イシからの始まり   作:delin

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マグマ

「さあて、馬鹿騒ぎはここまでにして出発すっか」

「いや千空、爽やかに締めようとしても無理だろ。一番騒いでたの千空じゃねえか」

 

千空の足元には先程までウメボシを食らっていた桜子がへたり込んでいる。

さすがにこれで馬鹿騒ぎに参加してませんという顔をしてもツッコまれるだけだろう。

 

「~、遠慮なしにグリグリと~、割れるかと思ったんだからね!」

「うるせえ、テメエ相手に遠慮する気はさらっさらねえ」

 

涙目で抗議する桜子だがどこ吹く風とばかりに一蹴する。

 

「おい、マグマ! 行く準備はできてんのか!?」

「先行ってろ、すぐに追いつくからよお。テメエらヒョロガリどもに追いつくなんざ、あっと言う間だ」

 

マグマはそういってクロムと千空に手でしっしと行けと合図する。

そして桜子の前に立つと手をずいっと出した。

そこでようやく装備を渡していない事に気づく。

 

「ごめんごめん、うっかり忘れてた。使い方を説明するね」

「ああ、そうだ。とっとと始めろ」

 

そうして桜子が説明を始めるとどっかりと彼女の前で座り込むマグマ。

 

「? そんなに長くならないよ?」

「いいんだよ、俺が座って聞きてえだけだ」

 

変なのとだけ呟き続きを話し出す桜子。

説明が全て終わった後、ジッと睨むような目で見ながら問いかける。

 

「千空の奴は、そんなに凄え奴か? 他のどんな奴より、……歴史って奴に語られるような連中よりも」

「んー、まだ知られてないだけで、他の誰よりも凄いと私は思ってる」

「そうか、なら、しっかりと見極めさせてもらおうじゃねえか」

 

そう締めくくり立ち上がるマグマ。

続いて立ち上がろうとする桜子の頭にマグマの手が乗せられた。

 

「なに? 頭を押さえられると立てないんだけど?」

 

その反応にマグマはふんっと一つ鼻を鳴らすと乱暴に頭をなでた。

受けた方としてはこすられたという感じだったが。

 

「痛い、痛い! 髪が抜ける~!」

「はっ、いい気味だ。んじゃ行ってくるぜ」

 

必死に髪を整える桜子を尻目にさっさと二人を追いかけて行くマグマ。

 

「なんなのよ、もー。……って、そーだ、マグマー! 3日後までに千空を帰らせてねー!」

 

その声に手を上げるだけで返事とし、振り返りもせずにいくマグマ。

 

「いや、ホントになんでいきなり人の髪をぐしゃぐしゃにしてきたの?」

 

その背中を見ながらしきりに首をひねる桜子だった。

 

 

冬の山道、雪がだんだんとその高さを増していく道をクロムの案内で歩く。

もう慣れてしまったが体力自慢でもない自分がこのような場所を歩くことに違和感が酷い。

そうだ、まだあの石化からの目覚めから一年経っていないのだ。

考えてみれば随分と遠くまで来たものだと思う。

いや、石化してた時間を考えれば不思議でもないのだろうか?

なんと言っても3700年、石化前から考えると文明発祥時ぐらいからの時間が経っているのだ。

それを思えば環境が違うことなど些事だろう。

 

「おう、あの真っ正面の山に例の洞窟があるぜ。

もうちょいかかっからマグマの奴が来るの待っとくか?」

「見ることだけならそんなにかかんねえんだな、……目算だと今日の夕方前ぐらいには着くか?」

「真っ直ぐはいけねえから、夜になるかならないかぐらいだな到着は。

中がどんくらい深いのか分かんねえし、洞窟に入ってちょいぐらいで今日は寝といた方がいいな」

 

冒険家を自称するだけあってクロムはそのあたりの休憩タイミングや食事の時を考えるのが上手い。

そのため行動の開始や止め時はクロムに全て任せていた。

 

「マグマの脚ならもうちょい早く合流してると思ったんだけどな、意外と話に時間取られてんのかな」

「そんな大量に持たせる訳ねえし、複雑なもん渡さねえだろうから、別の話が長引いてんだろ」

 

そんな会話を交わしつつしばしの時が経ち、そろそろ動き出そうかという頃になって漸くマグマのが姿を現した。

 

「よー、遅かったな。話そんな長くかかったのか?」

「辺りに熊だの野犬だのの痕跡がねえか調べながら来ただけだ、話自体はそんなかかっちゃいねえよ」

 

ほー、と思わず感心する。

大樹と代わろうとした時のあの話は嘘でもなんでもなかった訳だ。

てっきりただの建前でしかないと思っていたのだが。

 

「この時期まで冬眠してねえ熊は気が立ってるからな、こっちを見かけたら確実に襲ってくんぞ。クロム、テメエだって知らねえわけじゃねえだろうが」

「知ってるよそんなもん、だから熊の痕跡がねえ所を通ってんじゃねえか」

「ふん、そんだったら先に言っとけ。とんだ無駄足じゃねえか」

 

