イシからの始まり   作:delin

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氷月の過去ねつ造回。


氷月

私の生家はかの加藤清正公の血を引く……分家であったらしい。

加藤家の分家から尾張徳川家へと出向したものが、当時の当主に気に入られ引き抜かれたのが家の始まりとは祖父の言だ。

そこで尾張貫流槍術を学び、皆伝の証として道場を持つことを許されたのだと酒の席でよく言っていた。

実際にどうだったかは知らないが道場自体が古い物であったのは確かだ。

そんな家に生まれたので、当然私も幼い頃から槍の稽古を積んできた。

私には天才と呼ばれる程の才は無かった。

だが、その分研鑽とどうすれば良いのか考え続ける事で15の頃には同年代では負け無し、どころか父から何本かに一本は取れるようになっていた。

……その後父と稽古や試合をできた事はないのでどの時点で父を超えられたのかは分からないが。

そう、私が15歳の時に起きたのだ。

私の中で無能な思考力のカケラもない脳の溶けた輩を排除すべきと思わせる出来事が。

 

 

それは最初は他流試合の願いという形で持ち込まれた。

あの時代武術を習うのは物好きだけとなり、必然どこの道場も門下生不足に悩んでいた。

うちの道場は比較的多くの門下生がおり、ある程度の余裕があった。

そして、それが故につけ込む隙をつくってしまったのだろう。

付き合いがあった相手からの紹介と言って訪問してきたのは、元はそれなりに大きかった剣術道場の師範であると名乗った。

なんでも時代の波に乗り切れず門下生は減る一方、このままでは代々継いで来た道場を畳む事になってしまう。

そこでこの辺りで知らぬ者無しなこちらの道場の力を借りたいという。

剣術三倍段を持ち出すまでもなく剣で槍に勝つのは困難、しかし、だからこそそれをできれば偉業と言える。

その姿を見せれば去っていった門下生も戻って来てくれるのではと思い恥を忍んで頼みに来た。

しかし、自分の腕はそこまで自慢のできるものではない。

なので、師範や師範代ではなく門下生を何名かお貸し願えないか、という話であった。

今思えば胡散臭い話である。

なぜ、紹介者と共に来なかったのか? どのようにして勝つ姿を見せるのか?

