・酒と男達の嫁自慢と自棄酒と
甕から酒が注がれる、それを飲み干す、また酒が注がれる、また飲み干す、注がれる、飲み干す、注がれる、飲み干す、ずっとそれが続き時間が巻き戻っているかのような錯覚を覚える。
だが、それはやはりただの錯覚だ。
なぜなら空になって転がる甕が着実に増えているからだ。
「と、まあ以上が私と妻の夜の話ですな!」
「おお、やっと終わったか、鉄犬。ならばトリを務めるワシの出番じゃな!」
後、酔っ払いの嫁自慢&惚気話がようやく最後の人まで来たからだ。
ちなみに僕自身はシラフだ、まだ一滴も呑んでない。
とりあえず、このコクヨウさんの長い話が終わったら吐くまで飲もうと思う。
馬鹿みたいに長くなりそうなコクヨウさんの話を書き留めつつ、なぜこうなったかを現実逃避を兼ねつつ思い出す。
確かあれは桜子からのオーダーを実行するためコクヨウさんの所に聞きに行ってからだ。
「うーむ、夜の生活の調査か……。必要な事であるのかな?」
「そうですね、あまりおおっぴらに話すことではないが、個人だけで完結してしまうのも良い事ではない、と言った所ですね」
狭い環境だけで閉じこもって客観視できずにいると先鋭化しすぎて過激になりやすい。
そう真剣に話す桜子の意見には頷ける部分もある、そう思ったからこうして話を聞こうとしたのだ。
「ふうむ、確かにそういう話をする機会はないな。そなたらの時はどうしていたのかな?」
「これ関連の話ですか? そういう話をする場所は掲示板か……酒の席で酔って悪ノリした時ぐらいですかね」
「ほう、酒の席で……。どうかな、そなたらが大量に持って来てくれた事であるし、ここは一つ酒宴を設けるというのは?」
「そうですね、交流も深まりますしいいアイディアだと思います。
千空あたりに飲んでも大丈夫な量を聞いときますね」
そんな風に男達の酒宴が決まり、ちょうどいい事に女性たちでも果物パーティーをやりたいという話が持ち上がっていたのでトントン拍子で日にちまで決まっていった。
誤算はただ一つ、復活者で自分以外の飲酒可能な人の数を忘れた事である。
結果はご覧の有り様、ひたすらに話を書き取り続けるという惨状の出現だ。
後、失敗としては筆記用具を持ってくるのを忘れて宴会の最初の頃にいられなかった事だろう。
そのせいですっかり出来上がった皆に乗り遅れてしまったのだ。
おかげで素面で酔っ払いの惚気を書き取る罰ゲーム状態だ。
僕何か悪い事したっけ? そんな疑問が浮かぶ程度にはダメージを負っているらしい。
まあ、聞く限り性癖にひどい偏りは発生していないようなので、徹底的に飲もう。
ようやくコクヨウさんの惚気話も終わったし、まだ開いてない甕を開けてコップを突っ込み汲み上げる。
そして一気に飲み干し……世界が回って意識を失った。
「羽京殿! どうされた!」
「んん〜? これ確か飲むなって言われた甕じゃねえか? 間違えて持ってきちまったから開けんなって言われたよなあ?」
「彼はその時席を外していなかったか? 悪い事をしてしまったな」
あとで調べてみたのだけどそれは復活液用の96%の奴だったらしい。
通りで一杯だけで倒れたわけである、急性アルコール中毒で死なずに済んで良かった。
結局酒を楽しむ事はできなかったんだけどね。
・失敗分はどこかにしわ寄せがくる
「千空、まずい事態かも。天使の取り分思ったより多いみたい、復活液足らないかも」
「動かしたりなんだりで思ったよか空気に触れる面積多かったか? どのくらい減ってんだ?」
「んー、当初の予想よりコップ一杯分くらいかなぁ?」
「ってなるとこっから蒸発する分も含めると……」
