イシからの始まり   作:delin

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騎兵隊の到着だ!

時間はわずかに遡る。

千空達村からの救援部隊がついたのは夜遅くになってから。

桜子がちょうど洞窟の前まで運ばれた辺りの時であった。

すぐに彼等の到来に羽京が気づく。

 

「誰だ! ……って司!? なんだってこんな遅くに?」

「羽京か、すまないが説明している暇はないんだ。氷月と桜子は今どこにいる?」

 

表面はなんとか取り繕っているが、額に浮かぶ大きな汗が彼の焦りを物語る。

只事ではない様子と、今上がった二人の名にすぐ事態を察する羽京。

この時間ならば眠っているはずの桜子の場所へとすぐに先導を始める。

 

「桜子の寝床はこっちだ、付いてきてくれ!」

「助かる!」

 

言葉少なく受け答えし寝床に急ぐ二人。

ノックもなしに扉を開けるが、そこには他の女性陣が眠るのみだった。

 

「なんだい、こんな時間に! 羽京! あんた夜這いでもしようってのかい!」

 

一番に反応したニッキーが乱暴に扉を開けた羽京を叱りつける。

が、すぐに彼等の尋常でない様子に表情を引き締めた。

 

「何かあったんだね、話してくれるかい?」

「すまない、こんな非常識な時間に。桜子は今どこに?」

 

その司の問いに答えたのはいつの間にか起きていたコハクだった。

 

「桜子はそこに寝ていたはずだが、いないな。だが、まだ少し温かい。遠くには行っていないと思う」

 

ならばと氷月の方に向かうが、やはりもぬけの殻。

そしてその確認が終わる頃には騒がしさに全員が起き出してきていた。

 

「ごめん、ちょーっと説明が欲しいかなー。なんで司ちゃんがここにいるのとか、隣のツンツン頭の子は誰? とか。急ぎの時に悪いんだけどねえ、簡潔にお願いできる?」

「氷月と桜子が対決、あるいは桜子が誘拐のどっちかだ。おそらく前者だがな、状況によっちゃ後者へ移行すんだろうな」

「ジーマーに簡潔で助かるよ。んじゃあ質問、知られて不味い場所はある? 氷月ちゃんの性格ならプレッシャーを与えるためにそこを対決場所に選ぶんじゃない?」

「なら、あの洞窟だな。あそこを抑えられるのが一番ダメージがでけえ」

 

そこまで話したところで自己紹介もしてない事に気付いた二人だが、

 

「時間が惜しい、挨拶は後でいいな? 浅霧幻」

「もちろんOKよ千空ちゃん」

 

一秒が貴重であるという認識によって、お互いの名前を呼ぶだけで自己紹介を終える。

 

「司、聞いてたな? ワリイが先行してくれ、俺らは全員でまとまって向かう」

「理由を聞いてもいいかい?」

「氷月を止められんのは誰だって話だ、司以外だと戦闘員全員でワンチャンあるかだろ、司と同格ならよ。

だから司とそれ以外で行動する、他に何か疑問は?」

「いや、ないよ。うん、では先に行くよ」

 

そういってすぐに松明片手に飛び出して行く司。

そして千空の元に集まるのは戦闘可能な六名、残りのメンバーはゲンの元に集められた。

 

「浅霧幻、こっちの事情説明はそこの鉢巻締めたクロムに聞け。

まとまったら他のメンツに説明しといてくれ」

「リョーカイー、んじゃ説明よろしく、クロムちゃん」

「お、おう、分かった。千空、こっちでの説明はしとくからよ、桜子の事は頼んだぜ!」

「ああ、任せとけ。バカの首根っこひっ捕まえて連れてくるぜ」

 

千空の先導に付いて行くコハク、マグマ、金狼、銀狼、羽京、ニッキーの六名。

 

「あんたら、走りながらでいいから名乗るぐらいしな!」

 

ニッキーがなぜかほぼ事態を理解できずについていっているが、説明を求めてないのは急がなければならない状況と判断してのものだろう。

そして当然残された者達は困惑を隠せない。

いきなり別の場所に居たはずの司が氷月を追い始めたのだ、困惑しない方がおかしい。

 

「どういうことなんだ、状況がさっぱり分からん! すまん、ゲン、説明を頼む!」

「はいはい、俺も全部を把握してる訳じゃないからこっちの事だけになるけど説明するよ。

まず気づいてなかったと思うけど氷月ちゃんは今の方針、人類全員起こすのには反対だったのよ。だけどこっちの方針覆すには力、というか人数が必要でしょ、で、桜子ちゃんは復活液の作り方知ってるでしょ? そしたら彼女から聞き出すか彼女自身を引き込めば楽だよね。

