イシからの始まり   作:delin

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前話で投稿後に少々修正した部分がありますので読んでいない方はそちらを先に確認下さい。


人の力は群れの力

「それで、桜子。村の危機とやらを話してくれる気になったのだな?」

 

千空との相談も終わり三人に私が何を隠していたかの説明する段階である。

かなり本命の理由に近いので、旧世界の教育を受けている司にはあまり話したくない。

だが話さないのは不自然にも程があるので気づかない事に賭ける事になった。

 

「村の人達は今全員が親戚みたいなものになってるでしょ?

お互いの距離感的な意味ではなく血縁的な意味で。

その状態だと一人感染力の高い病気に罹るとあっという間に村全体に広がってしまうの。

それを防ぐには別の血縁を入れるのが一番の解決策なの。だから、村人以外の人間が必要だと言ったのよ」

 

ほぼそのままな話なので司が気づいてしまえば一巻の終わりである。

出来るだけクロムにルリさんを諦めさせたくない私としては正直司が邪魔でしょうがない。

余計なことを言うなよと心の中で念じ続ける。

 

「人類の強さってのはな、群れの強さってのもあんだよ。

狭い中でずーっと回し続けてるとな、全体が均質化されちまうんだ。

そうなりゃ同じような奴ばっか増えていっちまう、そいつが対処できない事が起きたらどうなる? 

同じような奴しかいないんだから当然他の奴にも対処できねえよな。

こいつが言ってたのは簡単にいやあそういうことだ」

「だが、それなら言えない事ではないじゃないか。

話してくれもしないなど、そんなに私は信用できないのか?」

「コハク、テメエが病気にかかったりしたら村ごと滅びるかもしれねえ。

っていわれて動揺しねえと胸張って言えるか?」

 

想像もしてなかった規模の話になったせいか言葉に詰まるコハク。

クロムも同じく絶句し、司も動揺しているようだ。

司? あんたもしかして高校で授業あまり受けれてない?

 

「こうなると思ったから言いたくなかったんだろうよ」

 

その様子に千空が予想通りという態度で言った。

そう言われてクロムが胸を強く押さえつけ何かに耐えるような姿で声を絞り出す。

 

「つまり、村の人間はこれ以上子供を作らねえほうがいいってことかよ」

 

運命を呪い、理不尽を嘆くかのように叫び声をあげる。

 

「村はもう無くなるしかねえってのかよ、千空!」

「んにゃ、ぜんっぜん1㎜もんなこた言ってねえ」

 

たいして千空は耳をほじりながら軽ーく言ってのけた。

あまりの落差に三人がずっこける。

 

「そういう可能性があんのは事実だが、そんなもん天文学的な確率で不幸がこなきゃ起きねえよ。

ただ、村の外から人間を受け入れてく必要があるってだけだ。

後医療関係も優先的に上げてかなきゃなんねえが、今やってる最中だしなあ。

うん、正直お前らがやんなきゃならねえこと特にねえわ」

 

ずっこけた体勢から一気に顔を上げてクロムが叫ぶ。

 

「桜子のあの態度だったらヤベー事態だと思うだろうが! なんですぐ説明しなかったんだよ!」

「そう言われるから、嫌だったのよ! 深刻になりすぎなんて私が一番よくわかってるわよ!」

 

本命の目的を達成するのも一朝一夕でできることではないのに焦りすぎた。

そういう自覚があるので顔を赤くするなんて簡単、というか勝手に赤くなった。

 

「はあ、つまり対処は必要だが焦る必要もないし、すぐにできることもない。そういうことでいいのか、千空」

 

力が抜けてしまったのかへたり込みながらコハクが千空に確認を取る。

 

「そういうこった。強いて言うなら今やってることをしっかりやるってぐらいだな」

 

やれやれ、どうにか誤魔化せそうだ。

今のうちに話題を次に流してしまおう。

 

「やるべき事といったら、私と千空と司は村の人たちに信用されるようにする事かしらね。

連れてくる人たちも信用できると思ってもらわなきゃ」

 

そこでふと気づいた、そういえばどんな人物を起こしたか聞いてない。

 

「司、起こしたのは何人ぐらいで、どんな人たちか軽く教えてくれる?」

「そうだね、村との交流が必要ならばどういう人か知っておいてもらった方がいいね」

 

