イシからの始まり   作:delin

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お待たせしました書き溜め充填完了です。


急募:記憶を消す方法 by桜子

少しずつ目が覚めてゆく感覚。

まどろみと覚醒の間、眠りと目覚めの中間。

とても心地よいそれに身をゆだねる。

ふと、とても安心できる温かさがあることに気づく。

離れたくなくてそれにぎゅっと抱きつく。

 

「おい、起きたんならとっとと離せガキンチョ」

 

あれ? 千空の声がする。

そのあたりで目が開き現状を確認できるぐらいに覚醒する。

 

「いい加減、俺も動きてえんだが。

他の奴はもう起きて動き出してんだよ」

 

現状を理解した私は同時に昨夜の醜態を思い出し、羞恥で死ぬほど叫ぶのであった。

 

 

「ったく、昨夜といい今といい、テメエは俺の耳になんか恨みでもあんのか」

「ご、ごめんなさい」

 

朝食の席で千空に怒られ小さくなっている私である。

 

「はっはっは、まあ元気が出たみたいで何よりじゃないか」

「そうだね、うん、昨夜と比べて顔色もいい。

千空が目覚める前は大分青かった、今は血色も戻ったようで何よりだよ」

「桜子ちゃんが一番心配してたもんね、色々安心できたからだと思うよ」

 

保存食を食べながらの会話なのだが、何か、何かおかしい!

みんなの私を見る目が、ちっちゃい子供を見るかのようになっている気がする。

一体いつ私のポジションが末っ子、末娘になったのだ。

昨夜だろうという真っ当なツッコミを頭の片隅でしながら、千空が今日の行動予定を決めるのを聞いた。

 

「んじゃ、杠と桜子は昨日の石像をくっつけておいてくれ。

大樹はついてって時間かかりそうだったら丸ごと持って来い。

その間、俺は司と次起こす奴を誰にするか話し合っとく」

「…私は話し合いに要らない?」

「オメーがいりゃあ石像の接着も破片回収も楽にできんだろ、

つうか、起こしたい奴でもいんのか? なら、今聞いとくが…」

「ううん、いないよそんなの。

ごめんね、確かにそれなら私は必要じゃないよね。

うん、石像の修復または回収行ってくるね」

 

なぜ、私はそんな事を言ったのだろう。

少し考えれば私の人脈では役に立たないなんてすぐわかるはずなのに。

内心で首をひねりながら海岸へ向かう準備をするのだった。

 

 

「だ、大丈夫? 桜子ちゃん。もうちょっと休んでいた方がいいよ」

「杠の言う通りだ。まだ肩で息をしてるじゃないか、慌てずにゆっくりとやるべきだと思うぞ」

 

二人の諫める声に言葉を返す余裕もない。

普通だったらこんなになるまでオーバーペースで動かないはず。

なのに今日は気づけばこの状態である。

とりあえず、深呼吸を数回繰り返し息を無理にでも整える。

 

「ごほっ、大丈夫よ。とにかく石像の場所までは案内しないと、休むのはその後でもできるから…」

 

もう海岸まで来ているのだから目的地まであと少し、着いたら破片をくっつけていって…

そういえば、接着剤って何か用意してたっけ?

 

「ごめん、二人とも。接着剤先に用意しなきゃだった」

「そうなのか、ならその素材集めからだな。何を集めればいい?」

 

取れそうな物を考えていくと漆か膠かなあ?

デンプンのりが一番安全な気がするけど米もジャガイモもないし。

 

「膠で貼っていこうと思うから、余った皮や骨が欲しいかな。

後、結構煮込まなきゃだから薪も。

拠点にもうある奴でできるから、戻って作業を、って、違う、まず石像を破片ごと全回収だ」

 

さっきから思慮が浅い、どうにも謎の焦りが胸のどこかにある。

そんなことを感じながら作業を行い、帰路にて膠はすでに作成済みなことに気づき本格的におかしいと痛感する私であった。

 

 

少し時間は巻き戻る。

桜子達が海岸へ向かった後誰を起こすのか話し合いをしていた千空と司だが、桜子達が出て行ったのを確認した司がその話を切り出した。

 

「千空、桜子の様子がおかしいことには気づいていると思う。理由はわかるかい?」

「いんや、さっぱりわからねえ。そっちは予想出来てんのか?」

「俺も確証があるわけじゃないし、実際そうなった人を見たわけじゃない。

だから、うん、これ以上はもう少し様子見をしてからにするよ」

 

出来れば杞憂であってほしいがね、

とだけ言ってその場では一旦話題を打ち切った。

この続きが話し合われるのはその日の夜、男たち3人が眠りにつく前になってからだった。

 

 

「今日の桜子の様子か? 海岸に行く時と帰りは妙に焦っていたな。

拠点に戻ってからは至って普段通りだったが」

 

そう話す大樹に怪訝な声を返す千空と、やはりと言いたげな表情で頷く司。

 

