イシからの始まり   作:delin

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皆少しずつ変わっていく

ルリの病状が大分改善されて咳もほぼ無くなり、投薬を止めて様子を見てみようとなったのは秋も深まり冬の気配を感じる頃になってからだった。

 

「なあ、千空。なんで薬を飲ませ続けない方がいいんだ?」

「生き物を叩き続けりゃそのうち叩いても効かなくなんだろ、それと一緒だ」

「あー、病気ってのは目に見えねえちっさい生き物みたいな奴が悪さしてるから、だったけか。

だから、慣れさせねえようにずうっとじゃなくヤベー時だけ使う訳か」

 

そして、ジッと村長宅を見つめて感慨深げに呟いた。

 

「やっとルリの病気をぶっ倒せんだよな」

「まだまだ油断できる状況じゃねえがな、ルリに関しちゃそう言っていいんじゃねえか?」

「今桜子がルリを診てんだよな、どんな感じって言ってたんだ?」

「大分良くなっていて完治と言えるんじゃないか、つってたな。

アイツも素人でしかねえからな、コハクとの差から判断してるらしいが、まあ信頼していいだろ。

他の判断基準が出せる訳でもねえし、……あるっちゃあるが、ダメだったら取り返しつかねえしな。

確証なしでとりあえず動いてみて、大丈夫かどうか観察するってのは」

「それって人体実験って言わねえか? もしくは最終手段ってよお」

「そうとも言うな。ま、そんな手段を使わずに済んで何よりってとこだな」

「ああ、本当に何よりだ」

 

二人でそのまましばらくの間村長宅を見つめていたが、やがて自分達の作業に戻っていくのだった。

 

 

ルリの背中に当てていた聴診器を外し、桜子は不自然な体勢と集中による緊張で固まった首を動かす。

そうするとコキコキという音がして、そこから自身の緊張っぷりを感じとり心の中で苦笑する。

そうやって少し力を抜いてから固唾を呑んで待つルリとコハクに診断結果を告げた。

 

「経過は順調、千空も言ってたけど投薬をやめてしばらく様子見で。

数日、まあ5日も見れば大丈夫じゃないかな? その間再発しなければ完治ということで」

「ルリ姉はもう大丈夫という事だな? もういつ死ぬかと怯える必要はないのだな?」

「100億%……とは言えないけど、大丈夫って太鼓判は押せるよ。もう大丈夫、至って健康体です!」

 

桜子のその言葉に感極まったのかルリに抱きつくコハク。

互いの名前を呼びながら歓喜の涙をこぼし抱き合う二人。

それを見る桜子の瞳にも薄く涙が光る。

 

「本当に、本当にありがとうございます。皆さんが来て下さらなかったら私今ごろ……」

「ルリさんが必死に生きようとしてたからですし、コハクやコクヨウさんが生きていてほしいと頑張り続けたからこそですよ。感謝は十分に受けとってますからお気になさらず」

「だが、君たちがいなかったらルリ姉は命を落としていただろう。その事に改めて感謝をさせてくれ」

「その言葉は千空とかクロムに言ってあげて、あの二人が一番の殊勲者だから」

 

実際問題千空の知識がなければ製造自体が不可能だったろう。

しかし、クロムの収集物が無ければどれくらいかかったか分かったものではない。

 

「冗談抜きでクロムのコレクションがなかったら、年単位で時間追加されてたと思うの」

「それほどか……、私にはただの石ころにしか見えなかったんだがなあ」

「実際石ころではあるからね、それの利用方法を調べ上げた人類の叡智に感謝よね。

そうそう、ルリさんは今後家の中から始めて、大丈夫だったら村の中、村の外、走ってみるっていう感じで段階を踏んで動いていきましょう。それで咳き込んだりしなければ完治、健康体であるという証拠って事で」

「分かりました、私頑張りますね」

「いや、頑張らなくても出来るようになってるかの確認なので……」

 

桜子のツッコミに吹き出すコハク、笑われる形になったルリは少し恥ずかしそうだ。

数ヶ月前では考えられない光景である、それをもたらす一助になれた事に静かな満足を覚える桜子だった。

 

