イシからの始まり   作:delin

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銀狼を狂言回しに使いすぎかなあ。
三枚目キャラとして使いやすいんですよ、彼。


彼女の事

約3700年ぶりの電気の光がこの星の上に生まれた日の翌日、村で二回目の製鉄が始まった。

作業のきつさは十分知られていたが、報酬にふるまわれる料理の旨さと村の若手の中心人物であるマグマや金狼、コハクらの積極的参加、目的である村の巫女ルリの治療のためなどの理由により参加を渋る者はいなかった。

特に張り切ってやっていたのは銀狼で、周り全てが珍しい事もあるものだと感心するほどだった。

その姿を見てちょっとは手心を加える事にした桜子。

騙す事への罪悪感か頑張りへの報酬なのか……。

目立っていたのは彼だけではない、むしろそれ以上に目立っていたのはマグマと司である。

二人だけで1500度を超える程であったため、慌てて千空と桜子が炉がもたないと緩めさせる事態に。

それらのおかげで無事製鉄は完了、村の職人カセキと千空の監修によって鉄製の道具が完成したのであった。

 

「それじゃあ、冬を越すまでこちらに合流でいいのね?」

「ああ、ビン詰もできるようになりそうだからな。復活液さえありゃこっちで冬越した方がいい」

「うん、分かった。じゃあ今ある硝酸の分だけ復活液を作ってある程度のグアノを回収、滴り落ちる分は大きな容器を下に置いて溜めておくでいいのね」

「おう、こっちに回収すんのはそれと腐るもんだな」

 

製鉄が終わればあちらの拠点を一時放棄する旨を伝えるため桜子とコハクが船で向かう。

コハクを選んだのは桜子、消去法で決めたらしい。

村の船で行くなら村人が船頭を務めた方がいい、距離があるので体力が必要となると、マグマとコハクが候補に残り、桜子としたら当然選ぶのはコハクという訳だ。

 

「この後は千空が金狼のメガネ作りで、カセキさんが他のガラス容器作り?」

「後、マグマと司が家作りだな。二、三軒建てりゃあひとまずいいだろうが、まず森を切り開くとこからだかんな。さっさと始めねえとな」

 

そう言った直後、突然木が倒れる音がした。

 

「あっちは司がマグマ連れてった方だな」

「そんなに時間経ってないよねえ、木を切るの早すぎない?」

 

後、木の幹に刃を入れる音がしなかったんだがと思っていたら、また木が倒れる音がする。

 

「まさか、一撃で木を切り倒してるの!?」

「倒れる音しかしねえって事は、そういう事だな。相変わらず武力って分野では他の追随を許さねえ奴だな、司は」

 

心底呆れて額を押さえる千空とポカンと口を開けて音の方を見ていた桜子の元に司達が戻ってきた。

どうも使っていた石剣が司の力に耐えられなかったようで、折れた、というか砕け散った根元だけを司は持っていた。

 

「出発までにある程度切り開いた状態を見せるつもりだったんだが、うん、失敗してしまったよ。

剣に負担をかけすぎた、氷月に聞かれたら笑われてしまいそうだ」

 

朗らかに笑いながら話しているが、後ろのマグマは顔色が悪い。

自分の目指す頂きがどれだけ遠いかを見せつけられたのだ、心折れないだけでも十分賞賛に値するだろう。

 

「くそっ、まだ格が違うってのをみせつけやがってよお」

「そうよね、石剣で木を一撃でっておかしいよね」

「あ? 何言ってんだテメエ。木を一撃でぶちおるのなんざ、あいつならできるに決まってんだろ。

俺はもちろん金狼だって、たしかアルゴだってやれるぞ、んの程度」

 

目をパチクリさせて困惑する桜子。

その返しは想像もしていなかったようだ。

 

「あの野郎、木を切っていやがった。しかも、新品でもねえ使い込んだ石剣でだ。さすがに俺にはやれる気がしねえ」

「普通じゃないよ、金狼も、マグマも、当然司も~。木は斧で少しずつ切るものだってば」

「うむ、その方がよい木材になるからな。ただ今回は家を建てる空間を確保するのが目的だ。

木をただの障害物と考えれば司の行動も無しではないな」

 

倒した木の枝を落としていたのだろう、青々とした葉のついた木の枝を持って金狼達も合流してきた。

 

「マグマ、貴様は何故こちらを手伝わん。剣の代わりを取ってくる司はともかく貴様は手すきだったろうが」

「ちっ、相変わらず口うるせえ奴だ。どうでもいいだろうが、そんなもん」

 

金狼の小言にバツの悪そうな顔で答えるマグマ。

その様子に桜子が笑って指摘する。

 

