REIとの約束した日から数日、プロジェクトの第一歩の話し合いが始まった。
「さあて、宇宙に飛び出すって目的はできたが現状何もかもが足りてねえ。一歩ずつ進めて行くぞ」
「まずは予定通りで人手確保のため復活液の大盤振る舞いでしょ?
で、その人手を使って船作りして、ソユーズの回収してプラチナゲット……。
ここまでは変える必要ないからそのままで、必要なのはそれの後の予定だよね?」
「ああ、この間までは石化の犯人探し。で、それの結果次第だったが……、REIが上手いこと見つけてくれたからな」
ここ数日はREIとの通信で様々な情報が入っており、予定を大幅に変更する事も考えられた。
だが、
「やれること考えると変えられる予定ってほとんどないんだよね」
「資源確保のための人手確保、そのための食料確保にまた人手確保……、地道な作業の繰り返しだねえ」
「しゃーねえだろ、ドラえもんでもいりゃ秒で解決だが、んな便利なもん存在してねえんだ。
人類の歴史なんて、地道な作業と理不尽な天変地異で吹き飛ぶことの繰り返しだぞ。
それと比べりゃ進む道が分かる分、俺らは恵まれてる方だ」
そう平然と言う千空に肩をすくめる者数名。
確かにそれと比べれば大抵の事は恵まれている、慰めになるかは微妙な所だが。
「WHYマンの、この間の膨大な電波の出どころがまさか月だとはね……」
「REIの事がなくても結局宇宙には行かなきゃいけなかったってわけだ。んじゃプラチナゲット後の予定だ、全員目を通しておいてくれ」
今後の予定が大雑把に書かれている大きな紙を壁に貼りながらそう声をかける。
全員がそれを読み始め……、そのスケールの大きさに少し目眩を覚えた。
「千空、その、なんというか、話が壮大過ぎないかい? うん、ちょっと思考がついていかないんだが……」
「だからしゃーねえっつてんだろ、宇宙に行けたのは当時圧倒的な強国だった二つがチキンレースかました結果だぞ。
それを真似しようってんだ、そりゃこのスケールになるだろうよ。何もねえストーンワールドなんだから余計にな」
その紙には地図も書かれていた、大きく、多少大雑把に“大陸”が描かれそこに矢印と文字が書きこまれている。
「北米大陸にコーンシティ、南米に超合金、欧州に数学都市、インドネシア諸島にゴム、でオーストラリア大陸にアルミニウムね。欧州のは理由があるの? インドでもいいと思うけど」
「北米を最初にするつもりだからな、そっからのコネ狙いだ。アメリカからだとヨーロッパの方が近いだろ、いろんな意味で」
なるほどと頷く桜子だが、このくらいの規模にはなるだろう、と納得できているのは彼女だけだ。
他のメンバーは圧倒されるか理解が及んでいない、世界中に都市を築くという企画が描かれたその『世界地図』を前に呆然としていた。
「だーっ! 二人で納得してねえで俺らにも分かるように説明しろぉ!!
