イシからの始まり   作:delin

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未来を探して

司が未来捜索へと出発する前、必要な物を司に手渡す時の事である。

 

「ほい、こいつがオメーの妹の分と、なんかあった時のための予備な。運べそうになかったらその場で起こしちまえ」

「ああ、確かに。多分使うのはこちらに帰ってからだろうけどね。……ありがとう千空、俺の我儘を聞いてくれて」

「ああん? こいつは契約の通りだろうが、何を畏まってんだよ」

「これで妹を本当に救えると思うとつい、ね。変にしんみりとしてしまって、すまない、なにか、泣きそうな気分なんだ」

 

目尻が下がり必死に泣くのをこらえている顔でそう言いだす司に、困ったように頭を書きながらそっぽを向く千空。

どうにも司は目覚めた当初と比べてこの頃は幼さが出てきたように感じる。

それは感情が素直に出せるようになってきたという事であり、悪い事ではないだろう。

他の復活者がいるような場所ではそうではないので、親しい者の前ではつい緩みがちなだけなので問題もない。

ただ、少々照れ臭いので話を少しそらそうと思う。

 

「復活液だがな、うっかり落とすんじゃねえぞ? 特に畑の近くとかではな」

「? 劇物だからもちろん気を付けるつもりだが、なぜ畑の近くは特に駄目なんだい?」

「復活液がどんだけ浸透するのか分からねえからだよ」

 

浸透? と少し考えてそれに気づいた。

 

「……埋まっている石像がどこにあるか分からない、そういう事だね?」

「そういうこった、多分そこまで浸透しねえだろうが……万一があったら生き埋めのいっちょ出来上がりだ」

「本当に気を付けるよ、うん」

 

実はもうちょっとグロイ事を想定していたのだがこの場では言わないでおいた。

人体の塩分濃度は結構高いから肥料には向かない、などというのは少々猟奇的だからである。

 

 

「そんな話をしていたのか、突然舟の方がいいかもしれないと言い出したのはそれが理由な訳か」

「うん、冷静に考えると無理なのは分かるんだけどね。怖い想像に釣られてしまったんだよ、情け無い事にね」

「正直想像もできないが、生き埋めというのがまずい事だとは分かる。だからそれが情け無いとは私は思わんぞ」

 

道中の会話で腰の袋をしきりに気にする司にコハクが理由を尋ねた後のやりとりである。

畑の近くを強調した理由はコハクも分からなかったらしくその辺は流されていた。

今彼らは田んぼの近くを歩いている、この辺りは農耕チームの村との往復のためにある程度道が整っているからだ。

見れば農耕チームが田んぼの縁に粘土を塗る事、畦塗りを始めている所であった。

 

「司、あれは何をしているのだ?」

「あれは畦塗りだね。あそこで育てる稲という植物は湿地に生える植物だからね、水を溜めるために粘土を縁に塗っているらしいよ」

 

なるほどと感心するコハクにゴーザンからの受け売りだけどねと自嘲気味に笑う司。

そんな二人の後ろから付いて行っている他の捜索隊の面々はデートをデバガメしてる気分だったと後に証言している。

 

 

「千空達にも協力してもらったんだが、おそらくこの辺だろうというぐらいしか分からなかった。とても広い範囲ではあるが、皆、協力をお願いする」

 

そう言って示された範囲は広いというレベルではなかった。

思わず絶句するメンバー達に司は深く頭を下げて再度のお願いをする。

 

「とんでもない事を言い出しているというのは重々承知だ、本来なら俺だけで探すのが筋であるとは思う。

だけど、俺一人では何十年とかかってしまうだろう。だから俺は皆に改めてお願いしたい、俺の妹を救う力を貸して欲しい」

 

真摯にお願いする司に一度は怯んだメンバーもやる気をだし始める。

 

「……へへっ、水臭いっすよ司さん。最初っからキッツイ事だって言われてたんすから今更っすよ」

「そうっすよ、ちょいと目の前にしたら想像以上だったからビックリしただけっす! ここでやっぱなしなんていうのはカッコ悪すぎですよ!」

「俺たちだってカッコつけさせて下さいよ、妹さん必ず見つけ出して上げましょう!」

「皆……! ありがとう!」

 

ぱあっという擬音が聞こえそうなほどいい笑顔で感謝する司。

石化前ではクールなイメージだった司のそれに、ギャップ萌えとでも言えばいいのだろうか……兎に角メンバーのやる気は最高に燃え上がる事となった。

結果、わずか数日で司の妹、未来は発見されたという。

 

 

さて、発見してそれで終わりという訳ではなく、村まで運ばなければならない。

残念ながら乗り物があるわけでもなく人力で運ぶしかない、ならば誰が運ぶか?

 

「俺が背負って行くさ。なに、今の俺は過去最高に気力いっぱいだからね、どうとでもなるさ」

 

当然のようにそう言って背負って歩く事一日、日が暮れた頃にはさすがの司も完全に肩で息をしていた。

 

「大丈夫か司? やはり復活液を使うべきだったんじゃないか?」

「ありがとうコハク。だけど、これだけはやり遂げたいんだ。未来はもう一生分くらいの試練は受けたと思う、だから少しでも楽をさせてやりたいんだ」

 

石化中は眠っている人の方が多いらしいからね、と笑う姿は無理しているのが丸わかりであった。

 

「本当に仕方ない男だ、君は。……決めた、明日は私がこの子を背負うぞ!」

「いや、コハクには捜索で沢山動いてもらったんだ、これ以上は悪いさ。元々妹を救いたいと言うのは俺の我儘なんだから」

「ついていくと決めた時に言ったぞ私は、私は君と妹を会わせてやりたいんだ。だから、これは私の我儘だぞ」

 

