「よお、よく勝てたもんだな。途中で調子に乗って突っ込んだ時は負けたと思ったぜ」
「おう、俺も思った。なんとか立て直せたのはもちろん特訓を思い出せたからだと思うぜ」
千空の揶揄い交じりの祝勝の言葉に自嘲を多分に含めて答えるクロム。
だが、次の氷月からの褒め言葉には驚いた。
「最初から忘れていなければもう少々楽だったでしょうに。ですが、この道で生きていく訳でもないのですから十分でしょう、よく頑張ったものです」
「氷月から褒められるとは思ってなかったぜ、結構無様を晒してたと思ったんだけどな」
照れ臭そうに鼻の下をこするクロム。
だがすぐに顔を引き締め次のための行動に移る。
「おう、次は例の奴使うからよ、準備頼むぜ」
「オッケー、手が空いてそうな人に声かけて運んどいてもらうね」
そう言って居住区の方に走って行く桜子。
「準備と言いますが……、外野からの干渉は反則だったのでは?」
「どっちかっつうと後始末用の準備だな、ちょいと耳貸せ」
そっと周りに聞こえないように小さな声で計画を話す千空。
それを聞いた氷月の顔はなんとも言えないものになっていった。
「さすが、と言うべきですかね。試合でそんな物を使おうという発想に行きますか普通?」
「ルール違反にゃなってねえしな、それにクロムが金狼やマグマ相手にすんにゃ手段選んでる余裕ねえだろ」
「相手の慢心を期待できる訳でもないですからね、仕方ない事ですか」
「朝倉宗滴だったか? 勝つ事が本にて候だ、手段選んで勝てるほど甘い奴らじゃねえかんな」
渋い顔でそうぼやく千空に氷月がたずねる。
「だから、復活者は基本出ないように誘導したと。面倒であったのも事実でしょうが、一体いつごろから考えてらしたので?」
その質問に肩をすくめつつ千空は答える。
「せいぜい4ヶ月ぐれえだよ、大体の想像できる事態を網羅できたから、利用できそうなもん片っ端から突っ込んだだけの話だ」
そう言って歩き出す千空、その先では二回戦のくじ引きが始まるところだった。
桜子が戻った時ちょうど組み合わせが発表され終わったところであった。
観客たちからのざわめきが全く収まらない、組み合わせがよっぽど衝撃だったのだろうか?
「ねえねえ、氷月にクロム、組み合わせどうなったか聞いていい?」
「ああ、戻られましたか。そうですね、第一試合はクロム君と、彼ナナシ君ですよ」
桜子がそちら、ナナシの方を見ると銀狼に絡まれるナナシの姿があった。
「何やってるの銀狼は? いや、残った人考えると理由想像できるけど」
「お察しの通りだよ、第三試合で司と何だよ銀狼の奴」
「ご愁傷様だね、……あれ? って事はこのざわめきは第二試合が原因?」
「そうですね、その通りです。村の最強決定戦ですよ」
組み合わせ表を見れば丁度今第二試合が描き終わるところで……、
「うっわあ、マグマ対金狼って……、ざわつくよね、そりゃ。でも考えてみれば好都合なんじゃない?」
「まあ、そうなんだけどよ……使えるのは狩りに行ってる復活者が戻るまでだかんな。
先に使っちまいたかったのもあるから、どっちがいいかわかんねえんだよな」
複雑そうである、まさか自分でマグマに勝って見せたかった訳でもないだろうに。
惜しいという感情が見え隠れするのは彼女の気のせいであろう、多分。
「さてと、ねえ千空、そろそろ立ったら? 地面が好きって訳じゃないでしょ?」
「……そっとして置いてくれ」
そこには絵文字でいうorzの体勢で激しく落ち込む千空の姿。
「約1.1%何だから引く時は引くって、ましてや千空は運が悪いんだからさあ」
ペチペチと背中を叩かれても反応がない千空。
「うーん、えいっ!」
