イシからの始まり   作:delin

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移植、どうやるか

移植、生きている器官などを切り取り、他の場所へと移し植える事。

そんな辞書に載っているような解説をされるまでもなく、『無理だ』その一言が復活者達の頭をよぎる。

千空ももちろんそう言うだろう、大半の人間がそう予想していたが、千空の反応は違った。

 

「問題点はいくつかあげられんな、まず風化した部分はどうすんだ?」

「地道に紙やすりで削って、ただ削るための素材を調達できれば、だけど。出来ないなら出血性のショック死をしない事を祈りつつ、解除した次の瞬間石化させるかな」

「カセキにタングステンでコイルを作らせる、それでアルコールから人工ダイヤを作ってそれでチャレンジだな。次の問題点だが、移植するものはどっから調達すんだ?」

「海中にたくさん沈んでるでしょ、その中から犠牲者を選んで、頭首さんの足らない部分もらうつもり。その人は復活できなくなるけど、ね」

「血液型とか合わなかったら?」

「クエン酸あることぐらい知ってるよ? 遠心分離は手動でやってもらうことになるけど」

「癒着しない可能性」

「神のみぞ知る、ね。あ、でも実験はしてからにしたいな」

 

その質問の後しばらく考え込み次の確認に移る。

 

「かかる時間」

「風化した部分の強度次第だと思うけど、カセキや杠に手伝って貰えて順調にいければ5、6時間ってとこ」

「悪けりゃ?」

「10から12時間」

「頭首が協力してくれない可能性」

「極底、百物語のその百が伝わっていればゼロ、そうでなくても島民への呼びかけぐらいはしてくれるはず」

 

頭の中で今何時であるかを思い出し、最悪でも昼前にはいけそうだと確認する。

 

「一旦撤退して頭首が復活したあと改めて訪れるのは?」

「それが一番安全だけどね。千空も分かっていると思うけど、宰相イバラを侮るべきじゃない。20年近くに渡って頭首が石像な事を隠し通した奴だよ? 時間を与えたらどうなるのか分かったもんじゃないよ。大体モズっていうあちらの最大戦力が裏切ってくれる可能性、多分今回限りだと思うし、チャンスの神様は前髪しかないっていうしね」

 

イバラに対し相当な警戒心を持っているらしい、後は孫子の一説の戦は短期で終わらせろと言うのを実践しようとしてるのもあるのかもしれない。

 

「作業中当然船は動かせねえ、襲撃をどうするつもりだ?」

「皆に頑張ってもらうぐらいしか考えつかないかな」

 

周りを見ながらそう言う桜子、できないとは微塵も思っていないようだ。

 

「賭ける価値はあるんだな?」

「犠牲者を少なくする、その一点だけはこの方法が一番だよ」

「待て桜子、何故そう断言できる? 今回の衝突を回避する方が死者が出ない可能性が高いではないか」

 

そう断言する桜子に龍水は疑問を挟む。

 

「死者はそうかもしれないですね、ええ、死者だけは」

「なら……」

「死んだ方がマシ、という状況はありますけど」

「むう……」

 

さすがに死んだ経験などない龍水は実際にどちらがマシなのかは分からない。

だが、妙に実感のこもった桜子の言動に反論する気にはなぜかならなかった。

 

「龍水、船員の命を心配するオメーにゃあ悪いが、俺は桜子の案を採用するつもりだ」

「ほう? 理由を教えてもらおうか」

 

苦笑混じりにそういう千空に対して眉を跳ね上げ問う龍水の声は低い。

その憤りを当然のものと受け止めながら千空は理由を上げていく。

 

「まず一つ目は時間だな、正直言ってこんな所で時間かけたくねえ。WHYマンがいつ全面攻撃してくるかって考えたら、一分一秒が惜しいってほど焦っちゃいねえがやっぱ時間を無駄にしたくねえ」

 

WHYマンの事を言われてそれがあったかと思い出す、確かに白金は次のステップへ進むための材料であって最終目標ではない。

意識してはいなかったがタイムリミットは確実に存在するのだ。

 

「次に今ならタイミングがいいって事だな、奇襲かけるにしてもこの船の大きさじゃあ気づかれずに接近ってのは難しい。嵐に乗じて近づくのが定石だろうが……今は冬だ、期待はできねえ。まさか夏まで白金を放置って訳にもいかねえだろ?」

「少数だけで白金のみを回収するのはどうなのだ?」

 

そう、先ほどから対決する前提で話されているが、本来なら避ける事ができるのである。

それを指摘された千空は少しバツが悪そうにしながら答えた。

 

「この島の連中を見捨てたくはねえんだ、手段があるならどんなんでも試したいぐらいによ」

「リーダーが強欲であり、物事を楽しめるのは歓迎できるが現実を見れんのは困るぞ。犠牲者を出さずに撃退可能、本気でそう思っているのか?」

「逆に聞く、できねえと思うか?」

 

見渡せば自信ありといった風に笑うバトルチーム、彼らならできるかもしれない。

 