そういうと顎をしゃくって先に行けと促すマグマ。

そのマグマの態度に肩をすくめつつもクロムは案内を再開する。

 

「真っ直ぐ行った方が早いんだけどよ、熊の痕跡がいくつかあんだよそのルート。追い払うのは任せちまってもいいか?」

「ああ、別に構わねえぞ。ぶっ殺さなくてもいいなら簡単なもんだからな」

 

腰の得物をポンと叩きながら請け負うマグマを見て、これなら思ったよりも早く済みそうだと思う千空であった。

 

 

マグマと合流してからは真っ直ぐに進めたおかげか、日が落ちる前に洞窟に到着できた一行。

風が吹き込まない程度の距離を進みそこで一晩を明かす事にした。

警戒のための鳴子を仕掛け、焚火をつけ火の番をするもの以外が交代で休む。

最初にマグマ、次にクロム、最後に千空の順になったのは野宿に慣れているクロムが一番辛い所を担当するといったためである。

さっさと寝に入ったクロムと違い、千空は横になっただけで眠ろうとはしていなかった。

 

「まだ寝ねえのか、ヒョロガリ」

「オメーは疲れてねえのか? 結局遭遇しなかったとはいえ警戒しっぱなしだったし、自覚してなくてもかなりの疲労があるはずだぜ」

「ふん、テメーみてえなヒョロガリと一緒にすんな。こんなもん楽勝過ぎて普段のトレーニングの方がきついぐらいなんだよ」

 

そう言った後沈黙することしばし、焚火を睨みながらまるで独り言をつぶやくようにマグマが口を開いた。

 

「俺はテメエらが来るまでは村最強の男だった、だから完全に負けた、なんて思わされたのは司の野郎が初めてだ。

強くなりてえ、なんてのはずっと思っていたが……具体的な目標なんてもんをアイツは見せてきた訳だ。

そんなアイツが手放しにすげえと褒める奴がいる、テメエだ千空。

アイツは心からテメエを信頼してやがる、尊敬してるって言ってもいいかもしれねえ。

だがな、俺から見たらテメエはただのヒョロガリでしかねえんだよ!

だから、俺はテメエがどういうやつなのかを見極めてえ、あの敗北感がもたらしたのは虚しいもんだけとは思いたくねえんでな」

 

だからテメエの価値を俺に見せてみろ、最後にそう締めくくりそれっきり黙るマグマ。

それに対し千空は不敵に笑った後、自信に満ちた声で静かに言って見せた。

 

「安心しろよ、俺の頭の中に詰まってんのが何だと思ってやがる?

人類200万年の英知の結晶だ、絶対にテメエも納得するから目に焼き付けろ。

オメーが一生見れなかったもん、飽きるほどに見せてやるよ」

 

洞窟は広く深い、体力はいくらでも必要になるだろう。

ゆえに今はゆっくりと体を休めるのだ。

こちらをにらみつけるマグマの視線を気にせず眠りについた。

 

 

明けて翌日、本格的な洞窟探索の開始である。

幸いにして大きく広がっている場所ばかりで、通れない場所はほぼなく調査は順調に進んでいた。

 

「どこが順調なんだよ! 行き止まりにぶち当たったの今ので何度目だ、コラ!」

「なに言ってんだマグマ、しっかり調べられてんだからスッゲー順調じゃねえか」

 

マグマの怒声になんで怒っているのかと疑問を返すクロム。

これは洞窟探索へのイメージの違いがもたらしている。

 

「マグマ、普通の洞窟って奴は人が入り込めねえのが殆どなんだよ。

だから調査がまだ打ち切られていねえってのは順調って言えんだよ」

「ここまで面倒だと思ってなかったぞ……」

 

千空の説明にゲンナリとした声を上げるマグマ。

そんな風にして会話を交わす一行の前に大きな、今までよりも更に大きな空洞が姿を見せた。

 

「ここまででっけー洞窟なんざ初めてだぜ、コイツはスカルン鉱床って奴も期待できんじゃねえか?」

「ソイツは間違いじゃねえが……、こんな風になるって事はこの辺は脆い可能性があるから気をつけろ。天然の落とし穴、雲母のある場所かもしれねえ」

 

よく見れば近くには地底湖……と言うには少々小さいが水の溜まっている場所がある。

多分ここが、

 

「桜子が言ってた落とし穴地帯って事か」

「ああそう言うこったろうな、俺が先頭に立って地面を叩きながら進む。

俺が通った場所だけを歩け、そうじゃねえと落とし穴に真っ逆さまだぞ」

 

そうして文字通り地面を叩きながら進む一行。

慎重に進んだお陰で順調に雲母の落とし穴地帯を抜けていく。

しかし、最後の最後で少し油断してしまったのだろうか?