それに対して何を考えたのかいきなり背中に腰掛ける桜子。
「って、何してんだテメエ!」
「意外、肩に近い方に乗ったのに潰れなかったね」
当然即立ち上がって振り落とす千空。
立ってすぐに桜子を睨みつけるが彼女は笑いっぱなしだ。
「腕の力意外とあるんだね、千空。ベシャって潰れるかなって思った」
「テメエが風船みてえにスッカスカなだけだ! 頭の中身も豆腐で出来てんじゃねえだろうな!」
そう言って中身を確かめてやると言わんばかりにヘッドロックを極める千空。
極められている桜子は痛い痛いとタップしているが、千空が元気になってどこか嬉しそうだ。
「仲のいい事で、ただのじゃれ合いですねあれは」
「わりとあんな感じ多いよな、アイツら。んじゃ、そろそろ試合始まるから俺は行くわ」
「ええ、頑張って来なさい。分かっていると思いますが、実力的にナナシ君相手では普通にやると負けますよ」
「ああ、分かってるさ。奇策の仕込みは十分、後は仕上げを御覧じろ、ってな」
クロムは言いながら不敵に笑って試合会場の真ん中へと歩を進める。
その後ろ姿を見て氷月は思う、彼が勝てればいいと。
誰かの勝利を願うなど、いや、誰かの為に願うなどどのくらいブリか。
自身の変化を自覚しつつ、じゃれ合う二人を観戦する体勢にさせるべく氷月は二人に声をかけるのであった。
「よう、ナナシ。音対策は万全かよ? かなりヤベーぜこのショックキャノンはよ」
「うん、俺なりに考えて来たよ。こんなにすぐに試合だなんて思わなかったから、時間なかったけどね」
試合開始前から舌戦で動揺させるべく話すクロムだが苦手分野の為か効果は今一つだ。
「それでは、第二回戦、第一試合、ナナシ対クロム、始め!」
「先手必勝! 見せてやんぜショックキャノン!」
号令と共にショックキャノンを構え、爆鳴気の詰まった音爆弾を左手で取り出すクロム。
それに素早く反応して槍を振るうナナシ、両者の距離が近いのもありあっさりと音爆弾は叩き落とされる。
「へっ、やるじゃねえかナナシ!」
「目の前でそんな事されたら妨害するさ、当然ね!」
ただ、ナナシもそちらに意識を持っていかれたせいか、体の方はガラ空きだ。
クロムもそれを逃す訳がなく、いい一撃がナナシの胴へと叩き込まれる。
しかし、クロムの力不足かナナシを怯ませるに効果は止まる。
それでも先制の一撃を奪えたのは大分大きなアドバンテージになる。
双方の実力差を考えると、これでようやくスタートラインに立てたというところであるが。
「先制の一撃を奪うよりあのショックキャノンを当てる方が効果があるだろうに、何をしているのだクロムは!」
「確かにショックキャノンは勝利を決める一撃になるだろう。だけど、相手も当然警戒するからね、当てられるかは微妙なところだよ。無理して隙を作るより囮にして確実な一撃を奪う作戦だと思うよ」
「じゃあ、つかさん、開始前のあの会話は?」
「ブラフだろうね。威力のほどはついさっきの試合で見せられたばかりだ、意識しない訳がない。
実際どうアレを当てるかの勝負だと皆思っていたろうから、ハッタリとしては効果バツグンだね」
コハクの叫びに冷静に答え、南の疑問にキッパリ答える司。
実は両手に花状態であるのだが試合に集中しているのか気にした様子はない。
「わかるかい? 今クロムが左手を後ろに持っていくだけでナナシの意識がそちらに流れたのが。
こういった手段はゲンから教えられたんだろうね、基本素直な彼だけでは思いつかないだろうし」
司の推測通りこれらのブラフを駆使して戦うやり方はゲンからの教授だ。
ゲンが教えクロムが考え氷月が実践して問題点を洗いだし、またクロムが考える。
