「うーむ、なんというか、その、どういえばいいかわからんな。
つまり君たちは大昔の人間で、文明とやらを進めようとしている……、でいいのか?」
今コハクに私たちの自己紹介と何をしようとしているかを説明したところである。
ついでに熊の血抜きをしつつ、簡易陣地を作りながら。
「うん、それであってるわよ。
千空、そっちは石積み終わった?」
「おう、外側にあった石から積んでったから高さも上々、
わざと開けてる一か所以外からは早々飛び込んではこれないと思うぜ」
なんで簡易陣地なんか作っているかというと、この熊を持ち帰るのにどうするのと聞いたら、
ちょうどここの川は村のある湖と船でなんとか行き来できる場所だという。
なら船を出せないかと聞いたら快くOKを出してくれて、
その間待つだけでは暇なので熊の加工をしてしまおうということになったからである。
で、加工中に野犬やらに襲われてはたまらないので陣地を作るわけだ。
「火は起こしといたから湯を沸かしたりは任せて。
千空は熊の毛皮をはぐのお願いね」
「ったく、気楽に言いやがって鹿とは別もんだろうがよ。
利用できる内臓はどこだ?」
「胆嚢だね、内臓器系の薬になるよ。
ツキノワグマは雑食だから肉も臭み少ないといいんだけど」
「そうだな、ライオンの肉はこの間食ったのも臭みがひどかったもんな。
おい、コハクっつたか? オメーはなるべく早めに船持って来てくれ。
多分俺が毛皮剥ぎ終わるより戻ってくる方が早えからな、そしたら代わってくれ」
予想以上の私達のたくましさにちょっと引き気味なコハク。
仕方ないではないか、こちとら目覚めてから2ヶ月弱二人だけで生活してきたのだ。
千空に至ってはプラス1ヶ月だ、このくらいにはなる。
漫画では書かれていなかったがあちらの千空は一人で半年。
さぞ益荒男っぷりが磨かれていただろう。
「熊を狩ったことなどないという話だったが、毛皮をはいだりはあるのか?
さっきから手際いいというレベルではないように思えるんだが」
「あん? 熊のはねえよ、あるのは鹿や猪までだな。
ライオンは司が全部処理したかんな、俺は手つけてねえ」
「私たちの暮らしていた時代は色々知ることができたのよ。
それこそこういうのに縁がない人間でも。
だからこそ、そんな世界を取り戻したいんだけどね」
「なるほど、よくわからんがとにかくすごいことだけは分かった。
詳しい話は村でゆっくり聞かせてもらおう」
そういうとあっという間にコハクは見えなくなってしまった。
「んで、あれがあるはずのものか?」
「一応聞いとくけど、それに至った思考経路を教えて?」
「人類全体が石化したってのに人が、それも流暢に日本語話す、
どう見ても白人の血を引いてるやつがいるとか都合よすぎんだろ。
漫画で出てないんなら、もうちょい動揺してそうだしな。
んで、その村にあんのか? 白金の場所の手掛かりが」
鋭い。
私が動揺してるかどうかなんてよく見てるな。
「正解。村に入れるかは分かんないけど村の中にあるはずよ」
あれらの物は千空が受け取るべきものだから、ここで村に入りこめればとても都合がいい。
熊胆のことを話したときコハクが少し目を細めていたのも確認してるし、
今度はうまく漫画知識を活用したい。
「んじゃ、のんびり毛皮をはぎながら待つとすっか」
「血はお湯で流しとくね、少しでもくる率下げたいし」
それから船が来るまでのんびり待つことになった。
野犬の襲撃は一回だけ、無事熱湯消毒で撃退したことを記しておく。
「それで、湯がばらまかれて湯気があちこちに立ってるわけか」
なかなか特殊な状況になってしまったためさすがに説明をしていた。
割と蛮族扱いになっている気がするが気のせいだろうか?
「むしろ戦闘民族? なぜ一箇所だけ通りやすくしていたのかようやくわかった。
そうしておけばそこにだけ注意しておけばいいということか、合理的だな」
船はなかなか大きく熊も含めて人間4人分の重量でも問題なく乗れた。
なので私と千空の二人も同乗して村に向かっているところである。
「おかげで毛皮剥ぎが進まなかったがな。
ま、そっちの腕の方がよかったから気にするこっちゃねえか」
コハクが戻ってきた時点で2割ほど。
そこからコハクが代わってあっという間に剥ぎ終えた。
速度差実に3倍である。
「内臓処理を終えてくれていたからな、私も楽をさせてもらった。
礼代わりに今日は村で泊っていってくれ、私の父で村長のコクヨウも話を聞きたいと言っていた。
村について落ち着いたら挨拶しに来ると思う」
ああ、薬って私がいったからそれの話かな?
