イシからの始まり   作:delin

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Dr.STONEの二次創作が少なすぎてカッとなって書いた。
今では公開している。


おはよう世界

私にはいわゆる前世の記憶という物がある。

それによると、この世界はDr.STONEに似た世界であるらしい。

とはいってもその事前知識が何の役に立つというのか?

あの世界の主要人物たちの才能は人類70億の頂点どころか、文明発生以後の六千年の中でもほぼ頂点に立ちかねない連中である。

千空は文明の創始者としか言えないレベルだし、杠もどこの神話上の織姫だという勢い。

大樹だってどこの英雄かって領域だし、司に至ってはお前はどこのヘラクレスだって話である。

現代という英雄不要の時代には似つかわしくない人物ばかりであるが、だからこそあんな3700年後なんて世界で生活できるのであろう。

原作介入なんて無茶や無理どころか不可能の領域なので、原作開始前が唯一のチャンスだと思う。

だが、残念ながら私がこの世界が前世で読んだ漫画に似た世界だと気づいたのは、TVで霊長類最強の高校生を見た時で、そしてこの時点で詰みであった。

後は原作開始タイミングまで何をするのかぐらいであるが、結論としては知識を蓄えるぐらいしか出来ないである。

何かものを残そうとしても3700年の時を超えられるものなぞ、わずか15歳の高校生に用意できるわけがない。

もしかしたら体内や口内に物を入れておけば残せるかもしれないが、そんなびっくり人間ショーに出れるような特技は残念ながら習得していなかった。

その代わりではないが、完全記憶の能力を生まれてから私は持っていた。

多分この能力のせいで前世の記憶なんてものを自覚できてしまったので正直嬉しくはないのだが。

前世とは性別は違うわ、性格は違うわであったので幼いころは随分と悩ませれられたものである。

今では前世は前世、私は私で全くの別人、と割り切っているのだがやはり影響を受けている部分もある。

具体的には私は女なのだが全裸を見られても全く気にならない所や、性的欲求を感じたことがなかったりする。

普通に生活している分には困ることなどないので問題はないのだが、将来のことを考えると不安になったりもした。

まあ、TVで獅子王司を見た後はそんなこと感じる暇なんてなかったのだが。

そうしてもし石化現象が起きた場合に備え、少しでも石化解除後の世界で楽に貨幣を手に入れて、好きに生きられるようになるために本を記憶にとどめていたある日、

石神百夜が宇宙に飛び立った3日後、運命の日。

緑の光が地球を包みこんだその日。

図書館からの帰宅中であった私はその光をまっすぐ見つめ続け、

なすすべもなく飲み込まれた。

 

 

石化状態で意識を失う最初のタイミングはすぐに訪れるのは原作一話目の描写で明らかである。

そして、それを越えれば次に訪れるのは80万秒後、約9日後であろうというのは千空の石化中のモノローグで判明している。

もちろんすべてが語られているわけではないので大幅に甘い予測、いっそ妄想であると切って捨ててもいいレベルの想定ではあった。

つまり、石化中は考える時間が、記憶を振り返る時間が無限といっていいレベルで存在しているのだ。

そのために私はこの世界がDr.STONE世界だと気づき行動できた時間と自分が持つ完全記憶能力をフルに利用した。

すなわち、本の内容を映像として記憶したのだ。

幸運にも石化現象が起こらなくても、知識自体は無駄にならないので問題はない。

残念ながら来てしまったこの石化中の時間を利用し、本の内容を咀嚼、理解することを行ったのだ。

勉強中の睡魔と同じような物と高を括っていた自分を縊り殺したい。

眠気なんてものではない、文字どおりの奈落に落ちるような感覚が約9日ごとに襲い掛かってくるのだ。

それに抗い続けるのは精神を予想以上に削る上、高度な知識が必要な専門書の類の理解にはひどく時間がかかったし、何も見えず何も聞こえず何も感じられない状態は心にひどく恐怖を与えてくる。

 