「司の強さに度肝抜かれたんでしょ、それでつい枝払いを忘れたせいでバツが悪いってとこじゃない?」

 

図星をつかれたマグマが嚙みつこうとするが、ささっと千空の後ろに逃げ込む桜子。

当然追うマグマと逃げる桜子。巻き込まれた形の千空はウンザリした顔である。

そんな様子を見て司は喜びを隠せなかった。

 

(彼女の笑顔が自然に出るようになった、いや、戻ったと言うべきか。

俺を起こす前はあんな風だったのかな? うん、今の方が年相応だろう。

俺が起きた頃はずっと警戒をしていたから、あんな姿は初めて見るかもしれないな)

 

司が起きる前、大樹に慣れた辺りではそうであったとは千空の言である。

まあ、大樹の場合単純極まり無いので一日程度で慣れたそうだが。

ちなみに千空は気づいていないが、彼相手の場合最初の話し合いが終わる頃には警戒ほぼ0であった。

どれだけ、彼女が信じられる事に飢えていたかが分かろうというものである。

だから、彼女は行く事に決めたのだ。

下手をすれば既に敵地と化しているやもしれない場所に。

虎口に飛び込む事になるかもしれない、そう思う心を深く沈めて、普段通りに振舞って。

マグマをからかい、千空に迷惑そうな顔をさせ、司に微笑ましく見守られる。

そんな光景をずっと続けていたい、その為に氷月と対峙するのだ。

いつも通りのじゃれ合いは、出立の準備が終わったとのコハクからの伝言を、スイカが伝えに来るまで続いた。

 

 

桜子の勧めでスイカは料理を教わると言って村に残った。

桜子とコハクは先日出立したばかりだった。

その日倉庫前の広場には男性しかいない状態であった。

銀狼、彼がその欲望を叶えるのには絶好のタイミングであると彼には思えたのだ。

それが桜子がセットした状況だとも知らずに。

 

「千空ー! 君にお願いがあるんだ!」

「あん? 銀狼じゃねえか、なんだ俺にお願いって」

 

カセキに作ってもらうガラス製品の説明をしていた千空が疑問の声をあげ振り向く。

銀狼は欲望でギラギラした目で、千空に桜子から渡された薄く加工された紙がわりの皮を渡した。

 

「これを読み上げてほしいんだ。ホントは自分だけで読みたいけど文字ってわからないから、千空にお願いしたいんだ」

 

訝しげな顔をしながらも皮を受け取る千空。

そこに書かれている内容を読んで、彼なりに納得して読み上げる事にしたのだった。

 

「んじゃ、読み上げっぞ。『銀狼へ。最初に言います……

 

 

読み上げた後、そこには夢敗れたりと言わんばかりの姿で倒れる銀狼がいた。

 

「そこまで期待してたのかよオメー、欲望に忠実に生きすぎだろ」

「だって! だあって! 期待するじゃん! いい事書いてあるって言われたら、恋人同士でする事を書いたものがあるって言われたらさあ!!」

 

千空も鬼ではない、彼の名誉に関わる、というか犯罪行為については読まずにいた。

やられた方がそれほど気にしていないようなので責める気は千空にはない。

が、どうも桜子を妹とだぶらせている司はどうだろう?

性根を叩き直されるで済めばいいが。

 

「桜子に何頼んでんだよ銀狼、怒るに決まってんじゃねえか、んなもん」

「ワシは桜子ちゃんの事あまり知らんけど、女子にそんなものお願いしたら怒るに決まっとると思うよ」

「絵を描いてって土下座してお願いしたら、笑顔で文字で書いてくれるって言ってくれたんだよお! それなのに、こんなのってないよ!」

「ほう、何がないんだ銀狼」

 

気付けば後ろに、マグマと共に司に挑んでいたはずの金狼がいた。

どうやら挑戦者の片割れが気絶したらしく、遠くにはマグマを担いでいる司の姿が見える。

メガネも作ってもらい間合いを上手くとれるようになった金狼とスポーツトレーニングの実施で着実に強くなっているマグマ。

だが、司相手では二人掛りでハンデありでもあっさり敗北してしまったらしい。

 

「や、やあ金狼。なんでもないよ、うん、何にもないさ」

「桜子にエロいもん書いてもらおうとして、直すべきとこ大量に出されたんだよ、こいつ」

「クロム! なんで喋っちゃうの! ……じゃ、僕はちょっと走り込みしてくるね!」

 

ほぼ悲鳴のような声をあげ、即座に逃げ出す銀狼。

 

「興味深い事を話していたね、俺にも詳しく話してくれないかい、銀狼」

 