見ろ! コハクとマグマなんざ理解放棄してあっち向いてホイやってんじゃねえか!!」
「反射神経の特訓になって良いのだぞクロム、お前もやるか?」
「やるなら俺とやれ、こいつとだと目が良すぎてボロ負けばっかなんだよ」
「やらねえよ! っつーか、現実逃避してんじゃねえよ!!」
一部訂正、呆然とはしていなかった、勝手なことをし始める者もいた。
貼られた紙を見た瞬間悟ったのだろう、『あ、これは説明されてからじゃないと一つも理解できない奴だ』と。
石神村の住人にとって世界とは、長らく村周辺、大きく見積もっても半径50キロいかない程度のものでしかなかったのだ。
それにいきなり大陸だのなんだの言われても理解できなくて当然である。
「安心しろクロム、テメーにゃガッツリ説明してやる。いや、むしろ理解できるまで叩き込むから覚悟しとけ」
「この二人はどうすんだよ!?」
「遠いとこまで行くって理解で十分だろ、パワーチームの実務担当メンバーなんだからよ」
会議そっちのけで高速であっち向いてホイをする二人を指さしながらクロムが訴えるが、要求レベルが違うと一蹴されてしまう。
「役割が違うってことね。あれ? もしかして俺も理解しなきゃいけないメンバー?」
苦笑しながらフォローするゲンが席割りを見てふと気付く。
それに対しての回答は呆れた顔と声で返ってきた。
「たりめーだろ、今さら何言ってやがんだ」
「ゲンとクロムは頭脳労働チーム、ゲンは交渉担当で最低限の理解はしておいて欲しいし、
クロムは観察力や発想力に期待したいから理解できないっていうのは許されないの、残念ながら」
「ええ~、ドイヒーな予感しかしないんだけど……。分かっとかなきゃダメ?」
「交渉担当が全く理解してねえとか勘弁しろ! 不可能な仕事取ってくる営業とか怖気が走るわ!」
桜子から聞きでもしたのだろうか、まるでプログラマーのような事を言い出す千空。
当の桜子も経験がある訳でも記憶がある訳でもなかろうが……想像だけで十分嫌なものだろう。
「俺は理解したくない訳じゃねえけどよ……、人が必死になってる横で完全放棄してる奴がいると、な」
大変なのが理解できるだけに、知ったこっちゃないという態度の人間が真横にいるのは流石に腹に据えかねるらしい。
なかなかの混乱っぷりに見かねた氷月が二人に注意をする。
「二人とも、無理に理解しようとしなくても構いませんが、しようとしている人の邪魔になることは慎むように」
はーいと氷月の注意に素直に従い前に向き直る二人。
素直に従うのならまあいいかと話し合いを先に進めるよう氷月は促した。
「ところで、パワーチームに求められる理解がざっくりしたもの程度ならこの辺りで席を外しても?」
「ああ、そうだな……、いや、やっぱもうちょいいてくれ。大事な事が一つだけあったわ」
「? 大事な事ですか?」
「ああ、船の船長の話だ」
なるほど、それは重要だ。このストーンワールドで船長をやるとなると要求される能力が大分旧世界とは違う。
航海中であれば指揮権をすべて握ることになる役職だ、誰がやるにしても顔を覚えておかなければならないだろう。
「確かに重要な話ですね、候補となる人物はすでに出ているので?」
「作る予定の船が大型の機帆船なのよね、なんで第一候補が七海龍水。
もし、反対意見多数かつ他の候補でよさげな人がいたらそっちにするかもって感じ」
「反対反対、絶対反対! つかさんと水と油レベルの奴を船長になんてできるわけないでしょ!」
第一候補の名前がでたとたん大反対の声を上げたのは南だ。
まくしたてるように反対の理由、七海龍水の問題点を上げていく。
「七海龍水って男はね、七海財閥のとんでもない道楽息子で子供のころからお小遣いが億単位! そのお金で乗り物模型を集め続けて、それに飽き足らず帆船作らせて乗り回し中学生の頃から世界中を遊びまわる放蕩息子! ついには散財と強欲が過ぎると一族からは鼻つまみ者よ! 性格は女好きの俺様気質! そんな奴を起こしたらつかさんと正面衝突起こして最悪私たち全滅よ!」
一気に言いつのりすぎて息が続かなくなったのか一旦そこで止まった。
が、まだまだ言いたいことはありそうであるため、また始まる前に桜子が別意見を述べる。