それで今氷月ちゃんが桜子ちゃんを連れってっちゃった、ていう状況かな」

「大事件じゃないか! すぐに向かわなくては! ってどこに向かえばいいんだー!」

「落ち着いてー大樹ちゃん、だから司ちゃん達が向かったんでしょ。

俺らはもうちょっと事情を理解してから行こうね。んじゃクロムちゃん、そっちの知ってる事をよろしく」

「おう、ってもそこまで変わんねえぜ。千空が言うにゃ桜子がなんか知ってて、あぶねえことを一人でやろうとしてるっぽいってくらいだぜ」

 

他の人達が危ない事というところに注目したその言葉に、ゲンだけは違った。

 

「へえぇぇ、『何か』ねえ、面白そうじゃない、彼女」

 

ゲンとしては桜子に少なからず思うところがあった。

何せ自分の予定表を木端微塵に粉砕してくれた上に、与えた警鐘まで完全無視された形になったのだ。

隔意が多少程度で済むのならば良き心を持っているといえよう。

 

「んじゃ、情報を握ってるのは千空ちゃんと桜子ちゃんの二人ってことだね。

それじゃあ聞きに行こうか、みんなで『あの洞窟』まで、ね」

 

だが、それ以上に面白そうなものを抱えていそうだ。

あの子に対するスタンスを決めるのはそれを聞いてからでもいいか。

そう思いながら大樹に洞窟までの先導をお願いするゲンであった。

 

 

一方先行して洞窟に向かう司だったが、案の定ほむらによる妨害にあっていた。

もちろん直接戦闘という面において一矢報いるどころか、鎧袖一触にされる程の力の差があるのはほむらも承知の上である。

なので、司が止まらざるを得ない状況を作り出すことに終始していた。

 

「何を考えている! 森の中で火をつけるなど!」

 

司が武器を一閃させ燃えていた草を薙ぎ払う。

そして素早く火を踏み付け消火してゆく。

そう、森の下生えに火をつけていったのだ。

もちろん、司が来る事を想定していた訳ではない。

羽京やゲンが氷月の邪魔をできないように、準備してきたのだ。

そのため実は下生えはかなり刈り取られており、放置したとしても燃え広がる可能性は低い。

しかし、月明りぐらいしかない状況でそうだと気づくのは大変難しい。

結果司はほむらの思惑通りに足止めをされてしまっていた。

 

「司! 現況は!」

 

そこへ着いたのは千空達だ。

 

「! 敵1! 放火による足止め中だ!」

 

素早く状況を伝えあい、現状の最適解を探す。

 

「金狼、銀狼! 二人で下生え刈って一箇所に集めろ! 金狼はもし木に火をつけてきたらその木を打ち折れ!」

「了解した!」

「わ、分かった!」

 

千空は周りを見渡し草が大部分刈り取られている事に気付いたのだ。

それならば燃える部分は一部だけ、そしてその一部を刈り取って燃える物を0にしてしまえばいい。

ほむらにとってやって欲しくない事であった。

まだ氷月は目的を達成できていない。

さらなる足止めが必要だ。

幸いあちらの人数は増えている、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「マジか、あの女……!」

「なんという事を……!」

「イカレテやがる……! おい、司! テメエならブチ殺せんだろ! こっちの消火は俺らに任せてあの女をぶっ殺してこい!!」

 

下生えがまだ刈り取れていない場所、すなわち可燃物が大量にある場所に火を放てばどうなるか?

当然大火災である。

 

「氷月様の邪魔はさせない……」

 

炎の向こうに見えるほむらの姿は至極冷静に見えて、それがより一層の狂気を感じさせた。

 

「不味いぞ、ここからでは川は少々遠い。放っておけば森全体が焼け落ちるぞ!」

「地面は、くそっ! ほぼ土か! 仕方ねえ、服でもなんでも使って水を汲んでこい!」

「いや、それでは間に合わない。うん、一か八かやってみるよ」

 

そう言って松明を近くにいたコハクに渡し、両手で剣を構える司。

 

「マグマ、借り物だが、壊してしまうかもしれない。先に謝罪しておくよ」

「あん? 何するつもりだテメエ」

 

マグマの問いには答えず、静かに大きく息を吸い込む。

普段なら決してしないほど大きく振りかぶり、目を閉じる。

 

「かあっ!!!」

 

しばしの集中、そして次に目を開いた瞬間!

気合い一閃、呼吸と共にその剣を横一文字に振り抜いた!

