イシからの始まり   作:delin

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咲いた花の模様

これはある日のクロムの特訓中の会話。

 

「497、498、499、って、あー、くそっ、もっかい、499、500!」

「ふむ、指摘されるまでもなく型がおかしいことに気づけましたか。

実にちゃんとしていていいですねえ、ついでですから怪しかった分、5回ほど追加しましょうか」

「ヤベーぐらい厳しいな、ほんと。1! 2! 3! 4! 5! よし、終わり!」

「突然追加されても心折れなくなりましたね、その心構えがあれば予想外の事が起きても対処できるでしょう。では次の型に移る前にしばし休憩です」

 

休憩になった途端大の字に倒れこむクロム。

慣れぬ型稽古などして更に間違えたら一回と数えられないというプレッシャーがかかるのだ、疲れきるのも当然と言える。

 

「良い集中力です、君ならば必ずや目的を達成できる……と言いたいところですが、ね」

「ぜー、……ぜー……、無理に、お世辞、言わなく、てもいいぜ、マグマや、金狼との差は理解、してる、つもり、だ」

「無理に喋らなくてもいいですよ、今は息を整えなさい」

 

荒い息をしながら途切れ途切れに返事を返すクロムに呆れたように息を整える指示を出す氷月。

氷月の言葉に素直に従い、息を整える事しばし、ようやくある程度喋れるくらいまで回復したクロムは続きを話し出した。

 

「とにかく、俺とマグマや金狼の差はヤベーってレベルじゃねえって事は理解してんだ。

だから、色々科学装備作ってもらったり、それを審判に納得させられるように話術を習ってんだ。

なり振り構って居られるような立場じゃねえって自覚はあんだよ」

「ふうむ、どうにも理解できそうにないですが。愛の為、という奴ですか?」

 

本気で不可解そうに言う氷月に思わずほむらに同情を覚えるクロム。

しかし、ほむらもほむらでそれに全く興味ない事を思い出しなるほどと思い直す。

 

「割れ鍋に綴じ蓋、だっけか?」

「そこはかとなく馬鹿にされている気がしますが、まあいいでしょう。で、それはここまでやる理由になるので?」

「なるさ。ま、それだけじゃねえんだけど、なっ」

 

まだ座ったままだが体を起こせるぐらいには回復したのだろう、真っ直ぐ氷月の目を見てクロムは静かに語る。

 

「愛ってよ、色んな種類があんだろ? 家族愛や恋愛、後は友愛だっけか? それら全部ひっくるめていいなら愛の為って言っていいけどよ、さすがに乱暴な理論すぎねえかなって思うんだよ」

 

分かったような分からないような氷月の様子にちょっと可笑しさを感じながら続ける。

 

「このまま行きゃ優勝はマグマか金狼だろ、で、俺はどっちにも負けたくねえ、負けたくねえけど、より負けたくないのはマグマなんだよ」

「なるほど、だからこそ友情ですか。ところでそのマグマ君ですが、この頃どこかに出てばかりのようですが何かご存知で?」

「あれかー、見つけたいもんがあるって言ってたけど見つかったのかもだな。

でも時期が少し早えって千空が言ってたんだよなあ、予定通りに行くのか?」

「ふむ、この時期で少し早いというと……ああ、あれですか」

「え、分かんの!?」

「分かりますよ、日本人ならね。そろそろ休憩も終わりでいいでしょう、次の型稽古を始めますよ」

「おう、やってやんぜ!」

 

元気いっぱいに返事を返すクロムに満足げに目を細める氷月。

できれば彼が無事目標を達成できればいい、柄にもなくそう願ってしまうのであった。

 

 

その日は朝から何か変だった。

朝起きたら何故か杠に連れられて水浴びを共にし、朝食も付きっ切りで一緒だった。

別に嫌ではない、普段はそこまではしないが嬉しく思ったり珍しいと感じるだけで不審に思う事はないだろう。

しかし、杠が別行動する前に入れ替わるようにコハクが来て、今度は彼女がずっと近くにいるとなっては疑念を持つなという方が無理だ。

 

