イシからの始まり   作:delin

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御前試合⑫ 優勝は……

試合開始前の二人は意外と穏やかな雰囲気で向かい合っていた。

 

「ったく、波乱ばっかでとんでもねえ御前試合になっちまったな」

「ああ、全くだ。女が出るわ、余所者が出るわ、組み合わせを決めんのは毎回くじ引きだわでよお、最初っから普通じゃなかったわな」

 

雑談を始める程に穏やかで、これから試合開始とは思えない程だ。

 

「しかも一発目から村のトップスリー同士のぶつかり合いだ、何が起きてんだって思ったぜ」

「はっ、化学武器なんつー小道具を使って勝ち抜いた奴までいたしなあ。

しかもオメエ事前に確認してただろ、大声や大きな音は違反かどうかって」

 

話の内容は今日の試合の事、小細工に関して突っ込まれれば誇らしげに返す。

 

「おうよ、突っ込まれないように言質取るのは重要だってゲンが言ってたかんな。

ついでに自分がばら撒いた粉が自分にかかったのも違反じゃねえって言質取ってたぜ、……あんな酷いことになるとは思ってなかったけどよ」

「あら酷かったな、ナナシの奴死ぬんじゃねえかって思ったぞあんときゃ」

「後遺症や怪我とかの後に残るもんはないって言ってたんだよ! 考えてみりゃ効果高くなきゃ護身具になんて使われねえと思うけどよ」

「だーっはっは! 見通しが甘えんだよテメエは!」

 

その時の惨状を揶揄されれば唇を尖らせて反論し、それに指を刺して笑う。

 

「るっせえ! そっちだって司がまいったするなんて想像してなかったろうが!」

「それを予想しろって方が無茶だろうが! 第一、二回も強え奴に当たらなきゃあんな事にゃなんなかったんだよ!」

 

逆に予想が甘い部分を指摘されればムキになって反論する。

 

「あんな事にゃ、か。さっきの試合は、なあ」

「やめろ、思い出させんな。氷月のブチ切れなんぞ思い出したくねえ」

 

一番の大騒動にクロムが言及しようとすればマグマが顔を顰めてやめさせる。

それらはまるで友人同士のバカな話、日常のような空気ですらあった。

 

「さあ、そろそろ始めようじゃねえか……まさかとは思うが、もう小道具が残ってねえ、なんて言わねえだろうな?」

「はっ、とっておきの奴が残ってっから楽しみにしてろよ。

そっちこそさっきの試合で全精力使い切ったなんて言わねえよな?」

 

そしてその空気が一変する。

和やかであったものが一気にピリピリした緊張感に包まれる。

 

「当たりめえだろ! と、言いたい所だが、ほぼほぼ使い切ったって言えちまうな。

それこそテメエみてえなヒョロガリに勝てるかどうかぐらいによお」

「はっ、上等じゃねえか。テメエの残りの力と俺の最後の秘密兵器どっちが上か決めようじゃねえか!」

「おう、かかってこいや! まだまだテメエなんぞにやられる程弱っちゃいねえぞ!」

 

両者全身に闘志を滾らせ睨み合う。

 

「両者準備はよいか?」

 

それを見てジャスパーは二人に最後の確認を取る。

 

「おう、いつでもいいぜ!」

「おっと、一つ言い忘れてたぜマグマ」

 

マグマはすぐにでも始められると返すがクロムからはちょっと待てと静止が出された。

そして話すことと言えばよくわからない話であった。

 

「ああ? 遺言でもあんのか?」

「いーや、ちげえぜ。桜子の話は覚えてっか?」

「なんだ、薮から棒に」

「あれによると俺とお前の対戦はそっちの場外負けらしいぜ?」

「面白え冗談だなあ、おい。そのパワーの足りねえヒョロガリの体でできるもんならやって見ろよ」

 

正直ジャスパーには何の事かさっぱりであったが二人の間では通じているようだ。

ならば問題ない、話も終わったようだし今度こそ準備ができたと確信して高らかに開始を告げる。

 

「御前試合決勝戦、マグマ対クロム、始め!」

 

今日の、おそらく御前試合という形での最後の試合が始まった。

 

「よっしゃあ、よーく見とけよマグマ! これがテメエへのとっておき、めちゃくちゃヤベー最終兵器だぜ!」

 

先に仕掛けたのはクロム、そうなるのは必然だったろう。

なぜならマグマは剣を後ろに半身で構える脇構えの体勢。

小道具に対する警戒と今の体力では先の先は難しいとの判断による後の先を狙ったものであった。

しかし、それは結果的に悪手であった。

 

「! ぐおおぉぉ!!」

 