しかし回り込まれてしまった。

というメッセージが千空の頭に浮かぶ状況だった。

マグマは、と見れば丁寧に置いてもらったらしく、気絶から戻っていない。

それなりの距離があるはずなのだが、さっきの銀狼の叫びは聞こえていたのだろう。

銀狼が逃げる体制に入ったのを見て、即マグマを地面に置き回り込む。

書けば一行だが、できる人間が何人いるのやらである。

 

「千空、それを俺にも読ませてもらえるかい?」

 

いい笑顔で右手をこちらに差し出す司。

なお左手はガッチリ銀狼の肩を掴んでいる。

そっと物を差し出して心の中で銀狼の冥福を祈る千空であった。

 

 

銀狼がボロ雑巾のように横たわる傍ら、男達は集まって話していた。

千空が疑問をクロムに投げたのだ、性関連で桜子が怒るのか? と。

 

「おう、コハクと一緒に喋ってる時によお、閨の作法は知ってるのかってコハクが聞かれたんだよ」

「ああ、14になったら村の同性の大人に習えと言われる奴か」

「銀狼の奴は12で聞こうとしてしこたま怒られたんだったか金狼?」

「マグマ、今はそれは関係ない。すまないが黙ってくれ」

「んでコハクが知らないって言ったら桜子の奴めちゃくちゃ怒ってなあ、ルリに教わりに行くか今ここで私に習うか選べって迫ったんだよ。

コハクはルリに教わるっつったけど、今度は俺の方に飛び火してよ、慌ててコクヨウのおっさんに習うって言ったわ」

「ふむ、前の巫女様はコハクが14になる前に亡くなられていたか、そういえば」

「クロムよう、テメエなんで聞いてねえんだ? ガキ作んのは重要だろうが」

「マグマ、 クロムの件も後でいい。俺も千空も考えをまとめたいんだ、頼むから黙っていてくれ」

 

クロムが答え、金狼が補足し、マグマがまぜっ返したのを司が止める。

なぜかそんな流れができていたが今度はカセキがポツリと呟いた。

 

「嫌なことでもあったのかのう、そんなに怒るなんて」

 

その呟きに司が凄い勢いで千空の方を見る。

 

「千空、まさかとは思うが、桜子は……!」

「安心しろ、それはねえ。もしそうだったら、男に近づけねえだろうが。

性関連に触れるのも嫌になるはずだが、気にしてる様子はなかったしな」

 

最悪の予想をしてしまった司に即否定をする。

そうだ、それならば男の横で眠れるわけがない。

だが、それに近い事なら?

前世の記憶があると言っていたが、……前世が女だったと言っていたか?

もし、前世が男で、その性癖が性を知らない事に危機感を覚えるようなものだったなら……、

 

(あー、クソッ。俺もまだまだ詰めが甘えな、先入観でそのまま前世も女だったと思っちまってた、んなこと一言だって言ったかってんだ。

漫画知識はともかく、前世に関しちゃもうちょい聞いとくべきだったか?

……いや、ちげえ。こうやって少しずつ分かりあっていくってのが本来の人間関係ってもんだろ。

余計な情報のせいで考えすぎただけだな、これは)

 

そこまで考えたところでふうと一回息をついた。

 

「司、とりあえずオメーの考えているような事はねえ。

俺が知ってる桜子の事で心当たりといえる原因があるからな、そっちのほうが可能性が高え。

そいつをしゃべるのは本人の許可が欲しいからちいと厳しいが、酷い目にあったとかじゃない事だけは保証するぜ」

「そう、か、君がそう言うならそうなのだろう。うん、少し安心できたよ」

「ケケッ、さっきのオメーの雰囲気俺と桜子を脅しつけた時とそっくり……」

 

そこまで言ったところでふと頭をよぎる言葉があった。

『腹心の部下が裏切りからの共闘で』

ぶわりと嫌な汗が噴き出る。

 

「おい、司! テメエが起こした中で、石化前一番信頼してたのは誰だ!」

「…? 氷月だが、それがどうかしたのかい?」

「そいつの思想はどうだった! 裏切るとかあるか!」

「いや、待ってくれ千空。話が見えない、氷月が裏切るなんて……」

 

そこでようやくその可能性に思い至った司。

冷や汗をにじませながら、言葉を絞り出し何とかその可能性を否定しようとする。

 

「目覚めてすぐにその辺りは話したし、分かったと言ってくれた……」

 

しかし、考えれば考えるほどその可能性が否定できないものに、否、高まっていくばかりである。

 

「司、テメエをこっちによこしたのは誰だ? 大樹や他の奴、いっそそっちも手紙でよかったはずだな? そうせずにテメエを送り出した理由、思い至ったんだろ。そいつはありうるか?」

 

ありうる。もはや否定できない。

驚愕に口元を押さえ震える司、そんな司の様子にただ事ではないと理解した他全員。

 

「千空、よくわかんねえけど桜子があぶねえんだな?」

「ああ、その可能性が高え。だが、あっちは船だ。もう着いてる頃だ。

復活液の生産を待ってくれてりゃあいいが、正直どこで仕掛けてくるかわからねえ。どうだ司」

「氷月が仕掛けるなら確実を期すはずだ、彼の性格なら不確かな要素はつぶしてからやると思う」

「なら桜子の性格や急所をある程度把握してから仕掛けるか?

