イシからの始まり   作:delin

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宴にて

石神村は今宴の真っ只中にあった。

そこかしこで乾杯の声が響き次々と食べ物や飲み物が運ばれていく。

そんな中少しだけ静かな一角があった。

 

「はい、手当はこれで完了ね。ただお酒は飲まないように、血が固まり辛くなるから」

「ああ、分かった。元々酒って何が美味いのかわかんねえから別に問題ねえや」

 

それは医務室と看板が掲げられた家、そして中では治療の真っ最中であった。

とは言っても民間療法の域を超えられるものではなかったが。

包帯をクロムの腕に巻く前に怪我の状態を再度確認しながらぽつりと桜子はつぶやいた。

 

「閃光玉のガラスが薄くて助かったね、下手に厚くて盛大に斬ってたら今頃縫い合わせる羽目になってたよ」

「縫い合わせるって、人の体は布じゃねえんだぞ……」

「縫合って言って割と昔からあった技法よ? 古くは古代エジプト時代からね、ただここだと絹がないから髪の毛でやる事になるかな」

「よかった、マジで大怪我しなくてよかった。そんなヤベー事される所だったなんて思わなかったぜ」

 

今さっきの消毒の痛みを何倍にもしたものをやられる事を想像してか顔を青くするクロム。

そんな様子を気にする事なく桜子は手早く包帯を巻いてゆく。

 

「けっ、んの程度でびびってんじゃねえよクロム。どーせ歴史とやらにはそれをやった奴が山ほどいんだろ? なら耐えられねえ程じゃないはずだぜ」

 

すでに治療を終えていたマグマがそんなクロムの様子に呆れつつ口をはさむ。

 

「ん? あ、そーか、そんな古くから行われてるのに改良されてないはずねえか」

「麻酔っていって神経を麻痺させる薬を使うんだけどね、本来なら」

「へー麻酔ねえ、どんなモンを使って、今は何があんだ?」

「エーテルとかを使って、今は何もないね」

「結局なしでやる羽目になる所だったって訳か……」

 

ドン引いているクロムに苦笑いの桜子。

そうこうしているうちに包帯が巻き終わった。

 

「はい、これで完了。早くルリさんのところに行ってあげて? 大分心配してたから」

「ああ、大丈夫だってとこ見せてやらなきゃな。んじゃ、行ってくるぜ」

 

そう言って元気に駆け出して行くクロム。

 

「あんだけ元気なら治療の必要なかったんじゃねえか?」

 

その後ろ姿を見ながら呆れと少しの安堵を込めてマグマがつぶやく。

 

「治療を受けたから大丈夫、っていう心の問題もあるだろうから。

この場合もプラシーボ効果っていうのかな? 実際効果あるときにはどういうんだろ?」

 

微妙な感じの笑みでクロムのフォローをする桜子。

 

「知らねえよんなもん。……しっかし、クロムが嫁取り、いや婿入りか? あいつ自身がガキだってのにガキ作って大丈夫なのかね」

「子供ができれば自覚が生まれてくるらしいよ、経験ある訳じゃないかららしいとしか言えないけど。あ、でも逆のパターンは確実だよ」

「逆?」

「子供がいない奴は親の心構えとか持てる訳ないって事、ついでに言うなら大人の自覚も持ちづらいかな。

結婚してないと誰かへの責任が生まれないからね、無責任に遊び惚けちゃいやすいの。この理論は自信あるわよ、なんたって私の前世で実証済みだから」

 

そういって屈託なく笑う桜子、マグマはそれに鼻を鳴らすだけで終わらせる。

そうして少しの間が空いた。

宴はまだまだ続いているのだ、参加しなければ損だろうと桜子が歩き出すと、

 

「今はどうなんだ」

 

ぽつりとマグマがつぶやいた。

 

「へ、今?」

 

話が終わったものだと思っていたので質問の意図が掴みかねたのだろう、オウム返しに聞き返す。

 

「そうだ、今はどうなんだ。大人としての自覚はあんのかよ」

「あるわけないでしょ、私まだ16よ? 石神村だと14で成人扱いだろうけど旧世界だとまだ子供扱いなんだから」

 

