イシからの始まり   作:delin

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強欲≒自信

七海学園跡地へと向かう船上で南はいまだ納得いかない様子でむくれていた。

 

「南、まだ納得いってないのか?」

「いくわけないじゃない、龍水はつかさんにとって一番嫌いなタイプよ。

そりゃ帆船の船長経験なんて持ってる人珍しいだろうけど、わざわざあいつを船長にしなくてもいいのに。

はあ、つかさんのストレスが酷くならなければいいんだけど」

「本当に司の事が好きなのだな、南は」

 

憂鬱そうなため息を零しつつ愚痴る南。

そんな南の姿にコハクは少し笑いながら言った。

それに対し南はむしろ誇らしげに返す。

 

「当然よ、つかさんは私にとってヒーローなんだから」

「ヒーローか、なるほどな。……そういえば南が司を好きな理由を聞いた事はなかったな」

「詳しく話した事はそういえばないわね、折角だから聞いてくれる?」

「是非とも」

 

全身で聞きたいと示すコハクに少し吹き出しながら南は話し始めた。

 

 

つかさんと初めて会ったのはまだデビューから少ししか経ってない頃だったのよね。

デビュー戦から負けなし、期待の大型新人って売り文句でインタビューしたのが最初だったわね。

インタビューは愛想良くこなしてくれたのよ、彼顔いいじゃない?

気になって試合見たらこれが圧倒的に強くって、もう完全にファンになっちゃった。

それに彼ね、試合中も勝った後もにこりともしないのよね。

なんてストイックなんだろうと当時は思ってたんだけど、復活した後事情を聞いてびっくりだったわ。

今は楽しそうに試合や稽古してるって? そこよね、復活直後とかもう混乱したわ。

どことなく背負ってた陰がそれこそ影も形もないんだもの。

原因となる石化から復活した後の話、気になってしょうがないわよね。

もちろん私も気になって聞き出したわ、大樹君からも、杠ちゃんからもね。

いい度胸だと思ったわ、死ぬのが怖くないって普通じゃないわよ。

だからかしらね、私があの子に対して当たりが強いの。

つかさんを変えた原因だから嫉妬してるのよ、きっと。

まあ、あの子の言い方がきついというのもあるんでしょけど。

 

 

長いとも短いとも言いがたい話であったが、納得できる事が一つあった。

 

「南、君は好きになったきっかけが、演じていた司の姿だから引け目を感じているんだな?」

 

思いもよらぬ事を言われたとばかりに振り向く南。

びっくりした顔が可笑しくて少し笑う。

 

「いつも思っていたのだ、南は何か一歩線を引いてしまっているとな。

だが、今の話で分かった、南は少々考えすぎているだけだったのだな」

「考えすぎって……、だって当然じゃない? 私が好きになったのは本当の姿だったのかとかさ。

幻を愛した~、なんて思うわけじゃないけどやっぱり考えちゃうわよ、あれだけ生き生きとした顔を見ると、ね」

 

眩しいものを見るように目を細めため息交じりにそう語る南。

 

「それが考えすぎだというのだ。ベリーが言っていたぞ、恋愛なんて胸を張ってこう言い切るのが大切だと。『私が一番この人を幸せにできるんだ』とな」

「……すごい自信ね、さすが村の若手唯一の既婚者。あ、今は唯一じゃないか」

 

一歩間違えれば傲慢とともとれるような言葉に感心とも呆れとも言いがたい感想をこぼす南。

だが、コハクは同意しつつもそれを否定した。

 

「そう思うだろう? 私もそう言ったんだが苦笑しながらこう返された、『そう思い込まないと動けないからよ』と。

結局皆怖いのだ、相手がどう思うか、自分が正しいのか、その先に幸せはあるのか、あれこれ考えてしまうから。

だから、自分に言い聞かせるのだ、必ず幸せにできる、なれる、と」

 

まあ、全て村の奥様方の受け売りなのだがな、と最後に恥ずかしげに付け加える。

ほんのりと顔を赤らめるコハクにまた眩しげに目を細める南。

 

「恋のライバルが貴女でよかったのかしら? 強敵っていう意味じゃ悪かったんだろうけど、つかさんの幸せを考えればよかったって言えるわね」

 

そう独り言のように呟くと気合いを入れ直して言い切る。

 

「よし、決めた! 私が一番つかさんを幸せにできる! そう信じる! コハク、貴女にだって負けないからね!」

「うむ、その意気だ、ライバルはそうでなくてはな。私だとて負ける気はないがな、意気消沈されていては競い甲斐がない」

「男前ねえ、そうやって豪快すぎるからゴリラだなんだって揶揄われるんじゃない?」

「むう、しかし、しおらしくするのも違う気がするしなあ……」

「ふふっ、冗談よ。揶揄う方が悪いんだから、貴女は貴女らしくいればいいと思うわ」

「そうか? まあ、そうだな、揶揄う方が悪いな、うむ」

「あ、そうだ、私だってつかさんを好きな理由教えたんだからそっちも教えてよ」

「む? 私が司を好きな理由か? 話そうとすると難しいな……、最初にあった時はなぜだか迷子みたいに思えてなあ、聞いた話と違う印象だったな。そのあと……」

 

