イシからの始まり   作:delin

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彼女の願いとある男の見極め

「コハクー、その電球はてっぺんにつけてもらっていい?」

「おう、このヒトデみたいなやつだな、任せておけ」

 

今日はクリスマス、24日の朝、村の周辺の木の中で一番大きいものに電球をつけていく作業中である。

 

「よし、これで全部だな。桜子、これはどんなイベントの準備なのだ?」

「元は冬至のお祭りで、それからある偉大な人物の誕生日の祝いに変わって、石化前の日本では恋人達の逢瀬のためになってたイベントね」

「いや、その説明だと参加できる者が限定されるんだが」

 

コハクからのツッコミについ復活者向けの説明をしていた事に気づく。

 

「ごめんごめん、本来は家族で過ごすお祝いの日なの。日本ではそれが転じてこれから家族になる人達のイベントにもなったって訳」

「なるほど? よくわからんが南がウキウキしていた理由は分かった」

 

してたんだ、ウキウキ。

南さん司に引かれないように自重した方がいいかもだぞ。

追いかけ続けて考える時間もない状態に追い込むのは多分恋愛テクニックではなく取材テクニック、それも迷惑記者のだぞ。

 

「南が言っていたがこんなに司と近づけたのは初めてだそうだ、それであんなにもはしゃいでしまっているらしいぞ」

「自覚あったのね……、まあ、この件でどうこう言えるのは司だけだから私からは何も言わないわ」

 

人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじゃうからね、触らぬ神に祟りなし、静観を決め込もう。

司がギブアップしたら話は別だが、その時は氷月辺りと一緒に遠征でもしてもらおう。

 

 

そして夜、案の定南さんに腕を抱え込まれてる司。

あ、逆側をコハクがとった、二人をそのまま引っ張ってった。

 

「司の奴も苦労してんな、無視して逃げりゃいいのに律儀に付き合うんだからよお」

「どっちも嫌いじゃないし、好意を向けられて嬉しいから無下にしたくないんだと思う。後南さんに関しては漫画での話が効いてるのかも」

「漫画?」

「うん、司帝国ができたって言ったじゃない? 今いる復活者の内、司を裏切らなかったのって南さんだけなんだよね」

「司帝国に所属した奴って、俺以外だと誰だ? 氷月は分かるが……」

「所属したのは千空以外の全員、あ、私はそもそも存在してないから除外ね。

羽京さんは理由想像つくでしょ? ニッキーさんが意外だろうけど実は二番目だし、氷月とほむらさんは言うに及ばずで、後大樹と杠所属してたって言ったよね、ゲンが最大の裏切り者だって言うのは意外じゃないかもだけど」

「……アイツ、人を見る目実は無えんじゃねえか? 本気で全員裏切り者じゃねえか」

 

うげっという顔でそうゴチる千空。

 

「見る目自体はあったんじゃないかな、ただその基準から自分の行動がずれてただけで」

「無理にやろうとすっからそうなんだよ、無駄に責任感がありすぎだ。

テメエ一人で人類全体変えようなんざ神にでもならなきゃ無理だっての」

 

そういいながら手の中の湯呑みを呷る千空、胸の中の苦い物を飲み下したいとばかりに。

友情に熱いなあ、千空は。友がどうしようもない事で苦しんでるのが歯痒くってしょうがないんだろう。

 

「所詮は漫画、百歩譲っても別世界線なんだから気にしちゃダメって言ったんだけどねー」

「それで気にしなくなるなら社会を変えようとはしねえだろ、ったく世話の焼ける奴だ」

 

漫画でもそうだが司の一番の理解者って実は千空なのでは?