そのままの状態が続けば発狂するのではと思えるほどであった。

だが、不思議なことにそんな恐怖や精神疲労はすぐに振り払い次の記憶の確認作業に移ることができた。

もしかしたら石化光線は治療目的に作られたのかもしれない、と思わせるには十分な事態であった。

それはそれとして、やはり千空や大樹は精神的にも超人であると確信したが。

歴史、医療、科学、文化、様々な本の知識を消化し身につけることに没頭し続けて幾星霜。

ある日急に光が見えて体に自由が戻ったのだ。

石化が解除されるとしたら完全解決後つまり原作の物語が終わった後、もしくは第三章終了後だろうと思っていた。

そこまでいかなければ復活液が足らないのだからそう思うのは当然だろう。

よしんばありえたとしたも司帝国の一人としてだろうと思っていた。

 

「っし! 俺みたく石化をぶち破るやつもやっぱいる!」

 

これは確率的にありえないと思っていた。

 

「って、わりーな埋まりっぱで。即行で道具とってくるわ」

 

目の前にいるセットするのも無理な髪型をする男は間違いない、

Dr.STONEの主人公である科学の申し子石神千空だ!

 

「……ありがとう。あと服もあったら嬉しいのだけど」

 

さすがに大樹復活前の段階で目覚めるのは予想外である。

 

 

腿まで埋まっていたせいで掘り出してもらうのに大分時間がかかったため、無事抜け出せて人心地着いた頃には日が落ちて辺りはすでに闇の中だった。

 

「改めてお礼を言うわ、私の名前は吉野桜子15歳よ」

「苗字なんぞこの世界じゃ意味もねえ、千空だ。

それよかあんたが石化中どうだったかが聞きてえんだが」

 

彼にとっては当然の態度だろう。

親友である大樹を救うためのヒントが目の前にあるのだ、飛びつかない方がおかしい。

 

「その前に少し確認させて。今後につながるかもしれない情報の確度を上げるために」

「あん? どういう意味だそりゃ」

「あなたの苗字は石神で、日本人宇宙飛行士石神百夜の養子である」

 

どこか遠くを見ていた千空の表情が変わった、WHYマン相手に見せたあの不敵な笑みだ。

 

「へえ、面白そうじゃねえか。てめえがナニを知ってるのか興味が出てきたぜ」

「驚かないのね」

「いや? 驚きまくりの唆りまくりだぜ。何が出てくるのかって興味津々だ」

 

千空の中でどんな計算が繰り広げられているかわからなくて正直怖い。

 

「知っていることなんてそう多くはないわ。

ただこの後起きるかもしれないことを少しだけよ」

「予知能力でももってんのか?

ま、それでもかまわねえが石化してたとこ見ると有効性は低そうだな」

「もっと胡散臭くばかばかしいものよ。有効性が低いのは間違いないけどね」

 

鋭い視線が続きを促しているのがわかる。

 

「私は前世の記憶を持っていて、その中に世界がこんな状況になる漫画があったの」

 

あ、眉間にすごい皺。

 

「あー、それを信じろって……いや信じてんのかてめえ自身は」

「前世は信じる云々の段階じゃなくてあるものっていう前提だったわ。

この状況が漫画そっくりっていう点については、この状況で初めて半信半疑ってとこ」

「んで、参考程度にその漫画の内容は?」

「一行で表すなら、“千空とその仲間たちによる文明復興の物語”ね」

 

嘘くせえという言葉を表すならこんな顔になるだろうといわんばかりの表情。

さっきまで胡散臭いやつを見る目だったのに今ではかわいそうな奴を見る目になっている気がする。

 

「桜子つったか? あんた友人とかいなかったろ」

「待ちなさい! さすがに頭お花畑の妄想癖持ち扱いは断固抗議するわよ!」

 

思わず身を乗り出し、声を張り上げてしまった。

しかし、日がな一日イマジナリーフレンドとしか話さない人みたいに思われるのは我慢ならない。

 

「今後につながる“かも”って言ったでしょ!