そうして挙げられていく名前の中でやっぱりいたか氷月。

なんで起こしたと問い詰めたいけど、そんなことしたら千空に覚られる。

腹心が裏切るって情報はしゃべっちゃってるからなあ……、千空ならそれと私の動揺から推理できちゃうかも。

まあ、今は復活液が無いし、作り方を知っている人間もこっちにしかいないから、すぐに裏切ったりとかしてもしょうがない状態だってわかってると思う。

この後裏切らないような布石を打てればいいんだが……、

 

「朝霧幻か、たしかゴミみてえな心理本書いてたマジシャンだな。

他の奴はオメーの交流とその記者からの紹介で分かるが、なんでそいつ起こしてんだ?」

「彼の心理把握の技に期待して、だね。表面は軽薄で薄っぺらい印象が強いけどね、彼は芯はしっかりとしているよ。信頼していい人物だと思う」

 

意外と司からゲンへの信頼度高いんだな、でもその他に気になる事が一つ。

 

「ねえ、貴方自身の知り合いって記者さんとゲンと氷月っていう人の三人だけ?」

「……俺の回りには取り巻きは多くいた。でも、そういう風に取り巻きになるタイプの人間は中心になって動けるタイプじゃないんだよ。

だから早期に起こした人に俺と直接の知り合いは少ないんだ」

 

少し目が泳いでいるぞ司。

ははーん、さては貴様隠れボッチだな。

周りに人はいるけど友達と言える人はいない、私とそう変わらないじゃないか。

って、周りの人と言える人間すらいない私よりはましか。

奴が隠れボッチなら私は真正ボッチだからな、つつくのはやめておこう。

 

「そっか、それじゃあこの後どう動くの千空。あっちを残すにしても捨てるにしても、復活液作るために一回私が戻った方がいい気がするけど」

「ガラス用の道具作りに製鉄がしてえからそのあとだな、戻んのは。

こっちに合流すんのはありなんだがなあ、硝酸いくらあってもたりやしねえから捨てるのは惜しいんだよな」

「だけど、今の状態で二ヶ所拠点を維持するのは厳しいと思うよ。

あちらでしかできない事は硝酸を貯める事だけだからね、それさえクリアできるのならこちらに合流した方がいいんじゃないかい?」

「プラチナがありゃあなあ、あっちを捨てても問題ねえんだが」

「プラチナ? ああ、確か宝箱に眠るって奴だよな。月の色に輝く、だっけか」

「ああ、姉者の百物語か。よく覚えているなクロム、私は覚えていなかったぞ」

 

思わずギョッとする千空と司。もちろん私も同じ反応をした。

もっとも理由が私と二人では別なのだが。

 

「おい、クロム! プラチナを知って、いや、あんのかプラチナ!」

「な、なんだよいきなり、ルリから教えてもらったんだよ、百物語でよお。後現物は持ってねえよ」

「宝箱に眠ると言ったね、その宝箱が何処にあるかは分かるかい?」

「あー、探そうとした事はあっけどよ、宝箱を開けていい奴は決まってんだとよ」

「つまり代々伝わる宝物ってことか?」

「いや、その宝箱は誰かへのプレゼントだってんだよ、その辺も別の百物語で伝わってるらしいぜ。

さすがに他の奴へのプレゼントを横取りすんのはヤベーだろ? だから探す気はねえんだ」

 

うっそでしょ、そこまでクロムがなんで知ってるの?

いや、宝箱なんて単語そりゃ子供心をくすぐるよね。

それに関して根掘り葉掘り聞いても不思議じゃないか。

 

「俄然興味が湧いて来やがったな、そのルリって女によ。薬作りに気合い入れていく必要がありそうだ」

「なんだよ、ルリに興味って……、ってプラチナとかの話が聞きたいからだよな、千空なら」

 

あー、千空の事をよく理解してらっしゃる。

クロム、君の予想は絶対あってると思うぞ。

クロムのその反応によくわからないって顔してるな司、って千空もか。

コハクがクロム以外を手招きして小声で教えてくれた。

 

