イシからの始まり   作:delin

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誘拐の顛末

何者かに担ぎ上げられ私は軽いパニック状態に陥っていた。

口元も目元も布で覆われてしまったため周りの状況も声を出すこともできない。

ただ、体に伝わる振動から橋を渡ったことだけは分かった。

その状態のままどれくらい経った頃だろうか、私は乱暴に地面に落とされた。

下手人の背はかなり高かったらしく受け身も取れなかった私はしばらく息ができなかった。

 

「ムハハハハ、ようやく小娘を捕まえてやったぞ!

おい、マントル! 小娘の顔の布をとって押さえておけ」

「あいー、分かりましたマグマ様」

 

そんな会話と共に顔を覆う布が外されうつ伏せのまま私は押さえつけられる。

焚き火をしているらしく最低限の光量の中照らされるゴツい顔。

マグマだ、でも何故私をさらったのかがさっぱり分からない。

訳がわからず困惑していると、顎の先を指で上げられた。

立っている状態でやられたらキスの前振りみたいなアレである。

 

「おい、小娘。貴様食い物に妖術をかけて村の連中を虜にしているな?

その力、俺様に捧げる気はあるか?」

 

は? 妖術? いやただの普通の料理なんだが。

 

「本当ならば村を誑かす妖術使いとして処分するところだが、俺様は寛大だ。

その力をこの俺、マグマ様のためだけに使うなら許してやろう。

もし、貴様が望むのならもう少し育った後に俺様の女にしてやってもいい」

「あいー、さすがマグマ様怪しげな余所者妖術使いにそこまでの慈悲を出されるとは」

 

何を言ってるんだこいつは。

いや、本当に意味がわからん、なんで妖術? しかも女にしてやってもいい?

ロリコン? それともペド? いや育てばって言ってたからそれは無いのか。

っていうかこの村の存続がかかってる時に何を戯けた事を行ってるんだ。

 

「とりあえず上の奴どかせてくれない? 痛みに喜ぶ趣味は無いんだけど」

「ほう、この状況でそんな口を叩けるとはな。俺の気分次第でどうとでもなるんだぞ、貴様」

「手が届く位置にいる時点で同じでしょ、そんなの。

手足の自由を得たって抵抗も逃走も無理なんてわかるでしょうが。

ほら、とっととどいて、私は非力だから乗っかられると痛くてしょうがないの」

「ふん、確かに貴様なんぞがどうしようが俺様には敵わんわなあ。

おい、マントル! とっととどいてやれ!」

 

マグマの命令にさっと従うマントル。どいたのですぐに立ち上がる。

何故こんな脳筋に従ってるのか、やっぱりこいつ自身もバカだからだろう。

自分がすごく苛ついているのがわかる、だけど止められない、感情がコントロールから外れかかっている。

 

「で、本当の目的は何? 村のために、なんてお為ごかしはやめてね。

貴方がそんな殊勝な性格じゃないなんて集会の時に分かってるんだから」

「ほう、覚えていたか。まあ俺様を一度見れば忘れられる訳がないからな」

 

何がだ、どこにでもいそうなゴリラフェイスの分際で。

苛つきについ心の中で悪態をつく、抑えないと怒鳴って引っぱたいてしまいそうだ。

 

「俺様は最強だが、もっと強くならなきゃいかん。それこそ何人掛りでも負けないぐらいにな。

そこへ貴様ら妖術使いがきた、どちらでもよかったんだが貴様の方が言う事を聞きそうだったからな。

だから貴様だけをこうやって連れてきたのだ」

 

つまり私の方が弱くて脅しに屈しそうだったと。

まあ、間違ってはいないかもしれない、ただし私でもマグマの圧で屈するほど弱くはない。

強く出れば引くような弱気ではサバイバル生活なんて出来るわけないのだ。

だが、いちいち突っかかられては面倒だ、条件付きで教えて二度と関わらないようにしてもらおう。

 

「教えてもいいけど条件があるわ」

「なんだと!? 条件なんぞつけられる状況だと思ってんのか小娘!」

 

マグマにとっては反射的な物だったのかもしれない。

でも、それはイラつきを必死に抑えていた私にとって最後の一押しになってしまった。

 

「うるさい、怒鳴るな脳筋! 私達は貴方なんかに関わっている程暇じゃない!