「だが、島民自身の焼身自殺紛いはどう止める?」

「水堀を掘って出口に司を配置、燃えた奴から放り込む。火傷に関しては、キリサメ! アンタの協力が必要だが、頼めるか?」

「……それが島のため、ひいては御頭首様のためになるなら」

 

キリサメの返答を聞いて早速桜子が石化解除時の副作用について説明し始める。

キリサメは大変驚いているが、理解はしてくれたようだ。

それを見て龍水は思った、これは一時撤退に舵を切らせるのは無理そうだ、と。

 

「作戦決定前にこれだけは聞かせてくれ。千空、ここまでして島民を助けたい理由はなんだ? お前ならば今までの話に無理な部分が多い事に分かっているだろうに」

「ああ、そういえば龍水ちゃんはあの時いなかったっけ」

「てっきりフランソワさんが調べてると思ってたけど、そうだよね、わざわざ話すことじゃないか」

 

最後の抵抗としてため息混じりに龍水が聞けば、声を上げたのは千空ではなく周りの数名。

正面からぶつかる事に妙に周囲が反対しない事に疑問があったが、なるほど、何か理由があるという事か。

 

「ソユーズの奴に借りがある、それだけだよ。だからあいつの故郷を救いたいっつー単純な話だぜ」

「……それだけか?」

 

呆れ混じりに問えば力強く頷く千空達。

龍水は最初こそ我慢していたものの、段々と笑いの衝動が大きくなり最後には大声で笑い出してしまった。

 

「それだけ、たったそれだけで命をかけるか! 大馬鹿だな貴様らは!」

「反論のしようがねえな。だが、悪かねえだろ?」

「そうだな、賢いばかりが人生ではない! 時には馬鹿になってぶつかるのも良いものだ! では、ソユーズの奴の故郷を救う作戦を決めようではないか!」

「おう、先ずは寝てる連中起こしてくっか」

 

彼らにとって初めての大規模戦が行われる事が決まった瞬間であった。

 

 

キリサメへの説明もすぐに終わり、石化装置を使う事を了承してもらう事ができた。

次に決めるべきはどう襲撃を耐えて時間を稼ぐかである。

 

「本陣へ、イバラの首級を取る役目は私が行きましょう。マグマ君とコハク君を連れて行きたいのですが、よろしいですか?」

「「「いやいやいや」」」

 

初手から別方向に飛ぶのはやめていただきたい、思わず声を揃えて突っ込んでしまったじゃないか。

 

「氷月さん、氷月さん、人死にはなるべく回避する方針ですよー」

「ええ、分かっていますよ? ですがそれが一番早いですからねえ、狙わない理由はないでしょう」

 

これは連れて行かれる二人はストッパーにならなきゃいけないやつだな?

自分達の役割を理解したらしく、マグマとコハクが顔を合わせてげんなりとしている。

私は二人の方を向いて手を合わせる、悪いけどお願い、という意味だ。

二人はそれぞれため息をついたり肩をすくめた後、任せろと目で言ってくれた、ホント頼りにしてます。

 

「氷月が攻撃要員に回るなら俺は守備側だね、金狼と銀狼はこっちでいいのかい?」

「金狼君はともかく、銀狼君は敵陣突破に向かないでしょう。この配置の方がいい働きをしてくれると思いますよ」

 

羽京は当然遊撃で大樹は万一の際の救出要員、人員配置はそれで決定。

後はどんな陣地を作成するか、どうやってそれを作るか? ぐらいだが、

 

「奇をてらったモン作る必要はねえだろ、堀を掘って内側に壁で十分だ」

「出入り口近くの壁は開けておく部分を頼むよ、落とした後放置じゃ溺れてしまうからね」

「掬い上げるための場所って事か、それ以外は普通の城壁のイメージだね、壁は丸太になるけど」

 

あっさり決まってすぐに次の件である。

 

「んじゃあ人工ダイヤに関してはクロムとカセキに任すぞ」

「? 千空は参加しねえのか?」

「別件終わって時間あったら参加だな」

 

相変わらず千空は鋭いなあ、私が何をしようとしてるか全部お見通しみたい。

 

「で、犠牲者の選択だが……」

「あ、それなんだけど、キリサメからちょっと話があるって」

「必要なのは石像の右顔面なのですよね? それでしたら少々心当たりがありまして……」

 

たまにだが後宮への侵入者が出る時があり、それへの罰則は石化させた後、見せしめとして皆の前で砕くことらしい。

 

「なるほど、手放しで喜べる話じゃねえが、少なくとも余計な犠牲者は出す必要はねえ訳だ」

「はい、お許しいただけるのならその場所へ赴き、必要なものを回収して参りたいと」

「許さねえ理由はねえな、んじゃ後でほむらと一緒に回収を頼むわ」

「後で、ですか?」

「ああ、実験するっつったろ? 石化装置を使ってもらわにゃいけねえからな、回収に行くのはもうちょい後で頼む」

 

