100人の復活とその人達への演説も無事終わり、これから一気に船作り開始……とはいかなかった。
船作りだけでも拡大した際の微妙な差異や、エンジン作りのための鉄の確保、帆に使う布の作成などがあるし、100人分の住居の割り当てや食料の確保、戸籍の制作などなどやるべき事が山積していた。
「なんでまずはレーダー作りからだな、そんじゃあ最初に……材料の説明から入るぞ!」
なぜか後半某青狸を思い出させる高音で喋り出す千空。
それを聞くクロムとカセキは小声で大丈夫なのかと言い合う。
「千空の奴妙にテンション高えな、物作りが楽しいのは分かるけど高すぎじゃね?」
「ほら、あれじゃよ起こした百人の前で演説する羽目になっとったじゃろ? ストレス溜まったんじゃないのかのう」
千空としてもちょっとテンションおかしかった自覚がある。
なので一つ咳払いをして仕切り直す事にした。
「まずは三角フラスコと閃亜鉛鉱の粉末を用意する。んでこいつを水に溶かしてフラスコに入れておくと……底面に蛍光塗料が引っ付く」
「暗いとこだと光ったりするようになったわけだな、で、そっからどうすんだ?」
「真空管作る要領で熱電子を飛び出させるようにする。カセキ! 出番だぞ!」
「ほーい、任せておくれ!」
ちょいちょいと手早く装置を繋いでいきあっさりと作ってしまった。
「やるじゃねえかカセキ! 前見た時よか腕上がってんぞ!」
「たっくさん作った電球より楽じゃったもん、そりゃこのくらいにできちゃうわい」
因みにその電球は各自の家に取り付けられており、夜間の作業も可能になってたりする。
「お、フラスコの底面が一点だけ光るな」
「電子がぶつかった所は光るわけだ、んでそいつを水晶の板で挟んで、板に電圧をかけてやると……」
「点が線になったな」
「仕上げに縦方向も挟んで、そいつを電波のアンテナにつなげてやる」
「今度はグネグネと曲がってるぞい」
「おう、色々な電波を拾ってんな……? って電池が横にあったか、クロム、そこの電池配線付きっぱなしだぞ」
動くはずがないんだがと訝しみ、目線を動かしそれに気づいた千空。
彼が指差した先には電池が確かに配線がくっついた状態で転がっていた。
「おう、転がった拍子にくっついちまったのかな。……なんで気づいたんだ、千空の後ろにあったよなコレ」
電池を拾って片付けながらふと疑問に思って口にする。
「今作ったこいつの機能がそういうもんだからだよ、この後ろのコイルに電波が当たるとフラスコの底面……画面に反応が出るのさ」
「おほ? つまりはどういう事?」
「こいつがあればなんでもスッケスケに見通せるってわけだ、繋げるもん変えりゃ空でも海でも地中でもな」
「なんでもスッケスケ……」
「銀狼なら喜びそうな言葉じゃのう」
千空の説明に何か引っかかる所があるのか真剣に考えだすクロム。
やがて考えがまとまったらしく、真面目な顔でこう切り出した。
「なあ千空、こいつちょっと使わせてもらってもいいか?」
「ああ、かまわねえぜ。思いついたことを存分に試してこい」
クロムの申し出に即座に快諾する。
目を輝かせて飛び出していくクロムを見送りながらカセキが不安そうにつぶやく。
「銀狼じゃあるまいし変な事には使わんと思うけど、大丈夫かのう?」
「大丈夫だろ、既婚者だってのに奥さんほっときすぎだって周りから愚痴が出るぐらいなんだからよ」
ちなみにその話を千空にしたのは疲れたような顔の桜子で、言ったのはターコイズだそうである。
「クロムが行っちまったが俺らは次の物作りにはいろうぜ、作りてえ物はまっだまだたくさんあんだからよ」
自動車にモーターボートにケータイに印刷機に、他にも色々指折り数える千空の眼は初めて見るぐらい輝いていたと後にカセキは語った。
「何か聞きたいことでもあるんです? 龍水さん。チーム分けの件なら各チームのリーダーにお願いしますね」
100人分の戸籍作りと簡単な家割りの地図を作成中の桜子の元に龍水が訪ねてきたのは、船作りのための作業分けとチーム分けが終わった後しばらくしてからであった。
「聞きたいことなど既に察しているだろう? まずは油田の詳しい位置情報だ、採掘しようにも場所を見つけなければ話にならんからな」
「教えてもいいですけど対価はどうするんです?」
「ほう? 見つからなければ困るのはそちらだと思っていたが?」
「だって石油を買わなきゃいけないんですもん、とれる時には取らないと」
しれっとそう言ってのける桜子ににやりと笑って見せる龍水。
一つ指を鳴らした後、懐から紙を取り出しそこに何やら書きつけて桜子へと渡す。
「確かに俺としても必ず見つけたい物だからな、この金額でどうだ?」
「はい、大丈夫ですよ。じゃあメモの用意は? OKですね、北緯34度42分00秒、東経138度09分37秒です」
龍水が渡してきた紙、小切手に書かれている額を一瞥し座標情報を話す。
