イシからの始まり   作:delin

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UA5万突破! 皆様ありがとうございます!
投稿開始からちょうど2カ月。
そこそこの長さになったと言ってもいいんでしょうか?



プライドを持つのは大事

無事雷雨にも恵まれ磁石の完成を見た次の日。

銅板作成か、それとも製鉄を先に始めてしまうかと思っていたら別の事をやると言われた。

 

「労働力の向上をしてえからな、ガラスを作ってスイカのメガネを作るぞ」

 

やっぱり優しいなあ、千空は。

そう思いながらニコニコしてたらキメエって言われた。酷くない?

 

「どこがだよ、突然ニヤニヤし始めやがって、暑さに頭でもやられたのかと思ったわ」

「口の悪いのは相変わらずだな、千空。それでメガネとはなんだ?」

「ぼやぼや病の矯正用具かな、分かりやすく言うと。メガネを作るとして、じゃあフレームはどうしようか?」

 

被り物も可愛いけどお顔も可愛いんだから隠すのはもったいない!

そう主張すればコハクの全面同意を得られたので二人がかりでスイカの説得にかかる。

 

「スイカはめっぽう可愛いのだから自信を持って顔を出していいのだぞ」

「ぼやぼや病がどうにかなれば転んだりもなくなるからね、被り物も必要なくなるよ」

「えーと、スイカはなんか落ち着かなそうだからコレつけたままがいいんだよ」

 

くっ、雰囲気が必死過ぎたのかスイカはドン引きでそう言って被り物を選んでしまった。

 

「女の可愛いに対するあの必死さはほんと分かんねえ。どうでもいいじゃねえかそんなの」

「あなたの鉱石集めと同じものよ、それが好きだからいっぱい見たいの」

 

クロムの疑問に我ながら見事な返しができたと思う。

その証拠に『おおっ』と言いながら手をポンと叩いている。

 

「オメエの場合可愛いがりの矛先を逸らしたいのが一番だろうが、スイカを捧げて逃げるつもり満々じゃねえか」

「千空、私はそんな事考えていないわ。ただ、同じ境遇の子が欲しいだけなの」

 

あのちっちゃい、ちっちゃいとほぼ同い年連中に可愛いがられるのは精神的に辛いのだ。

せめて共感できる相手が欲しいと思うのは当然じゃないか。

 

「巻き込もうとするのは、うん、よりタチが悪いと思うよ」

「村の女性達にコハクの事どう思うと聞かれた時、話を逸らせたらいいなと思った事は?」

 

司がツッコミ入れてきたのでこの頃の奴の悩みの種をぶつけて黙らせる。

この件に関してコハク曰く、

『村には新しい血が必要なのだろう? 司が相手なら悪くはないからな、私から皆に注意する気はないぞ』

だそうで。

司自身もコハクが嫌いな訳ではなく、友人であると思っていたら突然『交際相手としてどうか?』などと聞かれて困っているみたいな感じだろう。

キッパリそんな気はないと言えば話は終わりになるのだが、女性に対し失礼と思っているんだと思う。

後、単純にコハクは美人だし、スタイル抜群の上サッパリした性格で付き合いやすい。

これほどの良物件をスッパリ切れる漢はもう既に心に決めた相手がいるか、ホモくらいのものだろう。

村の男達? 自分より狩りがうまい女を嫁にしたら存在意義を見失うぞ。

 

「レンズ用のクリスタルガラスを作ったら炉が空くな、こっちで研磨してる間に銅板作成しといてくれ桜子」

「ん、了解。パワーチームはこっちってことね」

 

司とコハクとマグマがいれば銅板もあっという間にできあがるだろうし、銅板の研磨はどうしようかな?

