イシからの始まり   作:delin

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しばらく時系列は順不同でお送りいたします。


村での日々①

・大樹と杠、コクヨウへの挨拶をする

 

お説教モードから切り替えた杠は大樹に連れられてコクヨウのいる家へと向かっていた。

 

「大樹くん、コクヨウさんってどんな感じの人だった?」

「そうだな、偉い人ではあるんだが歓迎してくれてるのが雰囲気で出てて堅苦しいというのはなかったぞ。ただ、なぜか司についてよく聞いてくるのが多かったな」

 

そう言って首をひねる大樹。

杠にも心あたりはなく、よくわからないと首をひねるだけである。

そして、距離があるわけでもなくすぐに長の家に着いた。

階段の下の両脇に立つジャスパーとターコイズの二人に一礼して登っていく二人。

登りきった先ではコクヨウと先程大樹が皆んなと共に挨拶した時にはいなかった女性がいた。

 

「ん? おお、来たかね大樹。そちらが杠か、千空から少しは聞いておる。

先程来た時にも言ったが自由に村へ出入りしてくれてよい。

かわりに、というわけでもないが娘のルリを説得するのに手を貸してくれ」

 

二人に協力を願うコクヨウは困り果てている様子だ。

 

「ルリよ、巫女としてせねばならねというお前の言い分は分かった。

だが、桜子も言ったであろう? お前が生きているのは奇跡に近いと。

その状態で百物語を全て話すのは自分だけでなく聞く側の者も死なせかねんと」

「それは分かっているのですお父様。ですがどうしても伝えなければならないのです。

それが代々受け継がれてきた百物語の、ひいては始祖様の願いなのですから。

ここで私だけが死に怯えて逃げたら、お母様に顔向けできないのです、分かって下さいお父様」

 

女性は必死な様子で訴えていて、とても重要な事なのは分かる。

しかし、時折苦しそうに咳き込む様は確実に病人のそれだ。

相当苦しいだろうに何をせねばならぬというのか?

それさえも分からない二人はまずそのあたりの事情聞くことにした。

 

「まったくその通りだな、ルリよこの二人に事情を説明するまで待ってくれるか?」

 

渋々と言った感じではあるが頷くルリと呼ばれた女性。

彼女が頷いたのを見て明らかにホッとした様子でコクヨウが事情を話し出した。

コクヨウが言うにはどうも千空に伝えねばならないお話が村には代々伝わっており、彼女はそれを伝えられる日をずっと待っていたらしい。

すぐに伝えなかったのは先に桜子よりこう言われたそうだ。

 

「ただでさえ咳き込む事が多いのに、長い話を語るなんて事をしたら酷く病状が悪化しかねない。

伝えなければならない話があるならせめて今作っている薬が出来て、それを飲んで薬効があるかないかを確認してからにするべきだ」

 

その言葉に周りももっともだと思い薬の完成を待っていたのだが……

 

「今回村から飛び出していった先で下手をうてば死んでいたと聞きました。

死の危険は常に誰にでもあるもの、そんな事さえ私は忘れていたのです。

私も巫女としての使命を果たすために死を恐れていてはならないのです。

どうか千空さんに会ってお伝えする事を許して下さいお父様」

 

事情はある程度分かった、つまりは今回の桜子の動きに端を発して千空が死にかねない動きをしたせいで彼女は焦ってしまっているわけだ。

 

「なあ、ルリさんでいいだろうか? 俺は大樹という、千空とは長く友達をやっている。

そんな俺だから言える事だと思うが千空は死なない、決して何かを置き去りに死んでしまったりなどしない!

そういう男なんだ、だから千空を信じて欲しい。巫女の使命が大切なのも分かる。

だが、貴女の命だって大切なんだ! 周りの人達にとってもきっと千空にとってだって。

だから、もう少しだけ待ってやってくれないか」

 

理屈も理由もなくただただ千空への信頼がその言葉にはあった。

そんな真剣な表情で話す大樹にルリも信じて待つべきではないかという思いが芽生える。

 

「大丈夫です、危ない事はしないように、私からも千空くんに言い聞かせておきますから。

だから待っていてあげて下さい、コクヨウさんも貴女が大切だから言っている事なんですから」

 

杠の宥める言葉にさらにその思いが膨らむ。

だが、もし伝える機会があったのに伝えずにいて二度と訪れなかったりしたら……

そんな不安も決して消えはしない。

 

「大丈夫だ、千空は死なない! そうならないように俺達が守るから!」

「大丈夫です、千空くんは死にません。そうならないように私達が止めますから」

「「だから安心して待っていて(くれ)(下さい))!」」

 

最後は同時に宣言する二人。

その力強さにルリもこの人たちがいれば大丈夫かもしれないと感じためらいながらも待つことに納得した。

 