つらつらと出会いから気になっていく過程を一つ一つ話すコハクに南も興味津々に聞き入る。

時には相槌を入れ、また時には疑問を挟み話にのめり込む。

二人の話は学園跡地に着くまで続くのだった。

 

「あの二人、こっちが風下にいるって事忘れてない?」

 

そしてその話は少し後ろを行く司達の乗った舟にも届いていたりする。

おかげで司は羞恥心を抑え込むので精一杯で舟を漕ぐ事ができなかった。

 

「その、司、大丈夫か? 耳まで真っ赤だが」

「うん、ちょっと、大丈夫じゃない、かな。すまないが舟を頼むよ大樹」

 

幸いにも大樹が同乗していたため問題はないが……、

 

「大樹、帰りはマグマと乗る舟代わってやってくれ。あいつ修行僧みてえな顔になってんぞ」

「止めたりしないのが意外だよね、マグマちゃん。もっとひどい事になるってわかってるからかな?」

「じゃねえか? 早く目的地までつけばいいんだがな」

 

学園跡地についた後一心不乱に石像を掘り起こす二名の姿が見られたそうな。

 

 

石像を掘り起こし続けることしばし、すでに数十体、いや数十名の石像を掘り起こしていた。

なかなか見つからなかったため発見した時にはすでに太陽は大分中天に近づいていた。

 

「顔分かるの南ちゃんだけだから来てもらったけどさ、必要なかったんじゃない、これ」

 

そうぼやくゲンの目の前には探し人の七海龍水その人が石化した状態で立っている。

ただし、ほとんどの石像とは違い右腕を高々と上げ、お立ち台にでも立っているかのように両足を開いてである。

もしこの場に30代後半以上の復活者がいたらこういったかもしれない、『Gガンのガンダム出す時のアレっぽい』と。

有体に言って大変目立つ、性格などの話を聞いていれば一発で分かるレベルで。

 

「顔見知りがいた方が話が早くなんだろ、多分。とっとと起こすぞ」

 

言うが早いか早速復活液を掛ける千空。

待つ事しばし、復活液が浸透していき指の先まで届いた途端、高らかに指を弾く音が響き渡る。

 

「はっはー! 戻ったぜついに!! 世界は再び、俺の物だ!!!」

 

濃い。その場の一同の共通した感想がそれであろう。

同時に司と合わないという南の意見もなるほどと頷ける。

その場の面々が衝撃に固まっている間に龍水は周囲を見回し千空達に気づいた。

 

「もしや貴様らが俺の事を助けたのか? なら礼はするぜ、無粋だがな!

執事のフランソワから小切手を貰い百億でも二百億でも好きな額を書くといい、フランソワ!!」

 

言葉の最後に自分の最も信頼する執事の名を呼びフィンガースナップで指示をするが反応がない。

こんな事は今まで一度もなかった、声が届く範囲にいないときを除き自分の指示に奴が即座に行動しないなんてありえない。

そして自分が行動不能に陥り、それが回復する場に居合わせないなど天地がひっくり返っても起こりえない。

つまり、無類の異常事態。

 

「……フゥン、どうやら、そういう次元の話でもなさそうだ」

 

目の前の者達の性別、年齢、服装などを素早く観察、得た情報をまとめて、カンを閃かせ答えを出す。

 

「当たるぜ、船乗りのカンは? 文明は滅び七海財閥も俺も資産のすべてを失った、違うか?」

「ピンポンピンポン大正解~、ってカンで当てるってバイヤーだね。俺が起きた時なんてわけわからなかったんだけど」

 

答え合わせに是が返ってくると龍水は目を見開き拳を握りながら力強く叫んだ。

 

「はっはー!! 最っ高のチャンスだ! 貴様ら、よくぞ起こしてくれた! 世界中の所有権が消えたのなら、今から全てが手に入る……!!」

 

強欲という評価が合いすぎるほどに合う宣言であった。

 

「とりあえず服をどーぞ、露出の趣味はないでしょ、龍水ちゃん」

「ああ、助かるぜ。美女の前で許可なく全裸など無粋だからな」

 

龍水は服を着ながら今度はじっくりと千空達を観察する。

知っている顔が3人と知らぬ顔の4人、この中で一番有名なのは司であろうが……、

 

「フゥン、そこの白い髪のお前が中心だ、違うか?」

「おおっ、すごいな! なぜわかったんだ!?」

「んなもん簡単じゃねえか、司の目の動きを見てたんだろ」

 

なんでもない事のように言っているが普通はできない。

なるほど、上に立つだけの器量はあるようだ。

 

