イシからの始まり   作:delin

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クロムの特訓や頑張るカセキ

「よーっしゃあ! ずっこけちまったけどとにかくロードマップ残り半分! 埋めてこうじゃねえか!」

「あ、クロムは当分の間不参加ね」

「って、なんでだよ!」

 

やる気を燃え上がらせた所でまさかの再度の水差しである。

だが、理由はバッチリある。

 

「御前試合の特訓しなきゃでしょうが、氷月にみっちり訓練してもらうから覚悟しておいてね」

「ふむ、確かに素人に使わせるなら剣より槍ですね。そして槍ならば私が教えるのが一番、実に理にかなっている」

「おいおい、なんで俺がそんな特訓をしなきゃ……、いや、それで勝てるようになるのか?」

 

最初は断る気でいたクロムだが、色々な事が頭をよぎる。

そうだ、自分は負けられない、負けちゃいけない理由がある!

氷月の特訓についていけるのか? という弱気の虫を意思の力でねじ伏せて、逆にそれだけで勝てるのかと質問する。

 

「いいですねえ、実にちゃんとしている。君が望むなら私に出来る限りのことはしてあげましょう。ああ、私だけではありませんでしたか、ねえゲン君」

 

氷月とクロムの会話に気づいたからだろう、クロムのすぐ後ろにはゲンの姿があった。

 

「あれ〜、氷月ちゃんにも声かけてたの? 俺の話術が必要って聞いたんだけど」

 

これはどちらかというと桜子への文句であろう。

現在に至る過程に於いてゲンと氷月の関係は良好とは言いがたい。

そんな相手と両天秤で話を持ちかけられたとなったらそれはいい顔しないのも当然である。

この辺り漫画のイメージでやってしまった桜子のミスと言える。

 

「ふむ、これはあれですか。どちらの教えがより有用であったかの勝負、という訳ですね」

「へ〜、面白い事言い出しちゃうじゃない、氷月ちゃん」

 

ただ双方ともに我が強く、簡単に引くような性格でなかったのは幸か不幸かどちらであろうか。

 

「ええ、以前の時は千空君の乱入で彼の勝ちと言えるでしょうが……、どうです? この際どちらの方が上か決めるというのは」

「ますます面白いじゃない、判定人はクロムちゃんって事ね。じゃあ午前は俺で午後は氷月ちゃんでどう?」

「後は互いの邪魔になるようなことはやらせないぐらいですが、筋肉痛で頭が回らないなどといだしたときはどうします?」

「そこはクロムちゃんに気合で乗り切ってもらう……、ってのはつまんないよねえ。

ま、その程度で頭に入んないようにはさせないから安心していいよ」

「よい自信です、さすがはゲン君。それなら私も安心して仕込むことができるという物です」

 

クロムの意見を聞くことなく決まっていく事にどうすんだこれという目を桜子に向けるクロム。

桜子としてはそっと目をそらすことしかできず、額に大粒の汗が幻視できそうな表情だ。

 

「はあ、ま、ガッチリ特訓してくれんのはありがてえんだ、この状況に文句はねえよ。

ただ、物作りに参加出来そうにねえからこれだけ作っといてくれよ。

本当なら俺が作って今度こそ千空にズデンとさせるつもりだったもんだからよ」

 

そんな状況にクロムはため息一つだけで許し一枚の紙を桜子に手渡す。

 

「これって……」

「おう! 名付けて『水と風でずっと発電装置』だぜ!」

 

書かれているのはひらがなばかり、大雑把な材料のみしか書かれていない部分が多い、肝心のギア部分が問題が多い等至らない部分も多いがそれは確かに設計図であった。

 

「風水車……どうやってこの発想に至ったの?」

「へっへっへ、発電機あんじゃねえか? あれに持ち手を増やしゃたくさん発電できんじゃねえかって思ったのがきっかけだな。結局それは無理だろってなったんだけど、持ち手にかかる力って同じ場所なら同じ方向だって気づいてよお、それなら水や風で行けんじゃねえかって思ったんだ……って風水車?」

「ギアやクランクについてまだろくに教えてねえのに……。よくこの発想にたどり着いたなクロム、褒めてやんぞ」

「もうすでにあんのかよ畜生!!」

 