クロムコレクションを漁っていいのがなかったら、黄鉄鉱辺り取ってきてもらおう。

最悪失敗したガラス使うかな? 割れやすいから危ないかなぁ、などとポツポツ考えるのであった。

 

 

銅板作成は少々のアクシデントが起きたぐらいであっという間に終わった。

そう、ちょっとヒートアップし過ぎたマグマが銅をぶっ叩き過ぎで穴を空けたため、もう一度溶かす羽目になったぐらいである。

先に司に見本としてやらせたのがまずかった、司より速く終わらせようと対抗心むき出しでやったため薄くなり過ぎ、それを直そうと周辺を叩いて戻そうとして歪みが出て、そこからバリバリと割れてしまった。

 

「おかしかったら笑え、馬鹿な事やったって自覚ぐらいあるからな」

 

彼なりに反省しているのだろう。両腕を組んでムスッとしながら、私だけに聞こえるよう言ってきた。

 

「そう? 対抗心を持つのは悪い事じゃないでしょ、ただし制御できていたら、だけど」

「それができてなかったんだからあんな無様を晒したんだろうが!

いいから、笑って馬鹿にしろってんだよ。裏でこっそりやるんじゃなく、今ここでよお」

 

ああ、陰口言われるよりかは今ここで言い終えさせようってことか。

 

「感情の制御に関してどうこう言う気ないわよ、だって完璧にできてる人なんてほぼいないもの。

私だって、みんなだって完璧じゃないのに貴方だけ笑われるのっておかしくない?」

 

予想外なことを言われたって顔してるな、そんなに変なこと言っただろうか?

 

「テメエは俺を嫌いじゃなかったのか? 嫌いな奴が無様な失敗したんだぞ? 笑って馬鹿にするのが当たり前じゃねえのか」

「あー、そういう人もいるけどさ、今は共同作業中の相手なんだから苛つかせたら作業効率下がるじゃない。それよりも早く終わらせる為にフォローした方がいいと思うの」

 

感情は感情、やるべき事はやるべき事。分けて考えないと効率が悪くてしょうがない。

大体本当に嫌いな相手ならさっさと作業終わらせて近くから去った方がいいではないか。

 

「訳がわからん、テメエはやっぱ変人だ。俺が十分強くなって司をぶっ飛ばしたらテメエとはそれっきりにすんぞ」

「わお、とっても喜ばしいわ、そういう方がやりやすくていい。ネチネチと陰口や嫌がらせされるよりよっぽど好ましいと思う」

 

コイツみたいな暴力至上主義といつまでも付き合っていなきゃならないよりよほどいい。

 

「貴方が強くなれば私にもメリットあるんだから、それだけで十分よ。

むしろそれ以上貴方との付き合いいらない」

「メリット? 俺が強くなってなんでテメエにんなもんがあんだ」

「ガーネットが喜ぶじゃん、他にも村の女性陣にはいい事じゃない。ほら、十分すぎるメリットでしょ」

 

朗らかに笑って見せればますますしかめっ面。

 

「貴方は労働力を払って、私は貴方が強くなるのを助ける。それだけのビジネスライクな関係なんだから目的果たしたらそれっきりって言うのは当然よ。わざわざ宣言する必要ないわ」

「ビジネスライク?」

「ああ、商売がないから伝わらないか。そうね、それぞれの交換材料出し終えたらそれで終わる関係って感じかな。貴方は労働力を、私は強くなる方法ね、今回の場合。だからもう十分強くなったと思ったらそれで終わりにしていいわよ」

 

そこまで言ったらマグマが何故か真剣な顔になった。何か癇に障る事言っただろうか?

コイツだって私の事訳わからないって思ってるんだから関係が切れるのは歓迎すべきことのはずだが。

 

「俺は、テメエが気に食わねえ。特に、一歩引いて見ているような舐めた態度を俺にする所がな」

「うん、わかった。じゃあ、どうする? 司に実践だけ見てもらう?それでも十分だと思うよ」

「ふんっ、バカ言え。それだけで勝てるほど甘くねえだろうが。

だから、テメエのいうビジネスライクで我慢してやってやるよ」

 

そう言ったマグマの顔が本当に不本意そうでそれを見てつい笑ってしまった。

 

「おい! 何がおかしいんだテメエ!」

「ごめんごめん、バカにしたとかじゃなくて、嬉しくなっちゃって。

話がちゃんとできるってだけなのに、石化前はそれもなかったからさ。貴方みたいなタイプとは」

 

理性的に話せる相手の貴重な事、貴重な事。

笑顔を浮かべながら右手を差し出して握手を求める。

 

「貴方が満足するまではよろしくね」

「はんっ、仕方ねえからよろしくしてやるよ!」

 

その手をマグマがしっかりと握り返して私とマグマの関係性は決まったのだった。

手はやっぱり痛かった、少し握力鍛えるべきだろうか?