千空が落とし穴地帯を抜けた事を告げた次の瞬間である。

マグマの足元がピシリと不吉な音を立てて崩れ始めた。

 

「うおっ!」

「「マグマ!」」

 

咄嗟に手を出して掴んだのは千空。

クロムが手を伸ばさなかったのはマグマへの信頼が故か。

 

「おい馬鹿! 手離せ! テメエも落ちるぞ!」

 

マグマの叫びに答える余裕もなく顔を真っ赤にして踏ん張る千空。

完全に反射的な行動であり、他者を見捨てるのに忌避感を持つのは人として尊ぶべきか。

どちらにせよその千空の行動は悪手であった。

千空の力でマグマの体を支えきれるはずもなく、そのまま共に下へと落ちていくのであった。

 

 

「テメエ、本当は馬鹿だろう」

 

底まで落ちて一通り怪我の有無などを確認し、クロムに無事を伝え待っていろと言った後のマグマの第一声がこれだ。

遠慮のない罵声に思わず苦笑がこぼれる、あまり否定できる要素がないなと思うからだ。

マグマはさっさと腰につけた袋から桜子から渡された装備を取り出す。

それは、

 

「ハーケン、楔って奴だな。登山家の必需品の一つだ」

「ふん! 知ってんならテメエが一緒に落ちる必要なんぞないって分かるだろうが」

 

全くだ、再度苦笑するこちらを無視してマグマはハーケンを壁に打ち込む。

しかし、

 

「なんじゃこりゃ!」

 

なんと打ち込む端からボロボロと壁が崩れ固定できないではないか!

 

「まいったな、ここら一帯雲母ばっかみてえだ。よっぽど上手く打ち込まねえと固定できねえぞ」

「ちっ! ……つまり俺らは一巻の終わりって事か?」

「はっ、バカ言え。言ったろうが、よっぽど上手く打ち込まねえとってよ。

つまり上手く打ち込むだけでいいんだよ、だが次善の策は考えねえとな……おーい! クロム聞こえっか!」

「おう、聞こえてるぜ! そっちはどんな状況だ!? そっちの話こっからじゃ聞こえねえんだよ!」

 

千空が声をかければ大声でクロムからの返事が返る。

なかなか二人が上がってこないからまずい事態だとは伝わっていたらしい、声に焦りの色が見える。

手短に状況を説明しやってもらう事を話す。

 

「つまり、桜子が言ってた漫画通りの方法だな! 分かった! 水場がねえか探してくる!」

「よし、あっちはこれでいい。マグマ、オメーは少し待ってろ、すぐに打ち込む場所を選定すっからよ」

 

壁を叩きどこが崩れやすくどこが崩れにくいかすぐに調べ始める千空。

その姿をずっとマグマは睨むように見ていた。

 

 

クロムが水場を探し当て戻ってきた時、二人はまだ登ってはいなかった。

水場が見つかった事を伝えるために穴の縁まで行くとマグマの怒声が聞こえる。

それは途切れ途切れで詳しくは分からなかったが、そこに込められたマグマの感情だけは分かった。

 

「……これ、俺が聞いちゃあいけねえ奴だな」

 

ため息一つつくと二人が登ってくるのを待つ事を決める。

マグマがこの話をし始めたのは自分が聞ける場所にいないと思ったからだろう。

当たり前だ、こんな話誰が信じられるというのか。

誰も想像もしていないだろう、いや、もしかしたら千空は分かっていたかもしれない。

なんと言っても……いや、これも自分の想像でしかない。

 

「マグマの奴もキッツイ道行こうとすんのな、勝ち目あんのかな? ……ゼロじゃねえって所か」

 

とりあえずこの場を離れよう、そして二人が登ってきた所で戻ればいい。

あの二人が手を組むのだ、問題など起きるはずがない。

そう信じて先ほど見つけた水場まで戻るクロム。

三人が合流したのはそれからしばらくしての事だった。

 

 

「ったく、無駄に疲れた気がするぜ。後どんぐらいで目的のもんが見つかんだよ?」

「さあな、どんぐらい深いのかなんて外からじゃさっぱり分からねえのが洞窟ってもんだ。

水が少しずつ温くなってるからもうちょいだと思いたいが……」

 

合流してしばらく休憩を行い、また歩き出した一行だが流石にこの洞窟の深さと広さに辟易していた。

 

「こんだけ広くて深い洞窟があるなんて知らなかったぜ。

なあ千空、スカルン鉱床って奴見つけた後も探索は必要だよな!?」

 

訂正、約一名はワクワクしっぱなしな模様。

そうやって探索を続ける一行の前にとうとう目的のものが姿を表した。

綺麗なマーブル模様の巨大な岩、スカルン鉱床を探し当てたのだ。

 

「ヤベー! こんな綺麗に色が分かれている岩なんて初めて見るぜ!」

「やっぱアイツの情報は、物の有る無しにゃ信頼して良さそうだな」

「岩は岩だろうが、で、どこを掘りゃいいんだ?」

 

三者三様の反応でスカルン鉱床を見やる。

その後は千空が掘る場所を見つけマグマが掘り出す、そしてクロムと千空で手早く仕分けして持って帰る物を選別していった。

持って帰った量については最終的にマグマが怒鳴る羽目になったとだけ記しておく。

 

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