「はあ? どういうことだ、そりゃ。

あいつがなんか焦んなきゃいけねえ理由あったか?」

 

千空は疑問の声を上げ、ある程度の理解ができていそうな司をみる。

 

「昼間、心当たりがありそうなこと言ってたよな、司。聞かせてもらえっか?」

「昼の時もいったが、確信があるわけじゃない。

……彼女の前の世界での詳しい周辺環境を知っているかい、千空。

考察するには少し材料が足らないんだ」

 

司の質問に渋面で返す千空。

大樹と杠には修復能力をなぜ知っていたのかをたまたま石化前に怪我をしていたと説明したのだ。

 

「昨日言ったのが俺の知ってる全部だよ。ソレ関連完全に地雷だぞ、ありゃ」

「そうか、そうなると、うん、イジメ、虐待、孤立全てあったとみるべきだろうね」

 

大きな反応を見せたのは大樹だ。

考察などの考える必要がある場では、彼は求められない限り発言しない。

その彼が思わずといった調子で声を上げた。

 

「何! 桜子はいじめられていたのか! 助けになってやらねば!」

「雑頭、その辺りの話はテメエは忘れろ。

変な気遣いされても困り果てるだけだ、テメエは自然体の方がいいんだよ」

「そうだね、うん、大樹はすでに十分彼女の助けになっているよ。

今まで通りに接した方がいい結果を生むと思う。

そして、すまない千空。せっかくぼかした表現をしてくれたのに台無しにしてしまった」

 

そう言って頭を下げる司に手の動きだけで不要だと示す千空。

 

「雑頭に教える必要ねえと思ってたのは事実だが、こいつが忘れりゃあ問題ねえよ」

「おう、そうだぞ司。俺は頭も雑だが、記憶も雑なんだ。すぐに忘れるぞこんな事は」

 

そう笑顔で言う大樹に司もつられて笑顔になる。

しかし、すぐに引き締め続きを話し始める。

 

「今彼女の周囲はとても良い状態だと思う。

うん、それこそ桜子が今まで経験したことがないぐらいね。

そして、千空。それを作り上げたのは君だ」

「あー、だからか、あんだけの過剰反応したのは。

今の環境失うぐらいなら、命捨ててもってか。

そうすっと、まじいか? 俺が資材探しに出ちまうのは」

「む、何か必要なものがあるのか、千空。

それならば俺が一人でとってくるぞ」

 

大樹の言葉に首を振って断る千空。

 

「資材が埋まってる場所が知りてえんだよ、拠点引っ越しが考慮に入るレベルのな。

この辺りじゃ鉱物資源はさすがにあるとは思えねえ、平地じゃなくせめて山岳地帯じゃねえと。

んで、鉄、珪砂、硫酸、後白金だな、何が何でも欲しいのは」

 

どれもわかんねえだろ、と眉を寄せながら言う千空に頷くしかない大樹。

そこで資材に関して司からの疑問が入る。

 

「鉄はわかるし、硫酸も色々薬品に使うのだろう、

珪砂は何かの材料だと思うが……プラチナは何故必要なんだい?」

 

その司の疑問に悩ましいと言わんばかりの声を上げ考え込む千空。

 

(復活液の材料喋って大丈夫か?

いや、司が裏切る心配は今さら要らねえだろうが、

桜子がどういう反応するかがわからねえ)

「司、桜子の奴はオメーに今日どういう対応してた?」

 

逆に問い返された司は少し戸惑いながらも答えた。

 

「質問の意図が見えないが、うん、桜子の俺への対応か。

多少の警戒と敵意はあったが普通にしようとしていた、そう思えたね」

 

その返答に桜子はある程度理性的な行動を取ってくる、そう思えた千空は作り方を明かしてしまう事にした。

 

「白金は触媒だ、オストワルト法で硝酸を作るためのな。硝酸は復活液の材料なんだよ」

 

千空の言葉に司は驚きを隠せない。

が、すぐに彼がどういった行動を取って来たかを思い出し納得する。

 

「千空、君は本当に俺をも信じていくんだね。

さっきの質問はそれに対して桜子がどう動くかの確認だね。

うん、彼女にも信用されるようにするよ」

「単にそっちの方が合理的ってだけだ。

それよりだ、本当ならオメーと桜子と杠でこっちを見てもらう予定だったんだが……、

やめといた方がいいか?」

「千空と大樹で資材を探してくるということかい?

