イシからの始まり   作:delin

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演説と論争

「まずはこの様な時間に騒ぎを起こした事、それを謝罪しましょう。

しかし、それも必要な事だったのです。なぜなら、今の方針では我々の、ひいては人類の未来は暗く閉ざされてしまうからです。一体何を、そう思われた事でしょう。

ですが、これは厳然たる事実です! 彼らの方針、目標はご存知の通り人類70億全員の復活です。

これが不可能な事だと、現在の地球で70億もの人口を支えるのは不可能だと分かっているのに彼らは目を逸らしている!

自分達の感情によって、ただその手を汚す事を恐れるが故に出来もしない目標に向け邁進しようとしている! これは重大なる人類への裏切り行為です!

今我々がすべき事は何か? 生かす事が出来る人間が限られるのなら当然!

生かすべきは優秀なる者達! そう、今すべき事は人類の選別なのです!

そうして優秀なる者達のみを残し、さらなる進化を遂げてこそ万物の霊長。

それを忘れて怠惰に耽る者など新たな世界には不要なのです。

それに、気づきませんか? 人類70億を全て復活させるという事は、旧世界そのものを復活させてしまうという事を。

あの時代、あの社会が理想郷であったか? 否、断じて否です! 優秀なる者が、そうでない、ただ先にいたというだけのもの達に奪われ続けるあの社会が理想郷であるはずが無い!

それを、あの悍ましき社会を完全に過去の物にするチャンスなのです!

これは人類が真の霊長へと進化する最後の機会なのです!!

……私のこの理想を理解していただきたい。優秀なる君達ならばきっと分かってくれると信じています」

 

氷月の演説が終わって一番に動いたのは羽京だった。

 

「僕は絶対にその思想に賛成しない、僕は自衛官だ、自衛官は力無き人々を守る者だ! 優秀かどうかなんて関係ない! 全ての国民を守る、それが自衛官の使命だ!」

 

そう叫んで弓に矢をつがえる羽京。

それに対して槍を構える氷月。

そんな一触即発の状態を止めたのはゲンであった。

 

「はいはーい、羽京ちゃん、ちょーっとクールダウンしようか? さっき千空ちゃんが賭けって言ってたでしょ。

なにがなんでも従いたくないなら、賭けに参加しなければいいの」

「ゲン……、うん、ごめん。少し頭に血が昇り過ぎたみたいだ、頭を冷やしてくるよ」

 

そう言ってこの場を離れて行く羽京。

次いで動いたのは金狼。

 

「俺もそのようなルールには従えん、失礼させてもらう」

 

一瞬だけ銀狼を見た後立ち上がり、氷月を睨みつけながらそう言った。

そして羽京に続きこの場を去っていく。

 

「き、金狼……。え、えーと、それじゃ僕も失礼しまーす…」

 

その姿を見て慌ててついて行くのは銀狼だ。

 

「そうだね、羽京やあのメガネかけた子の言う通りだ。悪いけど氷月、間違ってもあんたにゃ従えないよ」

 

続いてニッキー。

これは残る者が少数派になりそうか、と思われたがマグマが意外な行動に出た。

無言のまま立ち上がり、なんと氷月の方へと歩き出したではないか!

それを見て慌てたのはクロムやコハクだ。

 

「おい、マグマ! テメーなんでそっちにつこうとしてんだ!」

「その男は卑劣にも桜子を人質にしているのだぞ!」

「おいおい、テメエらは俺が仲良しこよしで付いてきたとでも思ってんのか?

俺の目的は司をぶっ倒す事だぜ、それが出来るならどっちでもいいんだよ」

 

バカにするように二人に言葉を返しそのまま氷月の後ろ、ほむらによって後ろから拘束されている桜子の隣に座るマグマ。

その太々しい態度にコハクがいきりたつが、いつのまにか司によって肩を掴まれていて動く事は叶わなかった。

 

「司! 邪魔をしないでくれ! あの恩知らずを叩きのめさねば!」

「大丈夫だよコハク、今は気にする必要がないんだ」

 

コハクの雄叫びに司は至極冷静に返す。

その司の態度に何か考えがあるのだと気づいたクロムは一旦矛を収める事にした。

後、コハクが叫びっぱなしで我に返ったのも実はあるのだが。

それらを全て無視して、一人だけ地面に座る羽目になっている桜子にマグマが声をかける。

 

「よう、いい格好じゃねえか。今の気分はどうだ?」

「……生まれてから初めてなくらいの気分、かな」

「そうかよ」

 

