イシからの始まり   作:delin

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昼食と船長報酬の話

「おかえりなさい、結構かかったみたいだね。もうお昼の準備出来てるよ」

 

拠点に帰ると桜子と杠が昼食の準備を整えて待っていた。

その準備をみて司とマグマがゲン達の行動が予定通りであった事に気づく。

用意されている膳の数は11、起こす人数が一人だけなら余る計算である。

 

「おい、千空、時間かかったのも計画通りか?」

「そっちは計画外だな、そっちだけは」

 

無駄に疲れさせたんじゃねえだろうな? という意味を含めた問いかけに肩をすくめて否定する千空。

ならばいいと鼻を鳴らしさっさと席に座るマグマ。

 

「まだゲストが座ってないのに、もー。あ、お二人はこちらでどうぞ」

「はっはー、気にする事はない。なかなかの豪華さだからな、気が急くのも当然だろう!」

 

龍水の言う通りお膳の内容は普段の村の物とはだいぶ違っている。

綺麗に並べられた刺身、つみれの入った麺の椀、そしてメインとなるハンバーグとその付け合わせ。

その他にもいくつかの野菜類などが膳を色取り取りに飾っている。

 

「他の皆にも同じ物を出しましたけど、評判よかったのでお二人にお出しできる味にはなっていると思います」

 

桜子がにっこりと自信ありげな笑顔でそういった。

全員が着席し、めいめいに好きな物から口をつけていく。

 

「刺身は杠が作ってくれたのか? 流石だな、とても綺麗だぞ。切り方も並べ方もすごいぞ、うむ流石杠だ!」

「流石って二回も言ってんぞ、デカブツ。ハンバーグは猪の肉か? これは……熊肉かよ」

「この間氷月が銀狼に仕留めさせたでしょ? それが熟成してたんだけど、固かったからハンバーグにしたの」

 

他の家の分は猪でやってたんだけどここの皆の分が足らなくてね、と小声でつけたす。

フランソワはそんな様子を微笑ましく思いながら見た後椀に手を付け始める。

見た時からそれが違う物だとは気づいていた、ならばどういう工夫がされているのか?

確認するために一本だけ箸でとりすする。

 

「こちらの料理は桜子様が?」

「あ、はい、調理は杠や他の皆にも手伝ってもらいましたけどアイディアは私が」

「面白いアイディアですね、ナマズのすり身を麺にして中心にするめを仕込んでおくとは」

「大本は私のじゃないんですけどね、麺料理を皆に食べてもらうならこれしかないかなーって思って」

 

二人の会話を聞いて皆驚き、一気に大騒ぎになった。

 

「これ小麦じゃねえのか!?」

「うどんっぽくないから蕎麦かなって思ってたけど、すり身で麺なんて作れるんだ」

 

千空が予想と違っていた事に驚き、南が作り方に感心したかと思えば、

 

「ナマズか、そう言えば数日前集中的に捕ってたね」

「数日前? 捕ってすぐじゃないのか?」

「泥吐きが必要だからね、ちなみに朝食終わってすぐから用意開始してたの。私は話し合い終わってからだけどね」

 

司がいつ捕っていたか思い出し、大樹がそれに疑問を持って、桜子が疑問に答える。

 

「ん? という事は地味ーなコツコツした作業とは、これを作る事か?」

「みんなに教える時にゲン君もいたの何でだろうと思ったけど、どっちか選んでもらうためだったんだね」

「そういう事、料理と交渉どっちって言われたらねえ、そりゃ交渉選ぶよ。俺料理人じゃなくてメンタリストだもん」

 

コハクが今朝のやりとりの答えを見つけたり、杠の数日前の疑問が解けたりして、ゲンがそれらに是を返す。

 

「美味けりゃ材料なんぞなんだっていいだろ、早く食わねえと味が落ちるんじゃねえのか?」

 

それらの大騒ぎに少々顔を顰めながらマグマがそう言えば、

 

「はっはー! 意外といい事を言うじゃないかマグマよ! まずはこのもてなしを楽しもうじゃないかフランソワ。聞いてみたい事はその後にでも遅くはあるまい」

「はい、龍水様。食事の邪魔になってしまった事、皆様にお詫び申し上げます」

 

