イシからの始まり   作:delin

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話し合いと、そして……

キリサメが捕虜となり、女性陣によって着替えさせられた後の事。

彼女の服から出てきた明らかにオーバーテクノロジーな物、おそらくは石化装置であろう物が千空へと届けられた頃。

ゲンはスイカと一緒に船首側の一室におり、そして困っていた。

 

「あー、スイカちゃん? そろそろ機嫌直してくれないかな〜?」

 

ゲンの言葉に返ってくるのはジトっとした目と低い声。

 

「スイカに機嫌直してもらいたいなら、ゲンはスイカに言うべき事があると思うんだよ」

 

実は追っかけにバレそうになってからずっとこの調子である。

他に人がいる場合には普通、というかゲンに絡もうとしないので誰も知らないが、意外と根に持つタイプだったのだろうか?

いや、そうではない、ゲンの追求回避能力が高すぎて発散することが出来なかったが故の事だ。

もしも素直にごめんと言っていればここまでこじれたりはしなかったろう。

ゲンとしてもなんとなく謝るタイミングを逃した感があってごめんが言いづらいのだ。

それでも自分の方が年上であるし、こちらが折れるべきだろう、そう思い切り出そうとする。

 

「スイカちゃん、ご「ゲン! 悪いんだけど今すぐ千空のとこ行ってくれないかい!」」

 

その瞬間に扉をすごい勢いで開けてニッキーが飛び込んできた。

 

「何があったの、ニッキーちゃん。この部屋はノックしてから入るよう決めたの君でしょ? 率先して破るのはよくないんじゃない?」

「その通りだけど、んな事言ってる場合じゃないんだよ! アンタの口八丁が必要なんだ、上手く千空を説得しておくれ!」

「はいはい、事情説明はあっちで聞くよ。今のニッキーちゃんじゃ説明できそうにないし」

 

大慌てのニッキーにこれは話にならないと判断、とっとと千空の所へ行くことにした。

タイミングがとても悪いが、来てしまった以上どうしようもない。

スイカもこちらではなくニッキーの方を向いているし、謝るのはまた今度になりそうだ。

部屋を出る時ニッキーには見えないような角度から、イーってされてしまったがこれくらいは仕方ないだろう。

また今度ゆっくりできるタイミングで謝るとしよう、その時は本業ではないが手品でも色々見せてあげようか。

 

なに、焦る必要はない、この後を考える時間はたっぷりあるはずなのだから。

 

 

「ああっ! やっと来た! ゲン、とんでもない事言い出した千空を止めて!」

「何があったの? まずはそれを知らなきゃ何にも言えないんだけど」

 

部屋に入るなり泡くった様子の桜子が飛びかからんばかりの勢いで寄ってくるのを片手で止めつつ説明を求める。

ゲンの言葉と呆れたような態度に多少頭が冷えたのか、桜子は一度深呼吸をして自身が落ち着いたのを確認してから話し出した。

 

「司が気絶させて捕まえた女性がいるんだけど、漫画知識通りに石化装置らしき物を持ってたのよ」

「うん、一応聞かせて? それが石化装置だっていう根拠は?」

「明らかにオーパーツなのよ、石化前の時代でだってあんな物作れないはずなの」

 

桜子はそう言った後軽く外観を説明してきたが、ゲンとしても納得しかなかった。

メビウスの輪形状なのはともかく、一つ一つのパーツが時計の部品並みの大きさの立体的な形をしており、千空にさえ素材が分からないときてはこの島で作られた物ではないのは明白だ。

石化装置であろうという点は島の周囲の海底に人の石像が多数ある事からの推測である。

 

「なるほど、それならそれが石化装置だって思えるねえ。で、とんでもない事って?」

「その石化装置をあの女の人に返すとか言い出してるの!」

「は?」

 

さすがに予想外である、折角奪い取った敵の最大の武器を返そうなど誰が考えるだろうか。

眉間を抑えて思う、そりゃ大慌てで頭脳チームを呼び出す訳だ。

皆の慌てる姿などどこ吹く風とばかりに石化装置を調べる千空と向き合う。

 

