イシからの始まり   作:delin

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咲いた夢の模様

話し合いが終わり、早速移植実験の準備に移る私達。

ただし、私と杠だけ、千空らはまだ幾つか守備に関して話すことが残っていたから。

準備とは言っても私がやる事はほぼない、なぜなら石化する覚悟をしておくだけだからだ。

 

「だから気にしなくていいよ?」

 

そう杠に声をかけるが、一向に彼女の表情は緩まない。

真剣な顔でのみや錐を手入れする様子はまるで凄腕の職人のようだ。

これは好きにさせた方がいいかな、と思い始めたころ、ぽつりと弱音が杠の口からこぼれた。

 

「私、ダメな子だ。桜子ちゃんが苦しんでたのにまるで気づかないなんて。それなのにお説教ばっかりして……最低だよ」

 

いかん、凹みまくってらっしゃる。

ええい、大樹め、何故ここにいない! 慰めて好感度アップのチャンスだぞ! え? カンストしてるから必要ないって? 否定のしようがありませんな。

後、奴がいないのは千空達と話し合いに行っているからです、守るとなると切り札的な扱いだからね奴は、仕方ないね。

あれ? つまり、私が慰めなきゃダメって事? マッチポンプじゃん! 原因私なのに慰めイベントとか完全にマッチポンプじゃん!

落ち着け、私、この場合イベントではなく、ただの自業自得だ。

原因なんだからその影響で出たことも自分で処理しなければならないだけだ、うん、よし、やるぞ!

 

「あー、杠? 本当に気にする事ない、よ?」

 

さっきも言った! これ、さっきも言ったよ! 私話術スキルなさすぎでしょ! ゲン、この一時だけでいいから貴方の話術貸してぇ! 記憶をどんだけさらっても自分のせいで落ち込んでる友達を慰める言葉なんて出てこないのぉ! 完全記憶能力って本当に使えないな! 時と場合と使用者による、だけどね!

 

「ごめんね桜子ちゃん、こんな姿見せられたら落ち着かないよね……うん、私、大丈夫だから、気にしないで?」

 

くすっと笑った後、笑顔でそう言ってくれたけど……どう見てもカラ元気です、本当にありがとうございました。

逆に気を遣わせるとか、ダメダメにもほどがありませんかねえ。

って、自虐してる暇があるなら気をそらせるような話題を出すべき、なにか、何か話題を……

 

「そうだ、桜子ちゃんは治った後どうしたいの?」

「どう、って?」

 

折角の話題転換だから乗りたいけど、何を指しているのか分からず鸚鵡返しに聞くだけになってしまった。

 

「だって、ここ治ったら作れるでしょ? だからどうしたいのかなぁって、思って」

 

私の下腹部を指しながら含み笑いで杠が言うが、さっぱり意図が見えてこない。

怪訝な顔で首を捻るばかりの私に、ちょっと強い口調で杠が言葉を重ねる。

 

「もう、子供を作れるようになるんでしょ? だから、どうしたいのかなぁ、って聞いてるの」

 

ああ、なるほど、子供かあ。

どうしたいって、それは……

 

「どんな風な子でも、受け入れてあげたいかな。親に拒絶されちゃうのって、本当に辛かったから」

「え、あ、うん、そうだよね、じゃあ、どんな子に育って欲しいとかは?」

「そうだなあ、人に優しくできる子になって欲しいかな? 後は丈夫で元気であってくれればもっといいよね」

 

この後防衛計画について話し終えた千空らが呼びに来るまで、子供の話で喋り倒していた。

この時は気づかなかったが、結局私は杠に気を遣わせまくっていたというオチ。

時間が大分経った後ふとこの会話を思い出して、ようやくその事に気づいた私は悶える羽目になったのである。

 

 

そして実験のために石化する時間がやってくる、この場にいるのは私と千空、杠に大樹、そしてキリサメと……マグマだ。

正直司らと一緒に防衛施設作りに行くべきだと思うのだが、気もそぞろになって手につかないだろうからこれはしょうがないかな。

 

「手順は説明した通りだ、キリサメが俺と桜子の間で起動するよう石化装置を使う。

投げる必要もねえ、置いときゃいいだけだから失敗しようもねえな、これは。

その後に大樹とマグマが石化した俺から髪を一房分削る、んで桜子にそいつを埋め込んでから石化を解除。

しっかり癒着してくれてりゃ目出たく実験成功ってわけだ、質問はなんかあっか?」

「ふん、聞いたって分かりゃしねえんだからとっととやれや、俺らがドジ踏んで砕きすぎてもくっつけてやりゃ問題ねえんだろ? それ以外なんぞ思いつきゃしねえから質問時間なんぞ意味ねえよ」

 

突き放した言い方であるのだが、つまりすでに質問済みって事なのかな、これは。

千空をチラリと見れば、肩をすくめて肯定だと目で答える。

いつマグマの好感度稼いだんだろ私、こんなに気にかけられるような事したっけ?