綺麗だ、笑いながらそう言ってくれるコハクの笑顔を見て自然にそう思った。

そんな風に司が感じていると捜索隊の面々がなにかを持って声をかけてきた。

 

「司さんお疲れ様です、明日はこいつを使ってくだせえ!」

「俺らの上着を使って担架を作ったんす! ちょいと汗臭いかもしれないけど、表面は剥がれるんで妹さんは汚れないと思いやす!」

「ほほー、中々に使いやすそうだなこれは。だが、君らはいいのか? まだ肌寒い時期だぞ?」

「俺らバカばっかりっすから、風邪ひかないっすよ、きっと」

「せめて朝に作るべきだったんじゃないか?」

「「「あ」」」

 

そうコハクに突っ込まれると今初めて気づいたように彼らは声を上げた。

そのまま恥ずかしそうに頭を掻きながら誤魔化すように笑い出すと周囲も釣られて笑い出す。

 

(未来、早くお前にこの光景を見せてやりたいよ。俺は、俺達の周りは今こんなにも温かいんだって)

 

次の日の早朝に出発した一同は高まった士気のおかげで予定より早く村へと帰宅するのだった。

 

 

今未来は石像のままベッドに服を着た状態で横になって置かれている。

石化解除の瞬間はあまり見せ物にするべき事ではないという意見が出て、周囲もそれに同意したからだ。

司としても未来を見せ物にはしたくないという思いから同意し、司にいて欲しいと言われた人だけが部屋の中で立会人になっている。

そして今中にいるのはコハクと南、それに千空の3人。

司からいて欲しいと言われたのは他にも氷月と桜子がいたのだが二人は断ったのだ。

桜子はなにを口走るか分からないからやめておくと、氷月はそういう場面苦手でしてというのがそれぞれの言い分である。

司の手でゆっくりとかけられていく復活液、徐々に浸透していき石化が割れ始める。

 

「これで脳死とやらからも復活できるのだな、千空!」

「元々復活するときゃ何千年も意識ねえ状態から復活すんだぜ? 脳死だって快復すんに決まってんだろ!」

「もし万が一違ってたらただじゃ置かないからね!」

「そんときゃ喜んでこの首差し出してやるよ!」

 

石化が完全に解けた。

……そして、ゆっくりと彼女の目が開いていく。

 

「……ここ、どこ? 私……」

 

その瞳に映ったのは、

 

「兄、さん……? いしし、よ~老けてもたね。私、何年寝とったんかな……?」

 

ボロボロと涙をこぼす最愛の家族の姿だった。

押さえきれない感情の波に声を震わせながら司は目覚めを待ち続けた妹に答える。

 

「6年と、数千年だよ、……未来!」

 

 

感動の再会からしばらく兄妹間で喜びを分かち合った後、司は周りの人、未来にとっては見しらぬ人たちの紹介を始めた。

 

「彼が千空、復活液、と言っても分からないよな。未来を救う切っ掛けを作ってくれただけじゃなく、俺自身も救ってくれた恩人にして親友さ」

「単にオメーは武力を出してこっちは知力を提供しただけだってーの。契約しただけで感謝されるようなこっちゃねーよ」

「こんな感じで照れ隠しをする事が多いんだ。だけど困ったことがあったら相談するといい、きっと力になってくれるよ」

「おいこら、人の事を勝手に便利キャラみたいに言ってんじゃねえ」

 

などと喚く千空をそっとどかしてコハクが前に出る、

 

「初めましてだな未来、こちらは南という。よろしくな」

 

南を片手で引っ張りながら。

 

「ちょっとコハク! ……もう、よろしくね未来ちゃん。私は北東西南っていうの、君のお兄さんのファンってところ」

「さて未来よ、君のお兄さんのこれまでの活躍を聞きたくはないか?」

「! 聞きたい! ファンってどういうことやの? 兄さん今まで何しとったの?」

「そうよね、お兄さんの事知りたいよね。それじゃつかさん、未来ちゃん借りるね?」

「悪いが司は千空と一緒に別のところに行ってくれ? 照れで茶々を入れられては正確に伝えられんからな」

「えっ、ちょっと待ってくれコハク? 南さん?」

 

司が戸惑っているうちに部屋の外まで押し出されてしまう司。

ちなみに千空はいつの間にか外に出されていた。

 

「えっと、なぜ俺は追い出されたんだろう」

「オメーに聞かせたくない事か口挟まれたくない事を話すんじゃねえの? 桜子と氷月の奴らこれを察してたのかもな」

 

普段通りの調子でそういうとさっさと歩き出してしまう千空。

 

「居間で茶でも飲んで待ってりゃそのうち呼びにくんだろ、それまでのんびりしてようぜ」

「そうだね、それしかないか」

 

まさかもう一度部屋の中に入ってコハクと南に怒られるわけにもいかない、仕方なく千空の後ろについていく司。

その途中先を歩く千空の背中に向けて半ば独り言のように司がつぶやいた。

 

「今俺は今までの人生の中で一番幸せな気がするんだ、不謹慎かもしれないが……石化光線が降ってくれてよかったのかもしれない」

「不謹慎でもいいんじゃねえか? 最終的に石化現象の犯人をとっ捕まえることには変わりねえんだしよ。

石化によるマイナスとそれがきっかけの周りの環境の変化は別勘定だろ。

あー、それにしても石化のメカニズムを知りてえなあ、一体全体どんな化学反応起こしてやがんだか」

 

司の呟きに背中を向けたまま答えた後、自分の思考に入り込んでしまった千空。

その背中に心の中で感謝を送りながら司は今の自分の幸運を噛みしめるのだった。

 

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