イシからの始まり   作:delin

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青天の霹靂

論争しあってしまい出立準備の開始が大幅に遅れたため、次の日の朝に出発である。

 

「んじゃ、一か月を目処に戻ってくるわ。

なんかあっても二か月で一回戻るつもりだ」

「分かった、二か月以内には必ず戻るということだね。

うん、その間に冬前に起こしたい人を見つけて起こしておくよ」

 

千空は司と今後の予定を決めている模様。

一方で私はというと、

 

「いい桜子ちゃん、無茶しちゃダメなんだからね。

桜子ちゃんは体強く無いんだから無茶したら倒れちゃうんだから。

千空くんに力仕事はお願いしなきゃダメだよ」

「そうだぞ桜子。大丈夫だ千空は頼りになる男だからな、遠慮なく頼るんだぞ!」

 

いつの間にか二人がお父さんお母さんになっている件について。

さっきから私はうんだとかはいだとかしか言えてないですよ。

そんなに心配ですか? ……昨日と一昨日の醜態を思い出せばそりゃ心配もするわとしか言えません。

 

「おい、そこの心配症の夫婦、いい加減出発させやがれ。

俺が言えた義理じゃねえが時間無駄にすんじゃねえよ」

 

本当に言えた義理じゃないが、私も同じ穴の貉なので黙っておく。

あ、二人が夫婦と言う言葉に反応して真っ赤になって停止してる。

なるほど、さすが幼馴染だ。操縦法を熟知している。

 

「よしそんじゃ出発すんぞ。こっちは任せた」

「ああ、任せてくれ」

 

とと、私もついていかねば。

 

「それじゃ、行ってきます。

私も気をつけるから杠も大樹も体に気をつけてね」

 

私はそういいながら三人に手を振って千空の後を追いかけるのだった。

 

 

千空達の後姿が見えなくなってもしばらく三人はその方角をじっと見つめていた。

やがて、ポツリと杠が呟いた。

 

「行っちゃったね」

「ああ、行ってしまったな。だが、あの二人なら絶対大丈夫だ。

桜子が目覚めてから俺が目覚めるまで二カ月、二人だけでやってきたんだ。

今度もまたやり遂げてくるさ」

「そうだよね、あの二人ならきっと大丈夫」

「さて、二人とも俺たちは俺たちで、うん、やるべき事がある。

千空達が戻った時笑われないようにしよう」

「了解だ!」「了解です!」

 

三人は再会出来るその時までにこちらを形作る、そう心に決めたのであった。

 

 

旅は意外と順調であった。

主に私が足を引っ張らなかったからである。

3ヶ月間のサバイバル生活で体力がついているのと、ペース配分を理解できたのでうっかりしなければ半日から一日なら大丈夫になったのだ。

 

「このペースなら箱根まで3日ぐれえで着くな」

 

……漫画では石神村~司帝国間は二日と書かれていたので普通より遅いのであるが。

今は日が沈み焚き火の前で今後の動き方の相談中である。

 

「んじゃあ、確認させろ。珪砂や硫酸のある場所をな」

「そうだよね、それ知りたいよね」

 

具体的な位置となると漫画では分かりづらい部分である。

石神村の位置は多分箱根の芦ノ湖辺りになるのだろうが、漫画で描かれている地図だともうちょっと南側な気がするのだ。

 

「どこらへんってのは言えるけど、地名で表すのは厳しいのよ。

そこまで地点特定出来る描写なかったし」

「んなピンポイントでなんぞ期待しちゃいねえよ。

とりあえず一番近場の火山がある箱根に向かってんだが、それで間違いねえかどうか知りてえんだ」

 

あ、そうか千空からしたら箱根付近に必要な物がほぼ揃ってるなんて思えないよね。

方々を探し回るより一直線に行きたいよね、そりゃ。

 

「うん、箱根で問題ないよ。鉄は心配してないだろうけど、珪砂も硫酸も箱根付近に存在してるはずだから」

 

私の言葉に一つ頷くと真剣な表情を作り固い声で次の質問をする千空。

 

「これが一番聞いときたかったんだが、白金は何処にある?」

 

最も重要かつ手に入れづらいレアメタルだ、聞きたがるのも当然だろう。

しかしだ、

 

「思いっきり漫画知識喋る必要あるんだけど、聞く?」

 

うわぁ、しっぶい顔。

 

「しょうがないでしょうが、希少性から考えて。

それを手にする為に一章使ってたの、在りかを知ること、そこへの行き方、そのための手段。

どれも冒険の種として申し分ないんだから」

「物語の根幹部分に関わってくるって事か。

とりあえず、漫画では手に入れてたんだな?」

 

思わず目をそらす。

 

「おい、まさか」

「いや、違うの。手に入れてた…はずよ」

「はずってなんだ、はずって」

「その、漫画知識いらないって、言ったじゃない?