「ねえ、みんなして何を企んでるの?」

「はっはっは、桜子、企むとは人聞きの悪い、私は今日は桜子と話がしたかっただけだぞ」

 

これは返事を用意していたな? そう思えるぐらいの速さと棒読みっぷりだ。

コハクにこういう事を仕込めるという事は……計画にゲンが一枚かんでるな。

しかし、ゲンならこうなって私の疑いが深まるだけと分かるはず?

それ前提で動いてる? 何のために?

駄目だ、分からないとにかく今は何が起きてもいいように警戒しておかなければ……。

この時コハクは内心こう思っていたらしい。

 

(ゲンの言う通りになったな、目の前で怪しい事があると桜子は途端に警戒のため大人しくなる)

 

のちに聞いた時私がぎゃふんと言った事は当然の帰結であろう。

 

 

「よし、では準備をしようか!」

「その背負子と布は何に使うのか聞いてもいい?」

 

午前中はずっとコハクと銅線作り……っていうか、珍しく誰も来なかったんだけど!

これ明らかに全員グルで私に何かしようとしてるよねえ!

そのあたりきいても答える気のないわざとらしい笑いで誤魔化すし!

 

「何する気なの」

 

ジリジリと後ろに下がりながらもコハク相手ではろくな抵抗もできずに捕まる未来しか見えない。

 

「それは着いてからのお楽しみだな、さ、準備するから力を抜いてくれ」

「誰かー! ここに誘拐犯がー!」

 

予想に違わず私はあっさりと目隠しされて背負子に乗せられ運ばれるのであった。

皆私の事荷物と勘違いしてない?

 

 

荷物と化してコハクの背で揺られる事しばし、目隠しされている為もはやどこに向かっているのかさえ分からなくなった頃。

ようやく揺れが収まる、つまりコハクの目的地に到着した。

 

「さあ、着いたぞ。今目隠しを外すからな……」

 

そう声をかけられて目隠しが外れる。

ゆっくりと目を開けてみると……、

 

「……綺麗」

 

そこには満開の桜の花があった。

 

「どうだ? これは君の名前にもなっている花なのだろう? とても美しいじゃないか」

 

なんでこの時期にとか、いつ見つけたのとか、たくさん聞くべきことはあったはずなのに、私はその美しい花に完全に心奪われていた。

 

「ふふん、私は途中からだが色々手伝ったりしたのだぞ。

料理は残念ながら下ごしらえの時に切る事ぐらいしか手伝えなかったが、運搬や設置には大活躍だったのだからな」

 

コハクの話は確かにこの時私の鼓膜を震えさせていたのだが意識には入っていなかった。

なるほど、これが心奪われるという事かと後から思ったものだ。

 

「なーに言ってやがるんだかこのメスゴリラはよお、テメエは料理がまだまだだから力仕事に回されたってだけだろうが」

「うるさいぞマグマ! っていうかゴリラじゃない!」

 

心を奪われっぱなしだった私は、マグマが来た事に頭に彼の手が置かれてからようやく気づいた。

 

「よう、気に入ってくれたみてえだな」

「……っ、ごめん、気づかなかった。これマグマが?」

「おうよ! と、言いてえところだが、見つけたのはマントルだし、こんなに綺麗に咲いたのは俺の手柄じゃねえ」

 

そう言って顎をしゃくる先には千空の姿。

 

「咲かせるのは全員の力が必要だったんだから誰のって話じゃねえさ、俺は知恵を貸しただけとも言えるしな」

「! そうだよ! まだ三月の九日でギリギリ上旬だよ、なんでこんな満開になってるの?」

「あー、かなりの力技だぞ。時期ってのはつまりどれだけ周囲の気温が上がって来たかっていう目安だろ?

