イシからの始まり   作:delin

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クロム参上

「俺の名はクロム! 天才妖術使いだ!」

 

第一声からしてなかなかに歌舞いていると思う。

 

「おうおう、てめえらが余所者の妖術使いだな!

この石の鳥を生きてる鳥に変えて見せるって言うから来てやったぜ!

インチキかどうか俺がバッチリ見抜いてやっかんな!」

 

あ、コクヨウさんがぷるぷるしてる、プチンて音がした、ゴッチンと良い音したなあ。

 

「クロム! 貴様、邪魔をしないというから連れてきてやったというに!

邪魔をするつもりなら今すぐどこかに行っとれ!」

「バカ言うんじゃねえよ、コクヨウのおっさん!

石の鳥を生き返らせるなんて妖術見逃せるわけねえだろうが!」

 

相当痛いだろうに、元気に言い返すなあ。

私は呆れてたが千空は割と面白がってるな。

コハクは…呆れてるな、間違いなく。

 

「大体余所者は村に入れねえんじゃなかったのかよ!

金狼辺りが見たらどういう事かって問い詰めにくるぜ!」

「この二人はわしの客として特別に招いたのだ!

いいから邪魔せずに黙っとれ!」

「クロム、父上の言う通りだ。すまないが黙っていてくれ、

それが出来ないなら…」

 

うわっ、実力行使の姿勢だ。手出そうとするには早くない?

やっぱり薬の事を聞きたいんだろうな、じゃなきゃここまで余裕ない態度にはならないだろうし。

 

「ちっ、わあーったよ。静かにしてりゃあいいんだろ?」

 

憮然としながらもクロムも黙った。

これでようやく始められるわけだ。

 

「ククッ、クロムつったか。これは理解できねえ物に無理に名前をつけたようなもんじゃねえよ。

分からねえものにルールを見つけて分かるようにする、すなわち…」

 

言いながら地面に転がした燕の石像に無造作に復活液をかける。

少しだけ待てばすぐに反応し始めて、

 

「科学だ」

 

あっという間に元の姿を取り戻し飛び立って行った。

 

「うおおお!! ヤベー! 石の鳥が本物になりやがったー!!」

「本当にこのような事が起こるとは……!」

「信じられん……!」

 

三者三様の驚き方だが、コクヨウさんとコハクは驚き方が似てるな、やっぱり親子なんだなぁ。

 

「千空よ、科学の力確かに見せてもらった。

他に何ができる? 例えば病いを治すような事は可能なのか?」

「種類による、としか言えねえ。つうか資材が全くと言っていいほどねえんだ、今は」

「おお、そういえば文明を進めると言った後、資材探しの為とも言っていたな」

 

あ、コハクがコクヨウさんに白い目で見られてる。

あれは重要な事は覚えておきなさいと言う目だな、怒られてコハクの目が泳いでる。

溜め息一つでそのあたりを流したコクヨウさんが続きを話し出した。

 

「資材とやらがあれば、出来るのか? 病いを治す事が」

「治したい奴の症状を教えてくれ、安請け合いは流石に出来ねえ。

散々付き合わせてやっぱり無理でしたーはやりたくねえしな」

 

コハクとコクヨウさんが目線で会話をする。

クロムも表情が真剣なものに変わった。

コクヨウさんが一歩前に出る。自分の娘のことだ、父親として自分で説明するつもりなのだろう。

 

「長く咳が続くような病だ、……同じ病で死んだ者もおる。

死んだ者は最後は血を吐いておった、わしに分かるのはこれぐらいだ」

「気管支喘息か、肺炎、あるいは結核か……、吐いた血は何色だった?」

「鮮やかな赤であったよ、生涯忘れぬであろう記憶だ」

「喀血だな、なら気管支喘息はねえな。

肺炎か結核か……結核だとどんだけかかるか分かんねえぞ」

 

頭をガシガシと掻きながらぼやく千空。

あのコクヨウさんの態度は……そういえばこの人の奥さんって漫画だとほぼ出てないな。

出てたのはルリさんの回想シーンのみで、他は全くと言っていいほどないはず。

……漫画だと肺炎だった。で、肺炎ってうつるよね。

うわ、いやなことに気づいちゃったかもしれない。

 

「かかってからどんだけ経ってんだ?

ねえとは思うが、肺がんだったら本気でお手上げだぞ」

「治したい者は9年になるところで、死んだ者は患ってから11年目で力尽きた。

して、どの病だと思う? それらであった場合どのぐらいの時がかかる?」

「肺がんではなさそうで安心だ、もし肺がんだったらそんなに持たずに死んでるだろうからな。

結核だったら数年は見なきゃならねえ、だが肺炎、それもニューモシスチス肺炎ならうまく行きゃあ、

半年以内で行けると思うぜ」

「半年! そんなにも早くできるのか!?」

「喜ぶのは早えよ、肺炎つったっていろいろ種類があんだ。

半年以内に作れんのはサルファ剤、人類初の抗生物質、って厳密には違うんだが、

まあ万能薬みてえなもんだな。それが効くなら半年ぐらいで治るだろうよ」

 