本当はその時言うつもりだったんだけど、最後、つまり文明復興までは知らないの、私」

 

あああ、呆れた目線がビシビシとおおお。

 

「だって前世だとそこまで読んでないんだもん、私自身が読んでるわけないし」

「オメーそれでよく今後の展開云々言えたな、おい」

「あの時とは状況が違うし、司が素直に味方になるなんて思ってなかったから……。

で、でも大丈夫なはず。復活液がすっごく必要な展開だったし、

手に入らないと詰んじゃうからそんな無茶な事は漫画でやれないだろうし」

 

自分で言ってて苦しすぎる。

 

「リアルはリアリティを考慮する必要がない、だったか?

漫画ならともかく、現実だったら手に入りませんでしたー、はいおしまい。

十分あり得るよなあ」

「そ、そのね、この後箱根付近に行くじゃない?

そこにあるはずのものがあれば、白金の場所が分かるはずなの。

この件については確認してからじゃダメ?」

 

大きな、とっても大きな溜め息。

やっぱりダメだよね、私だったら信じられないもん。

 

「……漫画知識がいらねえつったのは俺だかんな、それで勘弁してやるよ」

「ええっ! いいの?」

「いいってんだよ、一回言った事なんだから撤回しやしねえよ。

とにかく、珪砂と硫酸さえ見つけられりゃあ問題ねえ」

 

最初っからその予定だったしな、と呆れながらも許してくれた。

 

「いいの?」

「いいんだよ、その後の事は後で考える。

当たり前の事だ、分かんねえ未来にうだうだ悩むほど暇じゃねえだろ。

やる事が変わってねえからそのままやる。それだけだ」

 

ああ、やっぱり千空は優しいなあ。

 

「…ありがとね、白金の場所の手掛かりあったらすぐに教えるから」

「んなに急いじゃいねえよ、まだ洞窟の分だけで十分賄えてんだ。

白金は必要になってからでいい。それよか、明日もあんだとっとと寝るぞ」

「うん、おやすみ千空」

 

考えてみるといつも私は千空に甘えている気がする。

私は何か返せているのか、そう思いながらもまだ甘えていたい。

そんな弱さが少し悔しかった。

 

 

そして三日目の朝方、川にそって進んでいる時それは起きた。

それに気づけたのは突然の増水に警戒していたためだ。

水量が増えたわけでもないのに少し水が濁って見えたのだ。

 

「あれ? 水が濁ってきてるね。上流で何かあったのかな?」

「……ああ、あったんだろうな。っていうか目の前で起きてるぜ」

 

前を歩く千空の目線を追ってみるとそこには川から上がってくる熊の姿があった。

 

「……熊の川流れなんて初めて聞くわね」

「言ってる場合か! ゆっくりと後ろに下がんぞ、刺激したくねえ」

 

熊が体を震わせ全身の水を振い落としていく。

……? 赤い物が水飛沫に混ざっていたような?

と、そこまで考えたところでクマがこちらに気づいた。

気づいた熊は相当気が立っていたようで威嚇から即こちらに突撃してきた!

 

「やべっ! 逃げるぞ!」

「了解!」

 

熊は下り坂が苦手だから下流に向かって走るのいいけど、

体長などから見て多分ニホンツキノワグマ!

 

「最高時速50km! 逃げ切れる!?」

「川流れで体力消耗が激しいことに賭ける! 最悪川に飛び込んで流れて逃げるぞ!」

 

熊に殺されるか川で溺れ死ぬか、いやな二択である。

こちらから別のものに気を取られてくれれば逃げられる率も上がるのだが、

 

「あれの食性は!」

「雑食! 主に植物! 手持ちに気を引けそうなものなし!」

 

そうなのだ。手持ちの食料は携帯性とカロリー量から燻製肉がメインなのだ。

そして、熊の好物は実は甘味。

干し果物でも持っていればよかったが基本酒造に使っていたので作っていない。

 

「飛び込むタイミングは任す! テメエの体力で決めろ!」

「了解! この先に川幅が広いとこがあったはずだからそこで!」

 

そこまで逃げられるかどうかはギリギリであろうが思いつく中で一番ましなのはそこ。

飛び込み予定ポイントに向けとにかく全力で走り続けた。

そして届くか捕まるかの瀬戸際でそれは来た。

熊のドッドッドという足音が段々と大きくなり、息遣いさえ聞こえそうなほどに迫られたころ。

振り返りたい衝動を必死で抑えていると唐突に”ドゴン!!”という音が真後ろから響いたのだ。

思わず振り向いた私の目に映ったのは金の髪。

金髪を後ろに括った女性が熊の頭に馬乗りになりその目玉を貫いている光景だった。

その女性はトンっと軽く熊の肩を蹴って宙を舞うと私たちの前に華麗に着地。

返り血すら浴びぬ普段通りであろう姿で声をかけてきたのだった。

 

「すまなかったな、その熊は私の狩りの獲物だったのだが途中でがけから落ちてしまってな。

慌てて追いかけたのだが、ようやく追いついたのが今なのだ。

怖い思いをさせてしまったようですまない、私の名はコハク。

君たちが一体何者なのか教えてもらえるだろうか」

 

これがこの後長い付き合いになるコハクとの初めての出会いであり、

話すたび呆れかえられることになるファーストインプレッションであった。

そりゃ雌ライオンやらゴリラやら呼ばれる、それが私の彼女への第一印象であった。

 

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