だからこの周囲の温度を無理矢理上げてやりゃあ咲くんじゃねえか、ってだけの話だ」

 

いや、屋内ならともかく屋外で常に気温を上げ続けるなんて無茶な話……、

 

「しばらく前に風水車出来上がってたよねえ、後作った銅線ちょこちょこ持ってってた……まさか、本当にまさかと思うけど」

「おう、そのまさかだ。この周辺に電熱線回してずーっと熱起こし続けたっつー無茶苦茶だ」

 

私はあまりの事に声も出なかった。

それにかかる労力、時間、資源その全てがかなりのものになると予想できたからだ。

 

「なんで今日なの、宴会なら御前試合の後のが丁度いいでしょうが。

その頃なら満開の時期だし、理由もできるのに……なんで?」

「言うまでもないんじゃない? ねえみんな?」

 

よく見れば村の人も復活者も全員揃っている。

 

「「「「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」」」」

 

……ええええええ!!!!!

頭の中が大パニック状態だ。

 

「私の誕生日を祝うためだけにここまでしたの!?」

 

だとしたら無駄遣いもいいとこだ、祝ってもらう立場でいながら言うのもなんだが酔狂が過ぎる。

 

「安心しろよ、どっちかっつーと花見をしたいってのと……」

「ようやく百物語がその役目を果たす事が出来た事や、春が来た事のお祝いが主眼になりますので」

「そっか、それなら一安心……じゃないよ! それだったら尚更もう少し後でいいじゃない! ずらすとしたら私の誕生日祝いの方でしょ、普通!」

 

穏やかに笑うルリさんに危うく騙されるところだったが何とか疑問を突きつける。

 

「とは言ってもな、御前試合まで残り一か月、参加予定の者は調整して行きたいであろうし、これ以上百物語の祝いを伸ばすのもどうかと言う意見も強くてな。ならばまとめてしまえば良かろう」

 

むう、そんなにいくつものお祝い事を個別にはできないのも確かなのか……?

って、いかん、これはなし崩しに納得させられるパターンだ!

 

「もうちょっと、こう、何ていうか、その、規模を小さくっていうか……」

 

無理矢理口からひねり出したが、ダメだ、顔が嬉しさでにやける、赤面するのを止められそうにない。

 

「そこまで喜んでちゃ説得力ねえぞ、素直に喜んどけ」

「と、普段から素直じゃない奴が言っている」

「うるせえぞ、メスライオン。手伝いの初っ端から焦がす失敗して力仕事に回された奴は黙ってろ」

「ゴリラよりかはマシだが誰がメスライオンか! というか人の失敗をあげつらうんじゃない!」

「コハクよ、それはブーメランが刺さるというんだぞ」

 

コクヨウさんに指摘されたコハクがうぐっという声をあげておし黙る。

その姿に周りから笑いがもれる、私自身も思わず笑ってしまった。

ああ、もうダメだ嬉しさを我慢できない、気づけば私は笑顔でお礼を言っていた。

 

「みんな、ほんっとうにありがとう!」

 

そう素直に言えた私を見てみんなも嬉しそうに笑ってくれた。

 

「ようし、それでは宴を始めるぞ!」

「「「「「おー!!」」」」」

 

コクヨウさんの号令で並べられていく料理たち、もしかして朝から作ってたんだろうか?

今更気づいたけどそういえば今朝炊煙登ってなかったな……って事は大分前からの計画だなこれ。

 

「あれ? お酒はなしなんだ、宴会なのに」

「ああ、御前試合の後のために取っておきたいから今日はなしだそうだぞ」

 

ふとした私の疑問にコハクが答える。

 

「んー、……ねえ、千空」

「別にいいんじゃねえか、想定してたより天使の取り分少なかったんだろ?」

「うん、ありがと。ねえ、コハク、酒蔵からワインを二樽持ってきてくれない?」

「いいのか? アルコールがたくさん必要と聞いていたのだが」

「うん、ロッシェル塩はもうできてるし、アルコールの確保も順調だしね」

 