「いいか三人とも、クロムはなルリ姉がおそらく好きなのだ。だがクロムもお子ちゃまでな、無自覚なのがなかなか尊い」

「ああ、なるほど。そして千空はそういう事に興味が薄いと知っているわけか。

うん、それなら野暮は言わない方がよさそうだね」

「うわ、面倒くせえ奴が出て来やがった、んなもん全く唆らねえよ」

「私は村の奥様方から聞いてるから知ってたけどね」

 

実際聞いてたしな、3700年経ってもやっぱり女性はそういう話題が大好きなのであった。

 

「なにをコソコソ話してんだよ、クッソ、なんか馬鹿にされてる気がすんぞ」

 

どちらかというと微笑ましく見守っているのである。

なんか純粋な人が多いような気がする、まあ違う輩もいるが。

そこまで考えた事がフラグだったのだろうか、昨日も聞いた怒鳴り声が響いた。

 

「おい! 余所者ども! ここにいたか、ちょいとツラ貸せ!」

 

マグマの奴懲りないな、そう思ったのは私だけじゃないらしくコハクも私と同じような顔になっている。

司はと見ればすでににそちらへと飛び出していた、さすが霊長類最強の高校生、行動が速い。

遅れて私達も声のする方へ行くのであった。

 

 

「よう、昨日ぶりだなあ長髪男。俺の名はマグマだ、テメエの名は?」

 

傲岸不遜そのままの態度で司に問いかけるマグマ。

司もこういう類の人間は慣れているため普段通りのまま対応する。

 

「俺の名前は司。うん、コハクから聞いているよ君の名前も性格も。

それで、聞いた話から想像するなら、今日はリベンジマッチに来たのかい?」

「そうだ! と、言いてえ所だが……、俺とテメエの実力差は分かってる。

悔しいが絶対に敵わねえって事ぐらいはな」

 

ならば、何故ここに来たのか?

そう訝しむ皆の前でマグマが声を上げる、司の後ろに向かって。

 

「おい、ガキンチョ! テメエ強くなる方法を教えるっつったよなあ!

テメエの出す条件全部飲んでやる! だから、俺にコイツを超える方法を教えろ!!」

 

そこに込められた勝利への執念にコハクとクロムは息を呑んだ。

一方、それを向けられた桜子は冷たい視線を向けるだけで微動だにしない。

 

「貴方に要求するものなんて私にはないわ。

強いて言うなら、今すぐ諦めて負け犬のように尻尾巻いて帰ってほしいってぐらいかしらね」

「そういうな桜子、せっかくの労働力じゃねえか」

 

そして、悪魔のような笑顔で邪悪さすら感じる声で千空が口を挟んだ。

そのわっるい顔に思わず怯むマグマ達、この中では一番付き合いの長い桜子も例外ではない。

いや、付き合いが長い分もっとも怯んでいる。

何故なら無茶振りが飛んでくるのが目に見えているからだ。

 

「おい、桜子。ある程度のスポーツトレーニング方法ぐらい知ってんだろ。

ちょいっと教えてやれ、そんだけで村一番のパワー持ちが使いたい放題だ、やらねえ手はねえよなあ?」

「い、いやよ。アイツに私誘拐されたのよ、それに司の方が知ってるでしょ!」

 

怯みながらも拒否し、司に振る桜子。

 

「ま、待ってくれ、自分がやるのならともかく、人に教えるなんてやったこともない。

理論を知っている訳でもないんだ、やはり教えるなら理論を知っている誰かに頼みたい」

 

いきなり振られた司も慌てて拒否し、自分以外にするように主張する。

 

「いつだったか大樹に聞いてたよなあ桜子、トレーニングをどうやってるってよお。

大樹の奴が特に何もしてないって言ったら、色んなやり方挙げてどれもやっていないって答えられてたろ。

今トレーニング方法一番知ってるのはオメーだって事だ」

「ううっ、か、加害者と被害者を一緒に置いとくのは、被害者のメンタルに良くないと思わない?」

「被害者がオメーじゃなきゃ考慮したがなあ、全く気にしてねえだろうがテメエは。

なあ、クロム。第三者の目から見て、コイツがマグマをどう思ってるように見えた?」

 

唐突な質問に驚いたクロムだが、桜子を見てすぐに結論を出す。

 

「銀狼が馬鹿言い出した時の金狼の目にそっくりだからな、馬鹿な事やってる奴ってとこじゃねえか?」

 

