イシからの始まり   作:delin

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どの命が大切か

飛び出そうとしていた二人も止まるような言葉が、なぜモズから出てきたのか?

先の言葉通りモズは悩んでいたのだ、このままイバラ側についたままでいいのか、と。

確かに人間松明作戦が成功すれば、多大な犠牲の代わりに勝利は得られるかもしれない。

だが、負けた時は? 奴らはあれだけの装備を用意できるぐらいだ、もしかしたら火ぐらいあっさり消し止めてしまうかもしれない。

そもそも勝ったとして、イバラが自分を生かしておくだろうか?

あれだけなんの躊躇いもなく島民を使い捨てにする奴が、自身以外の誰かを例外にするだろうか?

つまり、イバラについていっても先はない、そう判断できる。

だが、イバラと手を切るにしても勝てない状態になっては意味がない。

なら、どうするか? 勝てるような奴らを仲間にするのである。

自分は運がいい、この新米を再度メッセンジャーにするつもりだったが、こいつがヘマをする可能性だってあった。

それを無くせるだけでなく、信用を稼げるチャンスも得られたのだから。

 

「このままだとこいつ殺さなきゃいけないからさあ、そっちで引き取ってくれる? 今なら武器だって手放すよ?」

 

だからこのぐらいはなんでもない事だ、譲歩してやってるだけ。

このまま再戦の機会を失うよりずっとマシ……?

そこまで考えた時点で思考を破棄する。

今は関係がない事だ、隠れている連中に不信を持たれないために言葉を重ねる。

 

「俺との実力差ぐらい分かるだろ? 回りくどい事して罠に嵌める必要なんて一つもない事ぐらいさあ、要らないならホントに処分しなきゃいけなくなっちゃうよ?」

 

確実に聞こえるぐらいに声を大きく、だけど別の誰かには聞こえないくらいには小さく声を張り上げる。

これでも出ないならどうしようか、いや、ホントに出てこなかったらこいつにメッセンジャーやらせるしかないんだけど。

そんな事をモズが考えている間、三人は小さな声で相談していた。

 

「あの男が言っているのはおそらくは真実だと思います。悔しいですが、奴の実力からしたら我々では一人逃げるのが精一杯。それを嫌って罠を仕掛けるような繊細な神経をしてる訳でもないですし」

「印象通りの自信家で実力も十分か、分かった、話を聞いた方がいいと思う。ただ、コハクは先に舟に、万一の時に全滅は避けたい」

「くっ、石像の事もあるし、致し方ないか」

 

キリサメとほむらがゆっくりとモズの前へ出ていき、その間にコハクが逆側から舟へと向かう。

その動きはモズも理解していたが、放っておいた方が都合が良さそうなので放置する事にした。

 

「やあ、キリサメちゃん。その格好も似合うじゃない? あちらさんいい趣味してそうだね」

「貴方の戯言に付き合う気はありません、一体どういうつもりで我々を見逃すのです?」

「ああ、簡単な話だよ。イバラについていけなくなったってだけさ、アレについても勝ち目無さそうだしね」

 

肩をすくめて嘯く姿は嫌悪感が剥き出しで、心底嫌がっているようにしか見えない。

 

「勝ち目がないと判断した理由は? 無駄にプライドの高そうな貴方が、そう簡単に負けを認めるとは思えない」

「ああ、こっちも可愛い子だね。ま、そうそう負けるつもりはないけど、同格二名に同時に来られたら勝つとは流石に言えないさ」

「嘘ではない、けどもっと大きな理由がある。そう見るけど?」

「正解だよ、可愛いだけじゃなくて頭もいいなんてすごくいいね。どう? 今度朝まで俺と仲良くしない?」

「お断りする、で、理由は?」

「釣れないねえ。で、理由、か……」

 

そう呟くモズの顔が嫌悪で歪む、口にしたくもないが説明しない訳にもいかず端的に話す事にした。

 

「簡単な話だよ、俺は他人を火だるまにして大丈夫じゃなかったってだけさ」

 

