イシからの始まり   作:delin

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なんとか書けたので早速投稿です。


御前試合⑥ 第一試合決着〜第二試合開始

勝った! ナナシは自分の槍が点火前に袋を裂いた瞬間そう確信した。

しかし、次の瞬間彼の頭に疑念が沸き起こる、裂けた袋から粉が溢れ出したからだ。

そして、その疑念はすぐに答えが出た。

 

「でっりゃあー!!」

 

気合いの叫びと共にクロムがショックキャノンを槍ごと跳ね上げ、その粉を被る事になったからだ。

目にそれが入った瞬間、激しい痛みが襲いかかる、反射的に涙と鼻水が出てくる。

更に運の無い事に痛みに思わず悲鳴を上げようとした時、思いっきり息を粉ごと吸い込んでしまった。

結果ものすごい勢いで勢いでのくしゃみの連発、涙と鼻水と相まって目も当てられない状態に。

 

「まずっ! 甕の水をぶっかけて! 粉を洗い流すの!」

 

それに素早く反応して彼女の周りの男達が甕の水を盛大にナナシにぶちまける。

都合四杯目でようやく目を開ける事が出来たナナシ。

想像より効果が酷かったからかクロムは硬直気味であった。

 

「ナナシ、喋れる? この粉は後遺症とかはないけど、その分その場での反応は激しいの。まだ痛みがあるようだったらもうちょっと湖で顔を洗った方がいいと思うけど」

 

その問いに即首を縦に振るナナシを見てジャスパーが口を開く。

 

「クロム、その粉は何なのだ? 毒ではないだろうな」

「いやいやいや、んなこたねえよ! 手で触っても何ともなかったんだ! あそこまでになるって知ってたら持ってたりしねえよ!」

 

当然ジャスパーの目は険しい、クロムとしてもこんなことになるとは想像外だったため必死に弁解する。

そこに出てきたのは千空、あれを作ったのが彼と桜子だから出てくるのはある意味当然である。

 

「悪いなジャスパー、そのあたりの説明は俺がするぜ。つーかクロムも悪かったな、ちょいと効果について説明不足だったわ」

「ふむ、あの不可思議な粉を作ったのはやはり貴殿であったか。では説明してもらおう、その話の内容如何によってはクロムも貴殿も失格とさせてもらう」

「あー、問題ねえ。あの粉はクロロアセトフェノン、俺ら復活者だったら催涙スプレーの中身って言えば通じるもんだ。あの粉が目や鼻に入るとさっきのナナシみてえに涙と鼻水がだっばだっば出んだが、30分ぐらいで治まっちまうって性質がある奴でな。その性質を利用して無傷で相手を止めてえ時によく使われてたんだ」

「待てよ千空、だったらなんでナナシはあんなになって桜子が焦ってたんだよ、ヤベー事態じゃなきゃあんなになる訳ねえだろ」

 

その千空の説明に即クロムが疑問を挟む、その声に多少のトゲが存在するのはいたしかたないところだろう。

彼からすれば安全であると言われたものが危険物にしか見えない状況だ。

いくら千空を信頼しているとはいえ疑問に思わないわけがない。

 

「あー、その辺りは俺らの想定が甘かったせいだな。あんな風に顔面にドバッとぶちまけるとは思ってなかった、せいぜい鼻や口から多少吸い込むぐらいのつもりだったんだ」

 

そのクロムからの視線にバツが悪そうに頭をかきながら千空は答えた。

一応スジは通る話ではある、後はジャスパーが納得するかどうかだが……、

 

「ふむ、故意では無いという事ならば当事者に決めさせてはどうだジャスパーよ」

「村長、お言葉ですがルールは……」

「何、故意では無い上狩りもろくにできなかった者があれだけの攻防を見せたのだ、それにクロム自身に責は無かろう? その程度の融通はきかせてもよかろう。無論、ナナシがあれは反則だといえば反則であるし、もう一度といえばもう一度とりなおしだ」

「ああ、ひどい目にあったのはナナシの奴だ。あいつが決めるんだったらなんであろうと文句はねえよ」

「罰なら俺も受けるべきだろ、その分までナナシに決めてもらうとすっか。後、桜子の奴の分は……無しでいいか」

 

ナナシのあれに対処療法したのあいつだかんなー、などとつぶやきつつ正座して待つことしばし。

 

