イシからの始まり   作:delin

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ここまでの成果とこれからの予定

「頭が痛えが、今日からの予定を確認してくぞ、いいな?」

 

うーっす、と死んでるようなうめき声で返事する面々。

ほぼ全員が二日酔いである、昨夜はいささかはしゃぎすぎたようだ。

 

「お昼には貝のスープ出すから頑張って皆、ほら水をしっかり飲むの」

 

数少ない非二日酔いメンバーとして介抱して回る桜子はどうやら上手く飲まされるのを回避したらしい。

千空とクロムが恨めし気な目で見ていてもどこ吹く風だ。

 

「というか、途中から酒が追加で持ち込まれていましたよね? あれはいったいどこから出てきたんです?」

「あれはサガンさんが持ってきてたから……、多分サガンさんとエンおばさんが自分ち用にコッソリ作ってたのを出してくれたんだと思う」

 

こめかみを押さえながら氷月が聞けば水を渡しながら桜子が答える。

大樹と杠はというと水汲みとそれを小分けにする役だ、それを配って回っているのが桜子である。

 

「いやー、ホント死屍累々だねえ。予定確認とか日を改めての方がいいんじゃない?」

「逆だ、今動ける奴がろくにいねえから確認だけで終わんだよ。

つーかゲン、なんでオメーは二日酔いになってねえんだよ? 早々につぶれてたじゃねえか」

「やだなあ、お酒の飲み方ぐらい心得てるさ。一回潰れたように見せればあとは無茶な飲まされ方はされないしね」

「狸寝入りだったってことかよ、ずりーな。俺らなんて次から次へと注がれて死ぬかと思ったんだぜ」

「主役だったからねえ、仕方ないんじゃない? 新村長と新郎なんだからそりゃ中心になっちゃうよ」

 

千空とクロムのツッコミを飄々とかわすゲン。

水を飲んだりなどでようやくある程度全員が落ち着いたころゲンが千空に話を促した。

 

「で、明日からの予定確認だっけ? というか、みんなの仕事の進捗はどうなってんのかな?」

「あー、その共有もしとくか。んじゃまずは農耕の方はどうだ?」

「うっす! 報告させていただきます!」

 

ゴーザンが立ち上がり休めの姿勢で報告を始めた。

 

「小麦に関しては発芽を確認しやした、昔近所の爺さんに聞いた話じゃ梅雨時ごろに成長期がくるらしいっす。

なんで箱根の向こうあたりでやってやすが、日照時間などは調整不能なんで収穫量はどこまでいけるか不明っす。

米の方は土作りが終わって畦塗りを今度始めやす、苗作りもそろそろ始めていいかもっすね。

ただ、やっぱり人数が足りてないんで規模は大きくないっす。以上が農耕チームの報告になります」

 

ゴーザンが報告を終えるとすでに大部分のメンバーが驚きのあまり固まっていた。

 

「え、えっと、随分としっかりとした報告だけど、どうしちゃったのゴーザンちゃん」

 

なんとか再起動を果たしたゲンが驚いてるメンバーを代表して疑問を投げる。

 

「? あ、そういや言ってなかったすね。

俺の実家農家なんすよ、麦はやってなかったんで自信ないっすけど米ならなんとかなるっす。

他の連中も小学校で田植えの授業ぐらいは経験あるんで米の方は期待しといてください」

「そうだったんだ、まあでも割とある事だよね、家業が嫌で別の道に行くなんて」

「そういう事っすね。でも今は家業が農家でよかったって思うっすよ、司さん達の役に立てるんすから」

 

照れ臭そうに、でも誇らしげに胸を張るゴーザン。

そしてふといつぞやの論戦を思い出した司がゴーザンに質問する。

 

