も関わらず大きくアクセルを踏み込んでしましリアが大きくスライドしてしまう。
対してリュウも旋回中にスロットルを開けテールスライドが起こるがP1のそれよりは挙動はマイルドで体勢が大きく乱れたP1と比べ安定した姿勢でフロントがコーナー出口を向き、リュウはすかさずフルアクセル。
いち早く立ち上がり加速に入り、遂にアダムのP1 LMをパスした。
「よし!!」
《お見事です!》
思わずハンドルに手を叩きつけながらも喜びを露わにするリュウと賛辞を贈るウルス。
だがまだ安心するには早い。前にはまだBMW・M3 GTRが残っており更にここから先の峡谷地帯は峠のダウンヒルになっている為、より繊細かつ迅速という対称的な2つの要素が際立つ区間だ。
しばし長いストレートに入り加速を続けるリュウのR34GT-R、だがその後を体勢を立て直したアダムのP1が猛追する。
そしてリュウのGT-Rに追いついたと思いきや、
「うわっ!?」
あろう事かGT-Rのリアにぶつけてきた。
幸いバランスは何とか保てたが、P1は1度下がるとまた加速しリアにぶつけてきた。
今度こそバランスを崩しGT-Rはスピンしながら失速。路肩の待避所まで押し出されてしまった。
そしてアダムのP1 LMはリュウのR34を後目にそのまま走り去ってしまう。
「くそっ!!」
リュウは怒りを隠せず、憎々し気に吐き捨てながらハンドルに拳を叩きつけるも、すぐにギアを1速に入れ直し加速。アダムを追うべくGT-Rを走らせる。
そして峠のダウンヒルに差し掛かり、右ヘアピンコーナーを曲がった先にはM3 GTRが見えてきたがP1の姿は無い。もう先に行ってしまったのか。ならば前のM3を抜き追いかけるまで。
リュウはすぐに判断し、ストレートでM3に追いつき右から追い抜きにかかる。
・・・が、なんとM3のドライバーが右にハンドルを切り、その車体をリュウのGT-Rにぶつけてきたではないか。
―――――――———————――――――
そのM3 GTRのドライバー、灰色のショートボブに金色の垂れ気味の目、胸元に「Beep!」と書かれた青地の半袖のスポーティなシャツにベージュのショートパンツというそのドライバーの女性は“ローラ”。
既にナショナルパークを通過したメルセデスAMG・GT Sのドライバーであるトモエ・シズマリの一味の1人である。
ローラは背後から追い抜きを仕掛けようとしたリュウのGT-Rに対し進路を被せたり躊躇なく車体をぶつけたり等を行い妨害を行う。
彼女がリーダーであるトモエから受けている命令は1つ。
“殺さない範囲ならどんなことしてもいいから止めろ”と言う物だ。
ローラはその命令を思い出しつつも、未だバックミラーに映るリュウのGT-Rを見てこう吐き捨てる。
「抜けるもんなら抜いてみろってんだ!」
―――――――———————――――――
「くっ!」
リュウはローラのM3 GTRを見て思わず顔をしかめるが、こいつを倒さない事にはここで脱落となってしまう。
まずは様子見を兼ねアクセルを踏み込んでM3の背後にピッタリと張り付き、左右に揺さぶりをかける。
ローラはそれをバックミラーで確認し確実のリュウの進路に被せ通せんぼするが、
「やべっ!?」
リュウの動きに集中しすぎた為に次の左ヘアピンのことを失念していた。
慌ててサイドブレーキを引きM3を無理矢理曲げようとするがそれでもオーバースピードはごまかせない。コーナー外側に大きく膨らみ、空いたイン側をリュウのGT-Rが鮮やかに通り抜ける。
「この、待て!!」
大外を回り失速したローラのM3は何とかコーナーを抜け再加速、リュウのGT-Rを追う。
次のヘアピンに備えスピードを抑えていたリュウには割と簡単に追いつき、左側に並ぶと再びM3の車体をリュウのGT-Rにぶつける。
そのせいで右側のタイヤが舗装路の外にはみ出てリュウが僅かに失速、その間に再びローラが前に出た。
「っ・・・」
ストリートレーサー達は本来、自分の車に傷が付く事を嫌うものだが、それを平気でやってきた相手にリュウは少しだが確かに憤りを感じていたのか微かに舌打ちをした。
次は右の緩く長いヘアピン、そこを抜けると今度はきつい左ヘアピンが待つ上にその区間はコースアウトを防ぐガードレールが無い。ミス=死に繋がりかねない恐怖の区間だ。
それでも2台はほとんど差が無いままデンジャラスセクションに入る。
ローラのM3が通せんぼと言った具合に道幅一杯に車を振っていく中でリュウは焦らず正確なコントロールでコーナーをクリアしていく。
S字コーナーを3つほど抜け次は道幅が広い右の中速コーナー。
ここでリュウが仕掛けた。
ギアを2速に落としハンドルを逆側の左に切りコーナーのアウト側へ。いくらローラがM3を振り回そうがこのコーナーを完全にブロックするのは不可能である。アウトに行ったGT-Rがフルアクセル、4駆のトラクションとエンジンパワーを活かし再びM3の前に出る。
「クソッ!!」
ローラが前に出たGT-Rを見て憎々し気に吐き捨て。その後を追いかける。
次は先ほどクリアした右コーナーをそのまま反転させたかのような左コーナー。そして再び右コーナーと、繰り返しに思える程の左右の切り替えしの数々である。
続いては右の高速コーナー、しかもガードレール無だ。
リュウの背後にくっついているローラが右側からGT-Rにぶつかりに行く。
大きくリアがスライドしあわやコースアウトと思われた所で踏みとどまり、その先のガードレールの無い低速の左コーナーに差し掛かる・・・と思いきやローラは再びリュウの右側から、今度は押し込むようにぶつけGT-Rは完全に右を向いてしまい、それでも尚ローラはアクセルを離さずGT-Rを押すような形で走行する。
リュウは咄嗟にギアを1速に落としサイドブレーキを引きハンドルを右に切ってフルアクセル。するとGT-RはM3から逃げるようにスピンしローラのM3が再び前に。
「っ!!」
ローラも咄嗟の反応でハンドルを左に切りドリフトでコーナーをクリア。リュウも1回転した後にすぐ左にハンドルを切ってすぐ戻しドリフト。2人の差はほとんど無い。
(分かったよ、そっちがその気なら・・・!!)