復活液の在庫はほぼなしのはず、それなら少しは時間があるかもしれねえ」

「こういう時は考えてたって仕方ねえぜ千空! 行動あるのみだ、間違ってたらそんときゃそん時だぜ」

「へっ、頼もしい事言うじゃねえかクロム。

それじゃあ桜子救出作戦スタートと行こうか!」

 

おう! と力強く応じる司、クロム、マグマの三人。

 

「まだ司に勝てるほど強くなれてねえからな、今あいつにいなくなられちゃあ困る」

「桜子は同じ頭脳労働チームの仲間だ、仲間を見捨てるほど落ちぶれちゃいねえぜ俺は」

「これは俺の身から出た錆だ。これで誰かを傷つけるような事には決してさせない」

 

金狼は黙ってその様子を見ていたが、熟考の末やがて口を開いた。

 

「俺たちも同行しよう、薬作りや料理教室で貴様らが村のために動いてくれたのは事実だ。それに……」

 

そこで言葉を切り、金狼が珍しく笑顔を見せた。

 

「母さんには逆らわない、それが家庭のルールだからな」

「おほー、男の子じゃのお。おなごを助けに皆で力を合わせるなんてまるで物語みたいじゃない? 

ワシはどうしようかのう、行ってもいい? 爺じゃから役に立たんかもだけど」

「来てえんなら来いよカセキ、あの何でも一人で抱え込む馬鹿を叱りによ」

「んじゃ、許可も出たしついてっちゃおうかのう!」

「まずはコクヨウのおっさんに船を使う許可もらってくるぜ! 桜子がヤベーならコハクもヤベーだろ。

村人のためなんだから村のもん使ったっていいよな!」

「よし、ソッコーで出発すんぞ。各自自分の準備整えて船着き場で合流だ、いいな!」

 

今度は全員が『おう!』と返答を返し、各々の準備のため散っていく。

千空も自分の準備のため走っていく、今度は命なんて賭けさせない、今度も止めて見せる。

決意の中男たちは走り出すのだった。

 

 

そして拠点へ向かう船上にて、

 

「待って! なんで僕まで巻き込まれてんの!? 降ろして、僕を家に帰してえぇぇ!!」

 

金狼によってついでに乗せられた銀狼の悲鳴が響いた。

 

 




銀狼へ渡した物の全文がこちら。

これを読み上げる千空、又は司へ もし金狼が近くにいたらカッコ内は読み上げないであげて下さい。
銀狼へ 最初に言っておきます、これは貴方が欲しがった性的なものではありません。
ですが、ここに書かれた貴方の問題点を直せば女性人気は上がる事は約束します。
まず村の女性たちからの貴方への評価内容ですが、
『そこそこ強く顔も悪くないが、性格がちょっと』
『土壇場で逃げ出しそう』『家事を手伝ってはくれなそう』
『むしろ狩りさえサボりそう』『金狼任せで逃げすぎ』『美味しいものは自分一人で食べちゃいそう』
『調子に乗るときすさまじくウザい』等々、はっきりと言って評判悪いです。
後、致命的なのが透けて見えるその下心です。
男性のチラ見は女性からすればガン見、という言葉が旧世界からありますが、貴方の胸や腰、お尻などへの視線は全てバレています。
さすがに小さすぎる子には向けていないようですが(、私ぐらいでしたら守備範囲内だったようですね。
あの時、下から覗いていた事気付いていますよ)。
村で一位二位の人気を争いのはマグマと金狼です。
二人に共通するのはとにかく強さ、強ければ村での人気は出ます。
あの二人に及ばなくとも鍛えれば十分チャンスはありますし、普段からコツコツと努力する姿を見せていれば自然と人気は上がります。
『顔は悪くない』『強くはある』との声もありますのであとは貴方の努力次第です。
貴方の奮起を期待します。

桜子の書いたものは以上。

以下はノイズであり知らないでいい事柄である。
スクロールする際は自己責任で。













桜子の前世の主な性癖:無知シチュ
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