イシからの始まり   作:delin

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御前試合⑨ 王者と挑戦者

「やったなマグマ! まさかあの状態から勝っちまうなんておもわなかったぜ!」

「おい」

「ククッ、司大先生と桜子先生の教えのおかげってところか? ま、スゲエ事やったじゃねえかマグマ」

「おい、それよかよお、」

「次の試合をすぐに始められる雰囲気じゃねえからな、ゆっくり休めよマグマ。まだ2回試合があんだからよ」

「そうじゃなくてな」

「ああ、金狼の奴なら氷月が連れてって介抱中だ。司の話じゃそんなにかからず目が覚めるそうだぜ」

「それじゃなくて、なんで俺は、この女に膝枕されてんだよ!」

「男にされるよりは良くない? ガーネット達は宴会料理の準備してるし、まさかコハクや南さんにしてくれとは言えないし」

 

そうなのだ、何故かマグマは桜子に膝枕をされているのだった。

それも横から膝を入れる形ではなく真正面の形でである。

おかげで視界には桜子の顔が常に見える状態だ。

 

「地面に寝かせるのは流石にねえからな、俺らがやるよか桜子だろ、分類的には女だしな」

「肉付き悪いから少し痛いかもだけど我慢してね、傷薬とか二人に塗ってもらうからじっとしてて」

 

ポンポンと子供をあやすように頭を叩かれマグマは顔を顰める。

 

「おい、ガキじゃねえんだからその叩き方やめろ」

「あ、ごめんごめん。試合凄かったから褒めようと思ったんだけど、つい私自身を基準に考えてた」

「ああそうかよ、馬鹿にしてんじゃなけりゃいい。テメエの好きにしろ、テメエが変人なんだって事ぐらいよーく知ってるからな」

 

ニコニコとあまり見ないぐらいの笑顔で笑う桜子に毒気を抜かれたのか好きにさせるマグマ。

あるいはそれをやめさせるのも億劫なのかもしれない、そう思わせる程に彼の表情からは疲労が見てとれた。

 

「後二回、やれんのかよ? その様子で」

「あん? 千空、テメエには俺がこの程度でくたばる程弱く見えんのか? テメエらみてえなヒョロガリ相手にはちょうどいいハンデだろうよ」

「後半はあながち間違いじゃねえが、前半はな……1/3で司相手だぞ、戦いになんのか?」

「そうよ、勝ち目なんて流石に0じゃない?」

「はんっ! やってみなきゃ分かんねえだろうがよ!」

 

そう啖呵をきった直後に咳き込んでは説得力なぞ皆無であろう。

これはどうしたものかと思わず目を向けあう3人。

 

「君らの目的には有利になる事だろうに、何を途方にくれてるんだい」

「いや、間違ってねえけどよお。やっぱ正々堂々勝ちてえっていうか……って、司!」

 

唐突に後ろから声がかかり振り向けば次の試合に出るはずの司がそこにはいた。

 

「もうすぐ次の試合始まんだろ? こっちに来て大丈夫なのかよ」

「いや、まだ開始すんのは無理そうだぜ。思ったよか地面がボコボコになっちまってる、もうちょい整地に時間かかりそうだ」

 

千空の視線の先にはトンボとタンパー(とんとんとも言う)で必死に地面を固める姿。

時折『なんでここまでえぐれてんだよ!』だとか、『土持って来てくれ!』だとか聞こえてくる様子を見るに、もうしばらくは開始できなそうである。

 

「横からすまないね、だが俺としてもマグマの状態は知りたくてね。……やれるつもりかい?」

「あたぼうよ! 俺はまだまだやれる、テメエにだって勝ってみせるぜ!」

 

司を見た途端、寝てなどいられないとばかりにマグマはすぐに体を起こしていた。

司の問いかけに挑発的に返すが……、

 

「そのセリフは脂汗と顔色をどうにかしてから言うべきだね、痩せ我慢がすぎると思うよ」

 

死にそうな顔色と明らかに歯を食いしばって痛みに耐えてる顔では素人すらだませない。

だが、それでも彼は胸を張り見栄を張ってみせた。

 

