千空達が旅立った直後まで時間はさかのぼる。
司達三人はまず人を増やすことを最優先とした。
と、なれば必要になるのは目当ての石像を見つけることと復活液を作ることである。
「大樹、君は引き続き果実を集めてくれ、杠はアルコールの蒸留を頼む。
俺は、うん、起こす必要がある人を見つけてくるよ」
「ああ、残念ながら俺も杠もすごい人と知り合っていたりはしないからな。
千空も、司の人脈を期待して起こしたといっていたからな、全面的に任せるぞ」
「桜子ちゃんが蒸留の方法とか昨日メモして行ってくれたからやってみるね。
しっかりやらないと、二人が帰って来た時呆れられちゃうもん。頑張るよ」
そういって張り切っていた杠であったがのっけからつまずくことになった。
アルコールの蒸留は専門の職人がいるほどの物である。
それを甘く見てしまった、結果から言えばそういうことになるのだろう。
そのことを責められる人間がいたらそいつはただの阿呆か極度の天才だが。
大樹と司が拠点に戻ってきたときそこは惨状であった。
広場に足を踏み入れた二人の目に映ったのは、割れた土器の破片と辺りに散らばる赤い液体。
そして倒れている杠の姿だったのだから。
「杠ああ!! 何があったんだ! 怪我をしたのか! まさか誰かに襲われたのか!
それとも獣なのか! 頼む、死なないでくれ杠ああああ!!!」
狂乱状態の大樹がすぐさま杠を抱え起こすとふにゃりと杠は笑って答えた。
「ん~? あ~、たいじゅくんだ~。どうしたの~ふたりにふえちゃったりしてえ」
完全に酔っ払いのそれであった。
司もその杠の反応でようやく周りに強烈なアルコール臭がしていることに気づく。
「うん、どうやら蒸留中に気化したアルコールにやられたみたいだね。
桜子のメモを見ると度数の確認に舐めて確認するとある。
つまり気化したアルコールと飲んでしまったアルコールで酔っただけだね」
「なら、怪我とかの心配は無いんだな」
「おそらくだけどね。とにかく横にしておこう、ツリーハウスだと落ちそうだね。
俺たちの寝床に横になってもらおう、今夜は俺たちがツリーハウスで、いいかい?」
「おう、全く問題はない。それじゃあすぐに杠を寝かせてこよう」
いうが早いか杠を横抱きにする大樹。
何故かはしゃいで絡みつくように杠が大樹の首を抱きしめたり、それによって大樹が固まったりとトラブルもあったが、無事寝床に寝かせることができた。
大樹が杠を運んでいる間司は桜子の残したメモをチェックしていた。
司は戻った大樹に早速気になった箇所を確認する。
「大樹、千空達がアルコールの蒸留をしていた姿は見ていたかい?」
「む、すまん。ほとんど見ていないのだ。ほぼ毎日採集していたからな。
拠点でやる作業はまったくと言っていいほど参加していないんだ」
「そう、か。そうなるとほぼ一からやる形になりそうだね。
とりあえず、うん、濃度の確認は舐める他には蒸発速度で確認とあるからそちらでやるようにしよう」
もちろんそちらでも難しいというのは目に見えている。
だが、今回のような惨事は起こりにくいはずなので今後はそちらでやる事になった。
二人がどうやって濃度確認をやっていたのか?
二人にしかできないような方法である。
蒸発速度の場合は千空がアルコールと水の蒸発速度の差から計算して大体の濃度を算出。
舐めて確認する場合桜子が記憶と照らし合せてという物だからだ。
余人に要求するには少しばかりハードルが高い。
「杠に服を着せておいて欲しい石像があったんだが、動けるようになってからだね。
今は彼女自身が動けそうにない、また他の人を探してくるよ」
「今広場にある石像だな? 杠が起きたら着せてくれるようにメモを残しておけばいいんじゃないか?」
「ああ、そうだね。うん、そうしておこう。
北東西さんも男性に起こされるより女性に起こされた方がいいだろうしね。
彼女の石像を運ぶ途中もう一人起こしたい人を見つけたからそちらを先にするよ」
なお彼女にとっては司に起こしてもらった方がうれしかった模様。
後日顛末を聞いて落ち込む姿があったとかなかったとか。
閑話休題、まだ日も登りきっていない時間であったため司はすぐさま次の人物のもとに来ていた。
しゃがみ込み両手を広げる姿で石化中の男性でその顔には薄い笑い。
見る者に薄っぺらい、真実を決して語らぬ男、そんな印象を与える表情の男の名は浅霧幻。
司にとってはその本質までは理解できないが、それでもある程度の信頼を期待出来る相手だ。
この男は自称メンタリストであるし、今後の文明発展に役立つだろうという判断である。
復活液によりすぐに石化が解除されて行く。
「あれ、何コレ。俺メンタリストだからドッキリは仕掛ける側しかやらないって言ったじゃん。
マネージャーちゃんどういうこと?」
「おはよう、今は西暦5738年の8月6日だ。だが君は19歳のままだよ」
「あれ、確か特番に出てくれた霊長類最強の高校生、…獅子王司ちゃんだよね?」
「うん、その通りだよ。今人類が置かれている状況について説明がしたい、いいかい?」
「こんな訳の分からない状況を説明してくれるなら喜んでだねー。
分かりやすくお願いするよ、ジーマーで」
司は人類が全て石化しているであろうこと、それから3700年を経て石化を破った男がいたこと。
その男、千空が如何にして生活基盤を整え他の人間を目覚めさせられる状況を作ったかを語った。
「ゴイスー過ぎない? ジーマーで。まるでドラマか何かの話みたいだよ。
いや、疑う訳じゃ無いけどさあ、ちょっと壮大すぎでねえ」
「信じられないのも当然だと思うよ、だけど全て本当のことさ」
そこまで説明を聞き終えた後のゲンの反応はまともな物であろう。
3700年経っている? そこから一人だけで目覚めてサバイバル生活をした?