 

「痛えー!! 千切れる! 千切れるから離せコハク!」

「何を言う、私は軽く抓っているだけだぞクロム」

 

ニッコリと笑いながらクロムの手の甲を抓るコハクに叫ぶクロム。

なぜこんな事態になっているのか? それはルリが村の中を歩いているのを見たクロムの言葉から始まった。

ルリが歩く姿を見てクロムが本当に大丈夫なのかと桜子に聞き、桜子はコハクとの比較から大丈夫だろうと答えた。

それにクロムはこう反論したのだ、『コハクはゴリラなんだから比較対象になんねえんじゃねえか?』と。

そして当然いるコハクが聞き咎め、『誰がゴリラか!』と怒りながら拳を振り上げる。

その行動を指差して『やっぱりゴリラじゃねえか!』とクロムが言い出した、まではいつもの流れ。

違うのはそこでコハクが『ならば女性らしく対応しようじゃないか』と言い出した所である。

そしてクロムの腕を掴み、その手の甲をゆっくりと抓りだしたのだ。

そうやってクロムが叫ぶ現在があるのだ。

 

「あー、あん時余計な事言ったせいだなこりゃ。悪いなクロム、まあコハクを挑発したオメーも悪いから諦めてくれ」

「ちょ、助けろよ! イテエ!! 千切れる! マジで千切れるって!!」

「はっはっは、大袈裟だなあクロムは。軽くしか抓っていないぞ私は」

 

コハクだけを見れば本当に力など入れていないように見えるが、よくみるとクロムの手の甲が赤から白に変わっている。

クロムの反応も合わせて見れば実際にはかなりの力がかかっているのだろう。

 

「コ、コハク? それくらいにしてあげない?」

「む、姉者がそういうのでしたら。クロム、優しい姉者に感謝するといいぞ」

 

流石に見かねたルリが一言言うとあっさりコハクは手を離す。

そうしてさっさと歩き去ってしまうコハク。

 

「って、ちょっと待って。なんで去ってくの、ルリさんを見てる人がいなくなるでしょうが」

「ん? ああ、大丈夫だとも。私は少々用事を思い出したから行かねばならんが、親切な鉢巻をつけた男がきっと見ていてくれるに違いない。なあ、鉢巻の男よ」

「いや、なんでだよ! 意味分かんねーっての」

「さあ、行こうか桜子に千空よ。君たち二人にも手伝ってもらわねばだからな」

「何をだよ、つうか引きずんな、わーった、わーったから歩くから引きずんじゃねえよ」

「こういう時は無駄に抵抗しない方が楽よ千空ー」

 

クロムの突っ込みも聞かず、コハクは千空と桜子を引っ張っていってしまう。

千空の抵抗も物ともせずに二人を連れていく姿は無駄に雄々しい。

結局桜子の諦めた声だけを残しクロムとルリの二人だけになってしまった。

 

「ったく、何考えてんだコハクの奴。訳分かんねえぞ」

「そう、ですね、分からないですね。……ねえ、クロム? お父様が迎えに来るまで一緒にいてもらってもいいかしら」

「ん? ああ、もちろん。ルリを一人だけにするわきゃねえだろ、ついでだから超ヤベー俺らの活躍話聞かせてやるよ!」

「ふふっ、是非お願いしますね」

 

 

「あの二人だけにしたいからって強引すぎじゃない?」

「こうでもしないと二人だけという状況なぞ望めんからな、なに、しばらくしたら迎えに行くさ」

「んじゃあ俺らは解散でいいな? やるべき事は山積みだかんな、時間があるならやっといた方がいい」

 

そう言って千空が立ち上がるが、コハクの手によって再度座らされた。

 

「んだよ、あそこから引っ張ってきたんだからそれで用事は終わりだろうが。それとも他に何か用事があんのかよ」

「ああ、あるとも。御前試合の話は聞いているな?」

「ルリの旦那と村長決めのバトル大会だろ? 俺は興味ねえから関わる気ねえぞ」

 

そう言ってどうでも良さげに耳をほじる千空。

対してコハクの目は真剣そのもの、なんとしてでも協力させる気満々であった。

 