頬を掻きながら照れ臭そうに返す桜子にマグマはそう不機嫌な顔で呟いた。

先程着替えた後ほむらに巻かれた包帯を指しながら小さな声で聞く。

 

「痛くはねえのか」

「それなりに? まあこのぐらいなら気にならないかな、痛みには慣れてるし」

「……そうかよ」

 

全く気にしてない桜子の様子にさらに不機嫌になるマグマ。

それを誤魔化すかのようにまだ意思表明していない者達に怒鳴る。

 

「で、残った連中はどうすんだ! とっとと決めやがれ!!」

「バッカヤロウ! んなもん決まってんじゃねえか、当然千空側だぜ! 優秀な奴だけ残すだあ!? くそくらえだそんなもん」

「ふん、私も同意見だな。弱い者を守るのが力ある者の当然の義務だ。

貴様のそれはその義務から逃れようとする見苦しい言い訳にしか聞こえん!」

 

クロムもコハクも怒りを露わにして怒鳴り千空に付く事を表した。

カセキはその二人の様子を横目に見ながら穏やかに自分の考えを述べる。

 

「ワシはジジイじゃし物作りぐらいしかして来んかったから、難しい事は分からん。

じゃから、横で成り行きを見守らせてもらおうかのう」

 

そう言って千空の後ろから斜め前側、ちょうど千空と氷月との距離が同じくらいの場所へ移動した。

 

「それいいねえ、俺もそうするよ。おじいちゃん、横、失礼するね。

んで、司ちゃんは当然千空ちゃん側だねえ。後は南ちゃんで最後だけど、どうするの?」

 

そしてゲンはカセキのとなりへ。

ついでに残った南に声をかける。

 

「ちょ、ちょっと待って。そんな事言われても……、すぐに答えなんて出せないわよ」

「んーじゃ、南ちゃんも成り行き見守るって事でこっちきたら? 保留っていうのもアリだと思うよ」

「そうね、いきなりすぎてちょっと混乱してるし、そうさせてもらうわ」

 

さて、ゲンのセリフに違和感を覚えた方もいるだろう。

ある二人の名前が未だに上がっていないのに『南ちゃんで最後』?

しかしこの場にいる者ならそれに違和感を覚えることはない。

なぜなら、

 

「それにしても、あの二人がまだ15歳って本当なの?

下手すると氷月ちゃんより落ち着いて見えるんだけど」

 

演説の始まる前から千空のすぐ後ろに並んで座っていたからだ。

大樹はその名の如くどっしりとした安定感、いや、貫禄すら感じる落ち着き振りで。

杠は静かな雰囲気の中に確かな芯を感じさせる佇まいで。

大樹は千空へ絶対の信頼といつでも動けるという意思を込めて。

杠は桜子へ穏やかな笑みと大丈夫だよと語りかけるように。

それぞれの相手に視線を送り続けていたからだ。

二人で寄り添いながら、そっと互いの手を握り合う姿はまるで子供たちを見守る親のようであった。

 

「15!? あの夫婦が15歳なの! 15歳にしては落ち着きすぎじゃない? ワシあんな落ち着いた15歳見た事ないよ」

「うん、安心しておじいちゃん、俺も見た事ないから。後、あの二人夫婦じゃなくてまだ恋人未満らしいから」

 

全く関係ないところで驚愕するカセキを宥めたいのか驚かせたいのか、今一つわからない言動である。

ますます驚愕が深まるカセキを無視して千空が笑いながら告げる。

 

「さあてと、全員分のBETが完了ってとこか。

そんじゃあ論破のお時間だ、覚悟はいいか、氷月?」

 

 

慣れぬ演説をしての結果は予想通りではあったが、やはり落胆を禁じ得ないものだった。

羽京や花田の反応は想像できたものだったが、まさか賛同者が0とは。

まあいい、この賭けに勝てば千空についた者達は自分に従わざるを得ない。

そもそも司さえどうにかできれば後はどうとでもなる。

そして勝利条件は自分が論理的に反論し続ければいいだけ、簡単なものである。

先ずは千空の質問に備えるとしよう。

 

「最初の質問だが、この中で誰が優秀なんだ? ああ、何人か上げるだけでいいぜ」

「意図は分かりませんが、そうですね。司君や君や大樹君、まあ今復活している人間は優秀であると言って良いかと」

 

少し予想からずれた質問であったがまあ問題はない、簡単に答える。

 