龍水が同意し、起点となってしまったフランソワにまずは食事を終えようと伝え、フランソワが詫び、

 

「気にすることでもねえだろ、勝手に騒いだだけなんだからよ。それに、ワイワイ言いながら食うのも悪くないもんだろ」

 

最後に千空が謝罪など不要として、この雰囲気を楽しもうと言う。

そんなちょっと騒がしい事になりつつも、その日の昼食は良い雰囲気で終わるのであった。

 

 

楽しい昼食が終わり、龍水との交渉において重要なポイントである設計図チェックが始まろうとしていた。

……そう、まだ始まっていないのだ。

昼食の片付けも終わり、食後のお茶をゆっくりと飲み終えているにもかかわらず、だ。

出された設計図は一通り目を通した後テーブルの片隅に置きっぱなしである。

さっきからずっとこの村に来てからの約一年で何を作った、何をしていたかなどを中心とした雑談に興じている。

 

「ほう、では最終的な目標は宇宙というわけか! 3700年もの間稼働し続けたAIロボットとはな! ぜひとも欲しいぞ!」

「話した感じ知性が十分あっからな、人権を認めるべきライン超えてんじゃねえか?

欲しいつっても、所有権をどうするかはかなり繊細な議論が必要だろ、ありゃ」

「はっはー! それはますます素晴らしいじゃないか、所有物などではなく部下として扱えるという事だろう? 上からの指示なしで的確に動く部下は同じ重さの黄金よりも貴重だぞ!」

 

上機嫌で作られたそれが欲しい、作り上げた本人が欲しいと反応が『欲しい』でまとめられる言動を繰り返す。

そんな龍水に不満でも覚えたのかマグマが小声で隣のゲンに問いかける。

 

「おい、アイツを引き込んで大丈夫なんだろうな?」

「何がだい? マグマちゃん」

「とぼけんな、あんだけ欲しい欲しい連呼するやつが誰かさんと衝突しねえはずがねえだろ。その辺りどうすんだって聞いてんだよ」

「まあ、ねえ、司ちゃんとの相性最悪ってのもうなずけるよねえ、あれじゃ。

でも、最悪の事態、司ちゃんとの正面衝突にはならないんじゃないかな? 多分だけど」

 

楽観的な言動に目つきがキツくなる。

 

「根拠のある話だろうなあ、そいつは」

「おお、怖い怖い、あんますごまないでよマグマちゃん。桜子ちゃんも言ってたでしょ? 他人の物を欲しがるタイプじゃないって。二人の雑談聞いてる限りだと間違いないと思うよ、あの評価は」

 

ゲンの言葉にいまいち納得がいかないのか、ふんと鼻を鳴らすマグマ。

とはいえこれ以上問いただす気もないようで今度は別の事を口にする。

 

「あいつらいつまでくっちゃべってんだ、船の設計図とか報酬の話をすんじゃなかったのかよ?」

「ああ、あれ? あれは多分ねえ……」

「ただいま戻りました龍水様、千空様。お待たせしてしまい申し訳ございません」

「ただいまー。ごめんね、料理で聞きたい所がある村の人たちがたくさんいてさあ、こんなに遅くなっちゃった」

 

ゲンがマグマの質問に答えようとしたその時、入り口が開きフランソワと桜子が戻ってきた。

桜子が言うようにかなりの時間がかかっており、もうすでに空は赤くなり始めていた。

実際村人達の夕飯の支度があるから解放されたようなものであり、明日以降もフランソワへの質問攻めは続くだろう。

そのフランソワは龍水の側に行きなにやら耳打ちをしている。

それを横目に見ながら桜子が千空の後ろへと回ろうとすると当の千空から待ったがかかった。

 

「おい、オメーはこっちだ」

「へ? そこはゲンの席じゃないの?」

 

指差されたのは千空の隣の椅子。

わざわざ二人が並べる大きさのテーブルを使っているのは、交渉役のゲンとトップである千空が並ぶためだと思っていた桜子は少し驚いた。

 