「はっ、それがどうした! 俺の体調不良で試合が先延ばしになんのか? 弱音吐いてそれで何か変わんのか? 何も変わんねえだろうが! それとも何か? お優しい司様は勝ちを譲ってくれでもすんのか?」

 

そこまで吠えるように叫ぶと息の限界だったのか苦しげに咳き込む。

 

「ああもう、無茶しないの。ほら、水ゆっくり飲んで」

 

うずくまるマグマに慌てて背中をさすりながら水を差し出す桜子。

受け取ったマグマはゆっくりと飲み干すと再度司を睨みつけた。

それに対し呆れたような声で再度問いかける司。

 

「マグマ、もう一度だけ聞くよ。やれるつもり……いや、やるつもりかい?」

「何度も言わせんな、この程度で芋引いてたら情け無さすぎて死にたくなるぜ」

「その結果負けても満足だ、納得できる、と?」

「当たり前だ、俺の運、いや、実力が足らなかったってだけだ」

 

司は大きくため息を吐くと天を仰いだ。

分かってはいた、マグマが強情で意地っ張りだという事ぐらい。

口でなんと言われようが自分を曲げるような男ではないのだ。

 

「君の覚悟はわかった、俺も覚悟を決めたよ」

「おう、やっとわかりやがったか。当たったら手加減なんぞすんじゃねえぞ」

「そんなもの君への侮辱だろう、いつだって君との戦いは本気でやるさ」

 

諦めたように言う司に満足したのかマグマはまた倒れ込んでしまった。

慌てて桜子がその頭を受け止めるが大分重そうだ。

 

「ほんとに大丈夫なの? 動けるように見えないんだけど」

「うるせえ、そうならないためにも体力温存すんだよ」

 

そんな姿に司はやれやれと言わんばかりに肩をすくめると島の真ん中へと歩き出す。

その途中で思い出したかのように声を上げた。

 

「ああそうだ、3人にお願いしておきたかったんだ」

「ん? お願い? なんかやってほしいのか?」

「簡単な話だよ、マグマがこれ以上体力失わないように抑えておいてくれってだけだから」

「話は簡単だがやるのは簡単じゃねえ奴だな。ま、安静にさせとくから安心して試合に出てこい」

「うん、頼んだよ千空」

 

千空の応えに軽く頷きながら言葉を返すとそのまま司はまた歩き出していった。

 

 

会場は始めから酷い喧騒に包まれていた。

銀狼が試合に出たくないと言い出したからだ。

 

「やだー!! 僕が司に勝てるはずないじゃんかー!!! ボッコボコのボロ雑巾になるのはやだー!!」

 

そう言って橋の支柱に張り付いた銀狼を剥がそうとみんなで大わらわ。

これ棄権でいいんじゃないかという雰囲気の中、司が銀狼に尋ねた。

 

「銀狼、君はどうしても俺とやりたくないのかい?」

 

銀狼は一も二もなく頷く。

 

「勝てるわけないのに戦いたいなんて思う訳ないじゃん! 痛い思いするの絶対ヤダー! 棄権させてー!」

 

それを聞いた司は大きく頷くと、審判に参ったを告げた。

周りは騒然、銀狼は呆然、そして当然ながらマグマは即座に爆発した。

ただ、相当疲れ果ててたのか千空とクロムの二人に両腕を、桜子に頭を抑えられただけで動けなくなっていた。

司は審判に勝者のコールをお願いするとマグマの横まで歩いていった。

 

「俺がまいったしたのがそんなに不満かい、マグマ」

「あたりめえだろうが! 俺と当たる前にあっさり一抜けとかふざけてるとしか思えねえ!」

 

視線で人が殺せるなら殺してしまいそうな程強く睨むマグマ。

しかし、司はそれを意に介さず天を仰ぎながら問いかけた。

 

「ふざけてる、か。……なあ、マグマ、もし今日俺と当たってそれで負けた場合、その後俺に挑んできたかい?」

 

マグマの顔が一瞬だけ歪む、まるで図星を突かれたかのように。

実際図星なのだろう、否定の言葉には動揺が浮き出ていた。

 