「梅雨時ごろに成長期が来るから小麦は日本だとあまり作られなかったのかい?」

「そうっすね、親父の話だと梅雨がない北海道とかが生産量多いって聞いたっす」

「だとするとやっぱり米一本の方がよかったのかな?」

「うーん、それも微妙だと思いますね。経験なしでやるとなると米は失敗する危険性が高いと思うっす。

なんで、素人だけでやるのなら両方か麦だけを栽培するのが正解だと思うっすよ」

 

どこかでマウントの取り合いが行われている気がするが、きっと気のせいだろう。

そう、桜子が千空の頭を揺さぶってるのはきっと気のせいだ、余計な事を聞いてしまった自分のせいではない。

司はそういう事にして次のチームの報告を促す事にした。

 

「農耕チームの進捗はよくわかったよ、次はどのチームが報告する?」

「それなら真空管チームが報告しようかのう、ヒックマンポンプは無事完成したぞい。外側もできとるし回路の接続も問題なくやれそうじゃわい」

 

カセキが立ち上がり胸を張って報告する。

内容としてもほぼ完成したようなもので極めて順調と言える。

 

「スゲエじゃねえかカセキ! でもやれそうってどういう事だ?」

「フィラメントをまだ受け取っとらんから完成はしとらんのよ。

試作品は竹で作ったんじゃけどそれだとすぐに燃え尽きちゃうって話じゃし……、その辺どうなの千空?」

 

カセキは頭痛に悶える千空に話を振るが、すぐには話せそうにない。

苦笑しながら代わりに司が答えた。

 

「フィラメントなら御前試合直前ぐらいに完成したよ、この後渡すからそれで真空管も完成させてくれる。

……残りはコイルとバッテリーチームかな? 桜子、そろそろ千空と戯れるのを終えて報告を頼むよ」

「むう、仕方ないから今日はこのぐらいにしといてあげるよ千空。

報告とは言っても問題なく完成してるよってぐらい、人手多かったし時間もあったからね」

 

司から話を振られると桜子は得意そうに完了していると告げた。

 

「村人全員で頑張ったんであってオメーが得意そうにする理由はねえだろうが……」

「ほう、千空はそんなに頭シェイクが気に入ったんだね……、お望みとあらばしょうがない続けようじゃない」

 

無駄なドヤ顔にイラッときたのか、つい余計な口を叩く千空に追撃をしようと迫る桜子。

日頃の仕返し……という訳でもあるまいが、弱味を見せている方が悪いとばかりに調子に乗っているようだ。

ジリジリと迫る桜子にゆっくり後退る千空、ほおっておけばいつまでも戯れあっていそうである。

 

「桜子ちゃん」

「はい、これ以上はやめておきます!」

 

それを止めたのは杠の一声であった。

その一言だけで桜子がピシッときをつけの姿勢で固まる。

 

「よろしい。だけど桜子ちゃん、今は大切なお話し中でしょ? それを忘れて邪魔になるほどはしゃいじゃうのは感心しません、みんなにごめんなさいしなさい」

「はい、話の邪魔をしてすみませんでした」

 

そしてシームレスにお説教と反省の促しである、更に桜子の態度の素直な事。

見てた全員の心が一つになっても仕方ないだろう。

 

「なんつーか母親みたいだな」

 

クロムがポツリと零した言葉にその場の全員が頷いても仕方ない事なのである。

 

「母親って、私まだ結婚もしてないんだけど……」

「杠は確かにしっかりしているし包容力もある、更に安心感を人に与える雰囲気があるからな、クロムの感想も当然だろう」

「年下とはちょっと思えないぐらい安定感あるのよね杠って……」

「ちょっとコハクちゃん? 南さんまで何を……」

「申し訳ないのですが、皆の意見に否定できる要素がないですね」

 

コハクはまだ兎も角、南にまで言われショックを隠せない所にトドメの氷月である。

そんなに老けてるように見えるだろうかと悩んでいると、

 

「…… 杠ママ?」

 

