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「自殺してあげるから」
そう言われた時千空の頭から冷静さが一瞬吹き飛んだ。
「テメッ、何をいってやがる!」
まず間違いなく本気だろう、チラリと見えたのはいつぞやのトリカブトの瓶だ。
司が問いかけてからの行動すべてが計算の元に動いている。
(俺がクロスボウ隠していたのはあいつにゃあ見えてた。
司と俺の間に入って俺の行動と司の俺への行動両方を牽制。
その後の挑発的な問いかけで司の意識を自分に集中させ
尚且つ脅迫行為に移らせやすくした。
で、俺への自分の命を使った脅迫でチェックメイトかよ。
見事なもんで褒め称えてえぐらいだよ、その謀略の対象に俺が含まれてなきゃあな!)
思えば司を起こして戻ってきたあたりからおかしかった。
(妙にはしゃいでいることが多かったのは、
初めての女友達ができたからじゃなく司が持つ自分へのイメージ操作。
大樹と二人だけで話せるようにしたのは復活液の存在を匂わせる為かクソッたれ!
何から何まで計算づくか!)
その予想は半ばまで正解である。
初めての女友達が嬉しかったのは事実であるし、復活液の存在を大樹が話したのも期待はしていなかった。
海岸に来てからの行動だって司がこの場では退くだろうと思っていたし、そもそも最上の状態はこの場に千空がいない事であった。
そのためにわざわざはしゃいでいる姿を繰り返しして見せたし、今だって千空を牽制しつつ、司の千空への行動を封じている。
「簡単よ、千空の行動の自由と命の保障。
その二つを、そうね3年ぐらいでどう?」
桜子の提示する取引内容がさらに彼を憤らせる。
(テメエは俺の保護者か!
テメエの作ったレールに大人しく乗ってろって?
冗談じゃねえ! この程度で俺が、
文明を取り戻す物語の『主人公』が諦める訳がねえだろうが!)
千空自身そんなことはかけらほどにも信じていない。
未来は自分達の行動で決まるもので、運命なんて物は1mmも信用していなかった。
だが、それが必要ならば成ってみせる、そう今決めたのだ。
(考えろ考えろ考えろ!
科学はルールが全てだ、なら人文科学だってそうだろうが!)
無茶にも程がある理論だ。
千空が修めている知識の多くは自然科学、scienceである。
対して人文科学、humanityは科学分野の中で三分される物の一つであり、
明確に区別される物である。
そんな事は千空が一番分かっている。
(無茶だろうがなんだろうが通すしかねえ!
人間の行動に法則性が見えづらいのは計算すべきパラメータがアホほど多いだけだ!
起こった事象を一つ一つ思い出せ、アイツの中のルールを探し当てろ!
ヒントは必ずある、桜子を止めるヒントが、……?)
脳内に閃きが走る。
(違う! この場で主導権を掴んでいるのは桜子の奴だが、
選択権はずっと司が握っている! 働きかけるべきは司の方だ!)
だからこそ桜子は司に挑発紛いの言動を繰り返し行ったのだ。
(クソッ! 漫画知識っていう情報アドバンテージがタタリやがる。
司の性格をある程度以上把握できてんだアイツは。
待てよ、って事はアイツの行動その物がヒントになりうるって事でもあるじゃねえか)
桜子の言葉一つ一つを思い出して行く。
(司関連を思い出せ、アイツはなんて言っていた?
寝たきり状態の妹を見つけてって言ってやがったな、
だがこのストーンワールドでそんな状態だったら直ぐに死ぬだけだ。
姿だけでもってか? そんなもん敵対関係解消の材料になるのか?
…違う、司の奴は妹は今死んでいるって認識のはずだ。
最後までって言ってたはず…『寝たきり』『死亡』両方満たすのは……、
脳死状態! 司の妹は脳死で寝たきり状態だ!
って死んでる事に変わりはねえはず、解消の材料にならねえのは間違いない…?
何かが引っかかる、変な違和感が…)
ふと目の端に先程司に砕かれた石像が見えた。
(なんで桜子の奴はアレの破片を集めていたんだ?