「アレ一つで全滅も有り得るって千空ちゃんも分かってるはずだよね? わざわざ返しちゃう理由は?」

「一つはこいつは俺らの目的じゃねえってことだな。こっから人類全員救うのに逆方向へ行っちまうもんはいらねえだろ、石化の仕組みがわかるんなら話は別だがな」

「保管してとっておかない理由は?」

「もしも遠隔操作可能だったらどうする? 保管して安心した所をドカーンとか笑い話にもならねえぞ」

「だからタイミングをコントロールするために渡す訳か、でも使われたら困るのは変わらないんじゃない?」

「困るか?」

「へ? どゆ意味?」

「俺らには復活液があるだろ、一時的な石化ならそこまで怖くねえんだよ。警戒すべきなのはいっぺんに石化される事で、数名から数十名が石化するなら許容範囲内なんだよ。もちろん避けられるなら避けるべきだがな、準備ができてねえ時にくらうよか百億倍はマシだ」

 

千空はそう言って見せるが、石化する恐怖に誰でも耐えられるわけではない。

その事を指摘すれば『なら大丈夫な奴だけにすりゃいいだろ』と返される。

何か止められる理由はないかと模索するが、千空は更に渡す理由を話し出す。

 

「もう一つは俺らが今欲しいもんは島の情報だって事だな、無条件で返せば少なくとも対話のきっかけにはなるだろ」

「情報話してもらう代わりに返すってのは駄目なの?」

「いきなり気絶させられて服を着せ替えてきた相手と取引したいか?」

「信用を買うための対価でもあるわけね、なら壊すのもアウトだねえ」

「そういうこった、バトルチームの面子なら室内で遅れを取る事もねえだろ、あっちが自分諸共石化させてこない限りな」

 

まとめると、室内の距離なら回避できる面子がおり、石化しても戻せる目処がついていて、今必要なのは武器より情報、だからこそ石化装置を返す訳だ。

これは確かに鬼手かもしれない、そう思わせるだけの理由が並べられてしまった。

ううむと唸るゲン達に、千空は最後の理由を口にする。

 

「そもそも、だ。こいつの使い方分からねえだろ? 保管しといても倉庫の肥やしになるだけだ、それよかワンチャン味方目に引き込める事に賭けねえか?」

 

そう言ってニヤリと笑う千空に、降参と賛同の意を込めて両手を上げるゲンであった。

 

 

その後にも頭脳チームの面々が続々やってきたが、千空の意見を覆せず石化装置を返す事になったのだ。

目覚めてからの目的が一つ、それも困難であろうと思っていた方が達成できてしまったせいで呆然とするキリサメ。

他のメンバーはこうすると知っていたため疑問の声を上げたのは当然ながらソユーズであった。

 

「待って待って待って! あぶ、危ない物だから、回収したんじゃないの! なんで、返してるの!?」

 

訂正、叫んだのはソユーズであった。

 

「おう、ソユーズ。突然叫びだしてどうした? そいつなら問題ねえから返しただけだぞ」

「も、問題ないって……」

 

ソユーズがまったく気にした様子のない千空に、なおも言い募ろうとすると横からゲンが口を挟んだ。

 

「やだなあソユーズちゃん、俺らがどうゆう状態だったか忘れた?」

「あ……! そっか、そうだよね、うん」

 

忘れてたよ、と恥ずかしげにしながら下がるソユーズ。

気にしなくていいよ、とソユーズに言いながらゲンはキリサメに声をかけた。

 

「初めまして、俺の名前はゲンってゆーの♪ 一応交渉の窓口みたいなものをやってるんでよろしくね。おねーさんのお名前は?」

「……キリサメです」

 

警戒心バリバリにしながらもだんまりでは進まないと思ったのだろう、キリサメが名を名乗る。

キリサメの警戒心に気づいていないかのようにゲンは軽く聞こえる口調で話を続けた。

 

「OK、キリサメちゃんね♪ それじゃウチの面々も紹介するね、このツンツンヘアーの子が千空ちゃんって言って俺達のリーダー。その横のちっちゃい子が桜子ちゃんで記録係みたいなことやってるよ、で逆側にいるのが……」

 

そんな調子であっという間に部屋にいる全員の名前と役割を紹介し終えるゲン。

 

「以上がウチらの中心メンバーね、他にもいるけど方針決定にはあまり関わらないかな」

 

最後にそう言って締めくくり、それを聞いたキリサメの目に剣呑な光が宿った。

 

 