桜子の必殺の一撃である。

因みに人差し指を咥えながら逆の手で服の裾を掴んでである。

吹き出した者を責める事は誰にもできないだろう。

なんといっても笑い出さなかったのが言った当人と言われた本人以外に一人だけだったからだ。

結果は涙目になった杠が桜子の両頬を引っ張り続ける事になったが、桜子自身は割と満足そうであった。

 

 

「しかし、千空の失言からここまでの被害が出るとは、皆んな笑いすぎと頭痛で動けないようだぞ」

「半分以上はあのもやしのせいだろうが、俺からってのはどういう意味だ」

 

先程のテロにも似た笑いの渦による被害でほとんどの人間がお腹か頭を押さえていた。

千空自身もその例外ではなく顔をしかめながら額を押さえている。

今この場で例外なのは目の前の大樹ぐらいだろう、おかげでこの会話を聞ける奴もいないだろうが。

 

「酒の影響とは大きいんだな、いつもの千空らしくないぞ。桜子の報告の時に余計な事を言ってたじゃないか、あれも普段なら言わないだろう?」

 

思わず舌打ちをしてしまったが、大樹の指摘した通りだった。

ゴーザンの話を聞いた時もそうだし、どうにも感情のコントロールが甘い。

 

「昨夜に何かあったのか?」

 

あった。

短い会話であったがマグマがあいつ自身から聞いたと言っていた。

どうにかできないのかと聞かれ、手の打ちようがないと答えた。

それきり話は終わってしまったが自分で思うより気にしていたのだろうか?

 

「飲まされすぎで死にそうになってただけだ、体調悪いと気分もささくれ立つかんな、それのせいだよ」

 

いずれにせよ誰にも話す気はないので無難に酒のせいにしておいた。

 

「こういう時自分がバカなのが悔しくなるな、友の悩みを聞く事すらできん」

 

だが大樹を誤魔化す事は出来なかったようだ、大きなため息と共にぼやかれてしまった。

 

「昨夜桜子とマグマの様子もおかしかったからな、俺の勝手な想像でしかないが桜子に関わる事なのだろう?

そして、お前が相談どころかそれがある事にすら気づかせたくないのなら……、きっと俺にできる事は何もない。違うか?」

 

今度はこちらがため息をつく番だった。

肝心なところでは本当に鋭い頼りになる友だ、それが逆にこちらを悩ませる事になるとは思ってもみなかった。

これ以上の誤魔化しは無駄でしかない、仕方なしに大樹が気づいてしまった分は話してしまう事にした。

 

「オメーの言う通りだよ、桜子関係で、俺だけが気づいてて、昨夜マグマが桜子から聞いた。

で、俺にもオメーにも、いや、何もねえこのストーンワールドじゃどうしようもない類いの事だ」

 

苦いものが胸から溢れる、どうしようもない、敗北を認めざるを得ない。

今のこの状況では手の出しようがない、だから仕方ない事なのだ、そう言い聞かせる。

 

「そうか……。だが千空、お前は諦める気などないだろう?」

 

だというのにこの体力バカは無条件でこちらを信じてくるのだ。

諦めるなどと考えていたこちらこそバカみたいではないか、ああそうだ、そんなもの手段を模索し尽くしてからでも遅くない。

 

「そうだな、大樹、オメーの言う通りだ。諦めるなんざ俺らしくなかったわ」

「おう、調子が戻ったようで何よりだ。いつも通り俺にできる事があったら言ってくれ、全力でやり遂げてみせるからな!」

 

心強い後押しに支えられ進む勇気が湧いてくる、まずは一歩を踏み出そう。

 

「よーし、オメーら、そろそろ話聞ける状態に戻れ! 明日っからの予定決めてくぞ!」

 

大声で全員に呼びかける、差し当たっては明日以降の予定決めだ。

 

 

千空の一喝で各々話を聞く体勢へと戻っていく。

そこまで長く脱線していた訳ではないが確かに明日以降の予定を話し合っていなかった。

 