後ろから覗いたらしい千空や桜子の反応に既に存在していると気づいたクロムがズデンとひっくり返る。

 

「そのリアクション取りたいの私の方なんだけど……」

「ククッ、ベクトルについちゃ土木工事の時にダイナマイトのパワーアップでしゃべってたな、そういや。そっから着想得たんだろうが……、本当に大したもんだよテメエは」

 

しみじみという千空と驚けばいいのか呆ければいいのか困っているような桜子。

その二人の態度にクロムも自分の発想が大変評価されている事実に気づいたらしく大分満足げだ。

 

「おうよ、俺様は天才妖術、じゃねえ、科学使いのクロムだぜ! 御前試合もよ、この二人の特訓で必ず優勝してみせっから、それまではそっちだけで頼むぜ!」

「ああ、どうせ作らなきゃならねえもんなんざ山ほどあんだ。そっちをしっかり終わらせてからでも遅くはねえさ」

「んじゃあ作れるよう準備しといてくれよ、俺が物作りに戻れるまでにな」

「ああ、準備しといてやっから無様さらすんじゃねえぞ」

 

そう言い合った後拳を軽くぶつけ合う二人。

それを眩しそうに、うらやましそうに見るのはカセキだ。

 

「いいのう、ああいうの。ワシ、この歳までずっと一人で物作りしとったから、羨ましくなっちゃうのよ」

「……分かるな、その気持ち」

「桜子ちゃんもそうじゃったから?」

「うん、千空に会えるまではずっと。でも、今はもう大丈夫。カセキさん、ううん、カセキもそうでしょ?」

「うん、そうじゃな、ワシも桜子ちゃんももう一人きりになる事は無いじゃろうし」

 

そっと仲間達の方を見れば、イタズラっぽい顔で揃って拳を突き出している。

二人で顔を見合わせ笑った後、仲間達の気遣いをありがたく受けるのだった。

 

 

「クロムの書いたコレも有用だかんな、コイツも含めて3チームに分けるぞ」

 

あの後クロムは計画聞いてると参加出来ねえのが悔しくなるといってこの場を離れた。

そして残ったメンバーで計画の中心を担うメンバーのチーム分けである。

とは言っても、

 

「まあ、ほとんど決まってるようなもんだが」

「そうなのか?」

「ああ、一つはこの風水車で、もう一つはコイルとバッテリー、最後に真空管だ。

それぞれ必要なのは風水車が木材加工、コイルチームが地道な労働力、んで真空管はガラス加工だ」

「それだと確かにほぼ決まっているようなものだね。ガラス加工は何も言う必要がないし、人手集めなら村の人に話を通しやすい桜子が適任だ」

「設計図の問題点をどうすればいいのか分かる千空は風水車ね、だから残り三人をどう配置するかって話になるの」

「うーむ、一つずつ全員でやってくのはあかんの? 木材加工もワシ大得意よ、そっち終わらせてからの方がよくない?」

「あー、それなんだがな、鬼レベル工作になるからカセキはそっちに集中させてえんだ」

 

そこまで話したところで置いてあった紙を取り出す、ロードマップの時に桜子が一緒に持って来ていたものだ。

 

「つか、こいつを作れって言われたら大抵の職人が断るかんな。無理だったら次善の策で行くから遠慮なしに行ってくれ」

「おほー、なかなか面白いこと言っちゃうじゃない? 大丈夫よ、ワシ色んなややこい器具とか作ったし、今回だってバッチリ作って見せちゃおうじゃない」

 

ほれ、見せてみい、と言って千空の手から紙を取り覗き込むカセキ。

そして見事に固まった。

 

「ヒックマンポンプつってな吸引力レベル100億つー感じだ、凄腕のガラス職人さえいれば出来っから工業レベルの低い国でよく作られたらしいぜ」

「工業レベルの低い国、つまり戦前の日本、3800年前のこの地で作られてよく利用されてたの」

「旧世界でも昔の技術って訳じゃな、でもこれ人間が作れるの……?」

 

黙ってしまったカセキに、どう言えばいいのか分からずまごつく桜子。

そしてかける言葉が決まる前にカセキが逆に桜子に問いかけた。

 

「のう、桜子ちゃん。漫画ってワシも出とった?」

「うん、出てたけど……」

「その『ワシ』もコレを作ったんじゃろうね……なら、このワシに出来んはずがないのう!」

 