「すまないんだが二人だけで納得する前に説明をしてくれないか?」
二人の会話に全くついていけない皆を代表して司が二人に問いかける。
「あん? 別に難しい事じゃねえぞ、蒸発速度が想定より早えからどうすっかって話だ。おい、生産の方は?」
「甘いものに目覚めちゃった村人が収穫しちゃってこっちも微妙、追加生産は難しいかもだね」
「そうなると蒸発しないようにするっきゃねえか……。
司、悪いが力持ちを5、6名見繕って復活させてくれ。秋蒔きの小麦を速攻で栽培すっぞ」
「いや、だから、一からそういう結論に至った経緯を説明してくれ! 突然そんな事を言いだされても困る!」
司の言葉に揃って首をひねる二人。
そして自分達の頭の中だけで処理してしまっていた事を千空が先に気づいた。
「わりーな、今説明するわ。アルコールが復活液の分足りるように確保してたつもりだったんだよ。
が、予想より蒸発してて当初の予定人数復活させられねえかもしれねえんだ。
そこで蒸発する前に先に使って空気に触れる面積減らそうって寸法だな。
ついでに食料生産を早めにやっちまおうって思ったから、さっきのにつながるわけだ」
「ああ、ようやく分かった。想定外が起きたから計画を前倒しで始めようとしているわけか」
ようやく納得できたと安堵した反面かなりまずい事態ではと思い立つ。
「大丈夫なのかい、酒宴では思ったより飲まれてしまったそうだけど」
「ああ、酒飲みの胃袋舐めてたな。良いって言った量キッチリ飲んだ上で村の貯蔵分まで飲んじまったらしい。
まあサルファ剤が効果ありだったからな、それで余計に羽目を外しちまったんだろうよ」
「おかげで御前試合分の後の宴会どうしようって青ざめてるけどね。
仕方ないから確保してた甜菜も種の分除いてお酒にするつもり」
「コップ一杯分ねえ、うっかり飲んじゃったんじゃないの?」
「ないない、スピリタス並みに強くてしかも味がキツイのなんて口つけた瞬間噴き出すわよ。
大体コップ一杯分も飲んだら急性アルコール中毒真っしぐらコースだし、持ち出し禁止のマークもある。
さらに、一人飲んだらひどい味だって分かるから複数人で飲むのもありえないしね」
と笑って流す桜子。
「ふうん、まあそれはいいか、追求してもなくなった物が戻るわけじゃないし。
司ちゃん、人選についていくつか注文つけてもいい?」
「構わないよ、ゲン。君のことだ、上手く人間関係が収まるようにするためだろう?」
「ま、無駄にもめるのは面倒だしね。最小限で済ましちゃいましょっていう話よ」
「分かった、南さんにも聞いてもらって条件の合う人物を探すとしよう」
「で、ゲン君の言った力自慢で単純な人物という条件に従った結果がこれですか。
もう少しどうにかならなかったので? 見事に脳の溶けた連中ばかりではないですか」
千空からの要請で計6名を目覚めさせ、今日初めて村まで連れてきたのだが……。
「おう、はじめましてだな原始人ども! これからはバシバシ俺らが指導してやっから覚悟しておけよ!」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてマグマらにそう声を上げる彼らを見て人選を誤ったかと思う司である。
当然のことながら言われた方はかなりイラッとしたらしく早くも臨戦態勢だ。
「左からゴーザン、ユーキ、レン、アカシ、キョーイチロー、モリトだ。
今日は一応親睦を深めるのが目的と言ったつもりだったんだがね……」
「司さん! 見てて下さいよ、天狗になった原始人連中なんざあっという間にノシてみせますからね!」
彼らには額を押さえる司の姿が見えていないのだろうか?
