イシからの始まり   作:delin

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事前説明はしっかりと

コハクと杠に抱きしめられて泣く桜子の姿を見て安堵のため息を吐いたのはクロムだ。

 

「いやー、ゲンと千空がツッコミまくってた時はヤベーぐらいにピリピリしてたけど、なんとかなったみてえでよかったぜ、ホントによお」

「約2名程なんとかなってないみたい、だけどね」

 

今にも死にそうな雰囲気を漂わせ頭を抱えながら時たま懺悔の言葉を漏らすのは司で、バツが悪いのを誤魔化すため不機嫌な仏頂面になっているのはマグマだ。

 

「……ふう。司君、いつまでそうしているつもりですか? そうやって過去を悔いていれば赦しを得られるとでも?」

「そうだけどね、……うん、赦しが欲しいなら謝罪をするべきだね。ありがとう、氷月。俺は彼女に謝ってくるよ」

 

氷月の問いかけに答え、桜子達の方へ行く司。

 

「司君は謝罪する事が出来そうですが、そこの君はどうなんです? 図体ばかり大きくて肝は小さいんですか?」

「なっ! 俺は……! くそっ、俺は司になんぞ負けやしねえぞ!」

 

氷月に突つかれ司に続いて桜子に声をかけに行くマグマ。

その一連の動きをみてゲンとカセキは微笑んでいた。

 

「なんです、ゲン君にそちらのご老人。私を見てニヤつかないでくれますか」

「ホホッ、すまんのう。わざわざ発破をかけるなんて実はいい人なんじゃない? って思っちゃったのよ、ワシ」

「ほっといたってそのうちどうにかなったのに、やっぱり気にしてるんじゃないかなぁ〜。

まあそうだよねえ、自分も同じような事しちゃってるもんねえ、許してくれるかは気になるよね〜」

 

カセキはともかくゲンの方は完全にウザ絡みである。

しかし、そんな鬱陶しいゲンの絡みにも動じず冷静に氷月は答えた。

 

「彼らは許しを請えるぐらいの働きはしていますからね、それなのに自身の感情から躊躇をしているのは時間の無駄です。

まあ、ゲン君の言うように許すかどうかは気になりますが、そこまで器の小さい輩かどうかという意味で」

 

無用の心配だったようで一安心ですよ、と心の中だけで呟く氷月の視線の先では司とマグマの謝罪に困惑しながら許す桜子とそれらを温かく見守る周囲の姿があった。

 

「おっ!ちょうどいいや。 俺気になる事があってよお、三人なら分かるかもしれねえよな」

 

クロムが突然そんな事を言い出した。

 

「俺らに何か聞きたい事があるの? 大体千空ちゃんや桜子ちゃんが答えられると思うけど」

「いやあ、千空は興味無くて知らなそうだし、桜子はそれ関連言いたくないっぽいからよお」

 

思わず顔を見合わせる三人。

千空は知らず、桜子が言いたがらない事とは一体何か?

 

「さっき桜子が話してた中で生殖関係のが一番辛かったって言ってたじゃねえか。

子供作るのってそんなヤベー事があんのかなって気になったんだよ」

 

ああ、なるほどと納得する三人。

 

「体の内部は意外とグロいですからね」「小さな子にはきついものがあるよねえ」「性癖って魔境だからね」

 

そして三人同時に別の方向での納得だった事が判明した。

 

「いや、どれなんだよ!」

「ふむ、私は興味を持った事がないので二人の方が正解だと思いますよ」

 

先に自分の意見を否定する氷月。

 

「俺もあまり経験多い方じゃないからねえ、あってるか自信ないよ? けど、羽京ちゃんなら分かるんじゃない?」

「まるで僕が女性遊びばかりしていたみたいに言うのはやめてくれないかな。

……自衛隊に限らず軍人って待機する時間が長いんだ。だから、意外とオタク趣味な人が多くてね、それで妙な性癖とか知っちゃったりしたのさ」

 

なんとも言えないといった顔で説明する羽京。

あまり話したいものではないようで『聞いて気分のいいものじゃないよ』と拒否を示した。

 

「いや、せっかくだ。悪いが説明してくれ、その妙な性癖とかいうのをよ」

 

司とマグマの桜子への謝罪がいつの間にか終わっていたらしい。

羽京の話に千空が反応を示した。

 

「千空…理由を聞かせてもらってもいいかい?」

「こいつの二番目のトラウマだからだよ、ほっといたら話すわけねえからなこいつは」

「どうしてわかるのよお……」

 

