イシからの始まり   作:delin

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闇が深くなるのは

笑顔で飛び込んでくる桜子を優しく受け止める千空。

そしてそっとその顔に両手で触れる。

ただし、

 

「あれ、千空、なんで梅干しの体勢に入ってるの?」

 

握りこぶしでそのこめかみに沿える形で。

 

「さあ、なんでだと思う?」

 

千空は確かに笑顔だ。

ところで彼女の前世の記憶にこんな言葉を読んだ記憶がある。

掲示板では割とよく使われていた表現であり漫画が元ネタだ。

曰く、『笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である』

なぜかそんな言葉が思い浮かぶ。

 

「えっと、その、怒ってる…?」

 

おずおずと問いかける桜子に千空は優しい笑顔を向け……、

 

「怒ってないわけねえだろうが!」

 

すぐさま般若に変化しグリグリとこめかみを削り始めた。

 

「あー! ごめんなさいごめんなさい!」

 

効果はバツグンだ!

あっという間に涙目になる桜子。

 

「テメエはなんで俺に相談しねえんだよ、この馬鹿!」

「だって薬作りに集中して欲しかったし、知識が狙いなんだろうから命を盾にすれば行けると思ってたし……、まあそれはダメだったんだけど」

 

その言葉に今までの桜子との違いに気づく千空。

いや、そもそも誰かに助けてと言い出した時点で気づいてはいた。

それが確信に変わったのだ。

 

「ってことはオメーの悪癖直ったのか?」

「うん! 私ね、ようやく死にたくないって思えたの!」

「そうか……、よかった、でいいんだよな?」

「うん! 私やっと人間になれた気がするの!」

 

優しさと少しの憐憫を込めてそっと頭を撫でる千空。

そんな事が何より嬉しいと言わんばかりの桜子。

だが、その会話を聞いていた周囲には酷く衝撃的だった。

 

「千空、桜子、俺はあまり頭が良い方でない自覚がある。

だから、この話を聞いてもいいか教えてほしい」

 

大樹の言葉にキョトンとする桜子。

 

「あれ? 私が命を投げがちって大樹は気づいていなかったの?

ほら、今回もそうだけどライオンの時とか、司の時とか」

「いや、てっきり使命感からだとばかり……」

 

そっかー、とあまり深刻さが感じられない口調の桜子。

それとは対照的に重苦しい雰囲気になっていく大樹と杠。

その二人の様子に慌てて弁解する桜子。

 

「あ、今はもうそんなことしないからね。二人が気に病むことないから!」

「なーんか複雑なもの抱えてるみたいねえ桜子ちゃん。

どうせなら詳しく聞かせてくれない? 迷惑かけた詫びがわりにさあ」

 

スルリと会話に入ってそう言うのはゲンだ。

実際今回の桜子の行動で一番迷惑をかけられたのは彼と羽京の二人だろう。

桜子もそれを分かっているからNOと言うのも気が引ける。

助けを求めるように千空をみるが、

 

「ちょうどいいから話せるとこまで話しちまえよ、俺もオメーの持つ情報精査してえしな」

 

千空も話した方がいいという判断のようだ。

 

「聴きたい人だけでいいなら話しますけど……」

「それじゃ罰にならないでしょ? これでも怒ってんのよ、俺。

千空ちゃんは君の事情知ってるみたいだし、なんで相談しなかったのー、ってね」

 

かなり痛いところを突かれた桜子は仕方なく妥協案を出す。

 

「とてもじゃないけど信じられない話なので、嘘だと思った時点でその人は聞くのをやめるのが条件です。信じてくれない相手に延々と話し続けるのは嫌なので」

「うんうん、それでいいんじゃないかな。それじゃあ早速話してもらっちゃおうか」

「いや、今はダメだ」

 

すぐにでも聞こうとするゲンに待ったをかけるのは千空だ。

 

「へええ、何か不都合な事でもあるのかなぁ、千空ちゃあん」

 

不気味な笑みを深め問いかけるゲン。

それに対し千空は真剣な顔を見せる。

 