そんな疑問を尻目に両陣営のにらみ合いはますます剣呑な雰囲気を増していく。
「司には悪いと思うが、此奴らは一回痛い目に遭わねば理解できまい。全力で叩くぞ、いいな?」
「司がなんで頭を抱えてんだか分からねえが、鼻っ柱が高すぎる奴は一回折っといた方がそいつ自身のためになるだろ」
「無駄な争いは好かんが、あちらがここまで戦意剥き出しな以上ぶつかるのは避けられまい。
馬鹿にされっぱなしというのも癪だからな、全力でお相手しよう」
3人とも好戦的、又は挑発されて逃げる性格ではないためもはや止まりそうにない。
「やらせればいいでしょう司君。一回叩かれれば彼らも身の程を弁えるでしょうし」
「氷月、面倒だからと焚きつけないでくれ。第一……」
「あ!? 何司さんに偉そうな口利いてんだヒョロガリィ!」
司と対等ですといった態度が気に障ったのだろう、ゴーザンが司の言葉を遮って氷月に突っかかった。
反応はそれぞれであったが総じてこの一言に集約できるだろう。
「「「やっちっまったな(やってしまったな)……」」」
氷月の実力を十二分に理解できている村のメンバーとしたら、ただの自殺にしか見えないレベルである。
司ももう止めるのを諦めたらしい、大きくため息をついて試合を組む事を認めた。
「それじゃあ村側の3人対君ら6人で試合をしよう、過度な怪我をさせないようにだけ気をつけてくれ」
「おう! 任せて下さいよ司さん!」
自らの手で目の無さを見せつけるつもりだった氷月が不満そうに鼻を鳴らす。
司はそれに弁明するように条件を付け加えた。
「で、勝った方のチームが次に氷月と稽古をするという事で勘弁してくれないか?」
「ふむ、まあいいでしょう。彼ら6人程度ではアップにもならなそうですし」
「勝った後のがつらいものが待っている気がするのだが、私の気のせいか?」
「諦めろ、ワザと負けたりしたら師匠の逆鱗に触れるぞ。
そんな事になったら何が起きるか分からんからな、全力でやる以外選択肢はない」
「元々手を抜くなんざありえねえだろうが、コイツらごとき速攻で片付けっぞ」
マグマ達にとってはとばっちりに近い。
だが、やる事は変わらないと気合いを入れ直す3人。
そんな前座扱いに気づいていないのかゴーザン達は未だ侮った態度を変えない。
司が試合開始の合図を出そうとしている姿を見て彼らもようやく構え始める。
「勝敗はどちらかのチーム全員が気絶か参ったするまで、では……、始め!」
司の掛け声の次の瞬間には一人は喉を突かれ悶絶し、一人は鳩尾を突かれ胃液を吐き出し、もう一人は頭頂部に一撃を受け地面に突っ伏していた。
一瞬で半分になった事に動揺するゴーザン達。
それはあまりにも致命的であった。
それを見逃すほど3人は優しくなく、ほどなく6名全員が仲良く地に伏せる事になった。
「やれやれ、私のウォームアップにならないとは思っていましたが、まさかマグマ君達のウォームアップにもならないとは」
「油断するなと言っておくべきだったかな? ここまでの醜態を晒すとは予想外だったよ」
「そもそも対峙した相手を舐めてかかるなど言語道断ですよ」
ばっさりと切って捨てる氷月にフォローのしようもないと天を仰ぐ司。
一方マグマ達は今しがた叩き伏せた面々など毛ほどにも気にせず氷月対策を相談していた。
「まずは………に出るから、………はその隙に……」
「しかしそれでは……」
「いや、いい考えだと……」
小声で氷月にはほぼ聞こえないが、彼らの表情からとても真剣に考えているのがよくわかる。
「いいですねえ、実にちゃんとしている。実力差をしっかりと理解した上でどうすれば良いのか考え抜く姿勢が見えます。あれこそ人間のあるべき姿ですよ」
「その意見には全面的に賛成だね、あの姿を見せる為にも寝てしまっている彼らを起こすのを手伝ってくれないか?」
「手間ですが、まあいいでしょう。見なければわからないものもあるでしょうしね」
尚、起こし方は水を頭から浴びせて起こした模様。
当然文句が出たが先程の無様な敗北を司に指摘され黙る羽目になった。
「これから氷月と彼らの稽古が行われるからしっかりと見ておくように」
「司さん、俺らを一蹴する連中にあのヒョロガリが通用するんですかい?
あんなほっそい体じゃあ一発で折れちまいますよ」
「一撃氷月に当てられたら喝采物だけどね、まあ、見ていれば分かるよ」
自然体で立つ氷月と戦意を漲らせ緊張感を覗かせる3人。
その姿を見るだけでどちらが稽古をつけてもらうのか素人でも分かる。
「どうぞ、君たちのタイミングで来て下さい。どうとでも対応して見せますので」
3人はそれぞれ目配せをしあい、一つ頷く。
そしてマグマが最初に前へ躍り出た。
「うおおおぉぉー!!」
(ふむ、先ずは体格のいいマグマ君が前に出て私の視界を遮る。
彼が囮を買って出るのは意外と言えば意外ですが、消去法で彼しかできませんしね)
目の前の光景に分析を加えながら氷月の槍先は即座に迎撃に移る。
とは言っても実戦と違い刃先は只の布、余程いいところに当たらない限り一撃では倒せない。
マグマもそうなるのが分かっていたようで急所のみを守る形だ。
(実戦と稽古の違いを分かっているからこその動きですね。
狙われて不味い場所のみをしっかりと守りその他の被弾は必要経費と割り切る。
いいですねえ、味方と敵方の強みと弱みをよく理解している動きです)
とはいえいつまでも氷月が壁役に付き合うわけはなく、守りの上から抜くために一度ためを作る。
そして、それこそを彼らは待っていた。
「マグマ!右だ!」
(ふむ、渾身の一撃を躱させその隙に、ですか。狙いは悪くないですが……)
多少動いた程度では氷月の槍は避けられない、マグマが動いた瞬間にそちらへと槍先が動くだけだ。
さらに動く方向まで言われては外す方が難しい。
一瞬程度の時間であっても対応して見せる、マグマが右へと動いた瞬間に彼は倒れるだろう。
そしてマグマは動く、マグマから見て左へと。
声に釣られて彼が右に動くのを待っていた氷月は意表を突かれた。
それだけではない、マグマが動いた後ろから金狼の全力の一撃が飛んできたではないか!