何故ならクロムが法被を翻すとそこから強烈な光が溢れ出たからだ。

注目してた周りとしてはたまったものじゃない、目を押さえて『目が〜、目が〜!』と転がり回る者も出る始末だ。

当然動きの全てを見逃すまいと注視していたマグマは特にダメージが大きかった。

思わず剣を取り落としうずくまりながら両手で顔を覆ってしまう程、そしてそれはクロムに対し最大の隙を見せるという事だ。

目が見えないと苦しむマグマの腕に何かが絡みつく感触、これは縄かと気づいた瞬間クロムの大声が聞こえてくる。

 

「こいつで引っ張って湖に落としてやるぜマグマ!」

 

その声が聞こえると共に腕を強く引っ張られ、さっきのクロムの話が頭をよぎる。

場外負けの言葉が頭をよぎり、反射的に逆側へと体全体を使い全力で引っ張り返す。

しかし、それこそがクロムの狙いであった。

引っ張り返した瞬間何の抵抗もなく惹かれる腕の、おそらくはロープであろうもの。

必然マグマの方へとそれは一気に引き寄せられる。

そして、次の瞬間頭部に強い衝撃を受け、マグマの意識は闇へと沈んでいった。

 

 

「おー、クロムの奴上手く決めたじゃねえか」

「マグマも警戒のあまり見てから対応しようとしてたからか思いっきり刺さったね」

「やりすぎじゃないかい? 最後のクロムのアレ、見えたの何人もいないよ」

 

二人揃って同じ遮光板をつけながら呑気に批評するが周囲は割と惨事だ。

因みに遮光板を渡されたコハクとそれを見て警戒していた司、そして司に庇われた南は無事である。

 

「私だけに渡されたのはなぜなんだ、これ」

「目の良さと南さんは司が庇えると思ったのと、単純に数用意してなかったの」

「つかさんへの信頼と思っていいのかしら?」

「どっちがフラッシュに慣れてるかな、っていうのもありますけどね」

 

和やかに会話をする三人、勝負はもうついたのだから当然の態度だろう。

 

「最後のアレは無茶が過ぎないかい? マグマがふらふらだったから倒せたが、そうじゃなかったら耐えられるはずだよ」

「そんときゃ首にかけてキュッと……」

「結果的に今の方がマシだったとはね……」

 

それに気づけたのは誰が一番最初だろうか?

司か? 氷月か? 審判のジャスパーか? いや、きっと一番の大怪我を負う事になったクロムだろう。

全員にとって不幸だったのは、クロムが上手く策が決まったことでへたり込んでいた事、そして、その足がマグマの腕のすぐ近くにあった事だろう。

 

 

「があああぁぁぁぁっ!!!」

 

誰かの雄叫びと共にクロムの視界は宙を舞っていた。

訳もわからず、だが、何度も滑落などを経験していた事から体は自然と動いていた。

体を丸め腕で頭全体を抱えるようにして頭周りを守る。

背中への衝撃、次いで逆側へと振られる体、遠心力で丸めた体が開きそうになるのをグッと堪える。

今度は前からの衝撃、そしてパリンと軽い音が聞こえる、閃光玉のガラスが割れた音だと気づいたのは再度同じ方に叩きつけられた時。

背中側から落とされる時に赤いものが飛ぶのが見える。

誰かの悲鳴が聞こえた。

 

 

「マズイ!」

 

そう叫んだのは司だっただろうか?

マグマが雄叫びと共にクロムを何度も叩きつける姿に誰もが行動できずにいた。

赤い血が宙を舞う光景にルリの悲鳴が上がる。

 

「いやぁぁ! クロムぅ!」

 

即座に飛び出す司と氷月、この二人ならば我を忘れたマグマでもすぐに制圧できる。

 

「止めろマグマ!!」「マグマ止まって!!」

 

千空と桜子の叫びに彼が止まらなければ、であったが。

 

 

面と向かって言うのは自分のキャラではないから言う気はないが、尊敬し、こいつにならば従ってもいい、そう思う奴の声が聞こえた気がした。

深い水底から浮かび上がるような感覚の後、ゆっくりと視界が開けてゆく。

マグマの意識が戻った時目の前には両腕から血を流すクロムの姿があった。

理解が及ばずに思わず後退れば腕にはクロムの足が。

慌てて手放し記憶を探れば薄らと残る振り回す感覚、そして目の前の埃まみれで血を流すクロムの姿。

つまり、自分が無意識のうちにクロムを叩きつけてこの状況を作り上げたという訳か。

かろうじて気を失っていないがすぐには動けないだろう、ならばどうするか?