本当に旧世界で二人が出会えてたらよかったのに。

そうすれば、きっと司があんなに思い詰める事は無かったのになあ。

って、いけない、千空の気分転換も兼ねてるのに沈ませては無駄になってしまう、話題を変えよう。

 

「お茶はどう、飲んでみて悪くない?」

「ああ、お茶だな。そう分かるぐらいにはしっかりできてるぜ」

「お茶の木を探してって言ったんだけどなかなか見つけてくれなくてね、もしかしてって思って直接探しに行ったの。そしたら案の定あっさり見つかったのよね」

「あー、茶畑のイメージで探してたんだな。そりゃ見つからねえわ」

「あれ人間が刈り込んでその形にしてるだけなのよね、大樹ってばそれを知らなくてさ。

後私もうっかり葉の形しか描いてなくてさ、他のはしっかり見つけてくれたから油断してた」

「大豆や米は見つけてたか、栽培方法は大丈夫なのか?」

「米農家が必要なほどにはならないんじゃないかなあ、だってそこまでは大きくやれないだろうし」

「まあ人手が足らねえわな、復活予定は100人前後だろ? しかも体力を基準にしての」

「そうそう、だから米農家までは枠が余らないと思うの。

メインは船作りのためだし、農業は十分な食料確保できればそれでいいしね」

「ま、大樹がいりゃ農業は心配いらねえか。んで、その大樹の姿が見えねえが、どうしたんだ?」

「向こうの方で杠の横に押し込められてるよ、村のみんな的にもとっととくっつけって感じみたい」

「その気持ちわかりすぎるくらいだわ、何をビビってんだテメエって何度思ったか」

 

ウンザリした口調ではあるけど、それ以上に親友の幸せを願ってのことだと感じるのは私だけだろうか?

んー、聞きにくかった事だけど、いいや、聞いちゃえ。

 

「ねえ、千空。聞いても怒んないで欲しいんだけど、質問していい?」

「内容によるな、無闇に殴ったりしねえとは約束するぜ」

「杠の事、好きだったりした?」

 

そう言ったら、鼻を摘まれ捻られた。

 

「痛い! 痛い! ごめんってば! 痛いから離してー!」

「人を勝手に寝取り趣味みたいに言うからだ! 反省しやがれ!」

 

めっちゃ怒ってる、そこまで怒る必要ないじゃないの。

 

「だって、一番近いの杠じゃない! 理解者でもあるし、可愛いし、面倒見いいしでこんな優良物件早々ないじゃない! だから好きになっても不思議じゃないでしょ!」

「恋愛脳かテメエは! んな面倒なもん持つ訳ねえだろうが!」

「生き物が持つ自然な感情でしょ! 面倒ってだけで捨てられるものじゃないじゃない!」

 

そこまで言ってからやっと離してくれた、と思ったら今度はデコピン。

痛い、私に何の怨みがあるというのだ。

 

「謂れなき風評被害を出そうとすっからだ、このすっとこっどっこい。

今からだと約七千年前か? とっくの昔に言われてんだろうが、感情を制御して生きろ、なんてよ」

「歴史上でそれが出来た人間が何人いるのよお、世界中探し尽くしたって4桁いくか怪しいじゃない」

「それは俺が出来ねえ理由にはならねえよ」

 

うー、千空が言うと説得力がありすぎる。

 

「血を残すのは生物として重要事項だよ?」

「人間だったら意思を残す方がよっぽど重要だろ? 第一オメー自身はどうなんだよ」

「私は、ほら、無理だろうから」

 

そっとお腹に手を当てる、千空だけにしか気づかれてないはずだ。

 

「卑下すんじゃねえよ、オメーも意思を残しゃ立派な人間だ」

「……ありがとう、でも、だからこそみんなの子供が見たいかな」

「……そうかよ、ま、時間はかかるかもしれねえが、いつか見れんだろ」

「そうだよね、うん、その日を楽しみにしてる」

 

旧世界とは比べ物にならないけど、それでも綺麗なイルミネーションに飾られた木を見上げる。

願わくばここにいる人達に幸せな明日を与えて下さい。

全知全能な神なんていない、いてもきっとこの世界に手を出さないって思っていても、そう願ってしまう私だった。

 

 

それは新年を迎え、千空が挨拶させられた後のこと。

洞窟探検のメンバー決めが行われていた時だった。

 

「三人目は俺が行く、文句あっか?」

 

旧年中にお目当ての洞窟は探し当てていたので、後は行って回収してくるだけだったのだ。

当初メンバーは目的の物が分かる千空、場所の案内役のクロム、そして荷物持ちの大樹の予定だったのだが、マグマが突然そう言い出したのだ。

 

「俺は構わないが、何か理由でもあるのか?」

「大樹、テメエで熊を追い払えるか? 野犬をぶっ殺せるか? 出来んならテメエが行くのに文句ねえぜ」

「む、確かに無理だが……」

 

にしたってなんでマグマが?