お山の大将がしたいなら勝手にやってなさい! 村の人達は私が救う! 黙って見てろ!!」

 

冷静に条件を突き付けるつもりだったのに怒鳴られたせいで反射的に怒鳴り返してしまった。

失敗した、こんな風に言葉を叩きつけたらこういう人種がどういう反応するかなんて知ってるのに。

 

「脳筋だとお! バカにしてんのかテメエ!」

 

そう、激昂して暴力にうったえる、だ。

何回もあった事なのに、私も学習が足らない。まあ、掴みかかってくるだけなら問題ない。

まだこいつは理性的な方だ、酷いと即拳が飛ぶからなこの類は。

自分の首に向かってくる手を避けられないと理解しながらジッと見つめていた。

 

「バカにされたくないなら、バカな行為は辞めるべきだ。手をあげようとした時点で君の負けだよ」

 

いつの間にか私とマグマの間に立ってマグマの手を掴み上げる司がそこにいた。

何故お前がここにいる。

 

 

「な、なんだテメエは!」

「何者かという疑問ならば桜子の仲間だと答えるよ」

 

突如現れたようにしか思えない司にマグマは敵意を剥き出しにするが司は意に介さない。

涼しい顔で大した力も入れていないように見えるのに掴まれた手はビクともしない。

 

「おい! マントル! 何してやがるこいつをはがす手伝いをしろお!」

「マントルなら夜更かしのせいか寝てしまっているぞ、マグマ」

「なっ! コハク! テメエどうやってこんなに早く……!」

 

そこまで言って、しまったという顔で口元を押さえるマグマ。

 

「何故貴様がそんな事を知っている、マグマ。

ああ、言わずともわかる。村の女性陣全員が貴様を警戒しているわけではないからな。

大方ガーネット辺りから聞き出したのだろう?

私も貴様がこういう事をしでかすと思っていたからな、少々策を講じさせてもらった」

「いやいや、出たの一昨日の早朝でしょ! 私だと3日かかったんだけど!」

「ふふん桜子、君が教えてくれたのではないか。川下りというものを!」

 

唖然。桜子だけでなく司までもがそうなった。

つまりコハクはこう言っているのだ。

ちょっと聞いただけの物で遅い者なら3日かかる道のりを半分、いや復路の事を考えれば3分の1にした、と。

 

「雌ライオンじゃなく妖怪の(ましら)ね」

「結果を見れば正解と言えるが、無謀に過ぎないかい?」

「二人して何故!?」

 

さすがの司もそちらに気を取られてしまったのかマグマへの注意が多少それたその瞬間、

 

「ぬおお!!」

「! ちいっ!」

 

その隙を見逃さずマグマは全力で拘束から抜け出した。

舌打ちひとつ落とし構える司。

対してマグマはどうこの場から逃げ出すか考えていた。

明らかに不利な現状、切り抜けるにはやはり人質か、そう考えたところで桜子が声をあげた。

 

「司、そんな奴逃しちゃっていいよ」

「桜子、許すのかい? この暴漢を」

 

見逃すつもりか? 甘っちょろい奴め。

そう思ったところで桜子の辛辣な言葉が突き刺さった。

 

「そんな小物いつでも処理できるでしょ、特に貴方がきた今となっては。

それよりあっちを放ってまでこちらに来た理由を教えて?」

 

何の事はない、眼中にないだけなのだ。彼女の中ですでに終わった話なのだマグマの事は。

あまりの態度に絶句するマグマ、彼にとって初めての経験だろう。

路傍の石の如く完全な無視というものは。

 

「このガキャアア!!! このマグマ様をここまで虚仮にした奴は初めてだ!! 絶対にぶち殺す!!!」

「そう、私忙しいから。強くなりたいならトレーニング方法ぐらい教えてあげる。だから、それで終わりにしてもらえる?」

 

血管がちぎれるほどの怒りに染まっているマグマと涼しい顔で司に質問をぶつける桜子。

一種異様な状況に戸惑いながらもマグマへの警戒は切らないコハクと司。

誰も動かない状況に痺れを切らしたのは言葉のみで済む桜子だった。

 

「いいから、復活液を作っているはずの貴方が此処にいるのは何故!それにさっさと答えて!