近くの物は斬り飛ばされ、遠くの草は風刃に刈られる。

たったの一瞬で燃え盛る炎は消し飛ばされ、残ったものは多少の下生えのみ。

 

「すっげえ……」

「本当に凄まじいのだな君は……」

「草薙の剣の逸話じゃねえんだぞ……」

 

その場の全員が目の前の光景を信じられずにいた。

一番に動いたのは司。

全力で振り抜いた反動を殺し終えるとすぐに洞窟へと向かう。

自分でできると信じ、行った事だ。他の者とは心の準備が違う。

暗闇の中月明りだけを頼りに走り出す。

 

「くっ! させないと言った……!」

 

次に動いたのはほむら。

巻き起された風に体勢を崩しながらも先に行った司を追う。

そこまで来てようやく千空が衝撃から立ち直り指示を出し始めた。

 

「と、とりあえず金狼達は火の確認後合流しろ! 場所が分かんねえ時は大樹達とだ! 他の奴は付いてこい、っつうか司の後を追え!」

「りょ、了解!」

 

その号令に慌てて司達の後を追いかけるコハク達。

 

「あの女、とんでもねえマネしやがって! 必ず追いついてぶち殺してやる!」

「マグマ! それは後にしろ! 今あの女を気にかけている暇はない!」

「そうだよ! バカな事に気をかけてる場合かい!」

「彼女もこれ以上司の邪魔は難しいはずだ、僕らも早く氷月の所へ!」

 

間に合うのか間に合わないのか、取り返しがつくのかつかないのか。

千空達は焦りに心焦がしながらも洞窟へと向かう。

そして先頭の司が視界に収めたのは、服を切り裂かれ首に槍先を突きつけられる桜子の姿。

松明の明かりの中浮かぶソレを見て、即座に剣を肩に飛びかかる。

 

「氷月様!!」

 

しかし、すぐ後ろを走っていたほむらが上げた叫びにより、氷月は一瞬早く間合いから飛び退ってしまい、司の一撃は寸前で回避されてしまった。

 

「まさかのご到着ですね、まるでヒロインのピンチに駆け付けるヒーローじゃないですか、司君!」

 

今の奇襲が失敗したのは正直痛い、苦いものを感じながらも次のチャンスを狙う司。

そしてすぐに駆けつけてくる彼の仲間たち。

 

「氷月、その手を離せ。今ならまだ殺しはしない」

「だから言ったじゃねえか! あの女をとっととブチ殺せってよお!」

「バーカ、そしたら桜子が死んでんだろうがよ。あの女を放置して正解なんだよ、この場合」

 

こんな時でも変わらぬ態度でマグマの意見を否定する千空。

わざと普段通りの調子を見せる事が隙を作らないようにする彼なりの方法なのだろう。

しかし桜子にとっては想像だにしていなかったのだろう、驚愕の表情で叫んだ。

 

「千空!?」

「よう、なんでも一人でやりたがる大馬鹿女。今の気分はどうだ?」

 

しばし呆然とし、首にある凶器さえ忘れた様子で千空に尋ねる。

 

「なんで、千空達がここにいるの?」

「ああ、テメエが大分前に言った事からの推理だよ。ったく、司の時とおんなじような事しやがってよお。で、なんか言うことあっか大馬鹿女!」

「……ええっと、その、ごめんなさい」

 

想定外に殊勝な態度に少し肩透かし感を感じたが、もしや、これは、

 

「おい、桜子」

「はい」

「今オメーはどうして欲しい? どうしたい?」

「その、ね、あの、助けて欲しいの。また杠や大樹、コハク達村の皆のところに戻りたいの……」

 

上目遣いになり恥ずかしそうに、最後の方は小さくなって聞こえないぐらいな小さな声で、彼女は、桜子は人生で初めてかもしれない事を望んだ。

 

「おう、分かった。ちっとだけ待ってろ、すぐに助けてやっからよ」

「……! うん!」

 

千空の二つ返事にぱあっと花開くような笑顔で頷く桜子。

そして千空は不敵な笑みを浮かべ氷月へと向き合う。

 

「待たせたな。さあ、楽しい楽しいお話し合いといこうじゃねえか!」

 

氷月の凍てつくような目と千空の燃えるような言葉、どちらが上回るのか。

どちらが人間として正しい未来を作り出すのか。

人類の明日を、進む道を決める戦いが始まる。




書き進めていくうちに氷月の名字が必要になったんですが原作で一切情報出てないんでよね。
なので、アンケート機能を試してみたいのもあってアンケートとりたいと思います。
ご協力お願いしますm(_ _)m

氷月の名字はどれがいい?

  • 宝林(ク・ホリンから)
  • 前田(槍の又左から)
  • 加藤(七本槍の清正から)
  • こんなのは?(活動報告に記載願います)
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