いよいよやってきた御前試合当日である。
空は快晴、気温もすごしやすく日差しは心地よい塩梅。
出場者にも観戦者にもよい最高の天気といえた。
今は組み合わせ決めの為のくじ引き中だ、真っ先にクロムが引きに行った後続々と村の若い男連中が引いている。
男達が引き終わった後、今度はコハクが引いてコクヨウが慌てる場面も見られたが概ねくじは引かれたようだ。
「ねえ、あの組み合わせ表変じゃない?」
「あん? ……確かに変だな、村の男共で10人で、プラスコハクで11人のはずだよな」
しかし組み合わせ表は6組と余りが一枠、後2名足らないのだ。
「確か、復活者はあまり村に関係がないから、参加しないようにするって話だったはずだが……」
ん? と桜子が司の今の科白に首をひねる。
どこか今の言葉にひっかかりを覚えたのだ。
そして、そのひっかかりはすぐに判明した。
審判であるジャスパーがくじを持ってきたのだ、千空と司に引いてもらうために。
「残るは二人だけだ、どちらでもいいので引いてくれ。残った方がもう一人の分になる」
「「はい?」」
千空と司の声がハモる、表情も、気持ちも同一だろう。
「あー! 『村の関係者』だ!」
二人が疑問を発する前にそれに気づいた桜子が大声を出した。
「ああ、なるほど。千空は村の創始者の子だからか、確かに関係者だ」
「いや、参加するかどうかには関係ねえだろ」
「しかし、俺は何故なんだ? 参加を希望した覚えはないんだが……」
最もな司の疑問だがジャスパーはむしろ困惑しているようだ。
「受け付けは確かに代理であったが、参加を希望してはいなかったのか?」
「ええ、村にそこまで深く関係していないと思っていたので。代理で受け付けをしたのは誰なんです?」
「マグマだが」
ジャスパーがそう言うと皆一斉にマグマを見る。
当のマグマはというと、
「おう、俺が勝手に登録したぞ」
悪びれもせずに堂々とそう言ってのけた。
それに真っ先に反応したのは、コハクだ。
「なぜそんな事をしたのだ、このゴリラ顔ぉ!」
「うるせえなぁ、『何故』なんて決まってんだろうが」
マグマは言葉通りうるさいとしか思っていなそうな表情でコハクを一瞥した後、司を睨み指を突き付ける。
「司、テメエと決着をつけるためだ! この大一番でどっちが上かはっきりさせようじゃねえか!!」
マグマから火が燃えるかのような気迫が吹きあがる。
その気迫の余波を受ける羽目になった千空と桜子が思わず司の横から逃げるように後ろへと飛ぶほどのものであった。
それを受けた司はというと、
「……俺に、勝てる自信がある、そう思っていいのかな?」
ゆっくりと口角をつり上げ嬉しそうに、楽しそうに笑う。
「その挑戦、喜んで受けようマグマ。君と初めて会ってから半年以上が経つが……どれだけの物を積み上げてきたのか、見せてもらうよ」
戦闘を生業とする者の本能が疼くのだろう、獰猛な獣のごとき笑みを見せるのだった。
「つ、司? ちょっとキャラ違わない?」
「そうかな? うん、そうだね、普段の俺とは違うように見えるだろうね。
だけど、自らが強いと証明する事が嫌いな男なんていない、それだけの話さ」
「はい」
桜子は完全にドン引きである。
彼女にも一応前世の輩の記憶があるので、多少は理解できるが戦闘者ではなかったので多少でしかない。
司とマグマの雰囲気に引いてしまうのも無理ない事であろう。
「待て待て司! そんなことを言って決勝まで当たらなかったらどうするのだ! まさかそのまま姉者と結婚する気か!?」
「11/12、5/6、2/3か、約5割ってとこだな。十分ありうっぞ、そんときゃどうすんだ司?」
「その時は準決勝で参ったするよ、チャンスは今日だけではないだろうからね」
できれば今日当たれるのが一番だけどね、と軽い調子で言う司。
だが、その軽さが逆にコハクにはカチンときたらしい。
「つまりあれか、結婚などの話は君の中で気にするような事ではないという事だな?」
「? いや、そういう訳では……」
「マグマぁ! 当たった時は覚悟しておけ! 手加減なぞ一切なしで貴様を叩き潰すからな!」
見た事ないような怒りを見せるコハクに司は戸惑いを隠せない。
一方その怒りを向けられたマグマはというと、
「おう、できるもんならやってみろ、司の前にテメエをぶっ倒して誰が村最強か教えてやるよ」
「言ったな、必ずその言葉を後悔させてやるから覚悟しておけ!」
耳をほじりながらのニヤニヤ笑いでむしろ楽しそうに返す。
そんな男共の態度に怒りを撒きながらコハクはどこかに行ってしまう。
後に残されたのは困惑気味の司、むしろ上機嫌なマグマ、そしてウンザリとした顔の千空であった。
「何故、彼女はあそこまで怒ったんだろうか?」
「知らねえよ、気になるならとっとと参ったでもして話を聞いてこいや」