「なに、設計図を作れたのは千空の他に貴様の知識があってこそというではないか。功労者を差し置いて話し合いなどできんだろう? ましてやそれが美女であったのならばな」

 

放っておくなど罪であるとさえ言えよう、最後にそう付け加える龍水に反応はさまざまだった。

千空はウンザリとした表情を隠そうともせず、ゲンは肩をすくめて呆れ気味。

当の本人はほぼ無反応で、マグマだけがスッと目を細め分かる人にしか分からないぐらいに薄く剣呑な雰囲気を纏った。

分からない人筆頭の桜子は椅子に座りながら龍水を軽く嗜める。

 

「イタリア人でもあるまいし、息をするかのように歯の浮くセリフを吐くのは言葉を軽くしますよ」

「フゥン、手厳しいな。そういう相手を口説き落とす楽しみというものもあるが……、今はおいておくとしよう」

 

嗜められてもどこ吹く風といった感じの龍水。

とりあえず桜子が千空の横に座り、ゲンがテーブルの別の辺、千空と龍水の間に入れる場所に座る。

そして設計図についての話と、船長を引き受けるかの話し合いが始まった。

 

「まず設計図の話からいこうか、よくできていると言える物だ、これは。机上で考えられた物としては、だが」

「だろうな、俺らは船に乗った事すらねえど素人もど素人だ。本職の目からすりゃあ穴だらけだろうさ、そいつは」

「わかっているようでなによりだ、とはいえそこまで卑下するものでもない。俺が少しアドバイスをするだけで十分実用に耐える物ができるさ」

「おおっ! 高評価だねえ、ってことはどうかな? 船長候補って言葉からは……」

「ああ、候補という言葉を外してもらおう。この船ならば世界中を周るのに不足はないだろうさ」

「いや〜、よかったよかった。じゃ話はこれで終わりでいいかな?」

「ふふん、冗談が上手いな浅霧幻。重大な責任を負わせるんだ、当然報酬についても弾んでもらうぞ」

 

不敵な笑みを浮かべて見せる龍水にそらきたと身構える。

船の燃料はガソリンで賄う予定と書いておいたので予想では漫画と同じ……

 

「宇宙進出を果たした後、お前達には俺が率いる新七海財閥に入ってもらう。無論成功報酬で構わんし、無理強いはする気はない。どうだ?」

 

かなり違った、物ではなく者を要求、しかも目的を達成した後で、しかも選択権はこちらにあり。

この条件は破格も破格と言えよう、なんなら無報酬と言っても過言ではないかもしれない。なぜなら……

 

「アホかテメエ、んなもん終わった時に断っちまえば終わりじゃねえか」

 

思わずと言った感でマグマが口に出した通りである。

しかしこの場合には懸念する必要がない、少なくとも龍水はそう確信している。

 

「フゥン、そう思うか? 此奴らがグレーゾーンだからと信義に悖ることをする奴だと、本当に思うか?」

「グレーゾーンだからってルールの穴を掻い潜った事はあるけどねえ」

「その程度フランソワが調査済みだ、やらねばこの村の巫女が死ぬ事になっていたからだろう? つまり自らの良心に逆らえる人間ではない、少なくとも自分のためにはな!」

 

混ぜっ返そうとするゲンの言葉にも冷静に対応する。

数時間ほどの村人達からの話だけでそこまでやれるとは……

 

「無理と言った事がないってのは吹かしでもなんでもないって訳だ。別にその条件でもいいっちゃいいが、司辺りが断らない保証はできねえぜ?」

「問題ない、もちろん財閥に入ってくれるならば喜ばしいことだが、断られても仕方ないと諦められる。ああ、当然財閥の魅力を伝える努力は最大限した上での事だぞ。それで断られたのならば俺の魅力が足らなかっただけの事、文句を言うべき話ではない」

「うーん、司が入らないと求心力が大分下がると思うけど、いいの? 貴方自身でそれを補うのは可能だろうけど」

「その通りだな、だが、俺はこれが通るならばほぼ全員を財閥に入れられると確信している」

 