「正直に言えばまだ不安はあります、ですがお二人とその仲間の皆さんを信じて今は待ちたいと思います」

「おお、分かってくれたかルリよ。二人ともすまんな、親として娘の不安を取り除く事ができなかったワシの代りにルリの説得感謝するぞ」

 

ようやく納得してくれたルリに大いに安堵したコクヨウが二人に頭を下げて感謝の意を示す。

 

「いえ、俺は自分の気持ちと決意を言っただけです。感謝してもらうほどの事ではありません」

「私も同じです。ですから頭を上げて下さい」

「そうか、やはり千空が誇らしげに言うだけの事はあるな。

二人とも立派な人物だ、知り合えた事嬉しく思うぞ」

 

ニッコリと笑顔で絶賛するコクヨウに気恥ずかしくなってしまう二人。

 

「そ、それではそろそろ失礼します。あまり長く居ても失礼でしょうし、まだ荷運びも終わっていないので」

「おお、そうであったか。あまり引き留めては迷惑になってしまうな、またいつでも訪ねてきてくれ、歓迎するぞ」

「あ、ありがとうございます、それじゃあ失礼しますね」

 

そうして二人が去った後ルリがコクヨウに話しかける。

 

「素晴らしいご夫婦でしたね、あれで私より年下だなんて信じられないほどです」

「うむ、だが千空と同い年らしいのでな、間違いなかろう。

あの若さであの落ち着きよう、これはあの二人の子供が今から楽しみだ」

 

まだ夫婦ではないのだが完全に勘違いされていた。

この勘違いは大樹がコクヨウに子作りを習いに来た時まで続いたという。

 

 

・納得いかない南女史

 

「どういう事なのこれは!」

 

復活者の女性たちが集まったその場で南さんの声が響く。

この家は司達が村の近くに切り開いた元森、現広場に建っている女性用の家だ。

何故か村の男性陣だけでなく女性たちからも応援が来てあっという間に建ってしまった。

男共が南さんに声をかけるのは分かるが杠が村の女性たちからよく話しかけられてたのは何故だろう。

それはともかく、今は南さんの不満を聞くことにする。

 

「南、それだけじゃ何がなんだか分かんないだろ。一から説明しな、答えられる事なら答えるから」

 

ニッキーが南さんを宥めるように言う。

それで少し落ち着いたのか南さんが不満の元を話し始めた。

 

「なんで村の人達はつかさんがコハクのお相手っていう認識なのよ

釣り合いは……いや確かに年齢も3歳差だし顔もスタイルもいいけど、とにかく納得いかないのよ!」

 

うーんこれファンだったアイドルにいきなり恋人発覚! とかそんな心理だ、さては。

どういうべきなのか悩むけど、正直にいうのが一番かな。

 

「南さん、それは少し違うの。村の人にとっては司にコハクを引き取って欲しいのよ」

 

私の発言に一斉に首を傾げる三人。

 

「あの顔とスタイルでさらにさっぱりとして付き合いやすい性格でモテないとでもいうのかい?

確かに多少お転婆かもしれないけど、それでも男共がほっとかないでしょ、あのワガママボディなら」

 

うんうんと頷く南さんと。

常識というか価値観の違いだろうなあ、この辺は。

 

「残念ながらコハクは嫁ぎ先の見つかりそうにない、嫁き遅れがほぼ確定的な子なんですよ、これが。

何故かと言えば、村でモテる女の条件って家事ができる事と男を支えてくれるかっていう事の二つなんですよ。

で、コハクは家事得意ではないし、男を支えるというより隣に立って共に戦うタイプじゃないですか。

下手な男じゃ置き去りで男女逆転になっちゃうし、村の男共からすると敬して遠ざけるのが最適解になっちゃうんですよね」

「なるほど、司ならコハクを後ろに置けるから釣り合いが取れるって訳かい。

それなら分かるねえ、あの子が強すぎるのが原因って事だね」

「娶りたいかって質問にNOと答えるか、顔を青くしてごめんなさいと言ってくるかの二種類にほぼ分けられる子なんですよ、コハクは」

 

一番ましなのがクロムとナナシな時点でお察しである。

片や無頓着、片や全員に対し同じ反応の二人が一番ましってどうかと思う。

 

「だからってつかさんがお相手にならなきゃいけない理由はないでしょ!

これから人を増やしていけばそういうのがいいって人もいるでしょ!」

「いや、村の人そんな事知らないですし」

 

むがーと不満たっぷりに吠える南さんに言うが落ち着くほどの効果は見られない。

仕方ない、ガツンとぶつけてしまおう。

表情を真剣なものにして姿勢を正し真っ直ぐ南さんを見る。

 

「南さん、何故貴女がそういう風に司のお相手をどうこう言うんですか?