 

 

銅板作成も無事終わり、発電機も組み終わって一つ問題が発生した。

二人でタイミングを合わせる必要があるのだが、今のメンバーで息の合うコンビって誰と誰かという事だ。

 

「コハクに俺が合わせるのが一番だと思う、マグマでは対抗心が強すぎるからね。

うん、後のメンバーでは悪いが力不足だと思う」

「まあ、それしかねえか。俺もクロムもパワータイプじゃねえし、他二人は論外だしな」

 

まあ、メンバー考えると、超人、ゴリラ、雌ゴリラ、ヒョロガリ×2、子供、子供並み。

うん、選択の余地なしで超人と雌ゴリラのコンビだな。

マグマがちっと舌打ちするが、やらかした後だからかさすがに何も言わない。

 

「んじゃ、発電所のテスト起動と行くか。

とうとう世界の根幹のエネルギー、電気の爆誕だ。唆るぜ、これは」

 

 

駄目でした。

いや、回した当初はよかったんだ。

だが、だんだんと速度を上げていくとがたつき初めてそのままバキッと……、

壊れた装置を見る私たちの顔は前衛芸術のようになっていたと思う。

 

「ククッ、まあ仕方ねえ、実験に失敗は付き物だ。原因の究明やって壊れた部分直してまたやりゃあいい」

「すまない千空。しかし、原因は装置より人だと思う。

やってみて思ったが、息をピッタリ合わせないと難しいよ、これは」

「つっても、息ピッタリで身体能力高い二人ってなかなかいねえぞ」

「村で一組心当たりあるけど……」

「んじゃ、そいつら勧誘しに行くぞ。後、コハクにマグマ! 喧嘩終われ! 無駄な時間と体力使ってんじゃねえよ」

 

え? コハクとマグマ?

装置が壊れてマグマが大笑いしたからコハクがキレて大ゲンカですよ。

司がなぜ止めなかったのか後で聞いたが、

『実力が近いもの同士でやった方が強くなりやすい、怪我をどちらもしないように見てはいたよ』

だそうで。

そういうところはやはり格闘家なのだなと思いました、軽く引きます。

 

 

そうゆう訳で目的の相手の勧誘のために橋の手前まで来たのである。

 

「何の用だ余所者たち、村に入るのなら勝手にしろ。村長から許可は出ているから、止めるつもりはない。それがルールだからな」

「もう、金狼は堅物なんだから。僕らに何か用事なんでしょ、わざわざ来たって事はさあ」

「ああ、おめーら二人にちっとばかし頼みてえ事があんだよ」

「門番は問答しない、それがルールだ。だが、貴様らが勝手に呟くのなら好きにするがいい」

 

やって欲しい事とその目的をざっと説明すると金狼は予想通りの反応。

予想外だったのは銀狼の方だ、意外な程乗り気だったのである。

 

「いいじゃん、やろうよ金狼。門番の役目終えた後でいいんだからさあ」

「駄目だ、そんな妖しげな妖術に手を貸すなどごめんだ!」

「ルリちゃんの病気治すのに必要なんでしょ? だったらいいじゃん、十分村の為だよ」

 

怪しい、何が目的だコイツ。

下手するとマグマ以上に利己的で目の前の欲望に忠実な奴が村の為とか怪しすぎる。

いや、ある意味悪人ではなく普通の人なだけなんだろう。

けど、いや、だからこそ無条件に信用できるかというと、NOと言わざるを得ない。

でもまあ金狼が納得しそうだし、ありがたいと思おう。

金狼へのだめ押しの材料もあるし。

 