石化装置を返されて呆然とした後、我に返った時一番最初に考えたのは即使用しての使命達成だ。

しかし、この場には自分よりも明らかに強い者がいる、おそらくだがモズと同等か、それ以上。

少なくとも自分では打倒は不可能、せいぜい自分諸共に石化させるのが関の山だろう。

御頭首様のためならば自分の身を捨てる事も辞さないが、何故わざわざコレを返してきたのかが分からない。

幸いにも今すぐこの身をどうこうするつもりは無さそうなので、そのあたりの目的を探ってからでも遅くないはず。

そう考えた上でベラベラとよく喋るこの男に名乗り、語るに任せていたのだ。

ここにいる者達が中心と聞いた時は一瞬使用を考えたが、それをするには紹介が終わった後のソユーズの表情の変化が気になる。

あれは言葉のどこかに偽りがあったからではないだろうか?

最初は慌てていたソユーズが落ち着いた理由も引っかかる、奴らがどういう状態だったというのか、そしてそれだけで落ち着けるものなのだろうか?

やはりまだ情報を集めるべきだろう、私を抑える事ができる者がおそらくもう一人はいるはずなのだから。

 

 

さて、何故案内役を務めたソユーズが石化装置を返した事にあんなに驚いていたのか。

他のメンバーは誰一人として驚いていなかったのに、何故ソユーズだけが?

答えは簡単、彼だけ説明されていなかったからである。

別に彼個人に悪意あっての事ではない、キリサメから見て信用が少しでもできる対象が必要だったからだ。

信頼を勝ち取った者とかではなく、感情や考えが見抜き安い者という意味でである。

ゲンが言った意味深な言葉に反応して見せる役が必要だったのだ、人は自分の力で得た情報は疑えない。

例えば正面から『こちらには石化を解除する薬がある』などと言ったところでハッタリとしか思われないだろう。

まあ、それで実際石化を解いて見せればもはや疑えないから問題ないといえばないのだが……。

復活液だって無限ではない、使わずに済むならその方がよいだろうとゲンがこの作戦を提案したのだ。

勝手に使われる立場のソユーズにはあとで何かフォローしないとではあるが……、とにかくキリサメが素直に会話する態勢になったのは良い事である。

 

 

「……なるほど、貴方方は百物語に語られる宝箱を探しにきた、そういうわけですか」

「そーなの、別にこの島を荒らすつもりはないし、ましてや侵略するなんて気は完全にゼロなわけ」

 

ある程度の情報交換を終えて、千空一行の目的をようやく理解してもらっての第一声である。

ここに来るまで大分時間がかかっていたりするが、石化光線を使う必要がない事を理解してもらえたのだから許容範囲内と言える。

モズが逃げるしかなかった事やキリサメが一撃で制圧された事などから、さっさと帰らせた方がいいと判断しただけかもしれないが……。

とにかく、ゲンとしても交渉役の面目躍如ができて一安心、後はあちら側と交渉に入れればいいだけである。

ああ、危険だからと司率いる別働隊4人の枠に押し込んだスイカちゃんのご機嫌取りも忘れずにやっておかなければ……。

だけど、今だけは少し気を抜いても、きっとばちは当たらないはずである。

 

「そういえばそちらの御頭首様ってどんな人なの? 喜びそうなものを用意したいから教えて欲しいんだけど」

 

その質問をしたのは他後のない雑談程度の軽い気持ちでであった、しかし、帰ってきた答えは想定から大きく外れるものであった。

 

「その、私は御頭首様と直接会ったことがないので、推測でしかないのですが……、美しい女性が好き、かと」

「スケベ親父だ……!」

 

思わず口走った桜子を睨むキリサメであるが少し頬が赤い、仕える主人の好む物をろくに把握してない事を恥じたに違いない。

とりあえずゲンはそういう事にしておいた、拗れてもコレ俺悪くないよね、と心の中で言い訳しながらである。

 

「後宮とかあるの?」

「ええ、ありますが……」

 

何故そのまま続ける桜子ぉ!