目と同じように頬も赤くして抗議する桜子。

そんな彼女だから千空の言葉に説得力が生まれるのである。

 

「説明してもいいけど……、あってるかどうかもわからないし、何より本当に気分のいいものじゃないんだ。理解できないものも多いし、出来れば知ってほしくないんだよ」

「……千空、前世の記憶で何を見たのか、私が何故それがトラウマになったのか、一言だけで済ませられるの。羽京さんがそれで分からなかったら諦めてもらっていい?」

 

羽京が一番コレに関しては知識を持っているようで、尚且つ話すことへの忌避感を覚えている事に気づいた桜子がなるべくわかってしまうのが少ない人数に収まるように提案する。

 

「まあ、いいか。羽京って呼び捨てでいいか? すまねえが、こいつが今から話すことの解説頼むわ」

「うん、呼び捨てでかまわないよ。分かった、僕のできる範囲で説明させてもらうよ」

 

千空からの要請に快く応じる羽京。

それを確認した後、何回か深呼吸をして桜子は覚悟を決めた。

 

「私の前世は……異常性癖ビンゴ*1が三列揃うような変態だったの」

 

震えながらの言葉に意味が分からず首をひねるばかりの周囲。

一方羽京は顔を青くして驚愕に身を震わせていた。

 

「……それを小学5年ごろに見ちゃったのかい?」

 

恐る恐る尋ねる羽京にそっと頷く桜子。

彼には額を押さえ天を仰ぐしかできなかった。

 

「よく男性恐怖症とかにならなかったね……」

「そのころには前世は一般とは程遠いという事までは理解できていたので。

程遠いどころか社会に隠れ潜むのが精一杯とは思ってませんでしたけど」

 

少し言い過ぎではないかとも思うがアレは別に一種類だけというわけではない。

ただ、一列揃うには大抵反社会的な性癖が入るというだけだ。

どのレベルで三列揃ったかはわからないが、三つもそんなものを持っていたら変態と呼ばれるのには十二分だろう。

さすがにこれは解説なんて不可能だと途方にくれる羽京。

そんな羽京の様子も気にせず桜子が決意表明する。

 

「だから私は正しい子供の作り方を広めたいんです、特にまだ知らない子に。

初めて知るのがあんなものだったら必ずトラウマになりますから」

「いや、どんなんだよ必ずトラウマになるって」

 

力強く目標を語る桜子におもわずツッコム千空。

クロムや氷月らも口にこそしないが同じ気持ちのようで、桜子らを見る目が訝しむものになっている。

その千空のツッコミに説明を放棄ぎみの羽京に代わり桜子が地獄の底から響くような声で答える。

 

「千空、子供作るって命を繋ぐ為の行為よね?」

「お、おう。そうだと思うぜ」

「なら、命を損なうようなものは間違ってるはず、そうよね!」

 

ドン引く千空に詰め寄る桜子の目は焦点が合ってるようには見えない。

この時点で千空は悟った。

このトラウマは方向性違うだけでこいつにとっての重さは自己否定のものとほぼ同じだと。

 

「そうだな、この件については……、羽京と相談してどうすっか決めてくれ!」

「千空!?」

「仕方ねえだろ! 俺ら誰も知らねえジャンルだ! 文句あんなら復活液使ってそれの専門家起こしやがれ!」

 

その闇の深さに自分に対処できるものではないと理解した千空が羽京に丸投げをした。

当然羽京にとっては寝耳に水だ、大慌てで止めようとするが千空の説明が一歩早かった。

 

「いや、たしかに比較すれば知ってる方だけど僕だって知識があるとは言えないよ! あとコレの専門家ってどういう職業!?」

「心理学者じゃないんです? それは後でいいから、村に着いたら村の既婚者の男性の方を当たってもらっていいです?まずは村人が正しい子作りをできているかどうかを調べて欲しいんです」

「僕に夜の夫婦生活を調べて欲しいって事!? 下世話過ぎるよ、それは!」

「あんな性癖の無法地帯を復活させるわけにいかないでしょう? これは必要な事なんです」

「とんでもない事要求してるのに、どう見ても真面目に言ってるようにしか見えない! ちょっと誰かこの子止めてよ!」

「よーし、桜子の対処は羽京に任せて俺らは舟に荷物積み込むぞ。

やるべき事は山積みだかんな、残念ながらのんびり過ごすのは後回しだ」

 

羽京の助けを求める声を黙殺し、全員が拠点を引き払う準備に取り掛かる。

悪いとは思ってもこの件に関して知識が足らない者では助けにならないのだ。

そう心の中で言い訳して、羽京の悲鳴を後に村への引越し作業は進むのだった。

 