こんな状態に追い込まれなければ漫画の世界とか言い出さなかったわよ!」

「おーおーそりゃよかった。『漫画でこうだったからこうすべき!』

とか言い出されたらどうしようかと思ったわ。

そんで、お話はそれで終わりか? 俺も聞きてーことが山ほどあんだがよ」

「そんなこと言い出したら私いなかったことにしないといけないじゃない。

知りたいのは貴方と私だけが何故硝酸で戻れたかでしょ?

起きて考え続けてたからが答えだと思うわ」

 

真剣な目に戻ったのは聞く価値があると思ってくれたからだろうか?

 

「その辺の理屈は? 起きて考え続けてたってのが条件なら脳が何かを消費したからだと思うがその物質ってのは? ああ、石化のメカニズムも知りてえ。それがわかればやれることがいろいろあるはずだ。石化とその解除の副作用なんかもあったりすんのか? いや、それより硝酸で戻れてねえ奴らの解除条件だな。硝酸からならやっぱナイタール溶液か、まさか王水ってこたあねえよな。それとも濃度か? 今あるやつは何%か調べられてねえが濃硝酸まではいってねえはずだからな。 他にも」

 

聞く耳を持ってくれたのはうれしいがここまで矢継ぎ早にされると対応できなくて困る!

 

「まってまってまって! 一つずつ答えるからちょっと待って!

えーと、まず何を消費したのかは不明。

それを調べられるような環境は知っている中では整ってなかったから。

メカニズムも同じく不明で、石化の副作用も描写されてなかった。

ただ解除時には周辺細胞の修復が起きるってあったわ。

あと、解除条件は硝酸と度数96%のアルコールを30対70で混交した液体をかけること。

とりあえず、以上でいいわよね?」

 

つっかえながらだけど何とか答え切った私の目に邪悪な笑みを浮かべる千空が映る。

 

「やっぱな。桜子おめー完全記憶もってやがんな」

「へっ? なんで…」

「おめーが超絶でっけーヒントよこしてんじゃねか。

前世で読んだ漫画の内容なんざ覚えていられるわけねえ。

それこそ見たものすべてを記憶できる完璧な記憶力でもなけりゃあよお」

「ちょっと、信じてなかったんじゃないの?

いや、まったく信じてなかったらあんなに疑問出ないとは思うけど」

「はあ? 現実が漫画の中に見えてんじゃねえかって思っただけだが」

「前世の部分を嘘だと思わなかったの?」

「この状況で嘘をつく合理的な理由がねえだろうが」

 

友人がいなかったろといわれたとき実はおびえていた。

前世の記憶が~なんて言い出す奴なんて危ない奴扱いされて当然だろう。

子供の頃だったからそんなことを考えずに、前世ではこうだったなんて言い出したから私は周りから見事に浮いた。

そして、そんな風に浮いた奴はいじめの対象としては格好の的だ。

おかげで見事に人間不信に陥った私は、親にさえ投げ出され高校からは遠くの全寮制に放り込まれた。

つまり私は信じられるという経験が全く足りていなかったのだ。

大きな情報アドバンテージでマウントをとるつもりが完全に逆転してしまっている。

 

「前世に関しちゃイアン・スティーブンソンって研究者が、

2000件以上の事例を集めてんじゃねえか。つまりとっくに科学で証明されてんだよ」

「……私だけじゃなかったんだ」

「別世界の前世持ちってのも世界中さがしゃあ何人かいるかもな。

ま、文明復興した後の話になるだろうが」

「じゃあ、張り切って文明を復興させないとね」

「おう、石の時代から近代文明まで200万年一気に駆け上がってやる」

「私たちはさしずめ伊邪那岐と伊邪那美ってところかしら? これからよろしく」

 

どちらからともなく手を差し出して握り合った。

 

これが私のイシの始まり。

私の二回目の生の始まり。

 

 

 




前世では12巻までしか読んでない設定。

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