その繰り返しで洗練していったものである。
だが、このブラフ戦術には致命的な弱点があった。
それは“やるのがクロムでは相手に警戒心が起こらない”という点であった。
クロムの力では一発や二発いいのを貰っても倒れる訳がない、そう思われてしまっていては真っ直ぐ行ってぶっ飛ばしで終わりである。
そういう意味では理想的な一回戦だったと言える。
格上ではあるが上すぎない、丁度いい相手に対して善戦した後切り札で倒す。
それを見れば当然、警戒心を沸きたてられる最高の一戦ではあった。
もちろん拙いところもあったが最終的に勝てたので大問題というほどではない。
現に今、そのおかげでナナシに対しクロムは有利に立ち回れている。
「だけど、根本的に腕力不足だね。いいのが何発も入っているのに、ナナシに堪えた様子がない。
切り札のショックキャノンを当てられなければナナシの勝ちは揺るがないよ」
「ど、どうする気だクロムは! まさかこのまま負けてしまうんじゃないのか!?」
「どうかな、彼らが無策で挑むとは思えないし……さっきの試合もチャンスを待っての逆転だ。今度も狙っているんじゃないかな、切り札を確実に当てられるタイミングを」
このままではジリ貧だ、頭の中でそんな事をがなりたてる自分がいる。
実際その通りではある、このまま何も打開策を打たねば、切り札を当てられなければ自分の負けは確実だろう。
だからこそ耐えなければならない、上手く誘導出来なければその時点で敗北だ。
そっと頭の中で残りの音爆弾の数を数える。
持てる数には限りがあるので、もう残りは二個だけ。
もう一度囮に使うか、それとも本命を使うか。
すぐにでも使うべきと叫ぶ自分、まだ早いんじゃないかとささやく自分、どっちがより冷静なのか、すぐには判断できない自分もいる。
(こういう時は一回自分の勝ち負けを無視すんだよな、ゲン)
どうしたって人間は自分を中心に考える、だからこそ目の前だけに集中しがちである。
なら一回自分の損得を無視して状況を再認識する、そして、それらを素早く出来れば三つ数えるまでに行うのだ。
(試合中に迷えば即敗北が待ってる、だったよな氷月!)
ゆえに今はまだ早い、そう決めてダメージの蓄積を狙う。
これを繰り返し、ナナシがこちらの狙い通りに動くよう誘導し続けるのだ。
もちろん、言うは易く行うは難しを地で行くような話だ。
だが、出来なければ負ける、負けてルリには届かなくなる。
そうなっても村の男衆はルリを大事にするだろう奴ばかりだ、彼女が不幸な結婚生活を送るような事にはなるまい。
だが、それでは駄目だ、自分がルリを幸せにしたいのだ、司から恋愛感情とは何かと聞かれた時に自覚したのだ。
(俺は、俺自身の手でルリを幸せにしたい!)
思えば贅沢になったものだ、つい一年前まではせめて生きてほしい、いや、苦しみを少しでも和らげたいぐらいしか願えなかったのに。
千空達が村に来なければ決して起こりえなかったことだ、感謝してもしたりない。
そして、自分が集めたコレクションがなければ間に合わなかったとも。
今までの努力は実ったのだ、たとえそのきっかけが偶然によるものだとしても。
手を伸ばし続けたからこそ、ルリの命を救えたのだ!
「だから、俺は諦めねえ!」
気づけば口からそんな言葉がこぼれだしていた。
その気迫にナナシが驚き一瞬硬直したことに気づく、チャンスだ!
全力で槍を薙ぎ払いナナシの体を弾き飛ばし、ショックキャノンに例のブツをセットする。
セットした後ナナシに向け、点火装置のスイッチを入れる。
「! させないよクロム!」
点火しようとする前に中心の袋をナナシの槍が貫いた。