言葉の後半で気合いが乗ったのだろう、服を弾け飛ばすカセキ。

それに最初はビックリした顔の桜子だったがすぐに吹き出してしまった。

 

「千空とおんなじ事言ってる、類は友を呼ぶだね! ね、千空」

「うるせえぞ、カセキがダチの理由はそんな程度のもんじゃねえよ。

カセキ、じゃあコイツはテメエに任す。手間取って遅れたら承知しねえぞ」

「任せんしゃーい!!」

 

そう言い合ってハイタッチを交わす二人。

 

「それじゃあ千空、カセキの補助は俺でいいのかい?」

「いや、そっちは大樹で司はこっちだな、主に木の切り出しで」

「なるほど、木の切り倒しは俺のが早いからか。他はそれぞれが声をかけて連れて行く形だね?」

「そういうこった、他になんか聞いとく事あっか?」

「フィラメント部分はどうするの?」

「風水車が終わり次第こっちでやってく、そっちが先に終わるってこたねえだろうからな」

「コイルは銅で作っていい?」

「金は量が厳しいと思うからそれでいいだろ、マンガンも十分あるしな」

「足らなくなったら場所はマグマが知ってるか、うん、あとは大丈夫」

 

全員をもう一度見回し質問がない事を確認、今日はすでに夜遅いので本格的に動き出すのは明日からだ。

解散後空を睨み千空は呟く、後ろにいる桜子に聞かせるように。

 

「へっ、未来なんぞ誰にも分からねえ、そんな当たり前のことが戻ってきただけだ。

元々オメーの漫画情報を当てにしてねえんだから何も行動に影響ねえよ。

アレを誰が作り上げたのかは知らねえが、全部調べ尽くしてやっから楽しみにしてろ」

「言いたい事先に言ってくれてありがとう。千空は鋭すぎてちょっと困るから、もうちょっと鈍くてもいいんだよ?」

「オメーが分かりやすいだけだ」

 

そういうと振り返り桜子の頭をポンポンと叩く千空。

 

「ふふっ、昔は子供扱いなんて反発するだけだったんだけど」

 

千空だと何でか嬉しいんだよね、と桜子は言いながら笑み崩れた顔で喜びを露わにする。

しばらくそのままでいた二人だがやがてどちらからともなく動き出す。

 

「明日からもしっかり頼むぜ」

「うん、任せて」

 

最後に短く言葉を交わし明日に備えそれぞれの家へと帰るのであった。

 

 

それからはそれぞれの目標に向けて忙しい日々が続いた。

例えばクロムであったら、

 

「じゃあ、先ずは相手が納得するポイントの見極めから行こっか」

「なあ、それって要訣、つまり基本にして奥義って奴じゃ……」

「あら、よく知ってるじゃない、それじゃあ遠慮なく課題出してくね。俺が成りきる人物の納得ポイントを見極めるのが課題だよー」

「ヤベーぐらい難しいんだけど!?」

 

午前は人間心理をこれでもかと学び、

 

「手始めに型を体に染み込ませましょう、最初は優しく500回ずつくらいからで構いませんよ」

「型が間違ってたら一回と認められねえから、それだけで夜になってんだが」

「初日から終わらせられたのですから十分でしょう、明日からは余った時間は走り込みです」

「初日から課題終わらねえ前提かよ! ヤベーぐらい厳しいかもじゃねえか!」

 

午後は氷月にみっちり扱かれる。

カセキであったら、

 

「ここの膨らみから伸ばして更に膨らましてって鬼むずこいんじゃけど……」

「すまん、カセキ、俺では理解できん。唯、千空が言うにはカセキができないなら、誰にもできないとの事だ」

「おほー、千空ってば持ち上げるのが上手いんじゃから。そんじゃ期待に応えてカッコいいとこ見せちゃおうかのう」

「ポンプが終わったら次はこっちの真空管の外側、それが終わったら回路の接続らしいぞ」

「ワシの作らなきゃならんもんって終わる気配無くない?」

 

次から次へと作成する物が出てきたり、千空であったら、

 