吐き捨てるように言った言葉は二人の想像の埒外であった。

言われた内容が数瞬理解できず固まる二人、それにかまわず嫌なことをさっさと終わらせたいと早口でイバラから説明されたことをすべて話すモズ。

すべて話し終わった後には聞いていた全員が顔を青くしていた。

 

「これで全部だけど、なんか聞きたいことある?」

 

話の中で気になった事が一つ、それは

 

「そっちも頭首の事を?」

「ん? ああ、知ってるよ。君が知ってるって事は見ちゃったんだ、ここにいる理由はその辺りが目的かな?」

 

直接的に言ったりはしていないが、明らかに頭首が石像だと知っている様子にキリサメの目が険しくなる。

 

「おっと、無用な混乱を撒き散らすよりかはいい結果でしょ? その後のビジョン全くないんだからさあ、下手にぶちまけると島自体まずい事になったと思うんだよね」

 

険しい視線を受けたモズは肩をすくめて、自分にはどうしようもなかったと主張する。

実際モズが頭首が石像だと暴露したとしても何もできなかっただろう。

下手をすると石像にした犯人として処罰されかねないと考えれば黙っていたのも致し方ない事である。

キリサメもそれを察して黙る、苦々し気に唇を噛みながらだが。

 

「イバラのしようとしている事は分かった。で、それを止められる? 暗殺とかで」

「ん〜、考えないでもないけど、難しいかな。多分なんか俺対策があるんじゃない? じゃなきゃ慎重なあいつが殺される可能性のある時に俺と会うわけないし」

 

警備も自分周りはがっちりだしね、等と隙あらば殺害する気であった事を言外に匂わせる。

 

「貴方が一人で特攻して殺せれば、それが一番楽でいいのだけど」

「無理だろうね、あいつだって俺の強さは理解しているだろうから。対策が使えない時に俺を近くに置いたりしないよ」

「なるほど、それなら今回の件は貴方にとってもチャンスのはず。こちらから追い込めば隙もできる、その時に殺す事は可能?」

「追い詰め方次第かな? アレを舐めちゃいけない、伊達に何年もこの島を実質的に支配してないよ」

 

ポンポンと暗殺の段取りを決めていく二人、横で聞いているキリサメは冷や汗が止まらない。

 

「あの、ですね、そういう手段は少々避けていただきたいといいますか、その、はい」

 

弱々しく暗殺案を止めようとするキリサメに、『なぜ敵に容赦する必要が?』という感じで首を捻るほむらとモズ。

さらっと暗殺案を出したほむらにもとっくに検討済みなモズにも引いているキリサメであった。

 

 

最終的に『イバラが致命的な隙を見せたら殺る』という事で話はまとまり、連れを一人増やして帰還の途についたほむら達。

モーターボートの大きな音は魚かなにかの音だったとモズが誤魔化してくれるとの事なので、帰りはとても早く戻る事ができた。

そして、石像とソユーズがあった時彼の記憶がよみがえり、

 

「ソユーズが頭首の息子であると分かったわけだ、見事なまでの貴種流離譚だね」

「まあ、その証拠となるものは一切ないので、今の問題をどうこうできるものでもないがな。で、御頭首様とやらが復活できればそれで万事解決なのだが、どうだ? 復活は可能か?」

 

石像が持ち込まれてから真剣な様子で調べていた桜子が首を振る。

 

「無理だと思う、削られてから大分経ってるようだし、明らかにパーツが足りてない。復活液をかけないで正解よ、そのまま死体が一つ出来上がるだけだったでしょうね」

「そうか、ソユーズには悪いがその話はこれで終わりだな。喫緊の問題は明日の朝にも攻めてくる多数の島民たちの対処だが、我々の行動方針はどうするのだ? 千空」

 

桜子の答えに龍水は仕方ないと頭首の石像の話を打ち切り、攻めてくるだろう島民への対処を確認する、それに疑問を挟んだのはクロムだ。

 