そんなもの決まっているではないか。

 

「よお、クロム。いい格好だなあ」

「へへっそうでもねえぜ、すぐに動いて、ヤベー秘密兵器使ってやるから見てろって」

 

声をかければ威勢だけはいいセリフが返ってくるが、それがただの強がりであるのはすぐわかる。

ここから逆転可能な物を持っているならとっくに使っているはず、つまりすでに万策尽きた状態だ。

 

「ふん、お前がルリのため、勝負を投げるつもりがねえのはわかってる。それこそ死ぬまで、な」

「おう、わかってんじゃねえか。首だけになってもかじりついてやんぜ」

「だからよおこっからはビジネス、取引って奴だ」

「取引?」

「そうだ、俺はルリにも村長の地位にも興味はねえ、だがな」

 

そこで一旦言葉を区切る、できれば胸ぐら掴んでやりたかったが睨むだけで勘弁してやる事にする。

 

「だが、テメエに指図はされたくねえ。テメエも俺に指図されたくねえだろ?」

 

こっちが何を言いたいのかわからず目を白黒させる姿が妙に笑える。

 

「だから、俺がまいったしてやる代わりに、テメエは村長の座を別の奴に譲れ!」

 

さっきのマグマの暴走が止まった後から誰もが固唾を呑んで二人の動きに注目していた。

そのせいであろうか、マグマのその言葉はその場の全員が耳にすることになった。

 

「な、何言い出してんのよあんた! そんなもの駄目に決まってんでしょうが!」

「おう、ターコイズか。じゃあ聞くがよお、村長を誰かに譲るなって決まりがあったか?」

「……聞いた事はない、な」

「ジャスパー! そういう問題じゃないでしょ!」

 

真っ先に反応したターコイズに言い返せばジャスパーが確かにと頷く。

ジャスパーがターコイズに突っ込まれるが気にせず次に移る。

 

「それになあ、誰が一番村長に相応しいかなんざ全員分かってんだろ?」

 

ゆっくりと周りを見回し、目当ての人物を見つける。

 

「おい、司! テメエは誰が一番すげえ奴だと思ってる!」

「それは、当然千空だろう」

 

突然話を振られて少々戸惑いながらもはっきりと返す。

 

「次に、氷月! テメエは誰に従ってる!」

「そういう意図ですか、答えるまでもないですが千空君ですよ」

 

何を言いたいのか理解できたのか頷きながら答える氷月。

 

「ルリ! 百物語に語られてたのは誰だ!」

「それは、千空さんですが……マグマ、貴方はもしかして」

 

半信半疑なルリに質問させる前に次の問いを今度は全員に向けて出す。

 

「見てた全員! 今、俺を止めたのは誰だ!」

「そりゃ、ねえ」「千空だよなあ」

 

ぽつぽつと上がるその声に満足げに頷くと大きく声を張り上げる。

 

「ここまで挙げたもんを踏まえて、誰が村長に、この石神村のトップに相応しいか言ってみろ!!」

「千空!!」

 

マグマの呼びかけに誰かが答えると、それに釣られるように周りも声をあげ始める。

いつしかそれは場全体に広まって、大きな千空コールになっていった。

 

「どうだクロム、取引に応じる気になったか?」

「一体いつから考えてたんだよこんなもん。ああ、取引に応じるぜ、これ以上ないぐらいの結果が出んだからよ」

 

二人はニカっと笑ってガッチリと握手しあい、そして最後の当事者に顔を向ける。

 

「って訳だがどうする千空? まさか断るってこたあねえよな?」

「全会一致での要請だぜ、意外とお人好しな千空なら断れねえだろ」

 

悪戯が成功した悪ガキのような笑みでこちらを向く二人に呆れる千空。

 

「ったく、俺が村長になったって今までと何も変わんねえぞ」

「それがいいんだよ、今一番いい流れに村が乗ってんだから変わんねえ方がいいんだ」

 

千空は諦めたように大きくため息を吐くと片手をゆっくりと上げて宣言する。

 

「わーった、ならテメエら全員俺についてこい!! 200万年の結晶を、一生拝めなかった光景を、嫌って程見せてやるよ」

 

不敵な笑みでされた宣言に今日一番の歓声が沸いた。

 

「よし、じゃあ決まりだな! おい、審判!」

 

マグマは大きく頷くとジャスパーに対し右の拳を突き出して告げる。

 

「まいった、だ!」

 

それを聞いたジャスパーは少し微笑んでから大声で御前試合の結果を告げた。

 

「優勝は、クロム!!」

 

その日最後の歓声が上がる、その中でハイタッチを交わし合う勝者と敗者の姿があるのだった。

 

 

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