内心首を捻るが表には出さないよう、表情は平坦に、目線は自然な感じにしておく。

なのにギロッと睨まれてしまった、変な事なんて考えてないやい。

 

「手順は分かった、俺たちは気負わずにやればいいだけ、そういう事だな、千空」

 

目だけで会話している私達に苦笑しながら、大樹が話をまとめてみせた。

実際難しい事は特にないのだ、本来の移植手術と比べて失血を気にしたり、移植部の鮮度低下を気にする必要がない。

その上、もし移植部を取る時に失敗しても、修復効果を期待できるので気楽にできるのだ。

そうでなければ素人だけで移植しようとか、さすがの私も提案なんてできない。

 

「そういうこった。よっぽど粉々にしなきゃ問題ねえから、とるときゃガツンとやれよ」

「マグマや大樹のパワーだと、遠慮なしにやったらほんとに粉々になったりして」

「んな事あるわけねえだろ、どんな考えなしだ」

 

この時の会話がフラグだった……と言えるのだろうか?

どっちに転んだのかよくわからないのだが、まさにこれぞ人生万事塞翁が馬といったところだろう。

この後、私と千空は石化して長い間そんなことがあったとは知らなかったのだが、移植手術中こんな会話があったらしい。

 

「むう、固いな。以外と難しいぞ、これは」

「ビビってちまちまやってから難しいんだよ、ガツンとやれ、ガツンと! 貸せ、俺がやる」

「あ、マグマ、固さが場所によって違うから慎重に……」

「「あ」」

「……ビビんな! くっつけてやりゃいいだけだろうが! ……杠、真ん中の辺りから削って構わねえよな?」

「う、うん、それでいいんじゃないかな。後、この事は3人だけの秘密にしておこう?」

「「異議なし」」

 

3人ともこの件を話す気は一切なかったのだが、石化の研究が続くうちに世界初の石化中の移植の詳しい様子を問いつめられて話す羽目になった。

この後私に起きた不思議な現象が、他の人には一切起きなかったせいである。

 

 

石化中には何も感じることはなく、何も見えず、聞こえる事もない、そのはずなのに今回は違った。

いや、正確に言えば五感によって感じるものはなかった。

他の人は経験したことなどないだろう、ただ、私には覚えのある感覚だった。

それは、自分のものではない記憶を思い出す感覚、だから最初は警戒し身構えた、それは私に苦い経験を与えることの多いものであったからだ。

 

「っし! 俺みたく石化をぶち破るやつもやっぱいる!」

 

最初に聞こえたのは聴きなれているはずなのに聞きなれない声、録音した自分の声を聴いた後自分で声を出した時が一番近いだろうか。

 

「って、わりーな埋まりっぱで。即行で道具とってくるわ」

 

そして見えるのは見慣れているはずなのに見慣れない顔、違和感の原因は普段見るものと左右逆だから。

 

「……ありがとう。あと服もあったら嬉しいのだけど」

 

そして聞こえてくる声は先ほどと逆、録音した声を聴いた時に感じた違和感。

この時点で気づいた、この記憶は、千空のものであると。

分かって当然ではないか、この場面は完全記憶能力がなくても忘れるわけがない。

私と千空が初めて出会った時の事なのだから。

 

 

その後見えた場面達によって法則性が見えてきた、この記憶群は千空が強く記憶している、私に関する記憶だ。

だって、最初の出会いの場面の次に大樹の復活前夜が少し流れた、と思ったら次は海岸での司との対決が見えて、さらにそれが最初から最後まで見えたのだから理解できるのも当然だろう。