「試合しているはずの会場の真ん中で、なぜクロムちゃんと千空ちゃんが正座してるのか聞いていい? 司ちゃん達」

 

狩りに行っていた復活者組+ゲンが先に戻ってきたのだった。

当然の疑問に簡単に事情説明する司、聞き終えたゲンはこっそり背中に冷や汗が流れるのを感じた。

 

(えげつないやり方教えすぎたかな? 罰が酷くなりそうだったらフォローに回ろっと)

「私も同罪でしょうからその時は手伝いますよ、ゲン君」

「……おんなじこと考えてたみたいね、でもできれば心を読むのはやめてほしいかな~」

 

さらに待ち続け二人の足がしびれ始めたころ、ようやくナナシと男衆が桜子と一緒に戻ってきた。

 

「えーっと、とりあえずクロムはどれだけ強力か知らなかったって桜子ちゃんから聞いたんだけど、本当みたいだね」

「わかってくれるか、ナナシ……!」

「その痛そうな表情で必死に正座を保とうとする姿を見れば、反省している事は痛いほどに……」

 

地面に直接正座していれば当然脛辺りが痛む。

 

「っていうか正座解いて立ってくれない? 見てて痛そうでちょっと……」

「ああ、そうさせてもらうわ。んじゃあ、そっちが湖に行ってる間に話したんだけどよ……」

 

先ほどのコクヨウの提案をそのまま説明され、ナナシはしばし考える。

やがて考えがまとまったのかクロムを真っ直ぐ見つめ口を開いた。

 

「うん、あれは反則なんかじゃないよ。クロム、君の勝ちでいい」

「良いのか?」

「はい、あれは自分が袋を破ったから飛び出したものですし、もう一度と言われても正直辛いので……」

 

訊ねるジャスパーに苦笑交じりに返すナナシ。

 

「いや、辛いってんならなおさらこっちの反則扱いのがいいんじゃねえのかよ? キッツイ思いしたのはお前なんだぜ」

「そうだね、色々理由はあるけど……馬に蹴られるのはごめんっていうのが一番かな」

 

そういいながらチラリと村長宅を、今も心配そうな視線を隠しながらこちらを見つめるルリを見るナナシ。

 

「し、勝負には関係ねえだろうが、そういうもんはよ!」

「そこに込められた気合いで、俺は負ける原因を作っちゃったんだよ。何より、俺自身負けたって思っちゃってるんだ、ここから試合に出るのは俺は納得できないよ」

 

そう言って笑うナナシに何を言うべきかしばらく頭を悩ませていたクロムだが、やがてナナシの心がすでに決まっている以上自分が何かを言うのは筋違いだと結論づけた。

その上でできる事は……

 

「分かった俺の勝ちって事でありがたく受け取っとく。今度何かあったら遠慮なく言ってくれよ、貸し一つだかんな!」

「うん、それでお願いするよ。君が優勝するのを楽しみにしてる」

 

がっちりと握手を交わしあう二人。

一先ず試合の勝敗に関してまとまった事を確認し改めてジャスパーが告げる。

 

「では、二回戦第一試合勝者、クロム!」

 

そうして巻き起こる拍手。

食らいついたクロムも、潔く引いたナナシも讃える拍手だ。

 

「で、俺はどうする、ナナシ。言っちゃあなんだが一番の原因は俺だぞ」

「あれは反則じゃないって言ったんだから千空にも何もなしでいいよ、クロムと同じで貸し一つって事で」

「わーった、クロム同様なんかあったら遠慮なく言え。なんだって叶えてみせっからよ」

「うん、その時は千空にもお願いするよ」

 

そう言い合い朗らかな雰囲気で締めくくられた第一試合。

そして、第二試合。二回戦最大の注目カード、マグマ対金狼の試合である。

 

「両者前へ!」

 

ジャスパーの掛け声で同時に試合会場の中心へと進み出る二人。

 

「さて、お前にとっては少々運の無い状況かもしれんな、マグマ」

「いや、そうでもねえぜ。司をぶっ飛ばす前に村最強の男だと証明できるいい機会だ」

 

バチバチと火花を散らす村最強の男達。

開始前から双方気合い全開、戦意を漲らせる。

 