「ああ、今すぐはでけえ不都合がある。それは……!」

「「それは……?」」

 

固唾を呑んで千空の言葉を待つ周囲。

 

「夜遅くてねみい!」

「あ、そういえば大分遅くだね、今」

 

彼らからは見えないが銀狼辺りはすでに舟を漕いでいる。

 

「だから明日全員がそろってから話させるって事でどうだ?」

「うん、それなら俺に異存はないよ。じゃあ、また明日ね桜子ちゃん」

 

そう言ってさっさと自分達の家へと戻っていくゲン。

その後ろ姿を見届けて杠が桜子を心配して話しかける。

 

「桜子ちゃん、どうしても話したくない事なら無理して話さなくてもいいよ?」

「心配してくれてありがとう杠。でも、私が話したいのもあるの、特に二人には」

 

曇りのない笑顔でそういう桜子にかえって不安を覚える杠。

だが、確かに聞かなければ分からないことはある、彼女を理解するには話して貰わなければならないのだ。

 

「んじゃ、全員戻って寝るぞ。日付変わってそうだぜ、この暗さだと」

「日付が変わるってなんだ、千空?」

「1日が終わったって事だよ」

「日が落ちてんだからとっくに変わってんじゃねえのか?」

「あー、24時間表記では日の出、日没が基準じゃねえんだよ」

「んじゃあ何が基準になってんだ?」

「あー、クッソ長くなるからここじゃない土地での時刻が基準になってるって今は思ってろ」

「?? とりあえず分かった。また今度説明してくれよな」

 

なんて事ないように質問と答えを交わすクロムと千空。

その姿を見て、またいつも通りの会話を交わし、家路を急ぐ。

そんな日々を続けたい、そう願う桜子だった。

 

 

明けて翌日、大体10時前後には全員に話せる状態が整っていた。

桜子の前には三列で皆が座っている。

1列目は桜子から見て左から杠、大樹、千空、羽京、ゲン。

2列目はコハク、司、クロム、氷月、ニッキー。

3列目にはマグマ、カセキ、金狼、南の順で並んでいる。

いないほむらと銀狼は桜子から話す事を拒否した形だ。

正確には拒否したのは銀狼のみで、ほむらの方は興味がないだろうと断ったのだが。

 

「ほむらさん、多分氷月は全部聞くだろうけど、それでも聞くほど興味ある?」

「貴女にそこまで興味ないからどうでもいい」

「ですよね、それでしたら銀狼に舟に積み込む荷物を指示しておいてください」

 

以上が二人の会話である。

他にも一人だけ拒否された銀狼がその事を嘆いたり、司の一睨みで黙ったりしたがそれはともかく。

全員が揃いそれを確認した後、桜子が話し始める。

 

「私の話は正直荒唐無稽な話になりますので、信じられないと思います。

ですので、少しでも信じられない、または信じてないと判断した場合はすぐにその人は聞くのをやめてもらいます。

勝手かもしれませんが私の根幹に関わる話なのでご理解のほどよろしくお願いします」

 

聞く側が思っていたよりも重い話になりそうである。

 

「ふうん、それにしては千空ちゃんには話してたっぽいけど?」

「千空の時は信じさせる材料が私の中でありましたので、でも千空には必要なかったですけど」

 

そこまで重いのという意味を込めてのゲンの発言に少しずれた角度で返す桜子。

逆に信じさせる根拠がないからあまり話したくないという意味でもあるのだろう。

 

「それじゃあその条件でよろしいですね?」

「信じてないって判断は君がするんだろうけど、その判断は大丈夫なの?」

「信じられないって反応は飽きるほど見てるので。

ああ、でもお二人には自己判断のみでどうぞ。迷惑かけた詫び替わりですので」

 

その他には誰からも異論がないようだ。

それを確認して、ゆっくりと深呼吸をした後話し出した。

 

「まず前提として私には前世の記憶、生まれてくる前の、私ではない人の記憶があります」

 

後半の部分は前世の意味がわからない村人達への説明だ。

 

「そんなことがありうるのか?」

 

思わずといったふうに声をあげたのは金狼だ。

 