うん、やめておいた方が良いと思うよ。桜子にストレスがかかり続けることになる。

それは今の不安定な彼女のためにならないよ」

 

ガシガシと頭をかく千空。

心底めんどくさいという態度だが、一つため息をつくと決断を下した。

 

「仕方ねえ、資材探しは俺と桜子で行く。

代わりに大樹、絶対欲しいもんで雑頭のオメーでも見りゃわかるもん探しとけ」

「おう、分かった。で、何を見つければいいんだ?」

「ククッ、文明にゃあ欠かせねえ人増やすための基礎の基礎だ。

つまり、食料の生産。農耕のための準備だ、唆るぜこれは」

 

 

次の日の朝あまり寝付けなかったせいで少しふらつく感覚を押し殺し、今日の行動予定を千空が伝えるのを聞く。

 

「今日からの予定だが、その前に杠、石像はくっつけ終わったのか?」

「うん、バッチリ終わったよ。桜子ちゃんがパーツをあっという間に見分けてくれたから。

私はくっつけるだけでよかったから楽させてもらっちゃった」

「ううん、杠じゃなきゃあれは出来なかったと思う。

他の人ならとてもじゃないけど楽なんて言えないよ」

 

膠って冷めるとすぐに固まるからスピード勝負なとこあるんだけど、躊躇なく次のパーツをくっつけていくからすごく早く終わったんだよね。

それでも昨日はそれに付きっ切りだったけど。

 

「んじゃ今日から二手に分かれて動いてくぞ。

文明を進めるための資材探しと拠点周りの整備と人増やすチームにな」

 

ああ、そっかこの辺じゃ資材なんてろくに見つからないもんね。

それじゃここで千空とはしばらくお別れか……やだな。

効率的に行くなら私は足手まといになりやすい外回りは避けるべきだ。

それは分かっているのに嫌だとしか思えない。

 

「残るのは司と大樹と杠の三人、資材探しは俺と桜子で行く」

「えっ、なんで?」

 

思わず聞いてしまった。

だって、どう考えても大樹を残して私を連れて行く理由がないのだ。

 

「人選の理由か? ただの消去法だ。

俺一人じゃ手が足らねえが、人増やそうってんのに司を外す訳にいかねえし、大樹は食料調達の要で、後見つけて欲しい物もある。

杠は服作りにゃ欠かせねえから残る選択肢は桜子、オメーだけってわけだ」

「う、うん分かった。あ、でも復活液がなくなっちゃうんじゃないの」

「それについても問題ねえ、もうすでに司に作り方を教えてある」

 

んん? あー、分かった。復活液の存在を司のカリスマ性の足しにするわけか。

それなら司に従わないって人が出ても反対者を増やせないから従うしかないってことね。

 

「それもあって私と千空がここを離れる訳ね、うん了解。

あ、そうだ、大樹に探してもらう物って何? 絵に書いといた方がいい?」

「お、おう? まあ分かったんならいい。

人増やすにゃ食料がアホほどいる、食料確保なら農耕が一番だ」

 

農耕! つまり探すのは…

 

「小麦だ」「米ね」

 

しばし停止。論争準備中、…よーい、スタート。

 

「なんで小麦なのよ、日本だったら一番は米でしょうが」

「小麦の方が育てられる範囲がダンチだろうが、利用方法だって豊富なんだから小麦に決まってんだろ」

「米だって利用方法豊富でしょうが、

大体食料確保メインなら単位辺りの収穫量の差で米が1.3倍くらいつけてるんだから勝負ありよ」

「水をバカ消費する米は素人が育てられるもんじゃねえよ。

その点小麦は祖法栽培でいけんだから当然こっちを選ぶべきなんだよ」

「米農家が日本にどれくらいいたと思ってるの。

その人たちを起こせばそんなの即解決よ、それにアルコールがこの後必須なんだから絶対米よ」

「小麦でだって醸造は可能だろうが、世界で主食つったらパンなんだから小麦なんだよ」

「残念でした、世界的にはトウモロコシが主食の方が多いんですー。

それにビールは大麦でしょうが、可能不可能だけなら可能だろうけど無茶があるわよ」

「ぐっ、アルコールの話なら酒造家まで必要じゃねえか。

それに麹がねえと日本酒は作れねえだろうが」

「う、米から作る麹は色々必要だからいいの。

味噌にも醤油にもいるんだから、米がないとラーメンは塩オンリーなんだからね!」

「それ言ったら小麦が無かったら天丼もカツ丼も無理だっての!

第一豚骨だってあるだろうが!」

 

白熱して行く私と千空の言い争いに司は一つ頷き大樹に言った。

 

「うん、収拾がつきそうにないね。

すまない大樹、探すのは小麦と米の両方でお願いするよ」

「うむ、了解だ。しかし千空があんなに言い合うのは初めて見る気がするな」

「千空くん頭良すぎるからあっという間に論破しちゃうからね。

でも、二人ともすごく楽しそうじゃない?」

「うん、確かにとても楽しそうだ」

 

それからもしばらく私達の論争は続き、結局資材探しへの出発は次の日の朝からになった。

私だけのせいではない。




トウモロコシが世界一多いのは生産量、主食としてだけでなく飼料用も含むため多いだけです。
なので世界の主食として一番多いのは小麦、ただしパンの形だけではないので米とは微妙な差であると考えられます。

後本文に入れられなかったけど石像は直したあと顔が見えないように埋められてます。

4/28 0:55 追記
誤:ハーバー・ボッシュ法
正:オストワルト法
修正いたしました。
ご指摘ありがとうございます。
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