「相変わらず大層な自信だな、その慢心、未だ未熟なれど我が槍術で叩き伏せるとしよう」

「へっ、やれるもんならやってみな!」

 

開始の号令を今か今かと待つ両名、それを見てジャスパーは開始を高らかに告げる。

 

「第二試合、マグマ対金狼、始め!」

 

合図とともに突っ込んでいくのはマグマ……ではなく金狼であった。

 

「貫流槍術の技……見せてやろう!」

 

そう言い放ち繰り出すのは突き、もちろん管槍を使っている以上その切っ先を避けるのは不可能に近い。

それに対しマグマはあえて前に出る事を選んだ。

半身でなおかつ剣を盾にして槍先を防ぐ構えで、当たったところで押し込み力比べへと持ち込む。

槍先を止めさえすれば懐まで飛び込む事ができる……はずだった。

 

「させんぞ、マグマ!」

 

そのままであったら剣の腹に槍先が当たるところを手元の管を支点にしならせる事でそれを避ける。

そしてすぐさま払いに移りマグマの横腹と背を強かに打った。

さしものマグマも一瞬怯み、動きが止まる。

止まっていては倒してくれと言っているも同然なので慌てて退がった。

 

「ちっ、管槍はもう十全に使えるってか!」

「その通りだ。師匠ほどとは行かずとも、お前に通用する程度には扱えている」

「ふん、そうか、よっ!」

 

そう言うが早いか先程と同じ体勢で走り出すマグマ。

 

「させんと言ったぞ、マグマ!」

 

こちらも同じく払いで止めようとする金狼。

同じ事を繰り返すのだから当然同じ結果が出る。

マグマがそのままでいれば、だが。

 

「何も考えずに同じ事する訳ねえだろうが!」

 

槍が振るわれ当たる直前、マグマの剣が昆虫が羽を広げるように跳ね上がる。

ギリギリまで引きつけたからか金狼が槍をしならせきる前にその剣は槍を捉え高々とかち上げる。

そして、その勢いのまま切りつけて大きく吹き飛ぶ金狼に悲鳴と歓声が上がった。

 

「流石です、マグマ様ー!」

「き、金狼〜! やられちゃうの、大丈夫なの!?」

 

しかし周りの盛り上がりとは逆にマグマは渋い顔であった。

それもそのはず、彼は手ごたえがろくに感じられなかったのだ。

一見派手に見えたがそれはきっと、

 

「自分から後ろに飛んでダメージを最小限にとどめたか、器用なことすんじゃねえか」

「ふん、気づいたか。追撃の機会と思って近づいてくれれば逆撃したのだがな」

 

そう言うとあっさり立ち上がる金狼。

今の一撃のダメージなぞないに等しい様子である。

 

「まあまあやるじゃねえか、氷月によくやられた成果かよ、そいつは」

「そうでもある、と言っておこうか。そう易々と良い一撃が入るとは思わない事だ」

 

そう口にする金狼であったが、内心マグマの技の上達に舌を巻いていた。

本当に一年前、千空らが来る前とは比べ物にならない。

あの頃であったら視力さえどうにかなればマグマより上である自信があった。

それが今ではどうだ、底が全く分からない。

無論、自分自身も以前とは比較にならないほど腕を上げている……だがマグマはもしかしたら自分以上かもしれない。

そう考えると自然と口角が上がるのを感じる、どうにも愉快でならない。

見ればマグマも同様であり、凶悪な顔が凶暴な笑みで彩られている。

きっと自分も同じような表情になっているのだろう、マグマが楽しそうに声をかける。

 

「何笑ってんだ金狼よお、いつもの真面目くさったツラはどうした? どこに置いてきやがったんだよ」

「さて、橋の前か湖の底か、何れにせよ今は必要ではないものだからな、試合が終わった後ゆっくり探す事にする」

「けっ、ならさっさとのしてやるよ。じっくりといつものテメエを探してきな!」

「ああ、貴様を負かしてからそうさせて貰おう!」

 

二人同時に前へと飛び出し、今回の御前試合最も激しい戦いが始まったのだった。

 




あらすじ部分にも書きましたが、申し訳ないですがしばらく不定期で書け次第投稿という形でやって行きます。
いつになるか分からない状態ですが、なるべく早く書き上げますので気長にお待ちいただければ幸いです。
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