あの状況で復活液をかけてもただの死体が出来上がるだけのはず、
っ! 解除時の周辺細胞修復能力!
それが石化した後、折れた断面にも作用するのなら…
いや、待て……バラバラになった石像にかけた時は肉片に戻っただけだった。
なのになんで今すぐに集めていやがった?
実際司にも俺にも変な目で見られてでもやるメリットがあったのか?
二つの違いは、…時間だ! そうだ表面は風化する!
石化解除した時風化した部分は元に戻らなかった。
だから不審感を与えてでも今すぐ集める必要があったんだ!)
脳死状態の司の妹と石化解除時の修復作用、その二つがくみあわされば、
(漫画の俺は司の妹を救う事を条件に司を納得させた!
不確かな事は多いがこれで行くっきゃねえ。
後は桜子の横槍をどう止めるかだが……)
千空が思考している間にも司の疑問に桜子が答え続けている。
「死ぬのは怖いわよ、当然ね。
でもね、今までの人類は先人の死を乗り越えて歴史を紡いできたの。
そう思えば死は全ての人が知っているはずの物なのよ。
未知なら怖いけど、既知のものなら私は超えられるの」
司の様子からもう桜子の提案が通る寸前であるように思える。
(死ぬのは怖いが、もう知ってるから大丈夫っていってるだけじゃねえか。
普通は思わねえよな、前世の記憶なんぞがあるなんて。
俺も知らなかったよ、テメエが前世での死の瞬間を覚えているなんてよ!)
死の恐怖に対してある程度耐性があるのは、
トリカブトを自分一人で用意したりしていることで証明されている。
石化中は詰め込んだ本の内容の理解に努めていたと言っていたが、
まさか前世の記憶の精査もやっていたとは思わなかった。
(一回成功させりゃあ次回以降失敗したとこ見たことねえもんな。
ん? なら、なんで俺はあいつを複数回怒ってんだ?)
常識として性関連のことを嫌う人間は一定数存在している。
(ククッ、そんなもん決まってんじゃねえか。
はなっからわかってたじゃねえか、アイツが対人経験ほぼ0で、
友達なんて存在していたことなんかねえってよ)
自分の勝利条件、全員生き残らせて司も納得させるそれを通す道が見えた。
「分かった、復活液の作り方と…君の命。
それで千空への手出しをやめることを誓おう」
「じゃあ、取引成立ね。
千空に色々伝えることがあるから少し時間をもらえる?
その後ちゃんと作り方とか素材とか教えるから」
ちょうどあちらも話が終わったところのようである。
さあ、反撃開始だ!
「待てよ司」
さっき上げてしまった声のように上ずった焦りの声などではなく
「俺との取引の内容を聞いてからでも遅くないぜ」
自信に満ちた声と態度で宣戦布告をぶち上げた!
「千空、何のつもり?」
先ほどまでの明るい声から一転、
固く警戒感あふれた声で桜子が問いかける。
「単純な話だぜ? さっきまではテメエのプレゼンの時間で、次は俺の番ってだけだ」
「作り方を話したらどうするか私言ったよね、まさか忘れた?」
「ククッ、おうもちろん覚えてるぜ。
作り方を喋ったりしねえよ、もちろん見せたりもしねえ。
最終的に司が俺の提案を選ばねえなら、おとなしく引き下がるさ」
怪訝な表情を見せる桜子だが、復活液の作り方を教えずに司を納得させる方法など思いつかないため、千空が納得するためならばと引き下がる。
「千空、君は何を提案するつもりなんだい」
言外にただの時間稼ぎに付き合うつもりはないという司。
「その前にいくつか質問だ。
まずさっきの話の中の手術した妹だが、脳死、あるいはそれに近い状態で入院しっぱなしだった。
少なくとも3700年前の、人類すべてが石化する前までは。違うか?」
司の視線が警戒から鋭くなる。
「なぜ、そう思うんだい?」
「TV企画でライオンとの対決をやった話からだ。
破格のギャラだったから受けたっつったな、ありえねえだろうが普通。
危険排除のために狩ったやつを、わざわざ遠い所から持って帰ってくるような奴が、金のためだけに動物を痛めつけるような企画に頷くかよ。
つまりどうしても大金が、妹のための入院費が必要だった」
間違ってるかと目線のみで問いかける千空に司は沈黙でもって肯定する。
「で、桜子が言ってたことだが、石化解除された時周辺の細胞を修復する効果があるらしいぜ」
なあ、と声をかければ苦々しげに桜子が呻く。
「3か月前のことをこの土壇場で思い出すなんて……」
その桜子の態度に嘘を言っていないと感じる司だが、そうすると新たに疑問が浮かぶ。
「なぜ、彼女はそんなことを知っていたんだい?