龍水はメモに書いてそれが間違っていない事を桜子に確認した後面倒そうに愚痴を口にした。
「まったく、せっかくの金を使えんのは面倒で仕方ないな。そちらの言い分も理解できるが本当に少しでもやってはいかんのか?」
「お金には魔力がありますからね、馴染みのない村人にならともかく旧世界の人たちにはまずいんですよ。お金稼ぎにのみ奔走するのはまだマシな方で、最悪犯罪に走る人間が出ますよ? そうなったら村人との間に確実に亀裂が入ります、それが原因で人類全滅なんて笑い話にもなりません」
龍水の報酬決定の後の話になるが、すぐの紙幣の発行はやめておくべきだとなったのだ。
なぜなら桜子の言う通り金銭への慣れの違いからだ。
金銭感覚の違いから詐欺のしやすさは旧世界とは比べ物にならないだろう。詐欺被害なぞ旧世界ではありきたりであったが、村ではなかったと言っていい。
つまり慣れが違う、初心者と中級者でやれば当然中級者の方が勝つに決まってる、だからこそ金銭のやりとりを停止中なのだ。
詐欺が起こり、そこから村人と復活者との軋轢が生まれでもしたら目も当てられない。
なので少なくとも村人と復活者の間に仲間意識が生まれるまでは金銭取引は龍水と中核メンバーの間に限り、それも支払いが許されるのは龍水一人だけと決まったのだ。
「経済とは流れてこそ、金は天下の回り物で血流にも例えられる、まずは大量に発行し流通させることが肝要だ。
流通させるにも時間がかかる、早く始めれば始めるほど良いとは思わんか?」
「思いませんねー、血流なら余計コントロール下に置かないと。
高血圧が原因で病気になるなんてよくある話じゃないですか、早すぎる実施はこの共同体の寿命を著しく縮めます」
そのせいで龍水は漫画のような贅沢な生活をできず、他の家と大差ない家に住んでいる状態だ。
それでも他の人は複数人で暮らしているのでフランソワ付きの一人暮らしは十分贅沢であるが。
「俺は欲しいを我慢するなぞ性に合わんのだ! せめて家は三階建てぐらいにはせんとくつろげん!」
「中核メンバーにならいくらでも払えるんですからそちらにどうぞ、大樹やマグマに交渉出来ればそのくらいなら数日で出来上がりますよ」
「分かってて言っているな貴様、大樹は杠チームの柱で一番忙しく走り回っていて、マグマも復活者との交流……というか手合わせか、あれは? とにかく、こちらの手伝いなどできる状況にないだろうが!」
そう龍水が言えば桜子は困ったように笑うのを見て龍水は思った、ああ、この流れは知っている。
こういう顔をした人間が次になにを言うのかは飽きるほど見てきた。
『我慢してください』だ、何人もの人間が言ってきたから間違いない……
「それじゃあできる状況になるように手伝ってあげてください」
違った。
意外そうな顔をしているのがおかしかったのか、軽く吹き出す桜子。
「だって貴方は大人しく待ち続けるタマじゃないでしょう? ならそれが一番早いし確実ですよ」
「その通りであるし、そうするのが俺の性に一番合うが……、貴様はなぜその発想に至った? フランソワの分析によれば貴様はこのような場合我慢するタチであったはずだが……」
「うーん、さすがは一流の執事、正確な分析ですね。でもこれって受け売りなんですよ、千空からの」
なんでも髪が痛むと愚痴った時に『ならケアできるぐらい余裕ある状態になるようとっとと動け』と言われたらしい。
「愚痴ったって今が変わる訳じゃねえ、んな事いう暇あったら満足できる状況を作る方が早えんだよ……とも言ってました。それで、龍水さんはどうされますか?」
「フゥン、安い、安い挑発だ。どうにも貴様らは俺を焚き付ける方針のようだな。だが、いいだろう、貴様らだけのためではなく俺自身のためにもなるからな、乗せられてやろうではないか!」
「ありがとうございます、それじゃこれで聞きたい事は全部ですよね」
「ふむ? まだ一つしか聞いていないが?」
「聞きたい事は千空の事、でしょう? 後は見てればいいですよ、貴方の期待以上のものを見せてくれますから」
指を鳴らし満足気に口角を釣り上げる龍水。
しかし、疑問が一つ浮かぶ。
「報酬交渉の時とは随分違うな、あの時は抜けた人物という評価だったが今は大分切れる印象だ。まさか三味線を引いていたのか?」
「ああ、それは簡単な話ですよ。違いは準備できてるかどうかってだけです」
「準備?」
「ええ、今回のこれも有名人な貴方の事をしっかりと分析したから対応できてるだけでして」
それだけではない、そう龍水のカンが囁くが同時にここで問い詰めても答えは返ってこないだろうとも囁く。
「くくっ、やはり貴様はよい人材だな。貴様の自由意思で俺の新七海財閥に来る気になるようせいぜい努力させてもらおう」
フランソワからの報告で最初から有為の人材と認識していたが今回の会話で自身もそう確信できた。
それゆえの本気の勧誘であったが残念なことに本人には全く届いておらず、そのことが少々歯がゆく感じる龍水であった。