「金狼、悪いんだけど銀狼の手伝い行きね」

「な! 待ってくれ、説明もなしか!」

「というよりここで引っかかるようだと、この後のは理解できない話になるの。

貴方みたいに真面目な人だと否定しないのが負担になるぐらいにね。

正直、始めから銀狼と一緒でもよかったぐらいなんだけど、お詫びも兼ねてるからせめてさわりだけでも聞かせたの」

「詫びがわりならば尚更聞くべきではないのか?」

「お詫びで苦しませたら意味ないでしょ。後、少しでも聞く人を少なくしたいのもあるけどね」

「……そうだな、判断するのは桜子、そういうルールだったな。分かった、銀狼の手伝いに回ろう」

「ありがとう、ごめんね」

「いや、気にする必要はない。ルールはルールだからな」

 

そう言って荷物の積み込みに行く金狼。

その後ろ姿を見ながら揶揄うようにゲンが桜子に声をかける。

 

「あーらら、可哀想に落ち込んじゃってない、彼?

せっかくここまで来てくれたんだからさあ、聞くか聞かないか選ばせてあげても良かったんじゃないの?」

「ほんっと嫌なとこ突きますね、証拠が無ければ他人に信じさせるどころか、自分でも信じる事も出来ない話が出てくるんですよ、この後。無駄に悩むよりかは私のせいで聞けなかった方がマシなんです」

 

ニヤニヤしながら突いてくるゲンに少し強めな口調で返す桜子。

 

「ま、君がそれでいいって言うならいいけどね。

話の腰を折っちゃってごめんねえ、ささっ、続けて続けて」

 

嫌味にしか聞こえない言い方ではあるが、こうする理由はあるのだ。

桜子がどういう人物で周りにどう思われているかの確認である。

こういう風に突いて怒るのか、それとも萎縮するのか。

その姿を見て彼女を知る人間はどう反応するのか、といったものである。

結果としては周りからは大分良い印象を持たれていて、本人も芯の強さはかなりあるタイプだと見えた。

 

(本人から聞くだけじゃ分からない事なんて腐るほどあるものねえ。

ま、これ以上は蛇足だね、一部の人間の目がキツくなってきてるし、十分人間性も見えたし)

 

はっきり言って前世云々はゲンにとってどうでもいい事だ。

前も今も人間には変わりないようである、ならば自分の土俵で戦える相手であり、自分の土俵の上ならば負ける気は一切ないからだ。

 

「それじゃあ続けますね、前世で読んだ漫画の中にDr.STONEという作品がありました。

その内容はある日突然緑の光に地球が覆われ地球上の人類は全て石化した、そして数千年後偶然石化から解放された人間が現れる、彼はその科学知識を以って人類を石化より解放するのだった……、そういう物語です。

その内容こそが皆さんに秘密にしておきたかった事で、その物語から見れば私は異物です。

だから失われても一番支障がない、そう思っていたから命を捨てがちだったんです」

 

しかし、コレには驚きを隠せなかった。

嘘は最後以外言ってない、彼女の様子から自分のメンタリストとしての経験がそう判断する。

だが、いくらなんでもコレはない。

自分達が漫画の登場人物とでも言うのだろうか?

そんな事を言い出す奴は現実と妄想の区別のつかない大馬鹿者か極度の精神的疾患の持ち主だ。

なら彼女はそのどちらかなのか?

これもまた違うとメンタリストとしてのプライドにかけて否定できる。

ならば、少なくとも彼女はそれが真実であるとして話しているという結論になるだろう。

 

「ニッキーさん、南さん、申し訳ないんですがほむらさんの手伝いに回ってもらってもいいですか?」

 

そんな風にゲンが考えているうちに桜子が二人にこの場からほむら達の所へと行くようにお願いしていた。

 

「待ちなよ! アタシは別に……!」

「前世の時点で半分くらい疑っていましたよね? 南さんも漫画の話で嘘だと思ったでしょう?

