イシからの始まり   作:delin

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決戦の開始

時は少し遡る、島民達が夜明けを待たずに動き出した事は千空達も当然察知していた。

派手にかがり火をいくつも灯せば至極当たり前の事ではあるが、それに対し焦りを覚えるのもまた当然だ。

 

「予想より大分早いけど、準備は間に合うの!?」

「落ち着け、ゲン。それを今から司達に確認すんじゃねえか」

 

かがり火が見えた時点で望遠鏡を覗いた見張り役からすぐに千空へと報告が飛び、今は防壁の状況を確認しに歩いている最中である。

ゲンはその途中で合流、千空のただならぬ様子から事情を聞き現在焦った声をあげている。

焦っても仕方ない状況だ、防壁は堀を掘って海水で満たし、その内側に丸太を積み上げて完成させる予定なのだ。

電気の照明は惜しみなく使用し船の乗員の大半がそれに注力しているとはいえ、朝までに出来上がるとは普通思わない工程数だ。

それがタイムリミットが繰り上がったと聞いたのだ、焦って当然だろう。

千空とゲンがほぼ早歩きの状態で船の通路を進む途中、思わぬ顔と出会う。

 

「ああ、千空。ちょうどよかった、今君の所に向かう途中だったんだ」

 

防壁作成中のはずの司とばったりあったのだ。

驚きはしたが考えてみればわかる、かがり火の明かりが防壁作成現場でも見えたのだろう。

そうなれば状況確認のために見張り役から話を聞こうとする、千空はそう予想した。

 

「防壁が作り終わったからね、報告がてら後何かあるか聞きに来たんだ」

 

違った、まさかの完了報告だった。

 

「えええ? どうやったらそんな早く作り終えるの?」

 

理解が及ばず固まってしまった千空に代わり、ゲンが質問する。

 

「ああ、ダイナマイトが上手くいってね、堀作りの時間が大分短縮できたのさ。丸太は形を整えるのは諦めて、ただ切っただけのを重ねただけにしたよ。後は海水だけど、そこは人海戦術だね。全員でバケツリレーでどうにかしたよ」

 

なかなかの力技で強引に解決した気がするが……それより少し気になる事があった。

 

「ダイナマイトっていつ使ったんだ?」

「ヘ? 結構響いてたよねえ?」

「ああ、なるべく音が外に漏れないようにはしていたが、それでもかなり響いていたはずだよ」

 

二人が揃ってそう言っていながら自分が知らないと言うことは、

 

「俺が石化してるタイミングで響いた訳か」

「なるほど、石化中は何の感覚もないからね、千空が知らないのも納得だ」

「大樹ちゃんたち何も言ってなかったの?」

「なんにも言わなかったな、そういや。ま、別の事に気を取られたんだろ、気にするほどの事じゃねえ」

 

そう言ってこの話題を一旦切ると、改めて司に向き合う千空。

 

「防壁が作り終わったって事は、もういつ来ても大丈夫って事だな?」

「無論だよ、桜子達が頭首を復活させるまでの時間、きっちり稼ぎきってみせるとも」

 

問いかけに対し戦士の笑みでそう返す司。

どちらからともなく片手をあげ、

 

「任せた」

「任されたとも」

 

ハイタッチを交わし、各々がすべき事へと戻っていくのだった。

 

 

「そういえば、移植手術にダイナマイトの衝撃の影響なかったのかな?」

「こえー事言い出すな、あったとしても確認すんのは後だ、後」

 

戻る最中ゲンがふと思ってそう言ったのだが……これが3人が問い詰められる遠因となるのであった。

 

 

海哭りの崖に到着したイバラ達の前に見えたのは、見た事もない大きな防御壁であった。

高く積み上げられた丸太の壁、どれだけの深さかも分からない水を湛えた川のようなもの、このようなものがこの世にあったのかと驚愕で一杯になる島民達。

実際には彼らが見た事がないだけであり、その道の本職が見たならばつけ入る隙はいくらでもあったろう。

しかし、イバラ率いる島民達は長らくそのような大型建築とは無縁であった、故に初めて見るそれに足を止めてしまっても仕方ない事だろう。

 

「モズ君、こんなもの昨日あった?」

「あったら真っ先に口にすると思わない? 一晩で作り上げたんだろうさ、こんなとんでもないものを、ね」

 

顔を引き攣らせながらイバラが問えば、モズは務めて軽い口調で返す。

だが、その軽口も冷や汗を流しながらでは効果は薄いといえよう。

そうやってしばしの間逡巡していた島民達だが、やがて痺れを切らした特に気の短い数名が壁の空いている箇所、入り口として作られた場所へと突撃して行った。

そこにはたった一人しかおらず、複数人で叩けばいけると思ったのだろう。

だが、そこを守るのは人類史に残るレベルの強さを持つ司、端的に言って舐めすぎである。

その甘い考えへの対価は意識を狩られることで払うことになる。

あるものは顎下への一撃で、あるものは首筋へ、またある者は胸部を強くたたかれて失神、かかっていった者たちはほんの十秒前後でのされることになった。

まさに鎧袖一触、一瞬の出来事に敵も味方も思わずあっけにとられるが、我に返るのはやはり慣れのある味方側であった。

一瞬でのされた数名を素早く引っ掴み防壁の中へと連れてゆく、そこで縛り上げてしまえば無力化は完了である。

一方島民側は動揺が収まらない、モズ並という言葉を疑っていたわけではないがやはり目の前に突き付けられると驚愕が先に立つ。

こういう場合指揮官の力量が問われる場面であるが、人類としては少々残念な事にイバラには必要分の力量が備わっていた。

 