「桜子が言っていたが、クロムのコレクションが無ければ、ルリ姉を治すのに時間はもっと必要だったな?」

「まあそうだな、磁石もそうだし、銀もなきゃヤベエ事になったろうし、銅や鋼玉もなきゃ不便だったろうし……ガチで年単位でかかったろうな」

 

千空の言葉に我が意を得たりとばかりに何回も頷くコハク。

そして桜子の方を向き確認する。

 

「桜子が見た時ルリ姉はかなりまずい状況で一年もつかも分からない状態だった、そうだな?」

「まあ、うん、高熱も出た時があったっていう話だし、喘鳴も出てたし、素人目にも顔色悪くて、いつ死んでもおかしくないんじゃって思ったわ」

 

さらに深く頷き、そして大げさに両手を広げ高らかに叫ぶ。

 

「つまり、ルリ姉の命を救ったのはクロムだと言っても過言ではないわけだ!」

「まあそうね……」

「大きなファクターであるのは間違いねえな……」

「なのにだ、最大の功労者に報いず、ただ自分のためだけに強くなろうとしていた輩にルリ姉を、村長の座を渡していいだろうか!? 絶対に否だ! 私にはそんな事承服できん!」

「おい、なんでこの雌ライオンはこんなにヒートアップしてんだ」

 

ガオーと吠え猛るコハクを横目に見つつ、千空は桜子を追求する。

なぜか? それは桜子が心当たりがありそうな様子でアチャーという顔をしていたからだ。

実際心当たりがある桜子はすぐに白状した。

 

「いくつか幼馴染と結ばれるような漫画や小説の話を聞かせました!」

「よーし、よく正直に言ったなこの馬鹿野郎。どうすんだよこの暴走機関車を、ちょっとやそっとじゃ止まんねえぞ?」

「桜子は悪くないぞ、私が勝手にルリ姉にもそんな幸せを手にしてほしいと思っただけだからな」

 

二人にそう語るコハクは無駄にいい笑顔である。

いつ死んでもおかしくなかった姉がそれを覆し、幸せを掴めるかもしれない事でハイになっているのだろう。

ついていけずにげんなりとなる二人。

 

「とりあえず、あの二人をくっつけたいのは分かったけど、私達に何をさせたいの?

御前試合なら司を放り込めばそれで十分でしょ、それとも司の説得の手伝いでも必要なの?」

 

桜子がそう言うとコハクはピタリと停止した。

そして少し固い声でそれを否定する。

 

「……いや、司には御前試合に参加しないでもらうつもりだ」

 

桜子に背を向けたコハクの表情は二人には見えない。

 

「へ? なんで? 司なら全員蹴散らせるでしょ、それで決勝で棄権すればそれで終わりじゃない?」

「なんとなくだ。そうだ、あれだな、村人でもないのに神聖な御前試合に参加させるわけにもいかないだろう」

 

うんうんと頷く後ろ姿に桜子はただ困惑するばかりだ。

 

「んなこたどうでもいいからとっとと本題に入れや、俺らに何させてえんだよ」

 

一方千空はどうでも良さげに本題に入るよう要求した。

 

「おお、そうだな! 御前試合でクロムを優勝させる手伝いをして欲しいのだ。

幸いにもルールに女性の参加禁止は書いていないからな、私がマグマと金狼を負かせばいい。

だがその前にクロムが負けては意味がないからな、そこをどうにかしたいのだ」

 

渡りに船とばかりに説明を始めるコハク。

求めるものが示された、それだけで二人の頭は動き出す。

 

「クロムに勝たせる方法……ねえ」

「とりあえずルールは?」

「鋭利な武器、飛び道具、外野からの攻撃禁止」

「一発限りの反則になるが相手側に立っての外野乱入もありか……」

「ジャスパーさんが審判だけど?」

「無理だな、ってなるともろもろ足りねえもんがあるな……マグネシウムと爆鳴気にCNガスくらいか?」

「にがりと電気と鹿の膀胱と、後は?」

「ベンゼンとアルミニウムだな、ボーキサイトなんてあいつのコレクションにあったか?」

「さすがになかったね、スカルン鉱床でとれる?」

「ありゃ岩石で鉱物ではねえから無理だろ、前二つでどうにかしてもらうか? どっかに埋まってねえかな……」

「ベンゼンはどうやって?」

「石炭蒸し焼きでできるからこれからの季節丁度いいだろ」

 