難癖に聞こえるかもしれないですが、嘘だと思ったかどうかだけは分かるんです、私」

「待って! 本当だっていう証拠があるんでしょ、それを見せてくれればいいじゃない」

「見なければ分からない時点でお断りしたいんです、金狼にも言いましたがなるべくなら知っている人を減らしたいので」

「私達だけが嘘だと思っているわけじゃないだろ、他の子はどうなんだい!」

「どうでもいいと思っているのが二人で信じてるのが四人、好奇心で一杯なのが二人で嘘だと思ってるのが羽京さん。ゲンは……完全に隠されているので、多分という言葉がつきますが嘘だと思っていますね」

 

後、千空は前から知ってるので数えてないです。

なんでもない事のように全員の状態を把握している桜子に絶句するニッキー。

 

「人の顔色を伺うのは前世が散々やってたし、疑ってかかる相手の顔は飽きるぐらい見ましたので。

拒絶された事で嫌な気持ちになるのは当然のことだとは思っています。

でも、この後千空から聞かされるであろう事は信じられない人にはもっと信じられない事なんです」

「分かったよ、悪かったねごねたりして。でも、いつか聞かせてくれるかい?」

「この後話を聞いた人から聞く分にはいくらでも、私から直接なら信じてくれるならって感じです」

「じゃあアタシがこの話を上手く飲み込めた辺りにでも聞かせておくれ。

今はほむら手伝いに行ってくるよ、ほら、南も」

「え、ええ。……あのね、私もまだ戸惑ってるだけだから、落ち着けたら聞かせてね」

 

そう言ってこの場を離れて行く二人。

少し落ち込んでる桜子。それは自分の弱さにか、それとも拒絶した罪悪感からか。

 

「それじゃ、千空。情報の精査って言ってたけど漫画情報は要らないんじゃなかったの」

 

ワザと明るく振る舞う事で振り切ろうとする姿は辛さを無視したものにしか見えなかった。

千空は悩んでいた。この場で桜子のトラウマ、彼女の過去と前世について問いただすかどうかを。

拒絶される事に恐れているのは十分に周りに伝わった筈だ、今はそれで満足するべきでは?

話して問題ない範囲の漫画情報だけでお茶を濁すべきではないか……、彼にしては珍しい事に進むべき方向に迷っていたのだ。

そんな千空の葛藤を感じとったのだろう、大樹が力強く千空に声をかける。

 

「千空、お前が何を迷っているのか俺には分からん。だが、今は桜子の為に迷っているのだろう?

なら、お前が出した道なら正しい道になる、いや、大丈夫になるように俺や杠、だけじゃない皆でする。だから、大丈夫だ!」

 

まったくこの雑頭は、一番背中を押して欲しい時に押してくれる。

千空にとって人生最大級の幸運はこの頼れる漢と親友になれた事だろう。

もう迷う必要はなかった、桜子の目を真っ直ぐに捉え問いかける。

 

「桜子、オメーの前世と旧世界でどう生きてたか聞かせてくれ」

 

そう聞かれた瞬間の事だった。

明るい表情を見せていた桜子の顔からストンと表情が消えた。

焦点が合ってるようには見えない目のまま無表情で桜子が聞き返す。

 

「何のために聞くの、それ」

「捨て鉢だったオメーがそうじゃなくなってきたのはいい事だ。

だがお前が生きていくのにまだ色んなものが必要だと思ったからだ。

……いや、ちげえな。ダチが苦しんでる原因を知りてえ、知ってそいつを取り除きてえんだ俺らは。

だから、教えてくれ。お前のトラウマと苦しさを」

 

千空の真剣な声にソッと瞼を閉じる桜子。

タップリ5秒は待っただろうか、ゆっくりと開かれた彼女の瞳には光が戻っていた。

 

「聞いて楽しい類の話じゃないよ? ろくでもない輩と、ソレの記憶を残した奴の話なんて」

「だから聞くんだよ、治すにもどういう傷か分からねえんじゃ手の出しようがねえ」

 

深呼吸一つした後桜子はゆっくりと話し始めた。

彼女の痛みと苦しみの過去と、厭わしい前世の話を。

 

 




お気づきでしょうか?
『信じられない=嘘だと思っている』
という認識に。
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