「落ち着くのよ皆! 奴があそこを守って動かないなら石でも何でもいいから投げつけてやればいいの! 足元に石なんていくらでもあるでしょ!」

 

その言葉に従い足元の石を拾って散発的に投げ始める島民達。

これで一旦下がってくれればそこから乱戦に持ち込んで、などと考えていたイバラだがその思惑は外れる事なる。

司が背負っていた大楯、警察の使うライオットシールドに似た盾を前にすれば、司の体はすっぽりと覆われてしまった。

当然、そんな状態ではバラバラに投げるだけのものではダメージにはならない。

ここまでくるとイバラとしても理解せざるを得ない、自身が侵略者と呼んだ奴らは自分の予想以上に戦い方というものを知っている、と。

 

 

「ここまでは予想通り、問題はこの後だな」

 

全体が見られるように少し高く丸太を雑に積んだ場所で龍水が呟く。

そう、ここまでは予想通りである。

最初に数名程度が突っ掛けてくるのも、その後の投石もほぼ事前の予測通り。

正直自暴自棄になって無為無策に突撃されるのが一番困っただろう、まあイバラとやらは慎重だという話なのでそれはないと思っていたが。

しかし、ここまで予想通りに行くとなるとこの次は……

 

「あちらさん、松明に火を着けはじめたな……」

 

苦々しげに呟く千空の気持ちもよくわかる、事前情報があったとしても信じられない話だからだ。

先に話を聞いていなければ、まさか人間松明作戦など考えつきもしなかったと確信を持って言える。

今はまだ人体に火を着けてはいないが、誰かが司に飛び付いたらそこに向かって大量の火が飛ぶ事だろう。

今は投げつけられる松明の火を全て、司が剣を振るって吹き飛ばしているが人体に火を着けるのも時間の問題だろう。

他にも不安要素がある。

 

「大樹! 貴様の出番はまだまだ先だ! じっとしていろ!」

「うっ! すまん、龍水。分かってはいるのだが、どうしても落ち着かんのだ」

 

今にも飛び出しそうになっていた大樹を龍水が大声で止める。

これがこちらの弱点だと言える、全員が全員善良にすぎるのだ。

あちら側の人間の命さえ救いたい、そう思ってしまい無茶をしでかしかねない。

 

「優先順位を間違えるな! 一番は味方の命、島民の身の安全はそれよりずっと下だ!」

 

故にこそ龍水がストッパーになっているが、これは他にできそうなのがいないための致し方ない状態である。

こんな冷たく切り捨てる役割は本来なら氷月にこそふさわしいのだが、生憎氷月でなければ敵陣に突撃、イバラの身柄、もしくは首級を獲ってくるなどできはしない。

少なくとも龍水には不可能だ、それを理解すればこそ不本意な役割を龍水は請け負っているのだ。

とはいえ死者ゼロの完勝を疑ってはいない、なぜなら……

 

「あいつら、とうとうやり始めやがった……!」

 

ツラツラと龍水が考えているうちに島民側が、いや、イバラが痺れを切らしたらしい。

高い位置にいる千空達からは、人の形をした炎の固まりがよく見えた。

そして即座に堀へと叩き込まれる、見えないはずなのに苦々しげな表情をしているのがよくわかる。

きっとすぐ横であったり自身の表情が同じものであるせいだろう。

堀に落とされた島民はすぐに引き上げられ、キリサメの待機している所まで運ばれていく。

当たり前だが火傷の度合いが酷かったのだろう、軽傷であるなら石化まではしない予定だったのであるから。

 

「かつて文明を滅ぼした石化装置も使い方によっては緊急治療装置に早変わりか、まさに物は使い様だな」

「道具ってのは使うやつ次第でどうとでも変わる……、口にするまでもねえ事だがな」

 

石化装置様様である。

これがなかったらこの戦いが終わった時、千空達の心に暗いものがよどみ続けることになったであろう。

そして、次の一手も打ちやすい。

 

「氷月達の準備はどうなってんだ?」

「ここからでは分からんが……、氷月の事だチャンスは見逃さんさ」

 

防壁であちらの注目を十分に引き付けることができたら、後背からの氷月達による奇襲でイバラを抑えるのが作戦の意図だ。

細かい部分なども色々あったが、実働部隊以外は詳しい内容を知る暇はなかった。

 

「氷月が決めてくれりゃそれだけで全部が終わる、柄にもなく神かなんかに祈りてえ気分だぜ」

 

言いながら千空は勘が疼くのを感じていた。

ここまであまりにも素直に過ぎる、イバラという男は本当にそれで終わる奴なのか?

一抹の不安を抱えながら戦場をじっと見つめていた。

 

 

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