「確かに巫女の病気を治すのは村の為であるし、色々村の助けになってくれているのも事実だが……」

「でしょー、助け合いだよ、助け合い。銅板ってのを回すだけなんだからさあ、いいじゃん、ねえ?」

「そうしてくれると助かるのよね。あ、そういえば金狼、貴方のぼやぼや病どうにかできるけど、どう?」

「なんのことだ、俺はぼやぼや病などではない」

「白金さんから相談されたんだけど」

「母さん……!」

 

額を押さえ苦悩の表情を見せる金狼。

銀狼はますます調子に乗って囃し立てる。

 

「ほらほらぁ、母さんのお願い聞いてもらう為にもさあ、やろうよ金狼〜」

「……仕方あるまい、お前たちに一時協力しよう。

だが、勘違いするなよ! お前たちを信用した訳ではないのだからな!」

「ああ、わーってるって、ルリって女を治すまで信用しろなんて言わねえよ」

 

とりあえず無事発電できそうでなによりである、と思っていた矢先に事は起きた。

彼らが門番やる時間が終わった後、広場に向かう最中のことである。

移動中金狼の死角になるような場所から銀狼に手招きをされた。

司達は気づいてるから何かあっても助けは入りそうだし、いいかって思い銀狼の手招きに応じる。

もちろん司に小声で何かあったら大声出すからと言ってからだ。

そこらの木の陰に入ってから入念に周りに人がいないのを確認してか、真剣な目で銀狼が話し出す。

 

「記憶力がいいんだよね、桜子ちゃんは」

「? ええ、そうだけど?」

 

完全記憶能力だからな、全て覚えている。

この頃は持ってて良かったって思えるようになってきたぞ。

 

「絵も描けるんだよね!?」

「できるけど、なに? なにをしてほしいの?」

 

そう口にはするけど大体分かった。

漫画で描かれた性格とほぼズレがないのなら……、

 

「裸のお姉さんの絵を描いてください!」

 

小声でもここまで力強く声を出すのってできるんだなあ。

流れるような綺麗な動きで土下座をかます銀狼の前でつい現実逃避したくなった私であった。

しかし、この目の前の土下座するお馬鹿は現実逃避してもいなくならない。

さてどうしてくれようと悩んでいると頭だけこちらに向けて真摯に訴えてくる。

 

「描いてくれるなら僕だけじゃなく、金狼も君らに全面協力させるから、是非お願いします!」

 

うん、声と顔は真剣だね。

だが気づかれないとでも思ってた? 下着を覗いたのはわざとだろ貴様。

私相手で良かったな、コハクとかにやってたらそのまま頭踏まれただろうし、他の子だったら村中にやったことばらまいてたからな?

うん、これはでっかいお灸を据えねばならないな。

 

「銀狼、絵を描いてもすぐ金狼にバレて捨てられるよ?

話は変わるけど、昔は文字って言って言葉を書き残す事をしてたの」

「言葉を描いて残す……? はっ! もしかして、夫婦や恋人との間でやるような事でも!?」

 

それ関係にだけ鋭すぎだろ貴様。

長々と話したい訳じゃないからいいが、普段からその鋭さを女性相手に発揮してたらもっとモテてるぞきっと。

 

「ええ、そうよ。いい事を文字で書いて渡しますので、千空あたりに読み上げてもらって?」

「ホント! 読んでくれるの!?」

「最初の方に千空あてに、読み上げるように書いておくから大丈夫、きっと最後まで読み上げてくれるよ」

「ありがとう! 千空だって男だもんね、そういうの興味あるもんね! よーし、力が漲ってきたぞー!」

 

そういうのは興味以上に面倒くさいと思っているだろうけどね!

まあ安心してほしい銀狼、私は嘘をつく気はない。勘違いさせる気は満々だけどね!

大喜びでみんなと合流しようとしている銀狼に私はいい笑顔で数歩距離を空けながらついていくのだった。

 




『銀狼は普通の男の子なんだから手心加えてあげて』ですって?
桜子の周りの男性を考えると、彼女の中の男性評価基準が分かるかもしれません。

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