「ふふん、その通りだ。で、その中心人物に質問だ、俺を起こした目的を聞こう」

「これから世界中を回るんだけど、その船長候補を起こしたんだよね〜」

 

簡潔に質問し、千空が答える前にゲンが前に出て答える。

 

「世界中ときたか……、船は?」

「設計図はあるけど、まだまだ未完成、やっぱりこういうのって専門家の意見がないとねえ~。

あ、作る方は分かんなかったりする? 造船の知識なんて普通はリームーだもんねえ、しょーがない、しょーがない」

「はっはー! 安い挑発だな、浅霧幻! だが、いいだろう。その挑発乗ってやろうじゃないか。設計図とやらを見せてみろ、俺がより良いものに改良してやろうじゃないか」

「今は拠点に置いてあるんだよね~、なんで拠点までごあんなーい」

 

話がまとまった事を理解して帰り支度を始める一堂。

ふと龍水の目にある石像が止まった。

 

「そう言えばまだ名前も聞いていなかったな中心人物、貴様の名は何という?」

「千空、石神千空だ」

「そうか千空、俺を起こしたように他の奴も起こせるのだろう? 一人追加して構わんな?」

 

当然のように要求する龍水に待ったをかけたのはゲンだ。

 

「おおっと、復活液はない訳じゃないけどおいそれと使えるもんじゃないんだよね〜。使って欲しい人がいるならそれなりのものがないとねえ」

「フゥン、それなりのものか。フランソワが動けるようになればその程度百倍にして返せるぞ。

なんでも好きなものを言うがいい、どんなものでも用意するぞ。奴から無理という言葉は聞いた事がないからな」

「なんでもか~、なんでもなんて言われると迷っちゃうよねえ。千空ちゃんならなんにする?」

 

ゲンの要求に太っ腹な発言、に見えて実際にはフランソワの優秀さのアピールで返す龍水。

龍水の言葉にゲンは額面通り受け取って大きな要望でも通そうかという裏の意味を込めて千空に話を振った。

 

「まどろっこしい、設計図のアドバイス料でいいだろんなもん。大分日が昇ってきてんだ、早く村に戻らねえと昼飯食いっぱぐれるぞ」

「ええええ! そんなもったいない~!」

「なるほど、フランソワに払わせるのではなく俺に払えというわけか。確かに今要求したのは俺だからな、俺が払うのが筋だろう。アドバイスの方は期待しておけ? 対価を貰う以上最高の船にしてやろうじゃないか」

 

そしてあっさり決める千空。

それに落胆の声を上げるゲンと納得しフランソワへのボーナスのようなものだなとつぶやく龍水。

……この場の誰も気づかなかったが、この流れは割と二人にとっては予定通りだったりする。

桜子から聞いていたのだ、造船はかなり苦戦するだろうという予想を。

漫画ではだいぶ経ってから調整の限界に達し、一時は大型船をあきらめる寸前までいったのだ。

それを桜子は千空とゲンに相談し、なるべく早い段階で船作りに本気の龍水を引き込む計画を立ててもらったのだ。

計画の大半をゲンが立てたのは言うまでもないだろう。

 

「それじゃ龍水ちゃん、これが復活液と服ね。はい、受け取って~」

 

渡された服を見て龍水はしてやられたことに気づく。

 

「ゲン、貴様、最初っから計画していたな」

「なんのこと? その服はたまたまよ、たまたま。たくさん種類持ってるだけよ?」

 

手品のように、というかそのもので服を取り出して見せてとぼけるゲン。

その態度に龍水は逆に確信した、こいつは俺の行動を読んで誘導したのだと。

 

「俺をペテンにかけるとは、やるじゃないかメンタリスト。むしろ欲しくなったぜ、貴様の能力がな」

 

それに機嫌をよくするのが七海龍水という男だ。

服と復活液を受け取り石像、フランソワの前に颯爽と歩いていくのだった。

 

 

フランソワが石化から解除されて最初にしたのは差し出された服を着る事。

次いで跪き、目の前の自らの主人に礼と謝罪を述べることだった。

 

「服を含めいろいろと心より御礼申し上げます龍水様。そして申し訳ございません、執事として主より後に目覚める失態を犯しました事、心より謝罪いたします」

「気にする必要などない、よく働いてくれる下に報いるのは上の当然の義務だ。

そんなことより最高のチャンスだぞ! 世界中の所有権が消えたのだ、今なら全てを俺のものにできる! 謝罪などよりそれに向かって尽力するぞ、ついてこい!」

「はい、承知いたしました龍水様。差し当たってどちらに向かわれますか?」

「復活者たちの拠点である石神村だそうだ。まずは道中で現在がどうなっているのかを聞く、お前も後ろで聞いておけ」

「はい、承知いたしました龍水様。質問事項のリストアップも同時に行っておきます」

「では行くぞ! まずは知ることからだ!」

 

石神村に頼もしい仲間、龍水とフランソワが加わった!

 

 

 

 

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