さらに他の人間まで目覚めさせることに成功? 漫画でも早々ない無茶な話だ。
だが、ゲンは獅子王司という人間をある程度は知っている。
こんなつまらない嘘をつくような男ではない、必然それらはすべて本当のことなのだろう。
「その千空って子ゴイスーだねえ。で、司ちゃんの雰囲気が柔らかくなってるのもその彼のおかげかな?」
「うん? 自分では分からないが、そう見えるのかい?」
「うんうん、見える見える。あの頃の司ちゃん、かなり張りつめてたよねえ、それがスッゴク柔らかくなってるよ。千空ちゃんが司ちゃんの彼女でもすぐに見つけてくれたとか?
それとも男の友情的な物を結べたとかかな?」
「その二つだと後者の方だね、俺にそういう相手はいたことはないから」
「あれ? マル秘VTRの『あの子』って彼女さんのことじゃなかったの?」
「ああ、勘違いさせたままだったね。そうだね、いい機会だから君にも聞いてほしい」
そう言って司は先ほどからの続きを話し出す。
人手不足に悩んだため自分が石化を破れた状態から推理し本命であった大樹の目ざめに失敗したこと。
代わりに自分と同じような条件がそろっていた桜子を目覚めさせることに成功したこと。
二人の知恵を合わせて見事大樹を復活させ、生活基盤を盤石にしたこと。
ライオンが近くにまで来てしまったため追い払うために自分を目覚めさせたこと。
その後思想の対立から二人に恫喝を行い、見事な覚悟と推理で止められたこと。
そして、『あの子』、妹を救える道を示してもらったこと。
とても誇らしげに語る司の姿に眩しそうに眼を細めるゲンであった。
「それで、今は資材探しのために二人は別行動中というわけなんだ」
「……いやあ、これだけで本が何冊か出せそうなレベルだねえ。
なのに、まだまだ継続中。これを本にしたら出版社は仕事に困んないだろうね。
司ちゃんがここまで言うなんてね、その二人に会ってみたくなっちゃったよ」
「一ヶ月か、長くとも二ヶ月で戻ってくるといっていたからね。うん、すぐに会えるよ」
そういう司自身が会いたいと一番思っているのだろう。
人生で初めて心から信頼できる友なのだ、遠くで何か危険な目に遭っていないかと心配もある。
それでもきっと千空達なら切り抜けて見せる、そう信じていた。
そんな司に本当に変わったなとしみじみ思うゲンであった。
それから数日が経った。
起こすべき人間の発見は北東西記者の知識もあり順調に進んでいた。
だが、起こしたのは槍の達人氷月、その懐刀の紅葉ほむら、潜水艦のソナーマンにして凄腕の狩人である西園寺羽京ら数名にとどまる。
なぜか? それはアルコールの蒸留がネックになっての復活液生産の滞りが原因である。
人をそちらに振り向ければ手早く解決できるであろう問題なのだがゲンが待ったをかけたのだ。
曰く、
「このメンバーは司ちゃんのカリスマでまとめてるんだけど、この先起こした全員が不満なしで従うわけじゃないのは分かる? 復活液の作り方が不満を持っている人の手に渡ったらどうなるか、なんて火を見るより明らかだよねえ。その時初期メンバーですら知らないってなったらさすがに教えろとは言いづらいでしょ。そうするために、大樹ちゃんや杠ちゃんに教えず司ちゃんだけに伝えたんじゃないの? 千空って子は」
事実出発前日に桜子から復活液の作り方を他の人間に教えないように言われていた。
そのこともあり復活者たちの会議でのゲンのその意見は全員に了承された。
そんな事情もあり、二人が戻るまでは食料や資材集めなどに注力すべきか話し合いが行われていた。
コハクが千空からの手紙をもって訪れたのはそんな手詰まり感のある日々の時だった。
その日司は朝から狩りのために動いていた。
本当ならば蒸留の方に集中すべきかもしれない。
だが、どうにも気詰まりになってしまい、大樹と杠に少し体を動かしてくるといいといわれてその言葉に甘える形で狩りに出ていた。
こちらで人を増やすことが重要なのは理解できている。
だが、どうしても理想の社会、それを作るにはどうすればいいのか。