コハクが目に涙を浮かべてよろこぶのを諫める千空。

その横でこそこそとクロムがコクヨウさんに小声で話しかけてる。

……この距離でその音量だと丸聞こえだぞ二人とも。

 

「なあ、コクヨウのおっさんあいつ信用できんのか?」

「お前も目の前で石の鳥が本物に変わるのを見たであろう、何を疑うことがある」

「それとこれとは別の話じゃねえか、鳥を本物にすんのがルリを助けんのに関係あんのかよ」

「わしもそう思ったから治せるかと聞いたのだ。

色々聞きはしたが治せるとは断言せずに治せるかもしれないと奴は言った。

だからわしはそれが嘘ではないと思った、それだけだ」

「それだけ? それだけでルリの命を賭けようってのかよ!」

「信用するに至った理由は無論それだけではない、

初めに挨拶に行った時慣れぬ言葉づかいで礼を示そうとした事、

コハクが逃した熊のせいで命を落としかけたというのに助けられたと言った事、

何より、あの後ろの妹の奴を見るときの目よ、全幅の信頼を置いているではないか。

兄妹であるとしてもだ、幼子にあそこまで慕われる男が悪人とはわしには思えんのだ」

 

そう言われてクロムは黙った。

私たちも黙った。

千空がすごい微妙な表情だが私自身も同じ顔だろう。

わーい、私が幼く見えるおかげで千空が信頼されたぞー、やったー!(やけ)

……誤解とかなきゃ、だめ?

 

「あ、あのよ、盛り上がってるところ悪いんだが、一つ訂正していいか?」

「ん? 表情が変だが、なにか変なことでもあったのか二人とも」

「俺とこいつは兄妹じゃねえんだよ、んで、だ」

 

千空が私に年齢を含めた自己紹介をしろと目線で言っている。

やめろ、私にやらせようとするんじゃない。

確かに私が自分で言った方が説得力高いよね!

ああ、畜生この肉体がどこまでも祟る!

 

「えーと、改めて自己紹介するね私の名前は桜子、約半年前に15歳になりました」

 

ああ、三人が固まった。千空はこの先の展開が読めたのだろう、耳をふさいでいる。

私も当然耳をふさいでいる、驚愕で固まった人間が次にどうするかなんて分らない方がおかしい。

 

「「「えええーー!!!」」」

 

そう、全力で叫ぶ、だ。

 

「嘘だろ! うっそだろ、おい! その背丈で俺やコハクと同い年! うっそだろ!」

 

ああ、分かりやすい反応をありがとうクロム。

そうだね、信じらんないよね。

特にこの村アジア系の血少な目だろうしね。

 

「なんと! その姿で同い年! ……かわいがりたかったのだが諦めた方がいいだろうか?」

 

同い年相手に姉又は母みたいな状態になられるのは杠だけで間に合ってます。

漫画でスイカにもかわいいって感動してたな君。

かわいいものが好きなのは女の子の基本だね! その気持ちは分かる気がする。

私自身が対象でなければな!

 

「そ、そうであったか、大変失礼した。しかしそうなると寝床を一つというのはまずいか?」

 

おお、さすがコクヨウさん。大人としてすぐに立て直してくれましたね。

 

「コハク、今日はお前の寝床で桜子を泊めなさい」

 

ですが、ゴリラにバナナを与えるような真似はやめてもらえませんかねえ!

 

「承知した、父上。さー、今日は私と一緒に寝ようじゃないか桜子。

旅の間の話とか、大昔の話とかたくさん聞かせてくれ」

 

行動が早い! 腕をつかむ力が強い! なのに痛くない、上にはがせそうにない!

どうなってるのこのゴリラの腕力! 後地味に技も持ってるんだけど!

助けを求めて千空を見るがそっと視線をそらされた。

見捨てやがった、この薄情者ー!

 

「コクヨウ、寝床にそいつが連れてかれる前に聞いときてえんだが、

明日っからサルファ剤づくりを進めるってことでいいのか?」

「うむ、人手が必要であれば村の者を動かしても構わん。

ただ、強引にはやめてくれ、その者が納得してから動かすように。

その前段階として明日皆を集めてそなたらを紹介しようと思う」

「ああ、分かった。納得もせずに動いたってろくな働きにならねえ。

きっちり納得させてから動かすさ」

「んじゃあよう、まず俺をきっちり納得させてもらおうじゃねえか。

ここじゃなく、村の外でな」

 

そう言って連れ立って村の外に出ていく千空とクロムを、

恨めしく思いながらコハクに引っ張られていく私であった。

 

 

クロムが千空にボロ負けし、そのコレクションを二人でチェック後。

千空がクロムに人類の歴史、その二百万年の歩みを語り終えた後の事である。

そのままクロムの倉庫に泊まる事にした千空はジッと村の方を見ていた。

 

「なあ、千空。寝ねーのかよ。

明日コクヨウのおっさんと一緒に村の連中に挨拶すんだろ?」

「ん? ああ、そうだな。とっとと寝るのが合理的なんだがな」

 

ガシガシと頭をかきつつ千空はぼやく。

 

「桜子の奴、また不安がってねえかってなあ。

余計な事しでかさねえかこっちが不安になってな」

「ほほー」

「なんだ、邪悪な笑い浮かべやがって。

テメエが期待するようなもんはねえぞ」

「いやあ、ここまで二人だけで旅してきたんだろ?