もしかしたらルリさんを助けられるかもしれないから聞くだけ聞いてみよう的な。
「村長相手ならこっちから挨拶しに行った方がよくない?
それとも村の中をウロウロされるのは問題ってこと?」
「あー、いやその、君たちが熊に追われたのは少なからず私のせいでもあるじゃないか。
その謝罪も兼ねてるらしいから、案内したらそこで待っててほしいんだ」
コハクの目が泳いでる、やんちゃのし過ぎで怒られでもしたのかな?
と、そんなことを話しているうちに村が見えてきた。
漫画では上からの絵だけだったが下から見るとこれ結構迫力ある光景である。
「あそこがオメーらの村か、結構規模があんだな。何人ぐらい住んでんだ?」
「隠居や子供を除けばちょうど40だな、確か」
結構な人数がいることに千空が考え込んでいる。
この村がいつから存在して、初代がどうやって出てきたのかを考えているんだろう。
私は答えを知っているが完全に漫画知識だ、なので答えを話すつもりはない。
それに、ここで話してしまうのは他人のプレゼント内容を勝手にしゃべるようで気が引ける。
だから千空がこっちをじろっと見てきても素知らぬ顔でそっぽを向くのだった。
時間は少し巻き戻り、コハクが船を取ってくるため村に戻った時。
コハクは船を動かす許可をもらいに父コクヨウに会っていた。
「コハク、お前はまた問題を起こしよって。
余所者はかつて村から追放された犯罪者だと教えただろうが。
村に入れるなど言語道断だ、村の外までなら許すが中に入れるのはまかりならん」
コハクが二人を村に招き入れ話を聞きたいと言ったことにコクヨウは呆れながら反対する。
「しかし、父上。あの二人は大昔の人間だと言っていた、村の存在など全く知らないとも。
それに、千空は大人の男だがもう一人の桜子は見た感じスイカより少し上ぐらいの女児だ。
一晩程度は泊めてやりたい」
実際には桜子は千空と同い年であるのだが見た目は幼い。
コハクはそのせいで勘違いしたのだ、ついでに千空との関係も。
だがこの場にその勘違いを正せる人はいない。
「むう、そのような幼子が兄と二人だけで、か。
確かに力になってやりたい気持ちもわかるが……」
「それにだ父上。薬に関して知識があるのやもしれないんだ、あの二人は。
もし、ルリ姉の病いに効く薬を知っているのならと思うと……」
今ここにコハクの姉ルリはいない。
先程咳が酷くなり自室にて安静にしているからだ。
コクヨウとしても最愛の妻の忘れ形見だ、可愛くないわけがない。
ルリの病いに対して効くかもしれないと言われてしまうとついすがりつきたくなる。
しかし、コハクが相手の嘘を見抜けるかというのも不安が残る。
「分かった、その二人を村に入れ一晩泊める事を許そう」
「ありがとう父上! それでは早速…」
「ただし、その二人から話を聞くのはワシが行う」
驚きに目を見張るコハクだが、それも一瞬の事。
この人は自分とルリ姉の父親である、可愛い娘が心配でならないのだろう。
少し可笑しくなって軽く笑った後、元気いっぱいに了承の返事を返す。
「分かった、薬の事を聞きだすのは父上に任せる!