「えっと、島民って御頭首様の号令で攻めてくるんじゃねえのか? ここに御頭首様の石像があったら攻めてこれねえと思うんだけど」

「ん~、御頭首様の意志で攻めてくるならそうなんだけどねえ。実際に攻めるのは宰相様とやらの意志でしょ? 俺ならこう言うねえ『御頭首様がさらわれた! すぐに救出しなければならない!』って」

「でも、御頭首様がこっちにいんなら油かぶってはやってこねえよ、な?」

「逆だろうねえ、なんとしてでもこっちを突破するために遠慮なく使ってくると思うよ? 勝てば助かる、負ければ全部失う、ってなったら勝つために手段選ばないのが人間だもの。期せずして背水の陣って奴になった訳だね、厄介な事になったよ」

「つまり、攻めてくるのは決定事項、宰相ってのが急に心変わりしたりしなければ、俺たちは大きな殺し合いに入らなけりゃならないってわけだ」

 

クロムの疑問に答えるゲンの言葉に続けて話す千空の表情は苦々しげだ。

その千空の視線を受けて氷月は何でもない事のように言う。

 

「戦力的には負けるわけがない、そう言えますね。こちらの縛りを一つ、外す必要がありますが」

「縛り、ですか?」

「ええ、殺人の許容です。近寄る前に息の根を止めてしまえば取りつかれませんので」

 

その辺りをよく分かっていないキリサメが首を傾げる、ほむらが暗殺案を出していたからピンと来ないのだろう。

ただ他の面々は別だ、顔や眉を顰めるのはまだ軽い方で、うめき声を思わず漏らす者や動揺のあまり身を乗り出して拒否しかかる者もいる。

特に酷いのがソユーズである、動揺のあまり顔を青くして崩れ落ちるように床に膝をついてしまうほどであった。

 

「そ、そんな! ……どうにかならないの!?」

 

絞り出すような声でそれだけは避けたいと訴えるが、返ってくるのは冷たい反応のみ。

 

「どうにもなりませんね、殺さなければこちらが殺されます。火だるまになった人間、それも複数名に囲まれて相手を死なさずに済ませられるなど魔法の領域でしょう。どのみち火だるまになった時点で死は確定的です、無駄に苦しめるよりかは人道的では?」

「俺も氷月に賛成だな、俺にはこの船の船長として船員の命を守る義務がある。この島の島民は言ってはなんだが他人にすぎん、船員の命と天秤にかけられては船員の命を取らざるをえん」

 

分かる、分かってしまう、火に包まれた人間を助ける事などどれほど困難なのか。

身内の命と他人の命、どちらか取れというならば身内のを選ぶのは当然の事だ。

 

「そうだ! 消火器! この船だって備えてんだろ、火事が起きた時用の備えがよ!」

「材料は酢とベーキングパウダーだかんな、追加で用意するのは難しくねえ。だが、な」

 

クロムの思いつきに千空が捕捉を加える、しかし、

 

「そうだな、で、一体何本必要なのだ? フランソワ! 現在の物資で何本作れる!」

「同じ大きさのものでしたら20本程度でしょう、現在設置してあるのが10本ほどですので合計30本ほどになるかと」

「キリサメ、島民は何人くらいだ?」

「詳しくは存じませんが、200以上は確実かと」

「つまり、二割犠牲にする覚悟で来られた時点で対処できる限界を超える訳だな。それ以上にくる可能性の方が高い、俺はそう見るが、反対意見はあるか?」

 

誰も何も言えない、皆知っているのだ、後ろから操る者にとって前線の人員など数字でしかないという事を。

ソユーズが泣き崩れ肘まで床につけながら嗚咽を漏らす。

やっと生まれ故郷にたどり着き、父親の姿を思い出せたと思ったのも束の間。

父親は死んでるも同然の状態で、父が護るべき島民達は紙屑のように消費されようとしている。

それなのに自分にはそれを止める事もできず、眺めるだけどころか止めを刺す側とあっては致し方ないだろう。

 

「千空、この船の船長として提案するぞ。今すぐこの場を離れ機を見てプラチナを掠め取る策に変更すべきだ!」

「! それは!」

「キリサメよ、そちらの立場は分かる。だがな、無意味な犠牲を出さぬためにはこれ以外ないのだ」

 