人間が必要なの! 村人以外の人間が! それを用意出来る筈の貴方がここにいるのは何故!!」

 

怒り狂うマグマも困惑し続けているコハクも見ず司に対し掴みかからんばかりの勢いでがなりたてる。

 

「す、すまない。アルコールの蒸留が上手くいかないんだ。それで出来れば君に戻ってもらおうと……」

「アルコールが? そう、メモがわかりにくかったか、それとも別の所でつまずいたのか……。

じゃあ、詳しく聞きたいから村に戻りましょ。ここじゃ落ち着かないし」

「俺を無視するなああ!!!」

 

とうとう怒りが頂点に達したマグマが桜子に襲いかかる。

しかし、それを許す司ではなかった。

桜子に向かおうとするマグマの肩を掴むと勢いの向きをスッと横へと変える、同時に脚を払い投げ飛ばす。

マグマの体は勢いそのままに近くの木へと叩きつけられる事となった。

ズドン! とかなりの音を立ててぶつかり重力に従い地面に落ちるマグマ。

ガッ、と肺から勝手に空気が漏れただけという声を出し気絶してしまった。

 

「凄まじいな司、君の実力は。マグマを子供扱いとは恐れ入ったぞ」

「彼はライオンも一撃で狩る規格外よ、このぐらい出来るわ。いいから早く村に戻って話を聞かせて」

「もう夜も遅い、今日はもう寝て明日にした方がいいと思うんだが……」

「そんなに待てないの、もうここでいいから話して!」

「桜子、君は少し落ち着いた方がいい。コハクの言う通り明日にすべきだ」

「私は落ち着いてるわよ!」

 

落ち着いている人は大声を出さない。そんな当たり前の事さえ分からないほど興奮してしまっているようだ。

このままでは埒があかない、そう判断した司は非常手段を取る事にした。

 

「すまない、少し眠ってくれ」

「え?」

 

そう詫びた司は素早く桜子の首の横を打った。

桜子がその言葉を理解するより早く彼女の意識は落ちていった。

 

「すごい技だな、なんだかやり慣れていないか?」

「試合などでなかなか諦めてくれない相手によくやっていたからね。

うん、上手くいったようだ。興奮のし過ぎで疲れているだろうし、そのまま眠りに移ると思う」

「そうか、君には首筋を晒さないようにしよう。身の危険を感じるからな」

「女性に対しては今のが初めてだよ!」

 

慌てて弁解する司であったが、ニヤニヤと笑うコハクにからかわれたと気づく。

やられっぱなしというのも癪だなと思った司ほ少しやり返すことにした。

 

「コハク、先程策を弄したと言っていたが、それはもしや川下りで早く行く事……、ではないよね?」

「そんな訳ないだろ! 村の皆には往きだけで3日はかかると言っておいたんだ!」

「そうか、よかった。俺の勘違いだったみたいだね」

「君は私の事を何だと…」

 

そこまで言ったところでようやくからかい返された事に気づくコハク。

どちらからともなく二人で笑い出してしまった。

桜子の狂態を目の当たりにしたことで暗くなっていた心に少しの光が差し込む。

 

「ははは、こんなやり取りを誰かとしたのは、うん、初めてだよ」

「ふふっ、そうか。君はもう少し力を抜いて生きるといい、今の顔のが良い印象を人に与える」

「そうだね、うん、そうしてみるよ。ただ、今はそれより桜子を寝かせられる場所に連れて行ってくれ。このままだと風邪をひいてしまう」

「ああ、そうしよう。起きたら話をしなければ。

なぜあんなに焦っていたのか、村人以外の人間がなぜ必要なのかをな」

 

幼いとさえ言えそうな桜子の寝顔を見ていると先ほどの様子が嘘のようだ。

少し落ち着いた心と頭で考える。桜子の鬼気迫るとさえ言えそうなあの状態、見たことなど……、

ある! 一度だけ、あの日の海岸、心から負けたと思い、それがなぜか安堵につながったあの時!

 

「そうだ、あの時と同じだ。千空が死ぬかもしれない実験を、阻止しようとしたあの時と」

「話には聞いているが、今みたいな状態だったのか。

相当切羽詰まった状況だったと聞いてて思ったが……、村がそんなにまずい状況なのか?」

「分からない、こればかりは聞いてみなければね。

……明日は長い話をしなければならないみたいだ」

 

二人の心に暗い影がかかる。

今度は笑いあった程度では払えそうにないほどのものが。

 

 




あっさり過ぎたかな? まあ犯人がわからないって人いなかったろうし、いいか。
コハクは割と全力で移動したようです。
そんなにショートカットできる川があるのか?
あるってことにこの作品内ではします。
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