では二人を連れてくる、待っていてくれ父上!」
慌ただしく飛び出していく愛娘の姿に溜息を一つつくと愚痴をこぼす。
「あのお転婆ぶりは一体誰に似たのであろうな。
嫁の貰い手がつかんのじゃないか? 父は心配だぞコハク」
他の村人に見つからないようにだろう、案内は手早く静かに行われた。
「それじゃあ父上を呼んでくるから少し待っていてくれ」
そう言うとあっという間に見えなくなるコハク。
「なんつうか、慌ただしい奴だな。
んで、この村に例の手掛かりがあんのか?」
「うん、間違いなく。ただ、今直ぐにっていうのは難しいと思う。
感づいてると思うけど、余所者を歓迎してないからここ」
「って事は信頼をまず勝ち取らなきゃならねえか。
司達への連絡どうすっかな、やっぱ一回戻るっきゃねえよなあ」
「時間かかるもんね信頼されるって、とりあえず村長さんとの挨拶からかなあ。
失礼の無いようにね、普段の調子でやっちゃダメよ」
そんな失礼をするとは思わないけど、一応釘刺し。
「相手は年上だぞ、んな事すっかよ」
まあ、千空なら大丈夫だと思う。
これでも社会という物をある程度理解してるし。
そんな事を話している内に戸をノックする音が響く。
「くつろいでいる中失礼する。この村の長のコクヨウという者だ。入ってよろしいか?」
「はい、今開けますので」
ささっと立ち上がって戸を開けてコクヨウさんを招き入れる。
千空も片足あぐらから正座に体勢を変えて礼義正しく迎え入れた。
コクヨウさんが座った後、私も千空の左斜め後ろに正座で座る。
「まずは娘のコハクが迷惑をかけたことをお詫びする、申し訳ない」
「あー、あれは半ば事故であると思っていますので、むしろこちらが助けられたかと。
船に乗せていただいただけでなく一晩泊めてもらえたのでこちらこそ申し訳ないです」
違和感が酷い、一部棒読みだしつっかえてるとこあるしでちょっと吹き出しそう。
表面にはチラリとも出さないが、地味に前の世界で面白がられないようにした経験が生きてる。
でも、千空には吹き出しそうなのばれてるみたいだ、ギロッと睨まれたし。
「ふむ、無理に慣れない口調を使わずに普段のものでよい。
礼を尽くそうとしているのは分かるのでな、楽にしてくれ」
一つ頷いてにこやかにそう言ってくれるコクヨウさん。
なんとなく漫画での印象より器が大きい…というより余裕がある?
とそこまで考えてはたと気づいた、まだコハクが勘当される前なんだ今。
その後の描写を見る限りこの人かなりの親バカっぽい、
漫画での初登場シーンは勘当して何ヶ月もたっていない時期だ。
娘は可愛いけど村長としての立場が娘をかばう事を許さない。
村長としての立場と父親としての愛情の板挟みか、そりゃ余裕もなくなる。
「わりい、そうさせてもらうわ。だけど、あんたの娘に助けられたのは俺らだ。
そのことに改めて礼を言わせてくれ、ありがとうございましたってな」
「ふふっ、律儀な男だ。その礼は確かに受け取ろう、どういたしましてとな」
そこまで話したところでコクヨウさんの顔が真剣なものに変わった。
ここからが本題ということだろう。
「さて、おぬしら二人は大昔の人間であり、文明を進めるためこの辺りに来たと聞いておる。
そのことについていろいろ訊ねたいが、良いか?」
「もちろんだ、俺らで答えられることなら何でも答えるぜ」
これは好都合だ。疑問をそのままぶつけてくれるなら誠実に答えるだけでいい。
もし疑われながら監視を続けて~、
なんてことになったらいつまでたっても信頼なんてされなかっただろう。
さっきのやり取りではぐらかしたり嘘でごまかさないと思ってくれたのかな?
「聞きたいことはまずは三つ。
文明とは何か? それを進めるとはどういう意味か?
そしておぬしたちが大昔の人間であると本当に証明できるのか?
この三つに答えてもらいたい」
「そうだな、文明ってのは人類の、俺たちやあんたみたいな人間の、
過去の人類の生きてきた証拠であり、未来の子供たちに譲り渡すべき全てってところだな。
それを進めるってのはより良いものに変えていくってことだ」
かなり漠然としたものだったはずなのに、千空は科学を研究したいだけだと思ってたのに、
こんなに堂々とはっきり明確に言葉にできるなんて思ってなかった。
……また、置いてかれちゃうな。
「……壮大だな、壮大すぎてわしにはよくわからん。
だが、おぬしがそれに対して真剣であること、
これが嘘や誤魔化しの詐術の類ではないことは分かる。
では、最後の一つ。おぬしらが大昔の人間であること、その証明は可能か?」
ああ、これは一番簡単だ。
「俺らは3700年前に石化してつい最近それが解除された。
少なくとも石化が解除されるとこみせりゃあ石像が元人間だと証明できんだろ。
だが、人間増やすってのは大変だかんな、
同じように石化した燕っつー鳥を石化から解除した方がいいな」
「ふうむ、つまり石の鳥を用意すればよいのか。確かクロム辺りが集めておったか?
見つけ次第持ってこさせよう、他に証明に必要な物はあるか」
「石化解除に必要な復活液は持ってきてるから特にねえ。
そいつをもってきたらすぐに証明してみせるぜ」
「よし、ではすぐに探させるでな、しばらくゆっくりしていてくれ」
そう言ってコクヨウさんは出て行った。
そしてしばらく待つことになり、次に戻ってきた時とても騒がしい人物を連れてくるのであった。
桜子、お前の外見ほんと便利(外道発言