「ククッ、俺も優秀の範囲か、光栄なこったなあ。おい大樹、オメーは優秀と聞いて誰を思い浮かべる?」

「む? 一番に思い浮かべるのは千空だが……、他となると浮かびすぎてあげきれんな」

「杠、そっちはどうだ?」

「へ、私? そうだねえ……、千空くんや桜子ちゃんかなあ」

「桜子」

「一番千空、二番司、大樹や杠が三番めぐらいで、他に上げろというならいくらでも」

「司」

「君や桜子、後は大樹や氷月だね」

 

次々と指名していき各々が思い浮かぶ誰かを上げていく。

 

「なるほど、自分が優秀であると思う者は多くない、そう言いたい訳ですか」

「ん? ああ、そういう意味でもいけるか。だが、俺が言いてえのはちげえんだよ。

この鉢巻つけた奴はクロムってんだがな、九九に加えて二桁の掛け算もすぐに解けんだ」

「それがなんだと……!」

 

どうという事もないありふれた暗算能力ではないかと言おうとして気づいた。

 

「コイツはよ、そのコツを自力で見つけ出したんだよ。誰にも習わずにな。

俺ら復活者とは違う、自力での発見だ。その気づきの力、分からねえ訳じゃねえだろ?」

「確かに優秀だと言えるでしょうね、君は一体何を言いたいんです?」

 

自力で気づいたというのは素晴らしい力と言える。

しかし、そんな事は車輪の再発明ではないか、能力の無駄遣いもいいところだ。

 

「分からねえか? 地頭でそこまでの差はねえんだよ、俺とコイツでは。

今差ができてるのは元となった教育が違うってだけなんだよ」

 

訳が分からないというのが顔に出ていたのだろう、千空が続けて話し出す。

 

「教育の差は所属社会の力の差だ、そして社会の力ってのはすなわち人間の数だ!」

 

数をそろえればそれだけで優秀な者の代わりができるとでもいうのか?

そんなわけがない、無能共がいくら集まろうと無能は無能だ。

 

「数だけ揃えた無能共に何が出来ると言うのです! そんなものただの烏合の衆に過ぎない!」

「だから、教育が必要なんだろうが。教育の役目はつまり接着剤。

烏合の衆にならないように、集団で行動できるように教育すんじゃねえか。

そうやって数の利をとっていく、それが有史以来の人類種の基本戦略だろうがよ」

 

思わずあげた大声での反論にも即反論される。

 

「あの社会が理想郷という気は俺にもねえ。だがな、少なくとも今の人類の状況よりはマシなのは確かなんだよ。

そして、氷月。テメエの理想はな、あの社会以下のものしか作れないもんなんだよ」

 

自分の理想を根本から否定され、しかしその憤りをなんとか押し込める。

 

「ならば、優秀なる者達にこう言うつもりですか、『お前たちは人類社会のための生贄だ』と」

「違えな、『優秀になれた分のコストを払え』ってあの社会は言ってたんだよ」

 

歯をくいしばって怒りを押さえる。

認められるものか! 私は私自身の努力によって今の力を手に入れたのだ!

 

「オメーのその槍の技術は、お前自身で編み出した物か?」

「何を……、一体何を言いたいんです……!」

 

本当に何を言いたいのかわからない。

本当に? いいや、気づきたくないだけだ。

自分でも驚くほど必死な声だ。

そうだ、彼の言うことをなんとしても否定しなければ、そうでなければ……、

否定しなければ、私は、

 

「もう、分かってんだろ。歴史の積み重ねで作り上げられたんだろうが、その技術は。

んで、技術の発展には社会の力が必要不可欠。そして社会が力をつけるには…」

「その口を閉じろ!!!」

 

ただの愚かな、水面に映る月を捕ろうとする猿だと認める事になる。

 

「大樹!」

「おう!!」

「ぐえっ」

 

槍を突き出しよく回る舌を永遠に止めようとするも、後ろにいた大樹が千空を思いっきり引っ張って後ろに投げる。

即座に追撃に入ろうとするも、その時には司の剣が氷月の側頭部を叩いていた。

 

(結局殺しはしませんか、甘いですねえ。まあ、流石に生きて目覚める事はないでしょうね、

ここまでやったのです、甘い彼らといえど容赦はしないでしょう。

そうなるとほむら君には悪いことをしましたねえ、こんな愚か者に最後まで付き合わせて。

地獄で再会できたら詫び替わりに何か望むことでも聞いてあげましょう)

 

揺れる視界の中で最後にそれだけを思い、氷月の意識は深い闇に飲まれていくのであった。

 

 




なんか氷月の沸点低く感じられたならそれはシチュのせい。
深夜+慣れぬ演説してしかも共鳴者0+司からのプレッシャー。
流石の氷月もいつも通りではいられない……と思っていただければなーと。
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