図星を突かれたのか桜子の額から冷や汗が一筋たれる。

追い詰められている桜子だが、それでも抵抗を辞めない。

 

「強くなるなら実践が一番って言うじゃない、司にやってもらうのが一番良いって」

「おう、ならトレーニングと実践両方だな。司を巻き込む分はオメーが出せよ」

 

人これを墓穴を掘ると言う。

 

「私にメリット無いじゃない! なんでこんな奴のために時間使わなきゃいけないのよ!」

「メリットねえ、なら次の製鉄で髪用の鋏作るの見逃してやろうじゃねえか」

 

固まる桜子、目が泳ぎ垂れる冷や汗の量が増える。

 

「な、何のことかしら? 私そんなもの作ってもらおうとしてないわ」

「村の職人のカセキ爺さん、俺もガラス用の道具作りのために声かけたんだわ。

そしたら、『また来たのか、今度は何を作ってほしいってんじゃ』だとよ。

しっかり口止めしてたみたいだが爺さんうっかりしたみてえでなあ。

で、まだなんか欲しいもんあるか?」

「はい、料理教室で刺身をやりたいんですが、川魚は寄生虫が怖いんです。

そのために冷凍装置が欲しいです」

「OK、空気冷媒熱交換器を作っといてやるわ。司、オメーもやってほしいこと桜子に言っとけ」

 

完全に横領の証拠を押さえられてしまい観念する桜子。

目の前でなぜか突然始まった謎の司法取引にしばし呆然とする四人。

どんよりとした雰囲気を漂わせる桜子に司が気遣わしげに声をかける。

 

「大丈夫かい、桜子。その、そこまで嫌なのなら、やらなくてもいいんじゃないかい?」

「甘やかすな司、必要な事だからやらせんだよ」

 

司の言葉に一瞬桜子の目がギラッと光るが千空によってすぐに鎮圧される。

厳し過ぎないだろうかと思い千空を見る司だが、千空の目を見て思い直した。

 

(そうか、これは千空への依存が過ぎる桜子を矯正しようとしているのか。

万一マグマが暴走しても俺がいれば安全は確保できる、うん、一番甘いのは誰だろうね)

 

どうせだ、自分も少し望みを出そう。コハクも言っていたではないか、肩の力を抜いてみろと。

そこまで考えてから、さて、何が良いだろうと悩み始める。

自分が望む事で桜子が出せるもの……、ああ一つあった。

 

「それじゃあ、歴史を教えてくれるかい? 理想の社会とは何かを知るために役立つものを。

うん、マグマのトレーニングを見ていない時は俺にその辺りを授業して欲しい」

「私の時間なくなりそう……、理想を明文化しといてね、そうじゃなきゃ無理だから。

マグマも、どういう方向で強くなりたいか考えといて」

 

そう疲れた声で告げる桜子の姿を見ながらクロムが呟いた。

 

「これ、丸儲けしてんの千空だけじゃねえか?」

「おう、よく分かったなクロム。誰かの弱みや不正って奴はここぞっていう時にぶつけてやんだよ。

そうすりゃあ自分の思い通りに動かせるようになる。覚えといて損はないぜ」

 

クロムの呟きに応える千空の邪悪な顔に戦慄する三人。

 

「いや、俺は科学だけで十分だわ。ちょいと邪悪すぎるぜそいつは」

「弱みを見せたら食いつかれる、自然もそういうものだ。が、邪悪さでは比較にならんぞ千空」

「もしかして、俺はとんでもない奴と契約しちまったんじゃねえか?」

 

悪い顔で高笑いする千空と苦笑を浮かべる司、そして項垂れる桜子。

事の起こりから考えれば被害者側に立っていたはずの桜子の一人負けに見える。

敗因は一人で抱え込み過ぎた事だろうか。

次回以降に生かせるかはまだ不明である。




嫌いな相手と強制的に人付き合いさせる人見知り矯正法……。
いえ、ダジャレではありません。

司は実践はしてても理論などはトレーナーに任せていたのだろうと思ってます。
6年間妹の入院費稼ぎ続けて、さらに理論までって……、司ならやりかねないけど本作では理論を本格的には学んではないって事で。
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