まずは冷静になって南さんと司の関係を考えましょうか」

 

私の言い方にカチンと来た南さんが一瞬怒鳴ろうとするが、私が怒ってる訳でも煽っている訳でもない事に気づいたらしく思いとどまってくれた。

そして努めて冷静に南さんは言葉を返してきた。

 

「そうよ、つかさんと私はただの取材対象とインタビュアーよ。

だけどね、あの人の活躍と幸せを願うファンの一人でもあるのよ」

 

うーむ、さすが司が選んだ復活者の一人。

あっという間に私の言いたい事を汲み取って反論して見せた。

だけどなあ、

 

「司はチャンピオンである事を嬉しいって思ってたんですかね?

誇りには思っていると思うんです、だってマグマ達と試合してる時いい笑顔ですから。

自分の強さの証明の一つであるそれは彼にとって一種の勲章のようなものだとは思うんです。

だけどそれに付随する名誉や賞賛の声、もっと言ってしまうとファンや追っ掛けは要らなかったんじゃないですかね」

「それと今のつかさんのお相手問題がどう関係するの!」

「ファンはただの第三者でしかないという事です。お相手問題は司が決める事で他の誰にも決定権はありません。

村の人達が言ってるのだってただの野次であるのでほっとけばいい話です。

もちろん司自身から迷惑だとか困ってるという相談をされたら話は別ですけど、そうでないならとやかく言うべきことじゃありません」

 

南さんは私の言っている事に反感は覚えてもいい反論が思い浮かばないようだ。

悔しそうに唇を噛み締めて俯いてしまった。

凹ませたい訳じゃないんだけどなあ、しょうがないフォローを入れよう。

 

「と、ここまではファンでしかない人への話です。

南さん、貴女は司をどう思っているんですか? 取材対象としてではなく、男性として」

「ええっ!」

 

この質問は予想外だったらしく明らかに狼狽える南さん。

 

「ファンとしてではなく、一女性として司にアタックするなら誰にも止める権利はないっていう話です。

で、どうなんですか? ただのファンでしかないのか、それとも生涯の伴侶としたいのか、どっちです?」

「そ、そんな事言われてもちょっと心の準備がまだ出来てなくて……」

 

目を回して顔を真っ赤にして両手と首をブンブン振りだす南さん。

可愛らしい姿である。だけど、有耶無耶では終わらせない。

 

「今すぐ答えを出せとは言いません、ですがコハクが司の伴侶になるのが嫌なら同じ土俵に登って下さい。

少なくともコハクにはその覚悟を決めさせてます、司に求められたら一生を添い遂げるという覚悟を」

「いきなりそれは厳しいと思うけど、……でも、そっか。そうしなきゃいけない世界なんだよね今のこの世界は」

 

杠が南さんのフォローをしようとして思い留まる。

いつまでも旧世界の感覚でいては支障が出る部分もあるのだ。

というか、部外者同士でケンカするのは当人にとって一番迷惑だろ。

なんでファンとかマスコミって奴らは関係ない他人のことであんなに盛り上がれるのか理解できない。

 

「ちょっと考えてみるわ、この気持ちが勝手な事を言われて怒ってる気持ちなのか、それとも別の気持ちなのかを」

「そうしてください、私個人としてはできればファンとしてではなく北東西南一個人として司に向き合って欲しいですけど」

「コハクを応援してる訳ではないの?」

「してない訳ではないですけど、どちらかと言えば司に幸せになって欲しいかなと。

まあ不幸になってる人を見たくないし、幸せそうにしてる人が多い方が社会的に良い事だってだけですけど」

 

だってコハクも司に関しては多少の打算混じりだからなあ。

南さんが本気でアタックするならそれはそれでありだと思う。

 

「……変わってるわね、ホント。前世の話も漫画云々の話も本当に思えてきたわ」

「聞きたくなったならいつでもどうぞ、私ももう大丈夫そうですから。

絶対に信じてくれる人がいるから、何言われても耐えられる気がするので」

 

パチっとウインクしておどけて見せる。

 

「そう、それならいつか聞かせてもらうわ」

 

ふふっと笑って南さんが寝床に入っていった。

もう夜も遅い、その日はそれでおしゃべりの時間は終わりになった。

 

 

後日の事、司が南さんに迫られすごい勢いで逃げ出す姿が確認された。

司はコハクと南さんどちらを選ぶのか?

今の村での最大の注目ポイントだ。

焚きつけた私が悪いのだろうか?

とりあえず、司が逃げた方角へ手を合わせごめんと呟くのだった。

 




ネタが尽きるまではこの形式で行くか……?
書きたいネタは結構頭の中にあるのですがこのタイミングでないと書きにくいネタがたくさんあるので……。
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