3か月前というと君の話では彼女も目覚めたばかりのはずだ」
「さあな、修復効果の実例でも知ってたんだろ。
前の世界では孤立していたみてえだかんな」
細胞修復のことを知っている、前の世界では孤立その二つから導き出されるのは……
「……イジメ、もしくは虐待」
「まあ、前者だろうがな。詳しくは知らねえからこれ以上は無しな」
事実であるがゆえに口を開けば墓穴を掘るだけと判断し、歯噛みしながらも沈黙を続ける桜子。
その様子こそが司に真実であると思わせているとも気づかずに。
「どうやら修復効果はあるみたいだね。
だが、それは脳死状態の人間を快復まで持っていけるものなのかい?」
当然の疑問だ、だからこそ千空も想定済みである。
「まだわかってねえ部分が多いから絶対とは保証できねえ。だから…」
「駄目!! それ以上しゃべらないで!!」
叫び声にそちらを振り向けば、そこにはトリカブトの毒入りの瓶を呷る寸前の桜子の姿があった。
「それ以上は駄目! 司! 私の取引に頷いて!
じゃないと今すぐ死ぬわよ!!」
いつの間にか司の手の範囲外にいる桜子は震えながらも千空に黙るように要求する。
尋常ではない様子に司も理想の世界云々をいったん放棄し、小声で千空に話しかける。
「あの場所なら一足の範囲だ、俺なら彼女があれを飲む前に止められるが…どうする?」
「ああ、俺が隙を作るから大丈夫だ。任せろ」
桜子のその行動も千空の想定内であった。
だから、至極冷静に対応できる。
「おい桜子、その行動は頷かなきゃ死ぬってことでいいんだな」
余裕たっぷりな態度にイラつきながらも、桜子は何とか司の動きに注意しつつ返答する。
「そうよ、貴方の目標は誰も死なないことでしょ!
でも、もう無理なの諦めて! 諦めて大樹と杠と逃げて!!」
泣きそうな叫び声にそんなものどこ吹く風と千空が訊ねる。
「そっちの目標は俺たち3人の生存でいいんだな」
何を言うつもりなのか、瓶を持つ手が緊張で震える。
「それが何だってのよ! 今さら何を……」
不敵な笑いを浮かべながら千空は言い放った。
「なら、テメエが死んだら来世までついてってやるよ」
「えっ」
その言葉が桜子にとって完全に想像の埒外であったが故、彼女には馬鹿みたいに呆けることしか出来なかった。
衝撃であったのは司にとっても同じである、しかし彼は戦いを生業にして生きてきた。
そんな彼にとってその状態の彼女から手の中の物を取り去ることなど、赤子の手をひねるようなものであった。
桜子が気づいた時にはすでに瓶は司の手にあった。
「か、返して」
「これが危険物というのは想像できるが、千空はこれが何か知っていたのかい?」
「トリカブトの汁だろうな、ライオン騒ぎの時出してたから知っているぜ」
猛毒、しかも前の世界でも治療薬の存在しない危険物の名に顔をしかめる司。
「こんなものはすぐに処分すべきだろう。
処理方法は知っているのかい?」
「長時間火にかけるだけで毒性200分の1だ。
煮込んだ後で少量ずつ別の所で土にかけちまおう」
「だから、返してよう」
桜子の身長では千空が上に伸ばした手にさえ届かない。
司が手を自分の顔辺りに保つだけで飛び上がっても無理な位置である。
「ついでだ、俺のクロスボウと一緒にこいつの手が届かないとこにちょいちょいっと置いてきてくれ」
「分かった、話の続きは戻ったらしよう」