今のローラの攻撃でリュウの思考ギアが完全に切り替わった。
右中速を抜けたストレートでフルアクセル。エンジンが吠えると同時にブーストが立ち上がり一気に加速、リュウがローラのM3に並ぶと、
なんと今度はリュウの方からM3にぶつけに行ったではないか。
「クソ、ふざけやがって!」
ローラは怒りを隠さずに吐き捨てるも進路は譲らない。
それを見てリュウのGT-Rがもう1度M3にぶつかりに行った。
今度はM3の体勢が崩れ僅かに失速、その間にリュウのGT-Rが前に出た。
峠であるにも関わらず続くパッシングの応酬である。
再び抜かれたローラは怒りで表情を歪めながらもM3を加速させ、GT-Rの体勢を崩すべく左リアに突っ込む。
GT-Rの体勢が僅かに崩れストレートの左側へ。緩い左コーナーを大外から被せて侵入しローラのM3が再び前に。だが何を考えたか右側の斜面を駆け上がりすぐ舗装路に戻った。
運転ミスかに思われたが違った。斜面を駆け上がった時に破損したレースウィングが右コーナー旋回時に千切れてリュウの方へ飛んできた。
「っ!!」
飛んできたウィングがヒットするも、当たった箇所はフロントガラスでヒットした場所もリュウが座る右の運転席側でなく誰もいない左の助手席側だった為に運転に支障は無い。
コーナーを立ち上がり次の右コーナーへのストレートでローラの左側に並び、侵入直前に一気にフルスロットル。ドリフトでローラのM3の頭を押さえ再びリュウが前に出た。
続いてはガードレール無の緩い左ヘアピンコーナーだ。
2台がドリフトで侵入し、そこでローラのM3が一気にリュウのGT-Rに並びかける。
「往生際が悪いんだよっ!!」
ドリフト中でもお構いなしにローラはGT-Rにぶつかりに行く。
2台は並んで立ち上がり次の右コーナーが迫る。
ローラは既にぶつかりに行く体勢を取っていたが、それを見たリュウはギアを4速から一気に2速に落としブレーキペダルを目一杯踏み込んで急減速。
「なぁっ!!?」
攻撃に失敗したローラのM3 GTRはコントロールを失いスピン。4分の3回転後にタイヤがグリップしてしまいそのまま横転し、
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
そのまま道路の外へ転落し崖を転げ落ちる。
攻撃を回避したリュウは無事左コーナー、その先の右ヘアピンも抜け後はストレートとアクセルオンでも抜けられる緩いコーナーだけの区間へ。
そして緩い左コーナーに差し掛かった、その瞬間・・・
転落したローラのM3 GTRが落下してきた。
「!!」
リュウは咄嗟にサイドブレーキを引きハンドルを右に切ってGT-Rを右に向け、そしてすぐ左にハンドルを切りドリフトさせる・・・。
GT-Rは間一髪のところでM3を回避。
だがリュウは1度バックミラーを見ると左の路肩にGT-Rを停め落下したM3に駆け寄る。
フロントガラスを除いた全ての窓ガラスは粉々になっており、
「大丈夫か!?ほら、しっかり!」
だがリュウは冷静にローラを固定しているシートベルトを外すとローラの脇の下を持ち彼女を潰れたM3から引っ張り出し路肩に運ぶ。
そして電話を取り出し、
「すいません、緊急の要救助者1名。場所はアイク湖の・・・」
なんと病院に連絡を入れ始めた。
自分を事故らせるか殺そうとしていた相手をリュウは助けようとしているのだ。
リュウは電話を終えると寝そべるローラを見てしゃがみその手を右肩に添える。
「救急隊が来るまでの辛抱だから」
「・・・礼は言わないから」
リュウの対応に助けられた事への意識からかローラは恥ずかしいのかリュウから顔をそらしつつもある意味では感謝ともとれる言葉を放る。
それを聞くとリュウは踵を返しGT-Rに戻る。
《よろしいのですかマスター?殺そうとしてきた相手を助けるなど・・・》
「どんな事情であっても、俺としてはやっぱり見過ごせないよ・・・」
ウルスの問いにリュウはそう答え、リュウはGT-Rに乗ると再び走り出す。
ED:Blast My Desire/m.o.v.e