 

「そういえば、スイカは置いてきたんだね。

まあ、危険な事態になるかもなんだから当然だけど」

「……誰かスイカに出る前に話したか?」

「慌てて飛び出したからね、誰もそんな暇なかったんじゃないかな」

「よし、桜子のせいにして説明責任全部ひっかぶせんぞ」

「全員で謝った方がいいだろ、桜子だけに押しつけるとさらに怒ると思うぜ」

 

帰りの船上でスイカに説明した者が誰もいない事にようやく気づく一行であった。

そして村に着いてやった最初の行動が……、

 

「ごめんね、ごめんねスイカ! 私が一番悪いから皆んなは許してあげて!」

「いいんだよ、スイカは結局お役になんて立てないんだから」

「それは違うぞスイカ! アイツらはスイカが危ない目に遭わないようにだな、」

「それで皆んなで危ない事してきたんだよ」

「うっ、それはそうだが……」

「一言ぐらい誰か話しといてくれてもよかったと、スイカは思うんだよ」

 

拗ねまくるスイカに対し金狼銀狼を除く村から拠点に行った男全員での土下座と、桜子、コハク、杠らによる全力でのフォローであった。

ちなみに、マグマがなぜいるのか? 司に捕まって逃亡に失敗しているからである。

 

「とりあえず、はじめましてだねスイカちゃん。私は杠って言うの、よろしくね」

「うん、よろしくなんだよ……」

 

いつもならば元気いっぱいに返すであろうはじめましての挨拶も萎れてしまっている。

 

「仲間外れみたいで寂しかったの? それとも役立たずって言われたようで嫌だった?」

「……いいんだよ、スイカはこんなチビだし、役立たずって言われてもしょうがないんだよ」

 

完全に落ち込んでしまいしょぼくれるスイカ。

杠はそんなスイカをそっと抱きしめて優しく囁く。

 

「そうじゃないよ、スイカちゃんが、安全な所で待ってくれてるって事が皆んなに勇気をくれたんだよ。

もう一度、桜子ちゃんをスイカちゃんに会わせようって思えたから皆んな頑張れたんだから」

「……本当なんだよ?」

「もちろん! ね、皆んな」

「「「「「はい、そうです!」」」」」

 

唐突に杠から話を振られておもわず全員でハモる五人。

その必死な様子が功を奏したのかスイカも信じてくれたようだ。

 

「わかったんだよ、スイカお役に立ってたんだね」

「そうだよ、だから、ね、笑って? 笑顔でお帰りって言ってあげて?」

「うん、わかったんだよ。……皆んな、お帰りなんだよ!」

「おう、ただいまだ、スイカ。遅くなっちまって悪かったな」

 

杠の言葉に応えて笑顔でお帰りを言ってくれたスイカにようやく肩から力が抜けた一同であった。

 

「スイカちゃん、実はね私たち桜子ちゃんの秘密を教えてもらってきたの。

スイカちゃんも教えてもらってくるといいよ。ね、桜子ちゃん」

「へ? あ、うん。スイカにも教えてあげるね」

 

突然話をふられ戸惑いながらも承諾の返事を返す桜子。

 

「本当!? スイカにも教えてくれるんだよ?」

「うん、スイカにも知って欲しいな。聞いてくれる?」

「もちろんなんだよ!」

 

目を輝かせるスイカに桜子も頬を緩ませて逆にお願いする。

スイカも当然とばかりに頷いた。

 

「それじゃあコハクちゃん、二人に付き添ってもらっていい?

びっくりしちゃうだろうから、他にも知ってる人がいた方がいいと思うの」

「あ、ああ、そうだな。それなら私の部屋で話そうじゃないか」

 

あ、これは怒っている時の杠だ、と気付いたコハクは二人と一緒にこの場を離れられる提案をした。

もちろん二人に否やはない、すぐに了解の返事を返し三人で仲良く連れ立って行く。

そして残された男達はまだ全員座った状態である。

その時の事を振り返って曰く、

『鬼子母神って表現はああいうのを言うんだな』

としみじみ語ったのは千空である。

杠のお説教はコクヨウへの挨拶を終えた大樹らが戻るまで続いたのであった。

*1
検索禁止。少なくとも筆者はドン引きしました




大分お待たせしました(汗
注釈部分辺りを書くか少々迷いましたが、桜子が前世の人格と完全に別であると認識する重要なポイントですので書きました。
尚、検索して心に傷を負っても自己責任でお願いいたします(目逸らし
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