その威力にさしもの氷月も迎撃に移らざるを得ない。
溜めた一撃を持って金狼の槍を迎え撃つ。
激突し弾かれたのは金狼側のみ、とはいえ氷月も槍先をすぐには戻せない。
その隙を待っていたとばかりにコハクが地を這うように脚を狙って迫る!
(良い連携です、ですが!)
神速の戻しによって石突をコハクの肩に叩きつけ吹き飛ばす!
しかし、これで氷月の槍はすぐには動かせなくなってしまった。
金狼の槍を弾き飛ばし、コハクを迎撃した事で今度はマグマが自由になっている。
そして、マグマはすでに得物を大上段に構え振り下ろそうとしている。
槍の肢で受け衝撃を逃がすようにすれば防ぎきれる、氷月はそう判断したが…
(ここまで魅せてくれたのです、私も一つ隠し芸を披露しましょう)
マグマが剣を全力で振り下ろした、次の瞬間人体と剣のぶつかる音が高く響いた。
「な、んな馬鹿な!」
「余技ではありますし、真剣であれば無理だったでしょう。
私自身初めてやりましたがね、これを真剣白刃取りと呼びます」
マグマの剣は氷月の眼前にて彼の両手で挟み込まれ止められていた。
予想もできなかった事態に一瞬保けるマグマだったがすぐに我に返り剣を押し込む。
しかし、力を込めた途端向きを変えられてしまい、氷月に届くことなく空しく地面を叩くのみ。
もう一度マグマが構える前に氷月の槍先はマグマの首に突きつけられていた。
「くそっ! 参っただ!」
「マグマ! 貴様、せっかく私達が囮になったというのに決められないとはどういう事だ!」
「うるせえ! 氷月が一枚上手だったってだけだろうが! 大体最初に囮になったのは俺だろうが!」
策が理想的に決まり今度こそ一本取れるかと期待した分落胆も大きかったのだろう、マグマとコハクはそのまま言い争いに入ってしまった。
「無念です、3人がかりならば師匠に一撃入れられるかと思ったのですが」
「いえいえ、とてもいい線まで行っていましたよ。石化前の私でしたらもらっていたかもしれません、ですが私も成長していないわけではないのでね」
「追いつける日は遠そうです、無論諦めるつもりは一切ありませんが」
「ええ、まだ指導し始めて短いのです。簡単に追いつかせては君たちをガッカリさせることになってしまうでしょう? そうならないように私も必死なのですよ」
精進致しますと丁寧に礼をする金狼を上機嫌で労う氷月。
そして一連の動きを見せられたゴーザン達は開いた口がふさがらない状態であった。
「さて、ご覧の通りだが、まだ氷月を侮れるかい?」
司の問いに首がもげそうなほど横に振るゴーザン達。
「指示に従わない場合は氷月か俺が指導に来るだろうからね、しっかり従って欲しい。
まずは君たちが嫌がった畑仕事をしてもらうが、問題は?」
「「「「「「ありません!!」」」」」」
顔を青くして大声で了承の返事を返すゴーザン達。
彼らが村人達を原始人と侮る事は二度とないだろう。
こうしてようやく安心して村人達と交流させる事が出来るようになったのであった。
後日ゴーザン達は氷月達に対して呼び方を改めた。
氷月のことは師範と呼び、金狼とマグマは兄貴、コハクの事は姐御と呼ぶようになったそうで。
その影響からか、その後の復活者達は侮った態度を覗かせる者は誰もいなかったという。
「先に秩序が出来上がっていると、人間それを乱そうとは思えないものさ」
ゲンは笑いながらそう言ったそうだ。
戦闘描写頑張ってみた回。
次回あたりから時間軸ぐちゃぐちゃから抜け出す予定。