「ば、ばか言え、一回負けた程度で諦めると思ってんのか!」

「普段なら諦めないだろうね、だが、この御前試合は世代に一回だけの特別なものだ。

つまりこの試合で上下関係すら決まる、そういう所がゼロだと言えるかい?」

 

もはや表情を隠す事すら出来ず歯噛みするマグマ。

 

「そういや、そうか。ジャスパーのおっさんが審判やってんのも確か準優勝したからだったよな」

「余計な事口にしてんじゃねえ!」

 

ボソッと言っただけのクロムの言葉にも激しく噛み付くのは余裕がない証拠だろう。

 

「つまり君は、今日で挑むのを辞めるつもりだった。そう判断したが、違っていたら否定してくれ」

「も、もし仮にそうだったとして、それで何の問題があんだ! 一々突っかかる奴がいなくなりゃせいせいすんだろうが!」

 

司の更なる追及に苦し紛れに自分の勝手であると、迷惑にはなっていない、むしろそれがなくなるだけだと叫ぶ。

それにむしろ悲しげな顔で静かに司は答える。

 

「……俺は、大切な人なんていなかった、石化前までは、ね。

今では大切な友と呼べる人がいる、それは本当に幸運な事だと思う。

だけど、俺は欲張りだったらしい。まだ欲しいものがあるんだ」

「なんだよ、そりゃ。俺に関係ねえ事だったらぶっ殺すぞ」

 

何が言いたいのか薄々は気づいているのだろう、マグマの言葉には内容とは裏腹に力がこもっていない。

 

「この頃の氷月と話していて気づいた事なんだけどね、誰かを教え導くのはとても楽しいんだ。そして、もしもその相手が自分に並んでくれるならこれほどの喜びはない、と」

「んなもん何人でもいるだろうが、ユウキもモリトも剣使ってんだろ!」

 

別に自分だけじゃないと司を慕う他の男達の名を上げる。

しかし、重要なのはそこではない。

 

「彼らが俺に挑んでくると、超えようとしてくると思うかい?」

「ぐっ……」

 

最も大事な心構えの点で彼らには足りないものがあるのだ。

しかし、それで彼らを責めるのは酷というものだろう。

誰もが頂を目指し続けられる訳ではないのだ、決して届かないものを見せられて尚進むのは一般人には荷が重い。

 

「金狼は本気でいつか氷月に並びそして超える気概を持っているよ、だけど彼らが俺に対しその心を持ち続けられると思うかい?」

「ま、無理だな。あいつらがマグマを兄貴って呼んでる一因でもあんだろうし」

「千空! テメエも口挟んでくんじゃねえ!」

 

それを彼らが持つ事ができるか? という問いにバッサリ切り捨てるのは千空だ。

マグマも無理だと理解しているからこそ、千空の意見を否定できず口を挟んだ事だけに文句を言う。

 

「千空の言う通りだと思う、つまりマグマ、君だけなんだ。俺を超えようとガムシャラに走れているのは」

 

マグマはもはや何も言えずただただ司を睨む。

 

「氷月は強くなってきてるよ、誰かに教えるという行為は基礎を見つめ直す良い機会でもあるからね。

俺も君のおかげで強くなれている、これからも続けさせて欲しい」

「教えるだけじゃ駄目なのかよ……」

「今までと同じぐらい本気でやれるのなら構わない」

 

無理だろう、目標の有無はモチベーションに直結することなど言うまでもない。

 

「頼むよマグマ、俺から将来のライバルを奪わないでくれ。君が俺と並んでくれる事を本当に楽しみにしているんだ」

「か、勝手にしろ!! 俺は次の試合まで寝る!」

 

そう言って再び桜子の膝に頭を落とすマグマ。

 

「ありがとう、マグマ。君が強くなるのを楽しみに待っている」

 

最後にそれだけを言ってその場を司は離れていった。

マグマは腕で目を覆った、認められた事で涙がにじんでいる所を見られたくなかったから。

そして、それを慰めるように頭をなでる桜子と肩をすくめながら見つめるクロムと千空の二人であった。

 




思ったよりも長くなったので御前試合決着までがもう一話伸びて⑫まで行く予定。
これ以上は伸びないやろ……(フラグ?)

今週から定期更新再開します、頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。
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