それを学びたいのだ、人を率いるよりも今は自分の知識を高めたい、そういう思いが消えないのだ。
その気持ちを振り払うため見つけた猪に集中する。
間合いにとらえいざ狩ろうとしたとき、その気配にようやく気付いた。
狙っていた猪の首の片側を鮮やかな一閃で大動脈まで切って見せたその気配の主は司の前に立つとこう言った。
「初めましてだな、私の名はコハク。君が司か? そうであるなら千空から手紙を預かっている。受け取ってもらえるか?」
後で千空達がこの顛末を聞いた時、コハクのあだ名が獲物を狩るのが自己紹介な女だとか、私たちの時と同じパターンじゃないと呆れられたりする司とコハクの出会いであった。
千空からの手紙を受け取った司はすぐに復活者会議を始めることにした。
全員が集まったところで手紙を読み上げ、コハクから細かい所の補足をもらいつつ、全員が状況を理解できるまで話し合った。
「つまり、急いで人手を増やす必要はなさそうってことだねえ。
まあ、すぐに足らなくなるだろうからのんびりとはできないだろうけど」
「ガラスが作れるのなら瓶詰ができるからね、食料保存がやりやすくなるよ。
ここに拠点を置き続けている理由を僕は知らないけど、そっちをメインにした方がいいかもね」
「そう、だね。考えてもいいかもしれない。
ただ、千空に直接確認しなければいけないことがあるんだそれには。
ここは捨てるには惜しい場所だろうから」
「ふむ、それならばこういうのはどうです?
司君がそこの彼女と共に村に行き千空君にその辺りを確認する。
問題がないようだったらそちらに移住、こちらを残すのだったら、桜子君でしたか?
彼女にも戻ってもらい復活液の作成をやってもらいましょう。
現状やれていることは保存食作りと薪や粘土集めだけです。
資材だけが山積みになって作成できる人間がいないのですからできる人間を呼び戻す。当然の考えだと思いますが」
「移住するって、その村余所者は本当なら入れないんでしょ? その辺りどうするのさ」
「もちろん交渉して納得してもらうんですよ。期待していますよメンタリスト」
「あー、だよねえ。仕方ない、その時はお仕事頑張りますかあ」
「俺が抜けている間は氷月、君にまとめ役をお願いしたい。いいかな?」
「ええ、もちろん。人を増やすわけでもなし、誰でも問題はないでしょうが」
ポンポンと言葉が出てきてそれを全員が理解し、意見を出し合っていく。
村ではそんな光景一回も見たことはなかった。
「やはりすごいのだな大昔の人間は」
「どうかしたのかい?」
「皆が皆すぐに話を理解して次のことを考えていく。
お互いがお互いを深く理解していなければできないことだ。
とても難しいはずなのにあの二人は、いや君たち全員は、誰もがそうなれる世界に戻そうとしていると思うと圧倒されてしまうな」
司はその言葉で一つ自分の理想とすべきものが見えた気がした。
理解しあう、それこそが社会に、人類に最も重要なのではないか、そんな気がしたのだ。
「旧世界でも理解しあえていないということは多かったよ。
うん、でも、それこそが理想の社会のあるべき姿なんだろうね。
ありがとう、目指すべきものが少し見えた気がするよ」
「んん? よくわからんが何か役に立ったならよかった…のか?」
「俺にとって大切なものだからね、だからありがとうと言わせてくれ」
「うむ、何が何だかわからないが、どういたしましてだな」
「ああ、それじゃあ準備が出来次第出発しよう。村までの案内はお願いするよ」
コハクも司も特に必要とするものもなく、何食分かの食料を持つだけで十分。
そのまま身軽である方がいいといわんばかりに村へと出発するのであった。
彼、氷月の思惑通りに。
「やれやれ、信頼するのはいいですが、相手は選ばなければ駄目ですよ。
その辺りまだまだちゃんとできてませんねえ、司君」
コウモリの住む洞窟の前で嘲笑う氷月の姿がそこにあった。
原作との違いは大樹がアルコールの蒸留に手を貸しているかどうか。
こちらだと千空と桜子で十分でしたので大樹が蒸留のこと全く知りません。
司帝国がドンドン復活液作れたのって大樹のおかげだろうと思ってます。