少しずつでも酒を飲めるとなってより一層宴は盛り上がるのだった。

 

 

宴会の中でたくさんの人と話した。

 

「ふん、本当はテメエ一人に見せるだけでいいか、と思ってたんだがな、なっかなか花が咲きやがらねえから仕方なく千空の野郎に相談してやったんだ。……まあ、いい知恵を出してきやがったよ、アイツは」

 

マグマからは花見がこんなにも大規模になった原因を聞き、

 

「改めて、誕生日おめでと、桜子ちゃん。日付を当てたのどうやってか聞きたそうだねえ。単純だよ、だって君言ってたじゃない、『語呂合わせだったら美玖でよくない?』って」

 

ゲンからは誕生日の日付が分かった理由を聞き、

 

「誕生日おめでとう、桜子。君が目覚めてくれたことに、石化中ずっと意識を保っていたことに感謝の言葉を送らせてくれ。君がいてくれたから俺は道を間違えずに済んだ、ありがとう」

 

司からはあり得たかもしれない大量殺戮する未来を進まずに済んだことを感謝され、

 

「小耳にはさんだのだが、私と司は敵同士になってたかもしれなかったらしいな。

今の私からは少々想像ができないんだが、私はそうならなくてよかったと思っている。

改めて礼を言うぞ、君がいてくれてよかった、ありがとう」

 

コハクからは多少顔を赤くしながら、司との敵対を回避できたことに感謝していると告げられ、

 

「桜子、おめでとうなんだよ!」

「またお歌教えてね!」

「……絵の描き方、助かった」

「あんたのおかげで料理って奴の楽しさが分かったんだよ、ありがとうね!」

 

村の人たちからは教えた知識について感謝され、

 

「誕生日おめでとう桜子! 今日までのこと本当に感謝している! また明日からもよろしく頼む!」

「おめでとう桜子ちゃん、今日まで沢山の知識で皆を支えてくれてありがとう、明日からまたよろしくね」

 

大樹と杠からは今日までの感謝と明日からも一緒にいようと告げられ、

 

「誕生日おめでとうございます、貴方の目の前にある今日は貴方の努力の結晶です。胸をはって受け止めるとよいでしょう」

 

氷月からは自身の努力を称えられ、その他の皆にも沢山のおめでとうをもらった。

本当に嬉しすぎて涙をこらえるのに相当の努力が必要だった。

だというのに千空とカセキときたら、

 

「ほっほー、おめでと、桜子ちゃん。これは千空がデザインしてワシが作ったんじゃよ、受け取ってちょ」

「……これって」

「髪留めだな、さくらんぼとどっちにすっか迷ったんだが、ちいと子供すぎだろって事でこっちにした訳だ」

 

それは桜の花がデザインされた銀の髪留め。

 

「女向けにゃあちょいと無骨だったかと思わんでもないんだが……、ま、許せ。

さすがに女性用の小物のデザインまでは分かんねえんだ、ってどうした! 気に入らなかったか!?」

 

それを受け取った私は我慢しきれずポロポロとうれし涙を流していた。

 

「ええ! 気に入らなかったの! 千空、やっぱりさくらんぼの方がよかったんじゃ……」

「ちが、ちがう、の、今日、すっごく、嬉しい事ばっかりで、限界、超えちゃった、だけなの……」

 

誤解だけはさせないようにそこまではしゃべったけど、そこから先はちょっと言葉にならなかった。

でも、二人にはちゃんと伝わったみたいでしょうがないなって顔で笑ってくれた。

生まれて、生きてきてよかった、そう思えた初めての誕生日。

記憶を忘れるという事の無い私だけど、この日の事は生涯でも指折りの喜びの日。

もらった髪留めは私の宝物、その第一号。

この後も増えていった素敵な記憶と最高の思い出と並んで決して捨てられないものの一つになったのだった。

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