「川の流れが弱え、これじゃ上手く回んねえぞ……」

「場所を変えるにも開けている場所はここ以外には見当たらないが……、どうするんだい?」

「……ちょうどいい場所を作るしかねえな、木を切ったり川岸を固めたりしてな」

「人手を確保するために俺も声をかけてくるよ」

「場所の候補は出てっからその間フィラメント作りに必要な装置考えとくわ」

「その間に私は木を削れって言うんでしょ、分かってるよ千空くん」

「おう、頼んだ」

 

動力の作成の為四苦八苦していたり、フィラメント作りの装置に悩んでいたりしていた。

そして、桜子はと言うと、

 

「ねえ、何でマグマはここにいるの?」

「訓練の休憩時間に俺がどこにいようが勝手だろうが」

 

何故かマグマとともに銅線作りをしていた。

 

「いや、どこにいるのも勝手ではあるんだけど……、細かい作業嫌いじゃなかった?」

「司の奴だったらこのくらい朝飯前にこなすだろうが、それなのに俺が出来ねえ訳がねえ」

「いや、出来る出来ないじゃなくて……、つまり、アレ? 司と比べて不器用だと思われるのが嫌って事?」

「うるせえ! あいつに負けてるなんぞ納得できるか!」

 

青筋を立てて怒るマグマに内心辟易しながら宥めに入る。

 

「別に誰もそんな事思ってないでしょうが、一々気にしてたら負けよ? こんな事」

「思われるかもってだけでムカつくんだよ、誰が気にせずとも俺が気になるんだ」

 

これは処置無しだなと思い好きにさせる事にして黙々と作業に集中する。

 

「……他の奴はどうしたんだよ」

「村の仕事をやってるよ、これだけやってればいい訳じゃないからね。むしろ、これは余裕がある人だけ来てくださいって言ってあるし」

「おい、確かコイツは凄え長く作る必要がなかったか」

「うん、広場から向こうの山の天辺ぐらいまで作る必要があるよ」

 

あっけらかんと言い放つ桜子にマグマが声を荒らげる。

 

「なんでそれで助けを求めねえんだテメエは!」

 

その怒声にキョトンとして首を傾げる。

 

「だって急ぐ必要ないし、ゆっくりやって問題ないんだから焦る事ないでしょ?」

「だからって助けが必要ないって訳じゃないだろうが」

「ふふっ、心配してくれてるの? マグマのキャラじゃないのに。私は別に強がってる訳じゃないよ」

「応援に来たんだよー!」

 

その声に反応して作業場の出入り口に目を向ければ、そこにはスイカを始めとした村の子供達の姿。

 

「応援来てくれてありがと、みんな! でも、課題はちゃんとやってきた?」

「もちろんなんだよ! 書き取りも計算も全部終わらせてきたんだよ」

「偉いぞーみんな! 後でおやつ食べよっか?」

「わーい! おやつだおやつー!」

 

あっという間に子供達に囲まれ場は一気に騒がしくなった。

それを見たマグマは天井を仰いでため息一つ、そっと立ち上がり外へ出て行こうとする。

 

「マグマはお手伝いは? おやついらないんだよ?」

「俺は休憩中は手持ち無沙汰だから手伝ってただけだ、休憩が終わったから訓練に戻るんだよ」

 

それに気づいたスイカの声かけに素っ気なく返すマグマ。

その答えを皆は素直に信じ、行ってらっしゃいと手を振った。

 

「そっか、ありがとねマグマ。訓練頑張ってね」

「「「頑張ってねー」」」

 

背中越しに軽く手を上げる事で答えとしマグマは去って行った。

 

「ん〜? なんか変なの、何かあったのかな」

「ねえねえ桜子、またお歌を教えて」

「あ、スイカも聞きたい!」

「うん、いいよ。それじゃやりながら聞いてね」

 

マグマの様子が少しいつもと違うようにも思えた桜子だが、その疑問は子供達の対応をする内にすぐに埋もれてしまうのだった。

 

 

「マグマ様〜、見つけろって言ってた物見つかりましたよ〜」

「何! そうか、でかしたぞマントル! これで鼻を明かしてやれる!」

「あんな物で何をするんです? 鼻を明かすって……」

「ふん、マントル、その時がくりゃ分かる。オメエはこの事を黙っときゃいいだけだ」

「はあ、分かりましたよ〜」

 

そう言った後妙に張り切っているマグマの顔は、どこか悪戯小僧のような雰囲気があった。

 

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