面白がっているのを隠そうともしないマグマ。
それだけ言ってこれ以上は面倒くさいとばかりにその場を去っていく。
「嵐、いや荒らしかな、どちらかというと」
「煽って煽って、後は知らねえか、言いえて妙だな。で、どうすんだ司?」
「とりあえずは出場するよ、何か癇に障ってしまったみたいだが決勝まで進まなければ許してはくれるだろうし、ね」
「つまりは保留、後回しにって事だな。話を聞ける状態になったらしっかり聞きに行けよ、あのまま放置何てしたら面倒がさらに酷くなんぞ」
「わかった、心に留めておくよ」
千空の言葉に頷いた後くじを引き、少し一人で考えたいからとこの場を去る司。
最後に残ったくじをそっと渡されてしばらくした後ふと気づく。
「って、だからなんで俺が参加しなきゃいけねえんだよ!」
「数合わせかなあ、千空いないと12人になって準決勝が3人になっちゃうから」
「開始して即参ったしてやる……」
千空の恨みの篭った声に乾いた笑いしか返せない桜子であった。
全員がくじを引き終わり組み合わせが決定。
今まさにその発表がされようとしていた。
「あの騒ぎはそういう事だったのか、……正直司と当たったら負け決定だから当たりたくねえな」
「まー無理だろうな、化学装備全部当てても怯んでくれるビジョンが見えてこねえ。
運任せってのは科学者にとってあるまじき態度だが、こればっかりははどうしようもねえ」
「祈れってか、又は話術で司を納得させるか……ヤベー、できる気が全くしねーぞ」
「ホント祈るぐらいしか出来ないね、さっさとマグマと当たって満足してほしいかなぁ」
クロムに先程の騒ぎを説明しながら発表を待つ千空達。
しばらくしてジャスパーが組み合わせ表の前に立つのを見てそちらへと向き直す。
村の全員だけでなく観戦するだけの復活者達も固唾を呑んでそれを待つ。
「つかさんはすぐにマグマと当たる、つかさんはすぐにマグマと当たる、つかさんはすぐにマグマと当たる!」
「南、今のあんたちょっと怖いんだけど」
一部理由が違う者もいるようであるが。
それはともかく、とうとうジャスパーが口を開き話を始めた。
「さて、組み合わせの発表の前に一部ルールの変更を伝える。
前回まではくじを引くのは一回戦前の一回のみであったが今回は一回戦、二回戦において不戦勝枠が存在する。その為公正を期す為に組み合わせ表の全ての試合が終わるたびにくじを引き直してもらう。異議ある者はいるか?」
御前試合においてルール変更等聞いた事がない村人達が多少ざわめくがすぐに収まった。
実質的な変更はほぼないと気づいたからだ。
ふと気付いた桜子が千空に確認する。
「千空、もしかして相談された?」
「ああそーだよ、ちとさっきの奴は迂闊だったか」
「だよねえ、じゃなきゃ11/12はともかく5/6は出てこないもんね」
「参加者が事前にルール変更を知ってたらまずいだろうが、コクヨウの奴何考えてんだか……」
「千空のエントリーしたのコクヨウさんなんだね、まあ村長に一番相応しいってなると千空一択だもんね」
「創始者の子だもんな千空は、当たっちまったら頼むぜ」
「ああ、とっとと参ったすっからむしろ当たるよう祈っとけ」
ナマリが組み合わせ表に似顔絵を描き始め、組み合わせ発表がいよいよ始まる。
「第一試合! マグマ対コハク!」
「第二試合! 金狼対アルゴ!」
「第三試合! 司対ハガネ!」
「第四試合! 銀狼対ガンエン!」
「第五試合! ナナシ対マントル!」
「第六試合! クロム対チタン!」
「一回戦における不戦勝枠は千空、以上である」
発表されてすぐには誰も何も言わなかった。
その組み合わせを皆が理解した瞬間大騒ぎになったが。
「おいおいおい! なんだこの強い奴から組みましたみたいな組み合わせは!」
「いきなり頂上決戦じゃねえか、マグマ対コハクと金狼対アルゴなんて!」
「ぐわっはっはっは! コイツはいい、先ずは村最強を証明するいい機会じゃねえか!」
「ふふふふふ、マグマさえぶっ飛ばせば司が残る理由はない、この戦い私の勝利だ!」
「コハクー! 絶対に勝ちなさいよー!! つかさんの参加理由をさっさと吹っ飛ばして!!」
「金狼! テメエ余所者なんぞに色々習っているみたいだが、そんなもん余分なんだって事教えてやるぜ!」
「尾張貫流槍術は余分な物などではない、試合でそれを存分に見せよう」
「よ、よかった〜、くじ引き直しでホントよかった〜。そうじゃなきゃ二回戦で即終わってたよ〜」
「ちきしょう、なんで俺が不戦勝枠なんだよ……」
「ど、どんまい、千空。大丈夫、どんなに悪くても準決勝では対戦相手いるから」
「そりゃ俺がまた不戦勝枠引くって意味かテメエ!」
(引きそうな気がする、フラグって奴だっけか?)