私が大泣きした場面は迷惑かけてたなあと思いながら見ていたが、その後の情緒不安定でも心配かけていたことは初めて知った。

それが村人達との交流ですごい勢いで安定していったのは、心配して損したとまで思ったようだが。

それからマグマとの関係がえらく早く仲良くなったなと思っていたようだが、適切な距離感を理解しただけである。

例えるなら職場の同僚なら嫌いな相手でも笑顔で挨拶するようなものだったのだが、まあ、それで安心してくれていたようなので問題なしである。

そして、氷月の一件だ。

あの時助けを求めた、求めることができた私にこんなに喜んでくれていたなんて、知らなかったし想像もしていなかった。

だから、私の心の傷に触れる覚悟もできたのだと初めて知った、そんな事千空はおくびにも出していなかったから。

もう一つのトラウマも深い事に気づいたのは触れてからだったみたいだけど。

ここから私を気にする頻度が高くなっていったようで、色んな姿が見られていたみたい。

子供と遊ぶ姿や、村の女性陣と一緒に料理する姿、司に歴史を教えている最中の姿なんかもあった。

てっ、ゲンが私をへこますのを許可したのは貴方か千空、いつか覚えていろよ。

マグマとからみが多くなったのもこの辺から、千空は自分と同じ理由だろうなんて予想してた。

保護対象であり、助けなきゃいけない相手だから気にかけるのだと思ってたみたいだけど。

それだけじゃないと考えを改めたのは百物語のその百を聞いた後、渡したタオルに顔をうずめる事を選んだ時。

でもどういう対象かはあやふやだった、それがハッキリしたのは洞窟で雲母の落とし穴に落ちた時だった。

 

 

よっぽど強い印象だったらしく、いままで漫画の一コマ一コマのように見えていた光景がVRに入り込んだかのように切り替わった。

その中で視点の主、つまり千空は壁を叩いて反響音から材質を確認する事をしていた。

 

「おい」

「あー? 流石にすぐには打ち込みポイント見つかんねえぞ、ゆっくり体力温存しとけよ」

 

かけられた声に振り向かずに返事をする、次善策として水を注ぎこませる方法もあるが……その後男同士で温め合う羽目になるのはごめんだったからだ。

 

「テメエと一対一なんざ滅多にある事じゃねえからな、ちょいと話に付き合えや」

 

その声に含まれた真剣さに流すべき話題でない事を悟り、振り向き真っ直ぐ向かい合う。

そうして向かい合えば見たこともないほどの真剣な眼差しと表情。

いや、千空は見たことないが、私はある。

御前試合の日の夜、私の体が子供を作れないだろうという事を告げたその時と同じ顔だ。

 

「この洞窟の入り口で話したあれだがな、司の事だと誤魔化したが、テメエは違うやつのことだと気づいてやがったんだろ?」

 

無論気づいていた、司に対する思いとしては間違いではないだろうが千空に突っかかる理由としては薄いのだ。

突っかかる必要のある相手、それは……

 

「桜子の事だ、アイツの事をテメエはどう思っている?」

 

マグマの問いかけに目を閉じてじっと考える、まだあやふやで確かな形をとっていないその感情を。

ただの友人? 文明を取り戻すための相棒? それとも妹のような存在? どれも正しくて間違っているように思えるそれを深く深く考える。

 

「俺は、俺はなあ! アイツをそばに置きてえ! 何もかもから守りてえ! そのために嫁にしてえ! テメエはどうなんだ、千空!!!」

 

千空はマグマの血を吐くような雄叫びにも全く動じることはなかった、動じるのがマグマにも桜子にも失礼だと思ったのもあるが、それ以上に動じる必要が全く感じられなかったからだ。

激しく激するマグマの目を穏やかに見返し、それ以上に静かに答えを返す。

 

「俺の人生の相棒として、アイツ以上の奴はいねえと思っているよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、記憶の海に泳ぐ時間が終わりを告げた。

何も見えず感じなかった自分自身の体の感覚が戻ってくる、石化が解除されたのだ。

 

「よう、体の調子はどうだ?」

 

そう言いながらのぞき込む千空の目の奥、そこにある感情の名前に気づいた時、私の中で何かがドクンと音を立て動き出した気がした。

 

 

 

 

誰も知る者のいない話であるが、彼ら彼女らが勘違いしていることが一つある。

それは、3700年の眠りから目覚めた時点で彼女の体は完全に治っていた事だ。

彼女が目覚めた時点で年相応の内臓機能が備わるように修復されていたのだ。

ならばなぜ、今までそれが機能しているように見えなかったのか。

言ってしまえば心因性疼痛が一番近いだろうか? 長い間それが機能していなかったことで脳がそれが当然と認識してしまったのだ。

今回もう一度の石化解除の修復能力で治るかもしれない、そう思えたことが一つ。

もう一つの理由はそうなりたいと彼女が心から望んだから。

少女が、女性に成りたい、そう心から望んだから肉体はそれに応えたのだ。

こののち彼女の体は少しづつ成長していく事となる、心の求めに肉体が応じた結果である。

……成長可能な時間が短すぎて十数年経っても、遠目では大人に見えないと評判であったが。

 

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