ポンポンと会話が交わされ必要な物がリストアップされていく。

これだからこそこの二人に頼ったのだ、これであとはクロムの根性さえ足りればきっとルリ姉の幸せは成るだろう。

そして、ふと疑問が出てきたので桜子に聞いてみた。

 

「そういえば漫画では御前試合が終わってから千空が村に来たらしいが……、誰が優勝してルリ姉の夫になったのだ?」

「……これももう起こんないだろうから、話しちゃっていいか」

 

その質問に何とも言えない表情を浮かべながらつぶやいた後、桜子はそっとコハクと千空を指さした。

さっぱりわからない様子のコハクに対し、多少の想像がついた千空は嫌そうな顔で答え合わせを求める。

 

「コハク優勝でもう一回御前試合やる羽目になった、でその二回目で俺が優勝か?」

「正かーい! さっすが千空、どう推理したか聞いてもいい?」

 

乾いた笑いをふりまきながら桜子がやけっぱち気味に言う。

 

「旦那が俺になる条件がそれぐらいしかねえだろうが、一回目がおじゃんになるぐらいしかよお。

で、おじゃんになったまんまじゃいらんねえだろうが、後は当然の帰結だ」

 

かなり顔を引きつらせながら絞り出すような声で呻く千空。

 

「その辺りの流れ後で詳しく聞かせろ。つーか、なんで俺が優勝してんだ、クロムじゃなきゃ金狼かマグマだろうが」

「マグマと金狼が潰しあった結果、かな? 後は数奇な運命をたどって」

 

あっけらかんと言い放つ桜子にどうしてくれようかとにらむ千空。

片手間に話を聞くだけでは理解しきれなそうだと判断し仕切り直すことにした。

 

「前半は分かるが後半がさっぱりだな。そろそろ戻ってルリを家に戻す時間だろ、ルリの奴を送り届けたら漫画の御前試合の様子全部話せ、いいな?」

「別にいいけど、なんでそんなに気にしてるの?」

「別世界とはいえ自分が結婚してるとか気にならねえわけねえだろうが、なんで離婚とかしてねえんだよ漫画の俺は」

 

正直桜子としては何を気にしているのか分からずにいた。

しかし千空の最後のつぶやきでようやく得心がいった。

何のことはない、今の自分と違い過ぎて戸惑っていたのだと。

 

「あ、そこかあ。別にルリさんに惹かれたからとかじゃなくて、成り行きで結婚しただけだよ。

その後酒盛り強制参加を逃れるためだけに離婚してたし」

「それを早く言えこのド天然もやし!」

 

千空にとって一番重要な部分を隠されていた形である、思わず手が出たとしても仕方ない事だろう。

殴られた方としては理不尽極まりないだろうが。

 

「いった~! どうせ漫画の話で現実じゃないんだから気にすることないじゃん」

「うるせえ、とっととクロム達のとこ戻んぞ!」

「わっ、待ってよ、ちょっと」

 

痛みで涙がにじむ目でにらむがもう千空はルリとクロムがいる方へ戻り出していた。

慌ててついていく桜子、一方コハクは疑問を聞いた直後ぐらいから置いてけぼり状態だった。

 

「何故千空はあんなに焦っていたのだ? 何か悪いことを聞いてしまっただろうか……?

やはり友人の思い人を奪う形になるのは我慢できないという事か? 分からん……」

 

そこまでつぶやき先に行く二人をコハクは追いかけるのであった。

 

 




おまけ:なんでコクヨウさんいないの?

「コクヨウのおっさんなんでルリの付き添いにいねえんだ?」
「その、私が少しふらつくたびに駆け寄るので邪魔だとコハクと桜子さんに追い出されまして……」
「あー、なるほど。おっさんらしいわ」
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