しきりに首をひねっていると司に声をかけられた。

 

「彼の行動に疑問があるのだろうけど、大丈夫だよ。マグマは自分が納得するために動いているだけさ」

「納得?」

「そう、納得だよ。千空を見極めたいんだろうさ、マグマは」

 

見極めたいって、普段の生活でじゃダメなのか?

ダメなんだろうな、まったく、これだから戦闘がメインな人種って奴は。

 

「おーい、マグマー」

「あんだ、桜子、テメエも俺がついていくことに文句あんのか?」

「私が何か言っても聞くタイプじゃないでしょ貴方。大樹に渡す予定だった装備を渡すから説明しっかり聞いて覚えて」

 

まったく、大樹相手だったら書いといた紙渡すだけで済んだのに。

面倒増やした分しっかり覚えていざという時に備えてもらわなければ。

 

「いーい、千空は結構自分の身を顧みない事があるんだから、貴方がその辺りフォローしてよね。

慣れてる大樹なら心配なかったんだけど、貴方はやったことがないんだから千空から目を離さないでね?」

「おいこら、聞こえてんぞ桜子」

「意外と無茶をするというのは否定できないんじゃないか? 千空。実験で爆発なんてしょっちゅうだったろう」

「何回かはオメーのせいだろうがデカブツ! 溶接してる横で可燃性の粉末状の物質ばらまきゃそりゃ爆発するわ!」

「でも、割合的には千空のせいの方が多いんでしょ?」

「……ロケットの実験にゃ爆発は付き物だかんな」

 

そっぽ向く千空。

 

「アニリンに無水酢酸たらそうとした時は?」

「……ちょいとガラス棒が遠かったからな」

 

空を見上げる千空。

 

「ニトログリセリン作成時」

「くしゃみしそうになったのは本気で反省してる」

 

こちらを向いて頭を下げる、さすがに一番シャレにならない所は反省点だったらしい。

 

「アニリン? ガラス棒? いつの話だ、桜子」

「何回目かのサルファ剤作りの時にね。アニリンに無水酢酸を一気に垂らすと爆発しちゃうから、それを防ぐ為に少しずつ垂らす為のガラス棒を用意しておいたのだけど……」

「面倒くさくなって直接容器から垂らした、と。千空、時間短縮は確かに合理的だが事故を起こすと結局時間が無駄になってしまうぞ」

「わーってるよ、そんときゃ二徹目だかで頭回ってなかったんだって」

 

そして二徹目させてしまった私達も悪いのだが。

 

「後は千空って運悪いじゃない?」

 

その場の全員が深く頷く。

 

「なんで、んなとこで意見一致させてんだテメエら」

「TRPGさせたら肝心な所でピンゾロ出すタイプだよね千空って」

「賭け事をさせると最後の一番以外は負けっぱなしの方がらしくないか?」

「じゃんけんだったか? 考えなしに出した方がコイツ相手だと勝率高え気がすんぞ」

「コイントスではほぼ外してなかったかい?」

「好き放題言いやがってくれんなテメエらぁ!」

 

さすがに怒りだす千空にわーっと蜘蛛の子散らしで逃げ散る。

逃げる途中でマグマに耳打ちしておく。

 

「マグマ、千空はきっと落とし穴に落ちるから、助けてあげてね」

「ふん、オメーと一緒でアイツも有用な奴だからな、わざわざ見捨てやしねえよ」

「うん、貴方なら千空の助けになるって信じてる。なんたって私のビジネスパートナーだからね」

「はっ、俺様だぞ、アイツのフォロー程度出来ねえ訳がねえだろ」

 

この追いかけっこに続く騒ぎは私が捕まり、ウメボシを受けているところをクロムが止めるまで続いた。

 

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