あっという間に見えなくなる司の姿。
その速さに桜子はようやく取り返すのを諦めた。
「どうして、素直に逃げてくれないの」
「俺が尻尾巻いて逃げ出すタマに思えたか?」
力なくふるふると首を横に振る桜子。
「全員助かって司の奴も納得する道が見えてんだよ。
なら、それに賭けるに決まってんじゃねえか」
いつかのように頭をぽんぽんと叩きながら優しく諭す。
「一歩間違えたら死んで終わりだよ、どうしてそんなことが言えるの?」
「テ・メ・エが言うな。ったく、このド天然が、
誰かが命賭ける必要があって、で、俺が賭けんのが一番合理的ってだけだ。
他の奴が賭けんのが合理的ならそいつにやらせてるっての」
「嘘だよ、千空はそんな事態になったら絶対自分のから賭けるもん」
ぐしぐしと泣きそうになりながら、子供に戻ってしまったような態度の桜子に呆れながらも頭をなで続ける千空。
「今回のは勝ちの目が高いからいいんだよ、100億%負けるって思ってたらとっとと降りるわ」
「でも、それでも! 私は初めての友達を死なせたくない……」
「おう、奇遇だな。俺もダチが死ぬとこなんざみたくねえわ」
その言葉に桜子が目を見開く、そこまで考えが及んでいなかったのだろう。
「ボッチが一人の世界だけで完結しようとしてんじゃねえよ。
上手くいくわきゃねえだろうが、そんなもん。
適材適所じゃなきゃ人間は生きていけねえってテメエ自身が知ってんだろ」
いつもの不敵な笑い顔で、普段通りの態度で、
日常みたいな調子で言う千空がとても眩しく大きく見えた。
「…分かった、司を納得させるのは千空に任せる。
でも、これから行おうとしていることは、大樹と杠にも認めてもらわなきゃダメだと思うの」
「ああそうだな、まあどうせ復活液が実験に必要になんだから拠点で説明すりゃいいだろ」
「桜子も落ち着いたみたいだね。なら、先ほどの続きを聞かせてもらえるかな」
桜子が落ち着いたのを見計らったかのように、
いや、実際見計らっていたのだろう、司がタイミングよく戻ってきた。
「それじゃあ千空、教えてくれないか?
修復効果とやらが本当に脳死状態の人間を快復にまで持っていけるのかどうかを」
桜子が千空を見る。
その雰囲気はまるで今生の別れを迎えるかのようで……
「簡単だぜ? 実際に試してみるだけだ。
一人脳死もしくはそれに近い状態に持っていって、そっから石化解除して快復すりゃあ証明完了ってわけだな」
まるで、ではなくそのものである事を司に突き付けた。
「…さっきまでの二人の話は聞いていたが、
その一人に千空は自身がなるつもりで、桜子はそれを阻止したかった、そういう事だね」
「ま、そういうこった。
俺の首の後ろにまだ石化から戻りきってねえ髪がある。
司、テメエの腕なら頸骨か頸神経を一発で砕けるだろ」
司は思わず天を仰ぐ。
前の世界でここまでの人間に会えたことがあっただろうか?
いや、ない。
「千空、君と前の世界で出会いたかった。
そうすれば俺は、世界に絶望せずに済んだかもしれない…」
「はっ、目の前で男を褒める男はホモか策士かどっちか…だと思っていたんだがな。
純粋な好意の場合もあるってことか」
そうして三人は復活液を取りに拠点へと戻るのであった。
あ、あれ? おかしいな。
今までで一番の文字数になったのに終わらなかったぞ?
それともこのぐらいなら可愛いものなのか?
教えて偉い人。