そういう気持ちがあっても、おかしくはねえんじゃね?」

 

ニヤニヤと笑いながらようやくつつける所を見つけたと言わんばかりのクロム。

千空はため息をつきながらクロムの勘違いを正す。

 

「詳しい話は省くがな、アイツは友達って奴が俺が初めてなんだよ。

んで、この間俺が命賭ける事態になってなあ。

そっから俺が近くに居ねえと不安がるようになっちまってな。

だから、俺も気にしてんだよ。アイツの事はな」

 

真剣な表情を見せる千空にクロムも真面目に答える。

 

「なんも起こりゃあしねえ、なんてあっちだってわかってんだろ。

あんま、心配し過ぎんのも侮辱になんじゃねえか? 対等のダチだったらよ」

「対等のダチ、か。そうだな、アイツとはそうだと思うし、そうでありてえ。

だけど、アイツの弱えとこ見せられちまったからな。

感情に振り回されるなんざ非合理の極みなんだがな」

 

どうにも上手く制御出来ねえ。

と、自嘲するように呟く千空にクロムは、

 

(ああ、コイツは信じられる。コイツに手伝ってもらえんなら絶対ルリを助けられる)

 

そう確信できた。

だからコクヨウが隠したルリに関する事を全て話してしまう事にしたのだ。

 

「なあ、千空。コクヨウのおっさんがはっきり言わずにおいたことなんだけどよ……」

 

 

全てを聞いた千空はしばらく考えた後、クロムに確かめるように聞いた。

 

「クロム、コクヨウが言ってた同じ病気で死んだ奴ってのは、

コハクとルリの母親で間違いねえな?」

「ああ、間違いねえと思う。

あの人も巫女様だったから直接見たりした事はねえけど」

「巫女?」

「ああ、百物語って奴を代々伝えていく役目なんだってよ。

結構面白い話があるんだぜ、桃太郎とかよ」

「……クロム。この村に文字は存在してねえな?」

「? なんか絵みてえなもんで、組み合わせて使うと色々出来るって奴か。

少なくとも俺は知らねえよ」

「つまり口伝で、口頭で伝えて来た訳だな。

百物語ってんだから当然長えよな。くそ、どんだけ伝わってんだこの病気はよ」

 

それは少し千空らしからぬミスだったかもしれない。

いくら衝撃的な事実に気づいてしまったとしても迂闊な事を口走る千空ではない。

桜子の事は思ったよりも彼に重荷になっていたのかもしれない。

もしコレを聞いたのが察しの悪い者だったら誤魔化すのも難しくなかったろう。

しかし、クロムは観察の天才だ。

即、千空が何に気づいたのか分かってしまった。

 

「……なあ、千空。今お前が気づいた事、ルリには、

いや、誰にも言わずにいてくれるか?」

 

そう、彼は"観察の天才"だ。

気付きという事に関しては他の追随を許さないレベルの。

誰にも言わずにいたが、それが代々の巫女が必ず受けてきた、

"呪い"なのではと気づいていたのだ。

 

「ルリもコハクも、コクヨウのおっさんも、死んだ前の巫女様の事、

スッゲエ好きだった。だから、コレが、ルリの命を脅かすコレが、

前の巫女様から移ったモノだってわかったら、絶対傷つく。

だから、頼む! 誰にも言わないでくれ!

俺に出来る事なら何でもするから! 頼む!」

 

土下座せんばかりに頭を下げるクロムに千空は問い返す。

 

「何でもつったな? 本気でなんでもか」

「ああ、男に二言はねえ!」

 

力強いクロムの返答に満足げに笑い、要求を口にした。

 

「なら、何が何でもこの病気治してみせんぞ」

 

そんな事を言われるなんて想像の埒外だったクロムが思わず顔を上げる。

 

「なに呆けてやがる、それが一番合理的な判断だろうが。

この病気をぶったおしゃあ、そんなもんもう気にしなくて良いんだからよ」

 

違うか? と挑発的に笑う千空にクロムも全力で応える。

 

「おう! その通りだ! 何が何でも、泥啜ってでも!

この病気絶対にぶっ倒してやるよ!」

「おう、その意気だ。俺も全力で行く、ついてこいよ」

「おうよ、全力でついて行って、いつか追い抜いてやんよ!」

 

拳を合わせる二人、すでに両者は戦友だ。

心を通わせる事が出来る相手を増やした千空。

きっとそれは彼を愛する誰かからの贈り物だったのだろう。

その人は笑顔で千空達を見守っている。

そんな風に思える静かな夜だった。

 

 

 

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