千空達が引いてしまえば人間松明作戦は当然決行されない、人死には回避できるだろう。

だが、

 

「それではイバラの専横が確定するだけではないですか! 見捨てると、島の者達の事など知らぬと、そう言うのですか!」

 

キリサメが激昂する、当然だろう。

イバラに今後の島の行く末を委ねる、そういう事になるのだから。

 

「見捨てたくない、助けてあげたいよ! 何か、何か方法はないの!」

 

ソユーズも泣き腫らした顔をあげて縋るように龍水を見上げる。

中途半端な希望を与えるのは返って残酷だろう、龍水は意識して冷たい目を向けソユーズに問いかける。

 

「ソユーズ、お前は石神村の仲間か? それともこの島の仲間か?」

 

それは『どちらを犠牲にする気だ』という問い。

どちらも大切な仲間だ、ただしソユーズにとっては。

龍水らには島民は今は敵でしかない、その冷酷な事実を突きつけられたソユーズが絶望する。

項垂れ、また下を向いてしまうソユーズ。

正しいのだ、龍水の態度は。誰も彼も救えるほどこの世は甘くない、それだけの事なのだから。

 

「自身に従順な者を無意味に殺すほど愚かではあるまい、意外といい統治者になるかもしれんぞ」

 

龍水自身その可能性は限りなく低いと理解しながら、慰めるつもりでそう発言する。

無論ただの慰め以上にはならない、キリサメは悔しさに歯噛みしながら、ソユーズは自分の無力に打ち拉がれながら千空の決断を待つ。

千空としてもできれば島民達を救いたい、だが救えても一握りだけだろう。

ぶつかりあっては無駄に犠牲が出る、ならばぶつからなければいい。

子供でも分かる理屈だ、一番確実に犠牲が少なく済む。

その後、頭首という枷が外れたイバラがどれだけ残酷な事を島民にするか分からない、という点を無視すれば、だが。

実は火だるま状態から救う方法は思いついている、石像になってしまえばそれ以上焼かれることはない。

復活の際に修復される事を考えれば火傷していても問題なく救えるだろう。

ただし、最悪の場合島民全員を石像に変える覚悟が必要だが。

復活液だって無限ではない、白金があれば硝酸は作り放題だがアルコールは時間がどうしたってかかる。

島民全員に行き渡らせるのにどれだけの時間がかかるのか、やるならば本土に残った人員全員を投入する覚悟でやる必要があるだろう。

WHYマンがいつこちらを本格的に攻撃し始めるか分からない状況で、長い時間をかけるのはリスクが高すぎる。

REIの監視と防衛だって完璧にはほど遠い、当てにし過ぎるのはやめておきたい。

更に言うなら、それをするのは『ドラゴンボールがあるから死んでもいいだろ』と言い出すレベルの暴言だ。

合理的とはとてもじゃないが言えない、一時撤退して態勢をしっかり整えて奇襲をする。

それが現実的に一番の方法だろう、そう判断して決断する、その直前。

 

「ねえ、千空。一人分なら殺しても許容できる?」

 

桜子が真剣な表情でそう発言してきた。

 

「何をする気だ?」

「今千空が悩んでるのは島民をどう止めるかで、その手段がないから撤退しようとしてる……それであってる?」

 

頷き無言で続きを促す。

 

「頭首が無事な姿を見せて、止まるように呼びかければ止まるのは期待できるよね、キリサメさん」

「そう、ですね。今回の場合御頭首様が拐われたという名目で攻め寄せてくる訳ですから」

 

困惑しながらも質問に是と答える。

その御頭首様を復活させることができないからこそ、こんなにも悩んでるのに何を言い出しているのだろうか?

そんなキリサメ、いやその場の全員の困惑を他所に、桜子は千空へと向き直り固い表情のまま言った。

 

「頭首の顔の削れた部分を埋めるため、他の石像から移植をしようと思うの」

 

その言葉に全員が桜子へと注視することとなった。

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