悲喜交々である。観戦する者としてはすぐに面白い試合が見られるし、他の出場者にとっては強い奴から潰れていくので悪くない、当の本人達には体力的に見て一番の状態で当たるので好都合、とほぼ文句のでない組み合わせであるので、実は悲しみにくれているのは千空ぐらいであるのだが。
そして第一試合、マグマ対コハクの開始である。
「くっくっく、マグマ、ふざけた事をしでかしたバチが見事に当たった形だなぁ」
「はっ! そういう事は俺を負かしてからほざくんだな!」
全身全霊でいい気味だと笑うコハクに軽く返すマグマ。
ただし、お互いすでに構えをしていつでも動けるような状態になっている。
マグマは剣道で言う所の正眼の構えであり、コハクは左のナイフを前に出しているまるでボクサーのような体勢だ。
その二人の構えにいつからいたのか氷月が独り言のように呟いた。
「ふむ、なるほど、それぞれの狙いが分かりやすいですね、これは」
「わざわざ解説してくれんのか、おありがたいこったな」
「一見興味がないように聞こえますが、実は言葉通りですか。それではツンデレというレッテルが剥がせないのでは?」
「いいから解説してろ! ツンデレ云々は他の奴らが面白がって言ってるだけだっつーの! つーかオメーからツンデレなんて単語が出てくるって方が驚きだ!」
「そうですか? 私とてまだ20代の若僧ですので、そういう言葉を使っても不思議ではないはずですが。まあそれより解説をするとしましょうか。
先ずコハク君は構えから想像しやすいでしょうが、アウトボクシングのイメージですね、違いは左腕が牽制だけでなく防御も担う所ぐらいでしょう。左で相手の隙を作り右で決めていく、足を使って撹乱し相手の攻撃は決して受けない形です。
一方マグマ君ですが……」
「それでは第一試合、始め!」
氷月の解説の間にジャスパーの開始の合図が入った。
「ぬおおおおお!!」
それと同時にマグマが飛び出し強烈な唐竹割の一撃を見舞う。
あまりの威力に地面にめり込んでいる程だ、得物は木と布でできた無用な怪我をさせぬよう配慮された物だというのに。
「コハク君の持ち味の一つは速さです、動き回られたら厄介この上ないでしょう。
それが故の一撃必殺、随分と修練をしてきたのでしょうね、凡百の者では気づく事すら出来ずに打ち倒されていたでしょう」
そう、マグマの一撃は“地面にめり込んでいる”のだ。
「ああ、マグマ、素晴らしい一撃ではないか。前とは比べ物にならない程鋭い一撃だ」
コハクの賞賛の声が響く。
「だが、私に当てるには遅すぎる一撃だな」
信じられない光景だった。
コハクはただ避けるに飽き足らず、
「こういう時はこういうのだったかな? 『どうした、貴様ともあろう者が動きが止まって見えるぞ!』」
なんとマグマの振り下ろした剣の峰に乗っているではないか!
そして言葉を最後まで言い切る前に顎狙いの鋭いバク転蹴り、サマーソルトキックを繰り出す。
慌てて頭を体ごと横へと逸らしなんとか直撃を避けるも、側頭部にかすめるコハクの蹴り。
その風切り音にマグマの背に嫌な汗が流れる。
しかし、直ぐにその恐怖心をねじ伏せ再度構えをとる。
開始前と変わらぬ筈のその二人の対峙する姿は、観戦する全ての者にとって全く別に見えた。