「まずは通信機をさっさと仕上げちまおう、フィラメントが有れば回路接続もできそうなんだなカセキ?」

「もっちろん、銅線の膨張でガラスが割れる問題もクリア済みじゃぞい!」

「ならこの後すぐに渡すから真空管をとっとと仕上げちまってくれ。

んで、桜子、御前試合が終わるまで話せないっつてた事、今なら話せるか?」

「うん大丈夫だよ、もう聞いておく?」

「話せんならな」

「じゃ、聞いてね。百物語その14、スピーカーというお喋りが大好きな蜂がいました……」

 

少し不思議な御伽噺が終わると千空は腹を抱えて大きく笑い出した。

 

「百夜の奴やるじゃねえか、初めてのサプライズ成功だ。考えてみりゃ変な話じゃねえか、墓石だけがこっちにあるなんてよ」

 

笑いすぎでなのか目元に溜まった涙を拭きながらカセキを見る。

 

「カセキ、真空管はどんぐらいでできる?」

「ほっほー、ワシを舐めちゃダメよ。フィラメントさえあるなら今日中に仕上げちゃうわい!」

「流石だな、んじゃ動ける奴らでとっとと作っちまうぞ、レコードプレイヤーをな!」

「おおっしゃあ! 科学の物作りに入んだな! この天才科学使いに任せろ!」

 

千空の言葉に一番に反応したのはクロムだ。

さっきまで頭痛に顔を顰めていたのに、物作りと聞いたらどこかに飛んでいってしまったらしい。

 

「力のいる作業なら任せておけ! 頭を使うこと以外は得意だからな!」

「細かな作業も多いんでしょ? そのあたりなら手伝えるから」

 

続いて声を上げたのは大樹と杠だ、二日酔いに悩まされていない貴重なメンバーである。

 

「それじゃ設計図を書いていくのは私だね、今の千空じゃ線がグニャグニャになりそうだもん」

 

減らず口を叩きながらも桜子が参加を表明する。

声を上げ参加を希望した三人をみて千空は満足そうにうなずいた。

 

「おう、んじゃこの四人でレコードプレイヤーを作ってくぞ。

他の連中は……まずは二日酔いを治すとこからだな、で、治ったやつからちょいと木材を用意しといてくれ」

「木材? 何に使うやつ?」

「ピタゴラスイッチ的に時間差で復活液かぶれる装置のためだな、全員石化した時でも自動で復活できるように準備しときてえ」

 

ま、何日間も照射し続けられたら終わりだがな、そう続ける千空の言葉にほぼ全員が納得する。

 

「えーっと、すいやせん、何の話かさっぱり見えねえんですけど……」

 

分からないのはその時おらず話を聞いていないゴーザンのみであった。

 

「ああ、ごめんねゴーザンちゃん、実はね……」

 

ゲンが当時の状況、空の上に人工物らしきものがあった事、そしてそれが毎日夜になると光を発する事、そこからコンタクトを望んでいるのではないかと推理したこと、ただし相手は石化現象の犯人の可能性があることを説明していった。

 

「だから、石化光線ドカーンで全滅しないように時間差で復活できるようにしとこうってわけ、分かった?」

「つ、つまり石化の犯人に上等くれてやるって訳っすね! うおお!! 流石っすよ! 司さんが従ってる理由が分かったっす!!」

「まあ、そうなるのか? んで、そんなわけだから復活液を無駄にしねえためにも、農耕チームにはまだ人手不足を続けさせちまう。負担かけて悪いが納得してくれるか?」

「もちろんっす! 誰も文句言わないはずっす! 俺らも全力で皆さんのために頑張るっす!」

 

多少理解がずれてる気がするが……納得してくれるなら問題はないかと流す千空。

そして頼もしい仲間たちを見渡し、右拳を握りながら力強く言い放った。

 

「そんじゃ百夜の残したもん確認したら、空の上の奴にご挨拶だ。唆るぜ、こいつは!」

 

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