両手を広げて肩をすくめながら自嘲気味に言う。

自分に足りないものなどいくらでもあげられるから胸を張って自分は大人だ、などとは言えないのだ。

 

「なら、結婚したら自覚が出んのか?」

「……は? 何言ってんの?」

 

本気で何を言っているのか分からないという顔で聞き返す。

 

「意味が分からないんだけど……、冗談で聞いてるわけではなさそうね」

 

からかわれているのかと思ったが、マグマの顔を見てそのつもりがないと理解する。

 

「結婚なんて考えた事ないわ、それに自覚を出すためにするものじゃないでしょう結婚は」

 

いつになく真剣なその顔に多少は真面目に答える桜子。

 

「そうだな、その通りだ。馬鹿な事聞いたな、忘れろ」

 

桜子の返答に一つ鼻を鳴らしそのまま宴に向かうマグマ。

 

「本当に馬鹿な事だよね、大体相手がいないでしょ私じゃ」

 

重度の幼女趣味じゃなきゃ私に目を向けたりしないし、と軽い調子で桜子は言った。

重くなってしまった雰囲気を変えたかったのだろうそれを聞いたマグマが足を止めた。

 

「……そうとは限らねえだろ、外面だけが惚れる要素じゃねえぞ」

 

少しの怒気を含ませた抑えた声に桜子は失敗を悟る。

仕方ない、他の人にはしゃべる気のなかった、千空にしか気づかれてない事を教えよう。

 

「あのね、マグマ、聞いて欲しいことがあるんだけど……」

 

 

「ごめーん遅くなっちゃった」

「お疲れ様、桜子ちゃん。そんなに待ってないから大丈夫だよ」

「その通りだ、遅いというほどじゃない。それに先に食べ始めていたから問題ないぞ!」

 

桜子を迎えたのは大樹と杠、その前にはたくさんの食べ物が並んでいる。

傷の手当を担当した桜子のために二人が宴会料理を取っておいたのだ。

 

「食べてたって、一口二口ぐらいしか手つけてないでしょ?」

「む、ばれてしまったか。やはり桜子の目は誤魔化せないな!」

「ごめんね桜子ちゃん、待たせたちゃったって思わせたくなかったの」

 

はっはっはと豪快に笑う大樹に両手を合わせて謝る杠。

でも逆に桜子はその気遣ってくれてることが嬉しそうだ。

 

「ううん、気にしなくていい方が嬉しいから食べてくれててありがとう。それに十分な量がありそうだし、謝る必要なんてないよ」

 

杠の隣に座りながら並ぶ料理を一つつまみ口に放り込む。

 

「あ、美味しい。これは誰が?」

「それは確かあるみさんだね、すごいよねあの人あの年ですいすい覚えちゃうんだから」

「あるみおばあちゃんが! 意外な才能発揮してるね」

 

きゃいきゃいと桜子と杠が料理談議に花を咲かせている間、マグマは大樹の横、ちょうど桜子とは反対側に座る。

 

「マグマもお疲れさまだ、試合ではすごかったらしいじゃないか。俺は料理の手伝いに動き回っていたから話を聞いただけだが皆興奮しながら話してくれたぞ」

「まあな、村最強は俺だと示すことはできた。そう思ってはいるぜ」

 

大樹が今日の活躍を聞こうと声をかけるが言葉少なに話を終えてしまうマグマ。

普段と違うそんなマグマの様子に大樹が心配そうに会話を続けようとする。

 

「どうしたマグマ、妙に元気がないが」

「なんでもねえよ」

 

だが、マグマはけんもほろろに会話を打ち切ってしまう。

これはしばらく置いておいた方がよさそうだと思い食べる方に集中する大樹。

少し時間が経った頃、不意にマグマが口を開いた。

 

「……大樹、テメエはあいつとどのぐらいの付き合いだ?」

「む? 桜子とか? そうだな大体十か月ぐらいか、……改めて考えると時間だけ見ると大した時間すごしていないのだな、俺たちは」

 

質問の意図は分からなかったが素直に答える大樹。

答えた後随分と濃密な時間を過ごしてきたことに気づき感慨深げにつぶやく。

 

「千空とあいつはどうだ」

「むむ? うーむ、確か俺を起こすのに2か月ぐらいかかったと言っていたから……一年ぐらいじゃないか?」

 