上げていけばキリがないが、父はその話に同情してしまい二つ返事で了承してしまった。

結果は一ヶ月もしないうちに出た、門下生が次々と辞めていったのだ。

辞める理由を聞いてもけんもほろろに突き放されるのみ。

どういう事かと遅まきながら調べてみると、なんと父がうちの門下生に命じてある道場主を襲わせたというではないか。

もちろんそんな事実は存在しない。だが、一番最初に辞めた門下生数名がそう言ったらしいのだ。

慌てて彼らに連絡を試みるも音信不通。

そして、よくよく確認してみれば証言した彼らは全員、例の道場の師範を名乗る男に貸した者達ではないか。

トドメに襲われた道場主とやらは訪ねてきた師範その人。

ここまで来てようやく父は自分が嵌められたと悟った。

怒り狂い例の道場へと問い詰めに行くも訪問した事実などない、襲わせただけでなく濡れ衣まで被せるつもりかと逆に問い詰めてくる有様。

紹介者の方に確認するも、紹介などしていない、そんな者は会ったこともないと返答。

進退窮まった父は……諦めた。

まさかの泣き寝入りである。

祖父との大げんかの末そのまま道場を畳む決断を下したのだ。

それまで私は私なりに父を尊敬していた、いつか超えたいと願う、そんな目標であったのだ。

それがいきなり折れてしまったのだ、その時の衝撃は未だに忘れられない。

それからの生活は一変した。

道場をいつか継ぐための修行の時間は消え去り、突如自由な時間ばかりになってしまったのだ。

昨日まで槍術家として生きていたはずなのに、突然只の学生になれなどと言われても困るというのだ。

始めは普通の学生らしい振る舞いをしようとしていた気がする。

だが、結局どれもしっくりこずに槍の修行ばかりしていた。

きっと父への反発もあったのだろう、いつか奴らに報いを受けさせる、その気持ちもあった。

ただ、一番は祖父の寂しそうな背中と、それまで積み重ねてきた修行に対するものだと思う。

それからわずか二年で報い、というか復讐はあっさり成った。

言いふらしていた門下生だった輩を問い詰めればあっさり嘘だったと口を割り、それを持って件の道場へ行けばこれまたあっさり非を認めたのだ。

拍子抜けにも程がある、苛立ち紛れに道場主を含めた門下生全員を相手取って、全員叩きのめしたのはやりすぎであったかもしれないがそれだけやらねば気がすまなかったのだ。

仕方ないだろう、揃いも揃って『こんな事になるとは思っていなかった。すまない、許してほしい』などとほざかれたのだから。

つまり誰一人としてこんな事になるとは思っていなかったのだ。

せいぜいが道場同士の立場が逆転するぐらいで、畳むとは夢にも思っていなかったのだ。

気づいた時には土地は売約済み、誤ちを認めて謝罪するには遅すぎる。

ならば、このまま黙っているのが一番ではないか、と言われて激昂しない程まだ人ができていなかったのだ、当時の私は。

思考をしない輩を徹底的に排除すべきだと確信したのはこのせいだ。

奴らは優秀な者達の足を引っ張る事しかしない、だから全て排除すべきなのだ。

あのような者共がいる事など認められる訳がない。

その為にこの手を汚しても構わない、そう決意した記憶を見た辺りで意識が浮上していく。

まさか殺さなかったのだろうか、とことん甘い連中である。

 

 

「気づいたかい、氷月。いきなりで悪いんだが、うん、事態の収集に力を貸してほしい」

 

意識が戻って最初に声をかけて来たのは司だ。

しっかりと氷月を拘束しながらも少し困った様子である。

地面に押さえつけられているため低い視線から辺りを見回す。

 

「コハク! テメエなんで俺の邪魔をしやがった!」

「う、うるさい! 普段からの貴様の態度が悪いのが原因だ!」

「それよかナイフをなげんじゃねえよ! 桜子に当たってたらどうする気だったんだよ!」

「ふえ〜ん、コハクのばかー! マグマがほむらを抑えてくれたら逃げられたのにー!」

「私か!? 私が悪いのか!?」

「「ほかにいるかー!」」

「コントはいいから、早く氷月様を離せ……!」

 

氷月が確認できた状況はなかなかにカオスであった。

氷月が昏倒させられた後、ほむらの一瞬の動揺の隙に桜子の奪還に動くマグマ。

その動きに桜子を害そうとしていると勘違いしたコハクが牽制の為にナイフを投げる。

慌てて防ぐマグマ、その間に桜子がほむらに確保され再び人質状態へ。

と、いうのが氷月が意識を失った直後の動きだが当然氷月には分からない。

司からの説明でようやく理解できたが、……どうしろというのか。

 

「いや、君からほむらに言ってくれれば桜子を解放してくれるだろう?

こうなった以上、誇り高い君のことだから従わないとは思わない。桜子が解放されれば君の事も解放するよ」

 

その通りだ、自分から敗北条件を満たしにいったのだ。

こうなった以上これ以降の抵抗はプライドが許さない。

 

「ほむら君、桜子君を解放しなさい」

「氷月様! ですが……」

「ええ、君の言いたい事は分かっていますよ。ですが、私は約定を交わしたのです。

それを守らないのは死より酷い屈辱ですのでね、……君には感謝していますよ、おかげで意思を示す事だけは出来ましたから。これからは私の事を忘れて懸命に生きなさい、今まで通りちゃんとした生き方で、ね」

 

半ば遺言じみた言葉にほむらが震えた。

軽く深呼吸をした後、決意した瞳で回りを睨みつける。

 

「氷月様を離せ! でなければコイツの命はない!」

「ほむら君!?」

「申し訳ありません氷月様。ですが、その指示には従えません」

「氷月の馬鹿ー! ちゃんとほむらの事見ときなさいよ!これから死にますからみたいな事言ったらこうなるに決まってるじゃない!」

「氷月様を馬鹿にするな!」

 

戸惑う氷月に罵声を浴びせるのは桜子だ。

即首に当てられた刃に黙らされられたが。

 

「何やってんだよ、ったく。司、氷月を離してやれ」

「千空……。そうだね、もう必要なさそうだ」

 

そう言って氷月を解放する司。

少し驚いた様子を見せる氷月だが、すぐにほむらを止めるためかと得心する。

 

「ほむら君、我々は賭けに負けたのです。見苦しいマネは辞めましょう、私はともかく君は殺されたりしないですよ」

「おい、氷月、テメーワザと言ってんのか、それとも素か?」

 

実際氷月の言葉は火に油を注いでいるようなものだ。

ほむらの目は千空を憎々しげに睨み桜子を掴む腕はますます力が込められている。

 

「ああ、もう、埒が明かねえ! おい、ほむらっつったか? 氷月を殺しはしねえからとっとと桜子を離せ!」

 

事態が進まない事にイラだった千空のその叫びにほむらは喜色を見せ氷月は顔をしかめた。

 

「千空君、敵は減らせる時に減らすべきですし、罪に対し適切な罰は必要なものです。

君は人類を導くリーダーとなるのですから、苦しくとも果断な決定をすべきですよ」

「殺される立場の奴が言うな! つうか、今人間減らす余裕なんぞねえわ!