実験、そう、移植した組織がちゃんと癒着するか、拒絶反応が出ないかどうかの実験だ。

手順としては簡単である、石像を二つ用意して片側からもう片方に実際に移植してやるだけ。

生身から石像でも構わないのかもしれないが、今回の目的には沿わないのでやる必要はない。

そして被験者は当然言い出しっぺの私がやるつもりだったのだが……

 

「父さんのための提案だろ、これは。だったら俺が受けるべきじゃないの?」

 

ソユーズがそう言い出してしまい、皆も賛成な雰囲気になってしまった。

できれば話さずに済ませたかったのだが、仕方ない、知ってる千空もマグマも助け舟を出しそうにないし。

 

「あのね、ソユーズ、この実験は危険はほぼないと見てるんだけど、どうしても被験者になりたい? できれば堀作りの方を手伝って欲しかったんだけど……」

「ほぼって事は少しはあるんだろう? お願いだよ、俺も父さんのために何かしたいんだ」

 

困った、私の方は自分のためでしかないからホント困った。

ここは親のためを思うソユーズに譲るべきか? 事情を話せば私に譲ってはくれるだろうけど、どうしよう?

二人が黙ったままなのは話すなら自分で話せって事だろうし、ホントにどうしよう。

悩みっぱなしでは不安がらせてしまいそうだし、ええい、話してしまおう!

 

「ソユーズ、ごめんね、実は実験には他に副産物的な目的があったのよ」

「副産物的な目的?」

「そう、副産物的な目的」

 

無意識のうちに下腹部に当てていた手を動かす、復活者全員にある皮膚表面のヒビ。

私のそれは何故か風雨に晒されにくいはずのここにあった。

いや、想像はついている、きっと、()()()()()()()()()()

 

「私、子供の頃にね、ここを強く蹴られた事があるの」

 

なるべく平坦な声で言ったつもりだが、震えてはいなかっただろうか?

すでに知っている二人を除いて全員が言葉を無くしている、同情されたいわけじゃないから努めて明るい声を出す。

 

「私がチビなのもきっとそのせい、だから今度こそ治しきってナイスバディを手に入れたいの。だからソユーズ、悪いんだけど譲ってくれない?」

 

……どうやら失敗したらしい、皆の沈痛な表情が深くなってしまった。

ソユーズも小さな声でごめんと言ったきり黙ってしまうし、責めたいわけじゃないのに困ってしまう。

 

「桜子、お前の作った教科書によう、書いてあったな、子供を作るための内臓は成長を促す役割もあるって」

 

さすがはクロムだ、よく覚えている。

 

「ガキの頃にそれを失っちまったから、お前はそんななりだったんだな」

「そうじゃない人もいるだろうけどね、少なくとも私はそうなんだと思う」

「おめえら二人は知ってたのかよ!」

 

本当に観察力が半端じゃない、動揺してなかった二人に詰め寄る。

 

「本人から聞いてた、それだけだ」

 

マグマは目を閉じたままそう答える。

平坦な声だったはずなのに、なぜか激情を押さえつけているように感じたのは私の気のせいだろうか?

 

「……二か月間、調子は一切変わってなかった。だから推測できただけだ」

 

千空はクロムの目を真っ直ぐ見て静かにそう答える。

こらえきれずにクロムが千空の胸倉をつかむ。

 

「なんでそんな重要な事を放っておいてんだ! どうにかできなか」

「できるんなら、どうにかできるんなら……とっくの昔にやってる、そう思わねえか?」

 

胸倉をつかむ腕を逆につかんでそう問いかける千空の迫力に、クロムは言葉を続けられずに黙り込む。

 

「桜子、その、君がそういう行為に真剣さを求めるのは、そういう事があるから、なのか?」

「やだなあ、せいぜい四分の一ぐらいだよ」

 

コハクの問いに明るく答えて見せるが、またしても失敗したらしい、もはや部屋の中の雰囲気はお通夜のようだ。

そんな雰囲気の中、杠がゆっくりと前に進み出て千空に問いかける。

 

「千空君、桜子ちゃんのそれは、治るの?」

「正直、可能性は低い。だが、この方法しか現状可能性がねえ」

「ゼロじゃないんだね?」

「修復力が足らなかったならいける、もう一回修復すんだからな。修復の範囲外だったならアウトだ、それこそ移植手術が必要になるだろうよ」

 

坦々とした答えに一つ大きく息をつく杠。

 

「移植の実験の被験者は桜子ちゃんで、移植は私がやります。いいよね?」

 

ついた後、断固たる口調で訊ねる。

問いかけの形を取ってはいるが有無を言わせる気はないようだ。

 

「元々オメー以外じゃカセキぐらいにしかできねえよ、進んでやってくれるんなら大歓迎だ」

 

千空もわざわざ逆らう気はないからすぐに了承する。

 

「ありがと、移植するものは千空君が提供してくれるのかな?」

「ああ、俺も桜子と同じ血液型だかんな、他の奴にやらす気はねえよ」

 

杠に答えた後、こっちを向く千空。

 

「髪一房、それでいいか?」

「うん、それがいいな」

 

移植の実験はそういう形に決定したのだった。

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