そこで一旦言葉を切り、スッと千空を、そして桜子を指差す。

 

「貴様ら二人が従うならば、中核メンバーはまず間違いなくついてくるからだ」

 

龍水のその絶対的な自信に満ちた言葉に男3人は無言を保つ。

一方桜子は首を捻っていた。

 

「千空なら分かるけど、……なんで私? 調査が偏ってない?」

「詳しく申し上げるのは控えさせていただきますが、間違いないと私も龍水様も判断しております」

「はあ、そうですか」

 

なんとも気の抜けた返事を返してから千空の方へ向き直し、提案をする。

 

「ねえ、千空」

「「「却下」」」

 

訂正、提案しようとした。

 

「まだ何も言ってないよ……」

「どうせオメーだけで満足してもらおうとかそういう話だろうが、ソッコー却下だこのボケ女」

「テメエはもうちょい大人しくしてられねえのか、お騒がせ娘! しまいにゃ首に縄引っ付けんぞ!」

「え〜とね桜子ちゃん、龍水ちゃんの狙いは世界中にできる都市へのふっか〜い影響力なのよ。君が行っちゃったらほっとけない人が大量についてっちゃうの、もうちょっとでいいから自分の影響力を認識して?」

 

見事なまでにフルボッコである。

そして、そこまでされてもまだ納得してないのか不思議そうに訊ねる。

 

「でも私だよ? そんなに気にする人多い?」

「「「いいから、もう黙ってろ(て)!」」」

「はい……」

 

これは今すぐに矯正は無理だと判断した3人から同時に黙るよう言われ、涙目になりながら頷く桜子。

それを龍水は愉快そうに眺めながら提案した。

 

「どうやらこの報酬案はお気に召さないようだな、ならば別の案もあるが、どうする?」

「是非とも聞きてえな、今度はこいつがアホなことを言わないやつで頼む」

「はっはー! その辺りは彼女次第だからな、保証は出来かねるぞ。別案としては次に見つけた油田とこの設計図の船の所有権だ」

 

相当ぼったくりな要求であるが先の要求よりいくらかましに思える。

そう思えるぐらいに先の要求は大きかったのだ、分かる千空にとっては特に。

端的に言ってしまえば先の報酬案を飲んだ場合、将来的に国より大きい財閥の誕生を認めることになるのだ。

当然の話だろう、これから作り上げる都市は自分達の影響を強く受ける、その自分たちのほぼ全員が所属する財閥が存在していたら? 結果など火を見るよりも明らかだ。

ゲンは経済に詳しくなく、桜子は自身の影響力を理解していないから両者には分からなかったのだろう。

正直そのまま鵜呑みにしたい気分であったが、確認すべきところは確認しなければならない。

 

「それ、俺らが使う場合はどうすんだ? お願いしますって言えば使わせてくれんのか」

「決まっているではないか、買うんだよ。石油は金で、乗船権は労働でな」

「つまり、船員以外は乗船を認めない、ってことでいいのかな?」

「後は明らかに手を抜く輩も強制的に下船させる。お客様になりたい奴は俺の船には必要ないという事だ」

 

厳しいように見えるかもしれないが、船長としてはむしろ当たり前のことを言っている。

船に乗っている間は全員一蓮托生だ、一人がさぼればその分誰かにしわ寄せがくる。

そのしわ寄せはいつかひびに、ひびは亀裂に、亀裂は破滅につながる。

そう考えればこの程度の要求はのまねばいけない類の物であろう。

石油を買わねばいけないというのは少々つらいが……。

 

「分かった、それで手をうつ。発見した油田と完成した船はテメエのもんだ」

「はっはー! 契約成立だな! これからよろしく頼むぞ!」

 

最後にガッチリと二人で握手を交わし契約成立となった。

 

「……私、今回邪魔にしかなってなくない?」

「桜子ちゃんは設計図の方で頑張ればいいから……」

 

桜子の涙目状態はしばらく続いたのであった。




仕事でちょっと体が疲れ気味のこの頃。
次回木曜日もしかしたら更新できないかもです。
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