数が必要だってのに二人も減らされてたまっかよ! 後、いきなりリーダーなんて言われても困るっつーの!」

「何を言っているのです、君はすでにリーダーでしょう。

後、私一人処分するだけで十分ですし、そうでなくとも再犯の目を摘むならばためらってはいけません」

 

あくまで自分は死ぬつもりの氷月の態度に深いため息をつく千空。

 

「再犯の可能性なんぞねえから今回はいいんだよ」

「何を言っているのです? 私が理想を捨てるとでも…」

「テメエはある意味俺と同じだ、絶対に嘘をつけねえ芯があるっていう意味でな。

俺が科学に嘘をつけねえように、オメーは槍の事には嘘がつけねえ。

だから、今ここで、代々受け継いできた槍の技術に誓え!

以後俺の指示に従うと! 裏切らねえと誓え!!」

 

自分は負けたがそれは理想を捨てるわけではない、そう言い放つつもりであった。

それを遮られ氷月のよって立つ、確固たる自分を作り上げてきた芯の部分を突き付けられた。

 

「ククッ、つまり私に、君に仕えろ、そう言うことですか」

 

槍に、己が信ずるものに誓うとはそういう意味だ。

彼自身が思いついたのだろうか?

いや、きっとその隣にいるしてやったりという顔の元同士の入れ知恵だろう。

いつだったか武士の生き方は良いものだと零した記憶がある。

武器を、その武術を捧げるとはどういう意味なのかという事も。

 

「あん? そういう事になんのか、司」

「気にする事はないよ千空。俺と同じ扱いでいけば問題ないさ」

「いや、他人に仕えられるとか意味わかんねえんだが」

「大丈夫、君は君のままでいればいい。それだけで御恩と奉公は成り立つさ」

 

一体いつそんな知恵をつけたのか、随分と悪知恵が回る。

入れ知恵をしたのは多分だが自分が意識を失っている間だろう。

疑念を込めて司に視線を向けていると肩をすくめながら彼は言った。

 

「なに、昔はよくあった事なんだろう? 勝った方が負けた方を従えさせるのは。

今この世界はストーンワールド、つまり石器時代なんだから問題はないさ」

「桜子からの歴史の授業、意外なとこで活用してやがんな。

舟の上で言ってたのも伝えたらどうだ? 同士ではなく今度は友人になりたいってよ」

「裏切った相手によくそのような事を言えますね」

 

呆れながら言う。

司は確かに旧世界であった時から理想しか見えていない節があったがそのあたり変わっていないようだ。

 

「大樹や桜子から漫画の話も聞いたからね、現実で漫画のマネをしてもいいだろう?」

 

いや、変わってはいる。

大分お気楽な性格になった。

 

「士三日会わざれば、とは言いますが……、変な方向に行きましたね司君」

「何、もう少し力を抜いてみろとアドバイスをもらったからね、それに従っているだけさ。

それで、どうするんだい? まさか、自分が言った言葉を翻す君じゃないだろう?」

 

ため息一つ、本当に変わった。

きっと今までは硬い芯だけだったのがしなやかさも手に入れたのだろう、勝てる気がしない。

 

「いいでしょう。千空君、君の言う通り槍に誓いましょう。

具体的に何を望みます? 裏切って君達を害する事をしないのは当然ですが」

「いや、誓う内容はそれだけで十分だ」

「では、今後君たちを裏切ったり傷つけたりしないことを我が槍術に誓いましょう」

「おし、じゃあその誓いが守られる限り、テメエを害さねえと俺も科学に誓うぜ」

 

そう氷月が誓った後すぐに千空が誓う。

予想外な事が目の前で立て続けに起きているほむらは混乱の極致にあった。

氷月を殺させないために人質をとったのに当の氷月から諫められる、氷月を殺す立場であるはずの千空から氷月の命を保障されなぜか氷月自身がそれを咎める、果てには千空に氷月が仕えるなどという異常事態。

それでも人質を離さなかったのは意地かそれとも混乱のせいか。

 

「二人の誓い確かにこの獅子王司が見届けた!

……ほむら、氷月が死ぬことはもうないよ。桜子を離してくれないか?」

 

それも司に声を掛けられるまでだった。

桜子をつかむ両腕から力が抜けナイフが力なく地面に落ちる。

恐る恐る離れていく桜子にも反応することなく行くに任せていた。

それを確認した桜子は一転走り出す。

 

「千空ー!」

 

そして最高の笑顔で千空の胸に飛び込むのだった。

 




実は実は前話と今話とても難産でした。
具体的には書き溜めが全部なくなるくらい……。
木曜更新してなかったらお察し下さい_:(´ཀ`」 ∠):
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