数名の心が一つになった瞬間であった。

 

「じゃあ、特に可愛がってるお子さんは? その子の好みそうな物でもいいんじゃない?」

 

あ、なるほど、そっちから攻めるつもりだったわけか、納得できる理由でよかったと胸をなでおろす。

ゲンはこの時点で既に自分の手を離れたな、と判断し少し後ろに下がる。

決して爆心地から逃げたわけではない、ないったらないのだ。

 

「いえ、子が生まれたという話は聞いた事がないですね。なので、それも難しいかと」

「子供がいない……?」

 

キリサメの答えに思いっきり怪訝そうな顔になる桜子。

悩み始めた桜子を横目に見ながら千空が次の質問をする。

 

「御頭首様ってのは今いくつなんだ? それによっちゃ子供がいなくても不思議じゃねえが……」

「申し訳ないのですが、それも私は知らず……」

 

キリサメもこれまで考えもしていなかったようだがさすがに不審に思い始めたようだ。

人となりも、年齢すら知らない? あり得るのか? そんなことが。

ただの一般兵であるなら気にする必要もないだろうが、キリサメは島で五指に入るほどの人間だ。

そんな立場の人間がトップの事をここまで知らないものだろうか?

 

「ねえ、御頭首様と直接会った事は? また、直接会ったことのある人は何人?」

「私は布越しにしかありません、直接会ったと言っているのは宰相であるイバラ様と後宮の女性が何人かのみです」

「これ、最悪御頭首様死んでない?」

 

桜子が顔を引きつらせながら、かすれた声で最悪の予想を口にした。

キリサメが驚愕のあまり崩れかかり近くのソユーズに支えられるのを見て、千空は桜子の頭を容赦なくはたいた。

 

「アホ! 聞かせる相手をちったあ選べ!」

「ごめんなさい!」

 

はたかれた部分をさする桜子を放って千空はその最悪の想像以外の可能性を検証する。

まず確認しなければならない事がいくつかある、血の気の引いた顔のキリサメに申し訳なく思いながら聞いてみる。

 

「布越しに会ったのはいいとして、その時頭首とやらはどんな様子だったんだ」

「……直接お声がかけられたことはありません、常にイバラ様が横に控えていらっしゃって全てイバラ様を通してお話を……」

 

しゃべりながら最悪の想像が当たっている可能性が高い事に徐々に気づき始めたのだろう、ますます顔が青くなっていくキリサメ。

 

「布越しに誰かいたのは確実なんだろ? 突拍子もねえ事を言うが、石像って可能性もなくはねえ。いや、単に人見知りか他人と会うのが嫌いって線のがありうるか」

 

話しながら考える、どうすればそれを確認できるかを。

しかし、千空の頭脳をもってしても一つだけしか方法は思い浮かばなかった。

 

「直接確認するっきゃねえな、とはいえ返した捕虜に持たしたメッセージの返事次第だがな。

ったく、なんでこんな事になってんだ? お家騒動に首ツッコむ気なんぞ全くなかったってのに」

 

千空としては交渉の席でソユーズはすでに自分たちの一員であり、島とは無関係な人間であると告げるつもりだったのだ。

だからこそキリサメの案内役に抜擢したというのに、計画丸つぶれである。

そんな思惑とは関係なくキリサメは千空に感謝の言葉を述べる。

 

「ありがとうございます、本当なら島の人間だけで解決すべき事であるのに……」

「あー、気にすんな。別に完全に無関係ってわけでもねえからな」

「? それは、どういう意味でしょうか?」

「千空はね、島の一番最初の人、貴女たちの遠い遠いご先祖様であり百物語の製作者でもある百夜さんの息子なの」

 

意味が分からず目をパチクリさせるキリサメに楽しそうに説明しだす桜子。

とりあえずキリサメがこちらを見る目が段々変わってきている気がするので、調子に乗っていらん事を言い出す前に止める事を決めた千空であった。

 

 

キリサメが千空達と話し合いをしていたころ、モズの敗走の報と返された新兵が携えてきたメッセージを聞いたイバラは周囲に御頭首様に報告するといって奥にこもっていた。

 

「くっ、くっふっふっふ、あははははは!! 笑っちゃうね、おじちゃんにここまで都合がいいなんて思いもしなかったよ」

 

あまりに希望通り行き過ぎて皆の前だというのに笑い出す寸前だったからだ。

ひとしきり笑って衝動が収まったころに皆の前に戻り、兵たちに指示を出す。

 

「『これは島の最大の危機である、島のすべての者達が力を合わせる必要がある』

以上が御頭首様のお言葉よ。そういうわけだから、まず各集落に伝えて? 動けるすべての者は武器を持って集合せよってね」

 

その身に宿した野望を叶えるべく、蛇のごとく狡猾なる者がその鎌首を擡げようとしていた。

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