「最後以外は全部事実ですけど、それだけじゃないですよね。彼は非常に努力家だって船乗りとしての教育をした人が言ってたらしいですし、彼の作った七海サーキットでしたっけ? あれの建設のためにそれまで稼いだ金の何割だかをつぎ込んで作らせたおかげで、あの辺の経済一気に盛り上がって市から感謝状送られてましたよね? 後、近しい人ほどこういいますよね、『強欲だけど利己的じゃない、強欲だけど』って」
否定できない龍水の良い点を挙げられぐぬぬとなっている南にさらに言いつのる桜子。
「司との相性もそう悪くないんじゃないかなと、彼は人の物を奪いたがるタイプじゃないですから。
むしろ、その人ごと手に入れたがるタイプだし……司自身も結構強欲だしで意外と意気投合しそうな気もするんですよね」
「はああ! つかさんのどこが強欲だってのよ!!」
思いもよらぬ言葉に全力で反発する南。
周りも非常に驚きギョッと桜子を見る。
「え? だって強欲じゃなきゃ世界を変えたいなんて思わないでしょ」
「それは……! 自分のためじゃないでしょ!」
「そうでしょうね、でも個人で完結する利己より規模が圧倒的に大きくなりがちなんですよね、利他的な人って」
「ぬぎぎぎ……」
反論できない悔しさに歯噛みする南。
ちなみに桜子の容赦ない言葉で司に刺さり、氷月にも流れ弾が飛んでいたりする。
おかげでコハクが司を励まし、金狼に気遣われる氷月という光景が周りでは見れた。
「性格面にある程度懸念があんのは分かったから、一番重要な能力面はどうなんだ? 足りてんのか、足りてねえのか、どっちだ」
混沌とし始めた場を抑えるためにも千空が一番重要な点を確認する。
その問いに桜子はさらっと、南は渋々答えた。
「十二分にあると思うよ、帆船の船長経験なんて持ってる人のが珍しいだろうし」
「日本どころか世界中探したって彼以上の能力持ちはいないでしょうね、とても不安だけど能力面は文句なしに頂点だと思うわ」
「なら決まりだ、司との相性が悪いぐらいなら我慢のできる範囲だろ。すべき事をやってる最中に揉めるほどガキじゃねえしな、司は。違うか?」
最後の言葉は司に向けて言ったものだが、司は即頷く。
「どれだけ相性悪い相手であろうとも我慢ぐらいできるさ、まさか旧世界の老人より悪いって事もないだろうしね」
それ以下はちょっと探す方が難しい気がする例えを出しながら苦笑いを浮かべる司。
「なら当面は問題ねえな、起きるようだったらその時に対処してくぞ。場当たり的だがこの際は仕方ねえ、未来全てが見通せる訳じゃねえし、な」
今度は桜子が苦笑する、漫画情報は未来知識に近いものがあるので当然だろう。
「それじゃどっち先にする? 龍水と百人の人手と」
「どっちでも変わんねえだろうが……、意見は聞いておきてえとこだな」
「どっちを納得させるのが大変かってとこじゃない? 龍水ちゃんって有名人でしょ? いればみんなを納得させやすいし、逆もまた然りってね」
ゲンの言葉を皮切りに各々が自分の意見を好き勝手に言い出す。
だが、どちらでも変わらないと千空が言ったからかどちらかに偏る事はなかった。
「大体みんな意見は言ったな? どっちにも偏りがなかったから俺が決める、いいな?」
千空が決めるならば皆異存は無さそうである、それを理解して千空は決めた。
「んじゃ龍水から起こすぞ、一人を説得する方が大勢を納得させるよか楽だろうからな。いる場所の当たりはついてんだな?」
「七海学園かしらね、彼あそこの理事長だったから」
「よし、今から何人かはそっちに向かう。残った奴らは引き続き人手用の連中を集めておいてくれ、いいな?」
「分かった、分け方はどうする?」
「パワーチームは半々で分けた方がいいでしょうからね……、司君はマグマ君、コハク君に、大樹君を連れてそちらへ行ってもらえますか?」
「残る方は人一人運べればいいからだね、うん、それで行こうか」
「後は南さんが行くとして、私はどうする?」
「ゲンが残るなら連れてくか。ゲン、地味ーなコツコツとした作業と交渉役どっちがいい?」
「あのドイヒーな量のアレ? それよりかは交渉人やるかなあ」
「んじゃあ行くメンバーはすぐに出るぞ、時は金なりだ」
リーダーである千空が決めればその方針に従い一気に全員が動き出す。
それはさながら一つの生き物のようであった、今までの皆の歩みによる信頼関係の賜物であった。
龍水はこの輪にどのような変化をもたらすのだろうか?
良い変化であればいい、そう願う桜子であった。
「そういえば花田さんは?」
「ニッキーは夢のために村の子供達と一緒です」
本当に良い変化であればいいのだが。