マグマが何を気にしているのか分からず少し困惑したが、マグマならば決してひどい事をしないだろうとそのまま答える。

 

「そうか、千空の奴とは2か月一緒だったんだな」

「そうだが……。なあ、マグマ、俺はバカだが悩みを聞くぐらいならできるぞ」

「気遣いありがとよ、だが、悩む意味も解決の方法もねえもんだからとっとと忘れるつもりだ」

 

そういったきり黙ってしまうマグマ。

またしばらくの間食べたり杠達とおしゃべりしたりしていた。

すると不意にマグマが立ち上がり歩き出した。

 

「マグマ? どうしたんだ?」

「ここには酒がねえじゃねえか、せっかくの宴だ、浴びるほど飲んでくる」

「そうか、分かった。二日酔いにならないようにな」

 

そういって見送る大樹。

マグマが酒の周りに群がる人の輪の中に入った後杠が桜子に訊ねた。

 

「マグマ君と何かあったの桜子ちゃん、大分気にしてたみたいだけど」

「やっぱりわかる?」

「あまり桜子を見ないようにしていたからな、普段と違うからすぐにわかったぞ。で、何があったんだ?」

「あー、うん、ごめん内緒でお願い」

 

両手を合わせて頭を下げる桜子に二人はため息を一つ。

 

「言えない事があるのは分かるけどあまり心配かけさせないでね? ただでさえ桜子ちゃんは無茶しがちなんだから」

「あまり頼りにならないかもしれないが、頼られないのは寂しいぞ桜子」

「うう、ごめんね。でもこの件はちょっと話せないかな~」

 

これは何を言っても話す気はないなと思った二人はまたため息をつく。

気まずくなった桜子は慌てて話を変えるため別の話を振った。

 

「そうだ、千空はどこに? 村長になったんだからたくさん声かけされてると思うけど」

「ああ、千空か。千空ならあそこだ」

 

そういって大樹が指さしたのは一番カオスな状況を呈している一角。

何なら人が時たま舞い上がっているのが確認できる辺りである。

 

「宴が始まってすぐに男性陣に連れられて行っちゃたの、無事だといいけど……」

 

多分無理だろう、時たま『んなに飲めるか!』だの『殺す気か!』だのと千空の悲鳴が聞こえる。

桜子はそっと見捨てることを決意した。

 

「あれ? クロムとルリさんは?」

 

杠がそっと大樹と同じ方を指さす、そちらからやはり『甕ごとは無理だ!』『溺れ死ぬから手加減しろ!』だとか聞こえてくる。

桜子は見なかったことにした。

 

「あ、ルリさんはあっちね」

 

そちらでは女性陣が集まっており、祝福の声や喜びの声に混ざって『お、お酒は得意じゃ……』『そんなに食べれません……!』などとやはり悲鳴が聞こえる。

桜子はそっと目をそらした。

周りを良く見渡せば両親に泣きながら説教される銀狼やなぜか演武を舞う司と氷月の姿。

先ほど酒を飲みに行ったマグマも早速絡まれ、『注ぎ過ぎだ!』『自分のペースで飲ませろ!』だの怒号を発している。

桜子は少し頭痛を感じ額を押さえた。

 

「つまり、ここだけが凪の状態というわけね」

「ああ、なぜか皆から俺と杠はここにいるように言われてな」

「ちょっと除け者な感じがして少しさみしかったから、桜子ちゃんが来てくれてよかったよ」

 

桜子は察した、これ私もここから移動した方がいいやつだと。

 

「それじゃあ私もルリさんの所に行ってくるね」

「えええ! ここで一緒にお話ししようよ!」

「そうだぞ桜子! 二人だけでは淋しいじゃないか!」

「いいから二人は愛を深めといて、満場一致で関係進展望まれてるんだから」

 

そろって赤面する二人を置いて喧噪の中に飛び込む。

明日からは新しい試練が待ち受けているだろう、だけど一つの区切りを迎えた今だけは大いに騒ごう。

まずはルリさんに一杯注いで、その後は流れでみんなと楽しもう、夜はまだ始まったばかりなのだから。

 

 

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